カルバペネム系抗生物質一覧と種類の選択および注意点

カルバペネム系抗生物質の種類と特徴

バルプロ酸服用中の患者にカルバペネム系を投与すると、てんかん発作が再発するリスクがあります。

この記事の3ポイント要約
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カルバペネム系抗生物質の全種類を網羅

注射薬5種類と唯一の経口薬について、それぞれの特徴と使い分けを詳しく解説

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併用禁忌と副作用の注意点

バルプロ酸との併用禁忌や、効かない菌の種類など臨床で必須の知識をまとめて確認

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耐性菌問題と適正使用

CREなど耐性菌の現状と、カルバペネム系を適正に使用するための実践的アプローチ

カルバペネム系抗生物質の基本情報と分類

 

カルバペネム系抗生物質は、β-ラクタム系抗生物質の中でも特に広い抗菌スペクトラムを持つ薬剤群です。通常存在する硫黄が炭素に置換された骨格を持ち、細胞壁構築阻害作用により殺菌的に働く特徴があります。

β-ラクタマーゼに対して非常に安定性が高いため、他の抗菌薬に耐性を示す細菌にも効果を発揮します。このため「最後の切り札」とも呼ばれる広域抗菌薬として位置づけられています。グラム陽性菌からグラム陰性菌まで幅広くカバーできる点が最大の特徴です。

日本国内で使用できる注射用カルバペネム系薬は、現在5種類のみとなっています。それぞれメロペネムイミペネムドリペネムビアペネムパニペネムです。各薬剤には微妙な抗菌スペクトラムの違いがあり、臨床状況に応じて使い分けが必要になります。

経口カルバペネム系薬としては、テビペネム ピボキシル(商品名:オラペネム小児用細粒10%)が世界で唯一の製剤として存在します。2009年に承認された画期的な薬剤ですが、適応は小児に限定されているのが特徴です。

カルバペネム系は広域スペクトラムを持つ一方で、すべての細菌に効果があるわけではありません。MRSAメチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、レジオネラクラミジアマイコプラズマ、真菌などには抗菌作用を示しません。効かない菌を把握することが適正使用の一歩です。

カルバペネム系各薬剤の特徴と使い分け

メロペネム(商品名:メロペン)は、カルバペネム系の中で最も汎用性の高い薬剤です。グラム陰性桿菌に対する活性が強く、髄膜炎にも使用できる点が大きな特徴となっています。イミペネムと異なり痙攣発作のリスクが低いため、中枢神経系感染症での第一選択薬です。

合剤ではない単独の薬剤であることも評価されています。これにより薬物相互作用のリスクが減少し、より安全に使用できます。点滴投与は通常30分以上かけて行い、成人では1日0.5~1gを2~3回に分割投与するのが基本です。

イミペネム/シラスタチン(商品名:チエナム)は、グラム陽性球菌に対する活性がメロペネムよりやや強い特徴があります。しかし、腎臓で分解されやすいため、腎保護のためシラスタチンが配合されている合剤です。

髄膜炎には使用できません。

痙攣発作を引き起こす可能性があるため、中枢神経系の異常がある患者や腎機能不全患者では慎重な投与が求められます。不適切に高用量を投与した場合に発作のリスクが高まるため、用量調整が重要です。

ドリペネム(商品名:フィニバックス)とビアペネム(商品名:オメガシン)は、メロペネムと同様にグラム陰性桿菌に対する活性が強い薬剤です。緑膿菌に対する抗菌力が期待されますが、実臨床ではメロペネムとの明確な使い分けは難しいとされています。

つまり選択は施設の採用状況によることが多いです。

パニペネム/ベタミプロン(商品名:カルベニン)は、ビアペネムと同様にベタミプロンという腎保護薬が配合された合剤です。グラム陽性菌と陰性菌の両方に効果を示しますが、他のカルバペネム系と比較して使用頻度は低めとなっています。

エルタペネム(商品名:インバンツ)は、1日1回投与が可能な長時間作用型のカルバペネム系です。緑膿菌への活性が弱い一方、ESBL産生菌や多剤耐性アシネトバクターへの効果が期待されています。外来での点滴治療や在宅医療で活用されることがあります。

オラペネム小児用細粒10%は、幅広い抗菌スペクトラムを持つ唯一の経口カルバペネム系です。肺炎、中耳炎、副鼻腔炎の治療に使用され、7日間以内を投与期間の目安とします。世界的にも希少な経口製剤として重要な位置づけです。

カルバペネム系各薬剤の商品名と薬価の詳細な比較表がこちらで確認できます(KEGG MEDICUS)

カルバペネム系抗生物質が効かない菌と耐性菌の現状

カルバペネム系は広域抗菌薬ですが、すべての病原体に有効ではありません。MRSA、レジオネラ、クラミジア、マイコプラズマには抗菌作用を示さないため、これらが疑われる感染症では他の抗菌薬を選択する必要があります。

腸球菌に対しては注意が必要です。特にEnterococcus faeciumに対してはメロペネムの活性がイミペネムより低いため、腸球菌感染症が疑われる場合は薬剤選択を慎重に行います。どの菌に効かないかを把握することが重要です。

緑膿菌に対する耐性も深刻な問題となっています。日本の医療施設では、緑膿菌の約20%がカルバペネムに耐性を獲得しているとのデータがあります。

つまり5人に1人は効かない計算です。

カルバペネム耐性緑膿菌による感染症は、感染症法の5類定点報告の対象疾患です。カルバペネム系、アミノグリコシド系キノロン系の3系統に同時耐性を示す多剤耐性緑膿菌(MDRP)の場合、治療選択肢が極めて限られます。このため耐性菌の早期検出と適切な感染対策が不可欠です。

カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)は、最も深刻な薬剤耐性菌の一つとして世界的に問題視されています。2014年9月から感染症法の5類全数報告疾患に指定され、全医療機関での届出が義務付けられました。

有効な抗菌薬が限られるため治療が困難です。

日本で広がるCREの大部分はIMP型カルバペネマーゼ産生菌です。カルバペネム系薬に対する耐性度が比較的低いため、従来のスクリーニング用培地では検出が難しいという課題があります。見逃しを防ぐための検査体制の強化が求められています。

CREによる感染症を発症した場合、保菌が原因の39%、医療器具関連感染が21%、手術部位感染が10%という報告があります。院内感染は5%程度ですが、接触感染予防策の徹底が重要です。

手指衛生と環境整備が基本になります。

カルバペネム系の使用を減らすことが、耐性菌出現の抑制につながります。本当にカルバペネム系でなければ治せない感染症かを常に検討し、より狭域の抗菌薬で対応できる場合は適切にde-escalation(抗菌薬の適正化)を行うことが推奨されます。

適正使用が最大の対策です。

CRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)の詳細な感染対策と臨床的特徴について解説されています(日本BD)

カルバペネム系抗生物質の重大な副作用と併用禁忌

カルバペネム系とバルプロ酸ナトリウム(商品名:デパケン、セレニカ)の併用は絶対禁忌です。併用により、バルプロ酸の血中濃度が急激に低下し、てんかん発作が再発する危険性があります。血中濃度のコントロールが非常に困難なため、併用してはいけません。

バルプロ酸の有効血中濃度は40~120μg/mLですが、カルバペネム系薬の併用で短期間に大幅な低下が報告されています。バルプロ酸の増量でも対応できないため、カルバペネム系投与が必要な場合は、バルプロ酸を別の抗てんかん薬に変更する必要があります。

この相互作用は、パニペネム、メロペネム、イミペネム、ビアペネム、ドリペネム、テビペネムすべてのカルバペネム系で報告されています。てんかん患者の感染症治療では、必ず服薬歴を確認することが必須です。

見落とすと重大な結果を招きます。

消化器系の副作用として、下痢や嘔吐が比較的高頻度で発生します。特に偽膜性大腸炎などの血便を伴う重篤な大腸炎が0.1%未満の頻度で報告されており、腹痛や頻回の下痢が見られた場合は直ちに投与を中止する必要があります。

早期発見が重要です。

中枢神経系の副作用として、痙攣や意識障害が稀に発生します。頻度は非常に低いですが、特にイミペネムでは注意が必要です。高齢者や腎機能低下患者では薬剤の蓄積により副作用リスクが高まるため、用量調整を慎重に行います。

腎障害(急性腎不全など)も稀ですが重大な副作用として挙げられます。定期的な腎機能モニタリングが推奨されており、クレアチニンクリアランスに応じた投与量の調整が必要です。腎機能が悪化した場合は投与中止も検討します。

薬疹の発生時期にも特徴があります。抗生物質による薬疹は投与1日目から7日目の発生が多く、投与後すぐではなく数日後から出現する場合も多いため注意が必要です。投与後3~5日目までは発疹等の副作用に特に注意し、症状が出現した場合は他剤への切り替えを検討します。

ショックやアナフィラキシーといった即時型アレルギー反応も報告されています。不快感、口内異常感、喘鳴、眩暈、便意、耳鳴、発汗などが見られた場合は投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。

アレルギー歴の確認も重要です。

カルバペネム系抗生物質の適正使用と投与方法のポイント

カルバペネム系は「考えなしの抗菌薬」とも呼ばれることがあります。広範囲の細菌に効くため、医師が原因菌を特定せずに使用してしまうリスクがあるからです。しかし、安易な使用は耐性菌の蔓延を招くため、適正使用が極めて重要です。

カルバペネム系を使うべき状況は明確にすべきです。ESBL産生菌感染症、多剤耐性グラム陰性桿菌感染症、重症の混合感染など、本当にカルバペネム系でなければ治療できない場合に限定することが原則となっています。原因菌が判明したら速やかにde-escalationを検討します。

投与方法についても重要なポイントがあります。メロペネムの場合、通常成人では1日0.5~1gを2~3回に分割し、30分以上かけて点滴静注します。重症・難治性感染症では1回1gまで増量可能です。

投与時間の厳守が重要です。

化膿性髄膜炎の場合、メロペネムは1日6gを3回に分割し、30分以上かけて点滴静注します。小児では1日120mg/kgを3回に分割投与しますが、成人の1日最大量6gを超えない範囲で調整します。

髄膜炎は高用量が必要です。

β-ラクタム系抗菌薬は時間依存性の殺菌作用を持つため、長時間投与や持続投与が理論的に有効とされています。カルバペネム系でも長時間投与の有効性が検討されていますが、現時点では施設により対応が異なります。

投与法の最適化は継続的な課題です。

腎機能低下患者では投与量の調整が必須です。クレアチニンクリアランスに応じて減量し、薬剤の蓄積による副作用を防ぎます。特に高齢者では腎機能が低下していることが多いため、投与開始前の腎機能評価が欠かせません。

安全性を優先します。

抗菌薬適正使用の観点から、カルバペネム系の使用日数も最小限にとどめるべきです。感受性を確認し、疾病の治療上必要な最小限の期間の投与にとどめることが添付文書にも記載されています。

漫然とした長期投与は避けるべきです。

培養検査の実施も重要な実践事項です。抗菌薬投与前に適切な検体を採取し、原因菌の同定と薬剤感受性検査を行うことで、より適切な抗菌薬選択が可能になります。培養結果が判明したら、必要に応じて抗菌薬を変更することが推奨されます。

カルバペネム系抗菌薬の詳細な使用上の注意点と副作用情報がまとめられています(日経メディカル処方薬事典)

カルバペネム系抗生物質の今後の展望と医療現場での課題

カルバペネム系の使用量削減は、世界的な課題として認識されています。日本では特にカルバペネム系の使用頻度が高いという指摘があり、抗菌薬適正使用支援チーム(AST: Antimicrobial Stewardship Team)の活動が各医療機関で推進されています。

組織的な取り組みが必要です。

新規カルバペネム系薬の開発も進められています。メロペネム/バボルバクタム(商品名:レカルブリオ)やイミペネム/シラスタチン/レレバクタムなど、β-ラクタマーゼ阻害剤を配合した新しい合剤が登場しています。

耐性菌への対応力が強化されました。

しかし、新薬開発のスピードよりも耐性菌の出現スピードの方が速いという現実があります。新しい抗菌薬が登場しても、すぐに耐性菌が現れるイタチごっこの状況です。このため既存薬の適正使用がますます重要になっています。

医療経済的な観点も無視できません。重要薬の8割が採算割れで配送されているという報告があり、カルバペネム系を含む抗生物質の安定供給にリスクが生じています。薬価と流通の問題は医療システム全体に影響します。

供給体制の維持が課題です。

感染対策の教育も継続的に必要です。医師、看護師、薬剤師など多職種が協力し、カルバペネム系の適正使用と耐性菌対策を実践する体制を構築することが求められています。

定期的な研修と情報共有が効果的です。

オラペネム小児用細粒の成人への適応拡大も注目されています。2017年に海外企業が成人の複雑性尿路感染症を対象とした臨床試験を実施しており、高用量投与でカルバペネム系点滴に非劣勢であることが示されています。

経口薬の選択肢が増える可能性があります。

在宅医療や外来での抗菌薬治療の需要も高まっています。エルタペネムのような1日1回投与可能な薬剤は、入院期間の短縮や外来での点滴治療を可能にします。医療資源の効率的活用と患者のQOL向上の両立が期待されます。

最終的には、カルバペネム系を使わなくても済む感染症を増やすことが目標です。予防接種の普及、感染予防策の徹底、早期診断と適切な初期治療により、重症化や耐性菌感染を防ぐことが最も効果的な対策となります。

予防が最大の治療です。




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