第五世代セフェムの特徴と適応
第三世代経口セフェムは吸収率20%以下で体内に届きません
第五世代セフェムの定義と開発背景
セフェム系抗菌薬は開発された時期や抗菌スペクトラムによって第一世代から第五世代まで分類されています。第五世代として分類されるのは、セフトロザン・タゾバクタム(CTLZ/TAZ、商品名:ザバクサ)です。この薬剤はセフトロザンというセファロスポリン系薬にβラクタマーゼ阻害薬のタゾバクタムを配合したものです。
第五世代が開発された背景には、多剤耐性菌の増加という深刻な問題があります。特にESBL産生菌や多剤耐性緑膿菌による感染症が増加し、従来のセフェム系抗菌薬では対応が難しい症例が増えてきました。ESBL産生菌は第三世代セフェム系を含む多くのβラクタム系抗菌薬を分解する酵素を産生するため、通常のセフェム系では治療効果が期待できません。
セフトロザンは構造的にセフタジジム(CAZ)に類似しており、緑膿菌を含むグラム陰性桿菌に対して強い抗菌活性を持っています。これにタゾバクタムを配合することで、ESBL産生菌やAmpC産生菌といった耐性菌に対しても効果を発揮できるようになりました。
つまり基本は緑膿菌対策です。
国内では2018年に複雑性尿路感染症および複雑性腹腔内感染症の適応で承認され、その後2020年には敗血症、肺炎への適応も追加されています。これらの感染症は重症化しやすく、適切な抗菌薬選択が患者の予後を左右するため、第五世代セフェムの登場は臨床現場にとって大きな意味を持ちます。
第五世代セフェムと他世代の違い
セフェム系抗菌薬の世代による違いを理解することは、適切な抗菌薬選択の基本となります。一般的にグラム陽性菌への抗菌活性は第一世代が最も強く、世代が進むにつれて弱くなります。逆にグラム陰性菌への抗菌活性は世代が進むほど強くなる傾向があります。
第一世代セフェムであるセファゾリン(CEZ)やセファレキシン(CEX)は、黄色ブドウ球菌やレンサ球菌といったグラム陽性菌に対して強い活性を持ちます。本邦ではメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)感染症の第一選択薬として広く使用されています。皮膚軟部組織感染症や尿路感染症の治療に適しています。
第二世代セフェムのセフメタゾール(CMZ)やセフォチアム(CTM)は、横隔膜下の嫌気性菌にも効果があることが特徴です。腹部手術の術前投与や腹腔内感染症に使用されます。またESBL産生菌に対する効果も報告されており、カルバペネム系を温存したい場合の選択肢となることもあります。
第三世代セフェムは緑膿菌活性の有無で大きく二つに分かれます。セフトリアキソン(CTRX)やセフォタキシム(CTX)は緑膿菌活性がありませんが、肺炎球菌やインフルエンザ桿菌への効果が高く、髄液移行性も良好です。
市中感染症に広く使用される薬剤です。
一方、セフタジジム(CAZ)は緑膿菌を含むグラム陰性桿菌に対して強い活性を持ちますが、グラム陽性菌にはほとんど効果がありません。
第四世代のセフェピム(CFPM)は、第三世代の二つの特性を併せ持った広域抗菌薬です。グラム陽性菌からグラム陰性菌まで幅広くカバーでき、発熱性好中球減少症などの経験的治療に使用されます。ただし広域すぎるため、培養結果が判明次第、より狭域の抗菌薬への変更を検討すべきです。
そして第五世代のセフトロザン・タゾバクタムは、緑膿菌への強い活性とESBL産生菌へのカバーを両立させた薬剤です。カルバペネム系抗菌薬を使用したくない、あるいは使用できない場合の重要な選択肢となります。ただしMRSAには効果がなく、腹腔内感染症に使用する場合は嫌気性菌をカバーするためにメトロニダゾール(MNZ)の併用が必要です。
第五世代セフェムの適応疾患と使用場面
セフトロザン・タゾバクタムの適応疾患は複雑性尿路感染症、複雑性腹腔内感染症、敗血症、肺炎です。複雑性尿路感染症とは、尿路カテーテル留置や尿路結石など基礎疾患を持つ患者に発症する尿路感染症を指します。単純性膀胱炎とは異なり、治療に難渋することが多く、しばしば耐性菌が関与します。
ESBL産生大腸菌やESBL産生クレブシエラによる尿路感染症では、従来の第三世代セフェム系は無効です。こうした場合、カルバペネム系が選択されることが多いですが、カルバペネム系の過剰使用は多剤耐性菌の出現を促進する懸念があります。セフトロザン・タゾバクタムはこのような状況で、カルバペネム系を温存しながらESBL産生菌に対応できる貴重な選択肢となります。
複雑性腹腔内感染症には腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、肝膿瘍などが含まれます。これらの感染症では腸内細菌科の菌や嫌気性菌が原因となることが多いです。セフトロザン・タゾバクタムは腸内細菌科に対して良好な活性を示しますが、嫌気性菌へのカバーが不十分なため、メトロニダゾールとの併用が推奨されています。
つまり単独では不完全です。
敗血症や肺炎の治療においては、原因菌が判明する前に経験的治療を開始する必要があります。多剤耐性緑膿菌が疑われる院内発症の肺炎や、ESBL産生菌による菌血症が疑われる場合に、セフトロザン・タゾバクタムは有効な選択肢となります。特に過去にカルバペネム系を使用していた患者や、カルバペネム系耐性菌のリスクが高い患者では優先的に検討されます。
ただし使用中および使用後に最大20%の頻度で耐性株が出現することが報告されています。したがって培養結果が判明したら、感受性に基づいてより狭域の抗菌薬への変更を検討することが重要です。抗菌薬適正使用(AMS)の観点からも、広域抗菌薬の使用は必要最小限にとどめるべきです。
第五世代セフェムの投与方法と副作用
セフトロザン・タゾバクタムの投与方法は感染症の種類によって異なります。複雑性尿路感染症や腹腔内感染症では、通常1回1.5g(タゾバクタム0.5g/セフトロザン1g)を1日3回、60分かけて点滴静注します。敗血症や肺炎ではより高用量の1回3g(タゾバクタム1g/セフトロザン2g)を1日3回投与します。
腎機能に応じた投与量調整が必要です。クレアチニンクリアランスが50mL/min以下の患者では投与量を減量する必要があります。例えばクレアチニンクリアランスが30~50mL/minの場合、通常用量の半分に減量します。透析患者では透析のタイミングを考慮した投与計画が必要です。腎機能低下患者は多いですから注意が必要です。
副作用として最も多いのは消化器症状です。
下痢、悪心、嘔吐などが報告されています。
これはセフェム系抗菌薬に共通する副作用ですが、抗菌薬による腸内細菌叢の変化が原因と考えられます。下痢が持続する場合は、偽膜性大腸炎の可能性も考慮する必要があります。
アレルギー反応にも注意が必要です。セフェム系抗菌薬に対するアレルギーがある患者では、交差反応を起こす可能性があります。発疹、蕁麻疹、掻痒感などの皮膚症状が出現した場合は、投与を中止して適切な処置を行います。重篤な場合はアナフィラキシーショックに至ることもあるため、初回投与時は特に慎重な観察が必要です。
肝機能障害や腎機能障害も報告されています。定期的な血液検査によるモニタリングが推奨されます。特に長期投与が必要な場合や、もともと肝機能・腎機能に問題がある患者では、より頻繁な検査が必要です。血小板減少などの血液学的異常が見られることもあり、これらの変化を早期に発見することが重要です。
第五世代セフェム使用における注意点と今後の展望
セフトロザン・タゾバクタムは薬価が高額であることが使用上の大きな課題です。ザバクサ配合点滴静注用1バイアルの薬価は約8000円程度であり、1日3回投与が必要なため1日あたりの薬剤費は24000円を超えます。治療期間が7~14日間に及ぶことを考えると、総医療費への影響は無視できません。
そのため多くの医療機関では、広域抗菌薬の使用に届出制や許可制を導入しています。セフトロザン・タゾバクタムも第四世代セフェムやカルバペネム系と同様に、使用前に感染症専門医や抗菌薬適正使用支援チーム(AST)への相談が求められることが多いです。これは薬剤費の抑制だけでなく、耐性菌対策の観点からも重要な取り組みです。
第三世代経口セフェムの供給不安も医療現場に大きな影響を与えています。2024年に長生堂製薬の川内工場で製造管理上の不備が発覚し、多くの経口セフェム系抗菌薬が供給停止または出荷制限となりました。フロモックス、メイアクト、セフゾン、バナンなどの主要な第三世代経口セフェムが軒並み供給不安定な状態に陥りました。
この状況を受けて、厚生労働省は医療機関に対して経口セフェム系抗菌薬の過剰発注を控えるよう通知を出しています。医療現場では代替抗菌薬の選択を迫られており、第一世代セフェムやペニシリン系、ニューキノロン系への切り替えが進んでいます。ただし第三世代経口セフェムは吸収率が15~25%と著しく低く、そもそも使用の是非が議論されていた薬剤でもあります。今回の供給問題は抗菌薬適正使用を見直す機会にもなっています。
将来的にはさらに新しい世代のセフェム系抗菌薬や、異なる機序のβラクタマーゼ阻害薬配合抗菌薬の開発が期待されています。セフタジジム・アビバクタムやセフィデロコルなど、既に海外で使用されている新規抗菌薬の国内導入も進んでいます。これらの薬剤は多剤耐性グラム陰性菌に対する最後の砦として位置づけられており、適切な使用方法の確立が求められています。抗菌薬の選択肢が増えることは喜ばしいですが、同時に耐性菌の出現を最小限に抑えるための慎重な使用が不可欠です。
厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き」では各種抗菌薬の適応と使い分けが詳しく解説されています
MSD Connect「ザバクサの開発経緯」ではセフトロザン・タゾバクタムの臨床試験データと適応症が確認できます