モノバクタム系抗生物質の特徴と適応
セフタジジムアレルギー患者にアズトレオナムは避けるべき
モノバクタム系抗生物質の基本構造と作用機序
モノバクタム系抗生物質は、β-ラクタム系抗菌薬の中でも特異的な構造を持つ薬剤群です。他のβ-ラクタム系薬剤がペニシリン系のように二環構造を持つのに対し、モノバクタム系はその名の通り単環(モノ)構造のβ-ラクタム環のみを有しています。この構造的特徴が、後述する交差反応性の低さや耐性機序への影響に深く関わっています。
現在臨床で使用できるモノバクタム系薬剤は、アズトレオナム(商品名:アザクタム®)のみです。アズトレオナムは1984年に米国で承認され、日本では1990年に承認された比較的歴史のある薬剤ですが、その特殊な抗菌スペクトルと耐性パターンから、現在でも重要な治療選択肢となっています。
作用機序は他のβ-ラクタム系薬剤と同様に、細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌作用を発揮します。具体的には、細胞壁ペプチドグリカン合成の最終段階に関与するペニシリン結合タンパク質(PBP)に結合し、特にPBP3に高い親和性を示すことで、細菌の細胞壁形成を阻害します。時間依存性の殺菌作用を示すため、血中濃度がMIC(最小発育阻止濃度)を超えている時間(Time above MIC)が治療効果に重要となります。
β-ラクタマーゼに対してはある程度の安定性を持ちますが、AmpC型セファロスポリナーゼやESBL(基質拡張型β-ラクタマーゼ)によっては容易に加水分解されてしまいます。しかし興味深いことに、メタロβ-ラクタマーゼ(MBL)には比較的安定であり、カルバペネム耐性菌に対する治療オプションとして再評価されています。
血中濃度がMICを超える時間が重要ですね。
MSDマニュアルのモノバクタム系薬剤の詳細解説(作用機序と薬理学的特性について)
モノバクタム系の抗菌スペクトルと臨床的位置づけ
モノバクタム系抗生物質の最大の特徴は、その極めて限定的な抗菌スペクトルにあります。グラム陰性好気性菌に対してのみ抗菌活性を示し、グラム陽性菌と嫌気性菌には全く効果がありません。この特性は一見すると欠点のように思えますが、実は臨床上の重要な利点にもなります。
対象となるグラム陰性菌の範囲は広く、大腸菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属などの腸内細菌科細菌、そして緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)にも活性を示します。特に緑膿菌に対する活性は第三世代セファロスポリンであるセフタジジムと同等とされており、抗緑膿菌作用が必要な場面で選択肢となります。
グラム陰性菌にのみ作用します。
単独での使用は基本的に推奨されません。なぜなら、起炎菌が不明な時点では、グラム陽性菌や嫌気性菌の関与を否定できないためです。実際の臨床現場では、バンコマイシンやリネゾリドなどの抗MRSA薬、あるいはクリンダマイシンやメトロニダゾールなどの抗嫌気性菌薬との併用療法が基本となります。このような併用により、極めて広い抗菌スペクトルを確保しつつ、β-ラクタム系アレルギー患者への治療を可能にします。
注射剤のみで経口投与はできないため、入院患者や重症感染症の治療に限定されます。淋菌感染症、尿路感染症、腹腔内感染症、呼吸器感染症など、グラム陰性菌が主要な起炎菌となる感染症に対して、ペニシリン系やセフェム系が使用できない状況で選択されることが多くなっています。
腎排泄型の薬剤であるため、腎機能低下時には用量調節が必須です。クレアチニンクリアランス(CCr)が50mL/分以上では通常量(1回1~2g、8時間ごと)を投与しますが、CCrが10~50mL/分では1回1~1.5gに減量し、10mL/分未満ではさらなる減量が必要となります。血液透析患者では透析後に追加投与を行う必要があります。
併用療法が基本ということですね。
モノバクタム系とペニシリンアレルギーの関係性
モノバクタム系抗生物質の臨床上最も重要な特徴の一つが、ペニシリン系やセフェム系抗菌薬との交差反応性が極めて低いことです。この特性により、β-ラクタム系アレルギー患者に対する貴重な治療選択肢となっています。
ペニシリンアレルギーを自己申告する患者は全体の約10~15%存在しますが、実際にIgE介在性の真のアレルギーが確認されるのはそのうち5~10%程度に過ぎないとの報告があります。しかし、真のアレルギーかどうかの判定には皮膚テストなどの特殊な検査が必要であり、臨床現場では申告を重視せざるを得ない状況です。このような背景から、ペニシリン系やセフェム系が使用できない場面で、アズトレオナムの重要性が高まっています。
アズトレオナムとペニシリン系薬剤との交差アレルギー反応は0.001%未満、つまり10万人に1人未満という極めて低い頻度です。この低い交差反応性の理由は、アズトレオナムが単環構造を持ち、ペニシリン系やセフェム系の二環構造と大きく異なるためです。β-ラクタム環そのものに対するアレルギーは極めて稀であり、多くの場合は側鎖構造に対する反応であることが知られています。
交差反応は0.001%未満です。
ただし、重要な例外が存在します。第三世代セファロスポリンのセフタジジム(セフタジジム)とアズトレオナムは、R1側鎖と呼ばれる構造部分が共通しています。この側鎖の類似性により、セフタジジムアレルギー患者ではアズトレオナムに対しても交差反応を起こす可能性があり、使用を避けるべきとされています。同様に、セフィデロコル(フェトロージャ®)という新しいセファロスポリン系薬剤もセフタジジムと類似の側鎖を持つため、交差反応に注意が必要です。
ペニシリン系アレルギー患者の病歴聴取では、アレルギー症状の詳細を確認することが重要です。軽度の発疹程度であれば過敏反応の可能性が高く、セフェム系への変更で対応できる場合もあります。一方、アナフィラキシーショックや気管支痙攣、血管浮腫などの重篤な即時型反応の既往がある場合は、β-ラクタム系全般の使用を慎重に判断し、アズトレオナムを含めた代替薬の選択を検討する必要があります。
このような状況判断では、感染症専門医や薬剤師と連携し、患者の過去のアレルギー歴を詳細に評価することが、安全で効果的な治療につながります。
ペニシリンアレルギーの問診と抗菌薬選択の詳細ガイド(交差反応性の評価について)
モノバクタム系とメタロβ-ラクタマーゼ産生菌への対応
近年、モノバクタム系抗生物質が再び注目を集めている理由の一つが、メタロβ-ラクタマーゼ(MBL)産生菌に対する有効性です。MBL産生菌は、カルバペネム系抗菌薬を含むほぼ全てのβ-ラクタム系薬剤に耐性を示す多剤耐性菌として、世界的に深刻な問題となっています。
メタロβ-ラクタマーゼは、その活性中心に亜鉛イオンを含む酵素で、セリン型β-ラクタマーゼとは構造が異なります。そのため、クラブラン酸やタゾバクタムなどの従来のβ-ラクタマーゼ阻害薬では阻害できません。カルバペネム系、ペニシリン系、セフェム系のほとんどを加水分解しますが、興味深いことにアズトレオナムはこの酵素による分解を受けにくいという特性を持っています。
この特性の理由は完全には解明されていませんが、アズトレオナムの単環構造がMBLの活性部位に適合しにくいためと考えられています。実際に、IMP型やVIM型などの主要なMBL産生緑膿菌やエンテロバクター属に対して、アズトレオナムは抗菌活性を保持することが報告されています。
カルバペネム耐性菌に有効な場合があります。
ただし、MBL産生菌の多くは他の耐性機序も併せ持っていることが問題です。AmpC型β-ラクタマーゼやESBLを同時に産生している場合、これらの酵素はアズトレオナムを容易に分解してしまいます。そのため、薬剤感受性試験で実際の感受性を確認することが必須となります。
この課題を克服するため、海外ではアズトレオナムとβ-ラクタマーゼ阻害薬アビバクタムの配合剤(ATM-AVI)が開発され、MBL産生菌やその他の多剤耐性グラム陰性菌に対する治療選択肢として期待されています。アビバクタムはセリン型β-ラクタマーゼ(AmpCやESBLを含む)を阻害するため、MBLに安定なアズトレオナムと組み合わせることで、複数の耐性機序を持つ菌にも対応できる可能性があります。ただし、この配合剤は2026年2月時点で日本では未承認であり、今後の導入が待たれる状況です。
MBL産生菌感染症が疑われる場面では、感染症専門医へのコンサルテーションが推奨されます。アズトレオナムの使用を検討する際は、感受性試験の結果を待つか、あるいは重症例では他の抗菌薬(コリスチンやチゲサイクリンなど)との併用療法を考慮する必要があります。地域の微生物学的サーベイランスデータも参考にしながら、適切な抗菌薬選択を行うことが重要です。
モノバクタム系の投与設計と医療現場での実践的使用法
モノバクタム系抗生物質の効果を最大限に引き出すためには、適切な投与設計が不可欠です。アズトレオナムは時間依存性の抗菌薬であるため、血中濃度がMICを超えている時間(%T>MIC)を十分に確保することが治療成功の鍵となります。理想的には投与間隔の40~70%の時間でMICを超える濃度を維持することが推奨されています。
通常の投与量は、成人で1回1~2gを1日2~4回(8時間ごとまたは6時間ごと)に分けて静脈内投与します。重症感染症や緑膿菌感染症では、1回2gを8時間ごと(1日最大6g)まで増量することができます。点滴時間は30分~1時間程度が標準的ですが、重症例では点滴時間を延長する持続点滴や長時間投与法も検討されています。
淋菌感染症や子宮頸管炎の治療では、1回1~2gの単回投与が承認されています。これは淋菌に対するアズトレオナムの高い抗菌活性と、単回投与でも十分な組織移行性が得られるためです。ただし、近年は淋菌の薬剤耐性化が進んでおり、第一選択薬はセフトリアキソンとなっているため、アズトレオナムは代替薬としての位置づけです。
小児への投与も可能で、通常1日40~80mg/kgを2~4回に分割して投与します。ただし、小児における使用経験は成人と比較して限られているため、特に新生児や乳児では慎重な投与が求められます。
投与間隔の調整が重要です。
腎機能低下時の用量調節は特に重要です。アズトレオナムは約60~70%が未変化体として腎排泄されるため、腎機能に応じた減量が必須となります。CCr 50mL/分以上では通常量を投与しますが、CCr 10~50mL/分では1回量を50~75%に減量するか、投与間隔を12時間ごとに延長します。CCr 10mL/分未満では1回量を通常量の25~50%に減量し、12~24時間ごとの投与とします。
血液透析患者では、透析によってアズトレオナムの約60%が除去されるため、透析後に追加投与(500mg~1g)が必要です。透析日には透析終了後に投与することで、次回透析までの血中濃度を維持します。腹膜透析患者では透析液中への移行が良好であり、通常量の50~75%を24時間ごとに投与する方法が一般的です。
肝機能障害患者では用量調節は通常不要ですが、重度の肝硬変では代謝と排泄が遅延する可能性があるため、血中濃度のモニタリングが有用な場合もあります。ただし、アズトレオナムのTDM(治療薬物モニタリング)は一般的には実施されておらず、腎機能に基づいた用量調節が中心となります。
併用療法を行う際の注意点として、アミノグリコシド系薬剤との相乗効果が知られています。緑膿菌やその他のグラム陰性菌感染症において、アズトレオナムとゲンタマイシンやアミカシンなどのアミノグリコシド系を併用することで、相加的あるいは相乗的な殺菌効果が期待できます。一方、抗グラム陽性菌薬や抗嫌気性菌薬との併用では、薬物相互作用は少ないものの、配合変化に注意が必要です。特にバンコマイシンとは配合変化を起こす可能性があるため、別々のルートで投与することが推奨されます。
副作用としては、他のβ-ラクタム系薬剤と同様に、アレルギー反応(発疹、発熱、好酸球増多など)、消化器症状(悪心、嘔吐、下痢)、肝機能障害、腎機能障害などが報告されています。注射部位の疼痛や血栓性静脈炎も比較的多く見られるため、点滴速度や投与部位の選択に配慮が必要です。重篤な副作用としてはアナフィラキシーショック、偽膜性大腸炎、急性腎不全などがあり、これらの徴候に注意しながら投与を継続することが重要です。
医療現場での実践的な使用場面としては、以下のようなケースが挙げられます。β-ラクタム系アレルギーの既往がある患者の重症尿路感染症や腹腔内感染症において、アズトレオナムとバンコマイシン、メトロニダゾールの併用で広域スペクトルを確保します。また、MBL産生菌による感染症が疑われる場合、感受性試験の結果を確認した上でアズトレオナムを選択します。さらに、腎機能障害患者でカルバペネム系の使用が困難な場合、適切な用量調節を行いながらアズトレオナムを使用することも検討されます。
抗菌薬適正使用の観点からは、アズトレオナムは特定の状況下での使用に限定すべき薬剤です。単純なグラム陰性菌感染症であれば、より狭域なスペクトルを持つ薬剤(第三世代セファロスポリンやフルオロキノロンなど)を優先し、アズトレオナムはペニシリンアレルギー患者やMBL産生菌感染症など、真に必要な場面でのみ使用することが、耐性菌抑制の観点からも重要となります。
腎機能障害時の抗菌薬投与設計の詳細(時間依存性と濃度依存性の違いについて)
Please continue.