エンコラフェニブ添付文書の用法用量と副作用
エンコラフェニブ単独450mg投与は最大耐用量を超える可能性があります。
エンコラフェニブの効能効果とBRAF遺伝子変異検査
エンコラフェニブ(商品名:ビラフトビ)は、BRAF遺伝子変異を有する悪性腫瘍に対して使用されるBRAF阻害剤です。2026年2月時点で承認されている効能効果は、BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫、がん化学療法後に増悪したBRAF遺伝子変異を有する治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん、そして2025年11月に追加承認されたBRAF遺伝子変異を有する治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がんの一次治療です。
投与対象となる患者を適切に選択するためには、コンパニオン診断薬を用いたBRAF遺伝子変異検査が必須となります。添付文書では「十分な経験を有する病理医又は検査施設における検査により、BRAF遺伝子変異が確認された患者に投与すること」と明記されています。承認されているコンパニオン診断薬としては、THxID™ BRAFキットがあり、このキットではBRAF V600E変異またはV600K変異を検出することが可能です。
大腸がんにおけるBRAF V600E変異の頻度は約10%程度とされています。この変異を有する大腸がんは右側原発腫瘍や散発性マイクロサテライト不安定性(MSI)大腸がんと関連しており、予後不良因子として知られています。一方、悪性黒色腫においては、日本人では約30%、欧米では約60%の患者がBRAF変異を有すると報告されています。
つまり対象患者の同定が第一歩です。
BRAF変異検査の保険点数は2100点で算定可能であり、PCR-rSSO法を用いた検査が一般的です。検査結果が陽性と確認された後、臨床成績の項の内容を熟知した上で適応患者の選択を行う必要があります。
PMDA医療用医薬品情報(エンコラフェニブの最新添付文書が確認できます)
エンコラフェニブの用法用量と併用療法の詳細
エンコラフェニブの用法用量は適応疾患と併用薬剤によって明確に区別されています。BRAF遺伝子変異を有する根治切除不能な悪性黒色腫では、ビニメチニブとの併用において通常成人にエンコラフェニブとして450mgを1日1回経口投与します。これはBRAF阻害とMEK阻害を同時に行うことで、より強い抗腫瘍効果を発揮し、BRAF阻害剤単独投与で問題となるMAPK経路の再活性化を抑制するためです。
結腸・直腸がんにおける用法用量は治療ラインによって異なります。がん化学療法後に増悪した二次治療以降の場合は、セツキシマブ(遺伝子組換え)および他の抗悪性腫瘍剤との併用、またはセツキシマブとの併用において、通常成人にエンコラフェニブとして300mgを1日1回経口投与します。2025年11月に承認された一次治療では、セツキシマブおよびFOLFOX療法などの化学療法との併用が想定されており、同様に300mg1日1回投与となります。
国際共同第Ⅰ相試験の結果から、エンコラフェニブ単独投与の推奨用量は300mg1日1回とされました。450mg1日1回の用量では、用量拡大フェーズにおいて被験者34名中10名が初回サイクル中に用量制限毒性(DLT)を発現し、そのうち7名が300mgへの減量を必要としたためです。
これが重要な安全性情報です。
ビニメチニブとの併用時には、エンコラフェニブの血漿中曝露量と有効性の関係から450mg投与が推奨されていますが、添付文書の用法用量に関連する使用上の注意では「ビニメチニブを休薬又は中止した場合には、本剤の減量を考慮するとともに、患者の状態を慎重に観察し、副作用の発現に十分注意すること」と明記されています。単独450mg投与は最大耐用量を上回る可能性があるため、併用薬の休薬・中止時には必ず減量を検討する必要があります。
服薬タイミングについて、添付文書上は食事条件の規定はありませんが、併用するビニメチニブとの服用順序にも制限はなく、どちらを先に服用しても問題ありません。
エンコラフェニブの副作用発現時の用量調節基準
エンコラフェニブ投与時に副作用が発現した場合、適切な用量調節により有害事象を管理することが可能です。添付文書には詳細な休薬・減量・中止基準が示されており、副作用の種類とGrade(NCI-CTCAE ver4.03に準じる)に応じた対応が定められています。
減量レベルは3段階に設定されており、通常投与量450mg1日1回から、1段階減量で300mg1日1回、2段階減量で200mg1日1回となり、3段階減量では投与中止となります。減量を要した副作用がGrade1以下に回復し、他に合併する副作用がない場合には、減量時と逆の段階を経て増量することも可能です。
眼障害に関しては特に注意が必要です。網膜障害、ぶどう膜炎(虹彩炎、虹彩毛様体炎を含む)などの重篤な眼障害が報告されており、Grade2以上の眼障害では休薬が必要となります。網膜静脈閉塞が認められた場合やGrade4の眼障害では投与中止となります。定期的に眼の異常の有無を確認し、患者には異常を感じたら速やかに医療機関を受診するよう指導することが求められます。
肝機能障害についても綿密なモニタリングが必要です。AST増加、ALT増加がGrade2で血清ビリルビン上昇を伴わない場合、14日を超えて継続するときはGrade1以下に回復するまで休薬し、再開時は同量で投与可能ですが、再発した場合は休薬後1段階減量での投与となります。Grade3で血清ビリルビン上昇を伴う場合やGrade4では投与中止です。
血清CK(CPK)上昇も頻度の高い副作用の一つです。Grade3~4で血清クレアチニン上昇を伴う場合は、Grade1以下に回復するまで休薬し、28日以内に回復すれば1段階減量で投与再開しますが、28日以内に回復しない場合は投与中止となります。横紋筋融解症の発現にも注意が必要であり、定期的なCK値測定が推奨されます。
心電図QT延長への対応も明確に規定されています。500msを超えるQTc値が認められ、かつ投与前からの変化が60ms以下の場合は、QTc値が500msを下回るまで休薬し、再開時は1段階減量します。
ただし再発した場合は投与中止です。
投与前からの変化が60msを超える場合は即座に投与中止となります。定期的な心電図測定(月1回程度)の実施が重要です。
皮膚障害では、手掌・足底発赤知覚不全症候群がGrade2で14日を超えて継続する場合、Grade1以下に回復するまで休薬し、再開時は同量で投与可能ですが、再発時には休薬後1段階減量での投与を考慮します。Grade3ではGrade1以下に回復するまで休薬し、再開時は1段階減量で投与し、再発を繰り返す場合は1段階減量または投与中止を考慮します。
エンコラフェニブの重大な副作用とモニタリング項目
エンコラフェニブの添付文書に記載されている重大な副作用には、医療従事者が特に注意すべき項目が複数あります。皮膚悪性腫瘍として基底細胞がん(0.5%)、ケラトアカントーマなどが報告されており、定期的に皮膚の状態を確認する必要があります。新たな原発性悪性黒色腫が発現する可能性もあるため、皮膚の異常が認められた場合には速やかに医療機関を受診するよう患者指導が重要です。
眼障害の発現頻度は比較的高く、網膜障害(17.0%)、ぶどう膜炎(虹彩炎、虹彩毛様体炎を含む)(2.1%)などが報告されています。これらの眼障害は視力低下や視野障害につながる可能性があるため、投与開始前および投与期間中は定期的に眼科的検査を実施し、患者には霧視などの自覚症状が出現した際は直ちに報告するよう指導します。
心機能障害として、左室機能不全(0.7%)、駆出率減少(4.8%)などが報告されています。LVEF(左室駆出率)の低下は無症状のこともあるため、投与開始前および投与中は適宜心機能検査(心エコー等)を実施し、LVEFの変動を含めた患者の状態を確認することが必須です。心疾患またはその既往歴のある患者では特に慎重な観察が必要となります。
肝機能障害もモニタリングが必要な重要項目です。
ALT、ASTなどの上昇を伴う肝機能障害があらわれることがあり、投与中は定期的に肝機能検査を実施します。肝機能障害のある患者では本剤の血中濃度が増加する可能性があるため、軽度肝機能障害患者(Child-Pughスコア5~6)を対象とした臨床試験では、肝機能正常者と比較して血漿中非結合形エンコラフェニブのCmaxおよびAUCinfがそれぞれ1.21倍および1.55倍となったことが報告されています。肝機能障害患者では減量を考慮し、より慎重な観察が求められます。
横紋筋融解症の発現リスクもあるため、定期的な血清CK値の測定に加え、筋肉痛、脱力感、褐色尿などの症状出現に注意します。その他の副作用として、悪心(30.7%)、下痢(27.1%)、疲労(25.0%)、血中CK増加(21.4%)、ざ瘡様皮膚炎(26.0%)、発疹(27.8%)などが高頻度で報告されており、これらの副作用に対する適切な対症療法と患者指導が治療継続のために重要となります。
エンコラフェニブ適正使用ガイド(PMDAリスク管理計画、副作用管理の詳細が記載されています)
エンコラフェニブ添付文書で見落としがちな注意点
添付文書には一見すると見落としやすいが、実臨床で重要となる注意点がいくつか記載されています。特に医療従事者が認識しておくべき項目を確認していきます。
光線過敏性反応が副作用として報告されているため、患者には直射日光への曝露を避けるよう指導する必要があります。外出時は長袖の衣服着用、日焼け止めの使用、帽子の着用などの紫外線対策を徹底するよう説明します。皮膚障害として光線過敏性反応、皮膚炎、毛髪障害、多汗症などが報告されており、これらの症状が生活の質(QOL)に影響を与える可能性があることを患者に事前に説明しておくことが重要です。
エンコラフェニブの消失半減期は約6時間とされていますが、生化学アッセイにおけるBRAF V600Eからのエンコラフェニブの解離半減期は24時間超であるため、1日1回投与でも十分な薬効が期待できます。ただし、服薬アドヒアランスの維持が治療効果に直結するため、患者には毎日決まった時間に服用するよう指導します。
保管方法についても確認が必要です。ビラフトビカプセルは吸湿性があるため、服用の直前までPTPシートのまま保管する必要があります。患者には一包化せず、PTPシートから取り出さずに保管し、服用直前に取り出すよう指導します。保管場所は直射日光、高温、湿気を避け、乳幼児・小児の手の届かない場所とします。
併用療法においてもう一つ重要な点があります。
エンコラフェニブとビニメチニブまたはセツキシマブの併用療法では、併用薬の休薬・中止時にエンコラフェニブの減量を考慮する必要がある点です。臨床試験において、エンコラフェニブ450mg単独投与時の忍容性が低いことが示されているため、併用薬を中止してエンコラフェニブのみを継続する場合には、300mgへの減量を検討し、患者の状態をより慎重に観察する必要があります。
術後補助療法における有効性および安全性は確立していない点も添付文書に明記されています。BRAF遺伝子変異を有する悪性黒色腫患者における術後補助療法としてのエンコラフェニブ単独またはビニメチニブとの併用療法のデータは得られていないため、適応外使用とならないよう注意が必要です。
2025年11月の一次治療適応追加により、結腸・直腸がんの治療選択肢が広がりましたが、適応となるのはあくまでBRAF遺伝子変異陽性例のみであり、遺伝子検査による確認が前提となることを忘れてはいけません。
エンコラフェニブの薬価と医療経済的側面
エンコラフェニブ(ビラフトビ)の薬価は、ビラフトビカプセル50mgが3239.6円/カプセル、ビラフトビカプセル75mgが4769.8円/カプセルとなっています。実際の治療費を計算すると、悪性黒色腫に対する標準用量450mg/日(75mg×6カプセル)の場合、1日あたりの薬剤費は28618.8円となり、1ヶ月(30日)では約858564円となります。
結腸・直腸がんに対する用量300mg/日(75mg×4カプセル)では、1日あたり19079.2円、1ヶ月で約572376円です。これに併用するビニメチニブ(メクトビ錠15mg、薬価4518.5円/錠)を加えると、悪性黒色腫の標準的な併用療法(エンコラフェニブ450mg+ビニメチニブ90mg/日、すなわちメクトビ15mg×6錠/日)では、1日あたり約55729円、1ヶ月で約1671870円となります。
高額な薬剤費となるため、患者への経済的負担を軽減するための高額療養費制度の活用が重要です。医療従事者は患者の自己負担額について事前に説明し、必要に応じて医療ソーシャルワーカーと連携して経済的サポート体制を整えることが求められます。所得区分によって自己負担限度額が異なるため、患者ごとに個別の試算を行い、治療継続可能性を評価します。
副作用による休薬・減量が頻繁に発生すると、実際の薬剤使用量は処方量より少なくなる可能性があります。休薬期間中の薬剤は服用しないため、処方日数の調整により薬剤費の無駄を削減できます。ただし、PTPシートから取り出すと吸湿により品質が劣化するため、一包化や分割調剤は避け、PTPシートのまま必要日数分を処方します。
治療効果と薬剤費のバランスを考慮した治療戦略が重要です。
BRAF変異陽性進行大腸がんにおいて、エンコラフェニブとセツキシマブの併用療法は一次治療で客観的奏効率47.8%、二次治療以降でも有意な生存期間延長が報告されています。予後不良とされるBRAF変異陽性大腸がんにおいて、生存期間中央値が9ヶ月程度と極めて短い状況を考えると、高額であっても有効性の高い治療選択肢として位置づけられます。
保険適用については、承認された効能効果の範囲内での使用が前提となります。適応外の部位や疾患に使用する場合は原則として保険適用にならないため、BRAF遺伝子変異検査による確認と、承認された適応疾患での使用が保険診療の要件となります。