ホスアプレピタント アプレピタント 違いと使い分け
アプレピタント併用時にデキサメタゾン用量を減らさないと過量投与になります
ホスアプレピタントとアプレピタントの基本的な違い
ホスアプレピタントとアプレピタントは、どちらもNK1受容体拮抗薬に分類される制吐薬です。抗がん剤投与に伴う悪心・嘔吐を予防する目的で使用され、特にシスプラチンなどの高度催吐性リスク抗がん剤に対して有効性を発揮します。両薬剤の最も大きな違いは、投与経路と剤形にあります。
アプレピタントはカプセル製剤で経口投与を行います。標準的な用法は、抗がん剤投与1日目に125mgを投与し、2日目と3日目にそれぞれ80mgを1日1回内服します。
つまりアプレピタントです。
一方、ホスアプレピタントは点滴静注製剤として開発されました。抗がん剤投与1日目に150mgを30分かけて点滴静注し、投与は1回のみで完結します。
2日目以降の投与は不要です。
ホスアプレピタント150mgの単回投与は、アプレピタント125mg/80mg/80mgの3日間投与と同等の制吐効果を示すことが臨床試験で確認されています。この換算では、アプレピタント3日間の総投与量285mgに相当する効果がホスアプレピタント150mgで得られるということになります。
この用量設定の背景には、両薬剤の薬物動態の違いがあります。ホスアプレピタントは体内で速やかにアプレピタントに変換され、その血中濃度推移がアプレピタント3日間投与時と同等になるように設計されています。つまり、ホスアプレピタントは1回の投与で持続的な制吐効果を発揮する製剤設計となっているわけです。
ホスアプレピタントがプロドラッグである理由
ホスアプレピタントは、アプレピタントの水溶性を向上させることを目的に開発されたプロドラッグです。プロドラッグとは、体内で代謝されて初めて活性を示す薬物のことで、投与経路の多様化や薬物動態の改善を目的に設計されます。
アプレピタント自体は水にほとんど溶けない性質を持っています。このため、注射剤として製剤化することが困難でした。そこで、アプレピタントの窒素原子にリン酸基を導入することで水溶性を大幅に向上させたのがホスアプレピタントです。
投与後の体内動態を見ると、ホスアプレピタントは静脈内投与後、脱リン酸化酵素によって速やかにアプレピタントに変換されます。この変換はほぼ100%に近い効率で行われるため、ホスアプレピタント150mgは実質的にアプレピタントとして作用します。
つまり基本です。
このプロドラッグ化によって、経口投与が困難な患者さんに対しても制吐療法を提供できるようになりました。咽頭がん、喉頭がん、食道がんなどで嚥下障害がある患者さん、化学療法による悪心で経口摂取が難しい患者さん、内服コンプライアンスに問題がある患者さんなどに対して、ホスアプレピタントは有用な選択肢となります。
プロドラッグとしての設計は、薬物の投与方法を広げただけでなく、患者さんの服薬負担を軽減する効果ももたらしました。アプレピタントでは3日間の内服が必要ですが、ホスアプレピタントなら1回の点滴で済みます。抗がん剤治療中の患者さんにとって、この違いは大きなメリットです。
ホスアプレピタント投与時の血管痛と対策
ホスアプレピタントの臨床使用において注意すべき副作用の一つが血管痛です。注射部位の疼痛や血栓性静脈炎の発現率は、臨床試験で約4.6~5.2%と報告されています。この発現率は決して高くはありませんが、患者さんのQOLに直接影響するため、適切な対策が求められます。
血管痛の発現を軽減するために、溶解液量の調整が有効とされています。ホスアプレピタント150mgは、最終濃度0.6~1.5mg/mLとなるように生理食塩液で希釈します。つまり、最終容量は100~250mLの範囲で調整可能です。臨床現場では、可能な限り250mLで希釈することが推奨されており、最低でも100mL以上の溶解液を使用することが望ましいとされています。
溶解液量を増やすことで薬液の濃度が低くなり、血管への刺激が軽減されます。実際に、溶解液量を100mLから250mLに増量した施設では、血管痛の発現率が低下したという報告があります。投与時間についても、30分かけてゆっくりと点滴することで血管への刺激を分散させる工夫が行われています。
また、血管選択も重要なポイントです。できるだけ太い血管を選び、抗がん剤投与後の血管外漏出部位や静脈炎を起こした血管は避けることが推奨されます。ホスアプレピタントが静脈を傷つけ、後続の抗がん剤による静脈炎を助長する可能性があるためです。血管痛が発現した場合には、速やかに医師や看護師に伝え、必要に応じて投与血管の変更や冷却などの対症療法を検討します。
アプレピタント併用時のデキサメタゾン用量調整
アプレピタントおよびホスアプレピタントを使用する際、最も重要な注意点の一つがデキサメタゾンとの薬物相互作用です。両薬剤はシトクロムP450 3A4(CYP3A4)を中等度に阻害する作用を持っています。デキサメタゾンはCYP3A4で代謝される薬剤であるため、アプレピタントやホスアプレピタントと併用すると、デキサメタゾンの血中濃度が上昇します。
臨床試験のデータによると、アプレピタント併用時にはデキサメタゾンの血中濃度が約2倍に上昇することが確認されています。このため、制吐療法においてデキサメタゾンを併用する場合は、通常の約50%に減量する必要があります。
具体的な用量調整の例を見てみましょう。高度催吐性リスク抗がん剤に対する標準的な制吐療法では、アプレピタント(またはホスアプレピタント)を使用しない場合、デキサメタゾンは1日目に20mg、2~4日目に8mgを1日2回投与します。しかし、アプレピタントを併用する場合は、1日目12mg、2~4日目8mgを1日1回に減量します。
つまりこれが原則です。
この用量調整を怠ると、デキサメタゾンの過量投与となり、高血糖、不眠、精神症状、消化性潰瘍、感染症リスクの増加などの副作用が発現しやすくなります。特に糖尿病患者さんでは血糖コントロールが困難になる可能性があるため、十分な注意が必要です。
処方確認時には、レジメンにアプレピタントまたはホスアプレピタントが含まれているかを必ず確認し、デキサメタゾンの用量が適切に調整されているかをチェックする必要があります。もし調整されていない場合は、速やかに処方医に疑義照会を行うことが医療従事者の重要な役割となります。
ホスアプレピタントとホスネツピタントの選択
2022年3月に承認されたホスネツピタント(商品名:アロカリス)は、ホスアプレピタントに次ぐ2番目のNK1受容体拮抗薬の注射薬です。両薬剤は同じクラスに属しますが、薬物動態や副作用プロファイルに違いがあり、使い分けのポイントを理解しておくことが重要です。
最も大きな違いは血中半減期です。ホスアプレピタント(正確にはアプレピタント)の半減期が約9~13時間であるのに対し、ホスネツピタント(活性本体のネツピタント)の半減期は約70時間と非常に長くなっています。この長い半減期により、ホスネツピタントはより長期間にわたって制吐効果を維持できる可能性があります。
血管痛や注射部位反応についても、ホスネツピタントの方が発現率が低いという報告があります。ホスアプレピタントで血管痛が問題となった症例では、ホスネツピタントへの変更が検討される場合があります。配合変化についても、ホスネツピタントの方が安定性が高いとされています。
国内第III相試験(CONSOLE試験)では、ホスネツピタント235mgとホスアプレピタント150mgの有効性が直接比較されました。全期間(抗がん剤投与後0~120時間)のcomplete response(CR)率は、ホスネツピタント群で75.2%、ホスアプレピタント群で71.0%であり、両薬剤の非劣性が証明されています。
使えそうですね。
ただし、薬価の面ではホスアプレピタントの方が安価であり、後発医薬品も発売されています。コスト面を考慮すると、血管痛などの問題がない限りはホスアプレピタントを第一選択とし、副作用が懸念される場合にホスネツピタントへの変更を検討するという使い分けが現実的でしょう。どちらを選択するにしても、患者さんの状態や治療背景を総合的に評価して決定することが大切です。
ホスアプレピタント使用における医療従事者の実践的知識
医療従事者がホスアプレピタントとアプレピタントを適切に使い分けるためには、両薬剤の特性を深く理解し、患者さん個々の状況に応じた選択を行う必要があります。ここでは実臨床で役立つ実践的なポイントをまとめます。
まず、患者選択の観点から考えてみましょう。ホスアプレピタントが特に有用なのは、経口摂取が困難な患者さんです。頭頸部がんで嚥下障害がある場合、化学療法による悪心で内服自体が困難な場合、認知機能低下や服薬コンプライアンスに問題がある高齢者などでは、1回の点滴で完結するホスアプレピタントが明らかに有利です。
一方、アプレピタントが適している状況もあります。外来化学療法を受けている患者さんで、2日目と3日目は自宅で過ごす場合、内服薬の方が利便性が高いケースがあります。また、静脈ルートの確保が難しい患者さんや、血管痛のリスクを避けたい場合にも、経口のアプレピタントが選択されます。経済的な面では、後発医薬品が利用できるアプレピタントの方がコスト面で有利です。
配合変化についても注意が必要です。ホスアプレピタントは乳酸リンゲル液など2価陽イオン(Ca2+、Mg2+等)を含む溶液との配合変化が確認されているため、必ず生理食塩液で希釈します。他の薬剤との同時投与は避け、投与ラインは専用のものを使用することが推奨されます。
厳しいですね。
投与タイミングも重要なポイントです。ホスアプレピタントは抗がん剤投与の1時間前に投与を完了するように計画します。30分かけて点滴するため、実際には抗がん剤投与の1時間30分前に開始する必要があります。このタイミングを逸すると、制吐効果が十分に発揮されない可能性があります。
薬剤管理の面では、両薬剤ともCYP3A4を介した薬物相互作用に注意が必要です。併用禁忌薬としてピモジドがあり、併用注意薬としてデキサメタゾン以外にも、ワルファリン、経口避妊薬、免疫抑制薬など多数の薬剤が挙げられています。患者さんの併用薬を必ず確認し、相互作用のリスクを評価することが医療従事者の重要な役割です。
また、小児への投与についても知識を持っておく必要があります。12歳以上の小児には成人と同じ用量を投与しますが、生後6か月以上12歳未満の小児には体重あたりの用量(3.0mg/kg)で投与し、投与時間も1時間30分前と異なります。小児の制吐療法は成人とは異なる配慮が必要であり、専門的な知識が求められる領域です。
ホスアプレピタントの審査報告書(PMDA)には、臨床試験データや薬物動態に関する詳細な情報が記載されています
消化器癌治療の広場では、制吐療法における薬物相互作用について詳しい解説があります
日医工の薬剤師向けBasic Evidence(制吐療法)では、各種NK1受容体拮抗薬のエビデンスが比較されています