アカラブルチニブ添付文書の用法用量と副作用
カプセルと錠剤で胃酸抑制薬の併用可否が異なります。
アカラブルチニブの基本的な用法用量
アカラブルチニブ(商品名:カルケンス)は、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)を選択的に阻害する第二世代の分子標的治療薬です。添付文書に記載された基本的な用法用量は、成人に対して1回100mgを1日2回経口投与することとされています。患者の状態により適宜減量することが可能です。
投与間隔は12時間ごとを目安とします。飲み忘れた場合は、次の服用時間まで6時間以上ある場合に限り服用可能です。
6時間未満の場合は次回分から再開します。
食事の影響については、高脂肪食摂取時にCmaxが約0.31倍に低下しますが、AUCは約0.93倍とほぼ変わらないため、食事のタイミングは問いません。
適応症は慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)とマントル細胞リンパ腫です。未治療の慢性リンパ性白血病に対しては、オビヌツズマブとの併用投与が推奨されており、本剤を28日間投与した後にオビヌツズマブの投与を開始します。マントル細胞リンパ腫の未治療例では、ベンダムスチンおよびリツキシマブとの併用において使用されます。
KEGG医療用医薬品データベースのカルケンス情報には、詳細な臨床試験データと用法用量の根拠が記載されています。
用量調節は副作用の種類と重症度に応じて行います。血液毒性(重大な出血を伴うGrade3の血小板減少症、Grade4の血小板減少症、7日以上持続するGrade4の好中球減少症)またはGrade3以上の非血液毒性が発現した場合は、Grade1またはベースラインに回復するまで休薬します。発現回数に応じて、1~2回目は同量で再開、3回目は1日1回100mgに減量、4回目は投与中止となります。
アカラブルチニブのカプセルと錠剤の違い
2024年12月に承認されたカルケンス錠100mgは、既存のカプセル剤と比較して重要な改良が加えられています。最大の違いは、胃内pHの影響を受けにくい製剤設計です。カプセル剤はpH4を超える条件下で溶解性が低下するため、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2受容体拮抗薬との併用が添付文書上「併用注意」とされていました。
錠剤はアカラブルチニブマレイン酸塩水和物として製剤化されており、消化管のpH条件に関わらず薬物が全て溶出するように改善されています。これにより、カルケンス錠ではPPIやH2受容体拮抗薬との併用制限がなくなりました。がん患者は胃食道逆流症や消化性潰瘍の治療で胃酸分泌抑制薬を併用することが多いため、臨床的に大きなメリットです。
日経メディカルの解説記事では、健康被験者での薬物動態試験において、錠剤はカプセル剤と生物学的同等性が確認されたことが報告されています。
ただし、制酸剤(炭酸カルシウム、水酸化マグネシウムなど)との併用については、錠剤でも投与間隔を2時間以上あける必要があります。これは一時的な胃内pH上昇による影響を避けるためです。カプセル剤の場合、H2受容体拮抗薬は本剤の2時間前に投与する必要がありますが、錠剤ではこの制限もありません。
カプセル剤から錠剤への切り替え時は、用量調整は不要です。1回100mgを1日2回という投与方法はそのまま継承されます。薬価はカプセル剤が12,921.9円、錠剤も同額で設定されています。
アカラブルチニブの主要な副作用と発現頻度
添付文書に記載された副作用発現率は65.6%です。10%以上の高頻度で認められる副作用は頭痛(14.3%)のみですが、臨床検査値異常を含めると好中球減少症(17.5%)、白血球減少症(17.5%)が最も頻度の高い有害事象となります。5%以上10%未満の副作用として、下痢(9.1%)、挫傷(7.1%)、血小板減少症(7.7%)、貧血(5.5%)、疲労(5.8%)が報告されています。
重大な副作用として特に注意が必要なのは出血です。頭蓋内血腫(頻度不明)、胃腸出血(0.2%)、網膜出血(0.2%)などの重篤な出血があらわれることがあります。血小板減少症の有無にかかわらず出血性事象(挫傷、血腫など)が報告されており、外科的処置に伴って大量出血が生じる可能性があるため、手術や侵襲的手技を実施する患者には本剤の投与中断を考慮します。
感染症も重要です。肺炎(3.2%)、アスペルギルス症(0.2%)等の重篤な感染症があらわれることがあります。B型肝炎ウイルスの再活性化も報告されているため、投与開始前に肝炎ウイルス感染の有無を確認し、投与中は継続的に肝機能検査や肝炎ウイルスマーカーのモニタリングが必要です。
不整脈は1.5%で心房細動が報告されています。第一世代BTK阻害薬であるイブルチニブと比較すると、アカラブルチニブは心血管イベントの発生率が低いことが臨床試験で示されていますが、重度の心疾患を有する患者では注意が必要です。定期的に心機能検査(十二誘導心電図検査等)を行います。
その他、腫瘍崩壊症候群(0.4%)、間質性肺疾患(0.4%)、皮膚有棘細胞癌や基底細胞癌などの二次性悪性腫瘍の発現可能性もあります。患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には適切な処置を行います。
アカラブルチニブの薬物相互作用管理
アカラブルチニブは主にCYP3Aにより代謝されるため、CYP3A阻害薬や誘導薬との相互作用に注意が必要です。強いまたは中程度のCYP3A阻害薬(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、ボリコナゾールなど)との併用は可能な限り避け、代替の治療薬への変更を考慮します。イトラコナゾール併用時は、本剤のCmaxが3.90倍、AUCが4.97倍に上昇することが確認されています。
やむを得ず併用する場合は、患者の状態を慎重に観察し、副作用の発現に十分注意します。強いCYP3A誘導薬(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトインなど)との併用も可能な限り避けます。リファンピシン併用時は、本剤のCmaxが0.32倍、AUCが0.21倍に低下し、効果が減弱するおそれがあります。セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)含有食品も同様にCYP3Aを誘導するため、摂取しないよう患者に指導します。
オレンジジュースとの併用は特に注意が必要です。オレンジジュースと共に投与すると、本剤のCmaxが0.44倍、AUCが0.62倍に低下することが報告されています。添付文書では「本剤をオレンジジュースと共に投与することは避けること」と明記されています。溶出率の低下が原因であり、血中濃度低下により治療効果が減弱する可能性があります。
水での服用を徹底する必要があります。
アストラゼネカの医薬品インタビューフォームには、グレープフルーツジュースとの併用についても記載があり、Cmaxが0.65倍、AUCが0.84倍に低下することが示されています。柑橘類ジュース全般との併用は避けるべきです。
抗凝固剤や抗血小板剤との併用は、出血リスクを増強させる可能性があります。併用する場合は、患者の出血徴候を慎重にモニタリングします。凝固機能検査を定期的に実施し、必要に応じて休薬や減量を検討します。
アカラブルチニブの適応疾患と治療戦略
アカラブルチニブの適応疾患は慢性リンパ性白血病(CLL)・小リンパ球性リンパ腫(SLL)とマントル細胞リンパ腫(MCL)です。CLL/SLLは成熟B細胞の腫瘍性疾患で、日本では比較的まれですが高齢者に多く発症します。BTKはB細胞受容体シグナル伝達経路の重要な構成要素であり、これを阻害することでB細胞の増殖と生存を抑制します。
未治療のCLL/SLLに対しては、国際共同第III相試験(ELEVATE-TN試験)において、アカラブルチニブ単独投与群およびアカラブルチニブ+オビヌツズマブ併用群がオビヌツズマブ+クロラムブシル併用群と比較して有意に無増悪生存期間を延長させることが示されました。特に併用群では、中央値追跡期間28.3ヵ月時点で無増悪生存期間の中央値に到達していません。
再発または難治性のCLL/SLLに対しては、国際共同第III相試験(ASCEND試験)において、アカラブルチニブ群がイデラリシブ+リツキシマブ併用群またはベンダムスチン+リツキシマブ併用群と比較して無増悪生存期間を有意に延長しました。中央値追跡期間16.1ヵ月時点で、無増悪生存期間の中央値は未到達対16.5ヵ月でした。
マントル細胞リンパ腫は2025年8月に適応追加された疾患です。未治療のMCLに対してはベンダムスチンおよびリツキシマブとの併用、再発または難治性のMCLに対しては単剤投与が承認されています。MCLは比較的予後不良の疾患で、従来の化学療法では長期寛解が得られにくいことが課題でした。BTK阻害薬の登場により治療選択肢が広がっています。
パスメドの解説記事では、アカラブルチニブの作用機序と臨床試験データが詳しく紹介されています。
他のBTK阻害薬との比較では、イブルチニブ(第一世代)と比較して心血管イベントの発生率が低いことが特徴です。ELEVATE-RR試験では、再発/難治性CLL患者において、アカラブルチニブ群はイブルチニブ群と比較して心房細動の発現率が有意に低いことが示されました(9.4% vs 16.0%)。ザヌブルチニブ(第二世代)も同様に心血管イベントのリスクが低いとされており、今後の使い分けが注目されています。
投与期間は原則として病勢進行または許容できない有害事象が発現するまで継続します。長期投与が前提となるため、1カプセル12,921.9円の薬価を考慮すると、1日2回投与で月額約77万円、年間約940万円の薬剤費がかかります。高額療養費制度の適用により患者負担は軽減されますが、医療経済的な側面も考慮した治療戦略が重要です。