セフテラム世代と抗菌スペクトラム
経口第3世代セフェムの吸収率は20%以下しかない
セフテラムが属する第3世代セフェム系の位置づけ
セフテラム(商品名:トミロン)は第3世代セフェム系抗菌薬に分類される経口薬です。セフェム系抗菌薬はβラクタム系に属し、細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌的に作用します。
世代によって抗菌スペクトラムが異なるのが特徴です。第1世代はグラム陽性菌に強く、世代が上がるにつれてグラム陰性菌への活性が高まります。つまり第3世代であるセフテラムは、グラム陰性菌に対して強い抗菌力を持つということですね。
逆にグラム陽性菌への活性は第1世代>第2世代>第3世代という関係になります。この世代別の特性を理解することが、適切な抗菌薬選択の基本となります。
国内の医療現場では、セフテラムを含む第3世代セフェムの経口薬が広く処方されてきた歴史があります。しかし近年、その使用について再考を促す動きが強まっています。日本感染症学会や日本化学療法学会のガイドラインでも、経口第3世代セフェムの適応は限定的であるとの見解が示されています。
日本感染症学会・日本化学療法学会「JAID/JSC感染症治療ガイドライン―呼吸器感染症―」では経口セフェム薬の適応菌種と適応症について詳細な記載があります
セフテラム世代の抗菌スペクトラムと作用機序
第3世代セフェムであるセフテラムは、大腸菌やインフルエンザ菌などのグラム陰性菌に対して優れた抗菌活性を発揮します。これは開発の段階でグラム陰性菌への効果を強化する方向で改良されたためです。
具体的には、βラクタマーゼという酵素に対する安定性が向上しています。βラクタマーゼは細菌が産生する酵素で、ペニシリンやセフェムのβラクタム環を破壊して抗菌薬を無効化します。第3世代セフェムは、このβラクタマーゼに対して比較的安定な構造を持つため、従来の抗菌薬が効きにくかった菌にも効果を示すのです。
ただし抗菌スペクトラムが広いことが必ずしも優れているわけではありません。感染症治療の原則は、必要な菌だけを標的とする狭域スペクトラムの抗菌薬を選択することです。広域スペクトラムの薬剤を使うと、標的以外の常在菌にも影響を与え、耐性菌を生み出すリスクが高まります。
セフテラムの適応症には、呼吸器感染症、皮膚感染症、耳鼻科感染症、尿路感染症などが含まれます。しかし後述するように、これらの感染症でも第1世代や第2世代セフェム、あるいはペニシリン系で対応できるケースが多く、第3世代を第一選択とすべき状況は限られています。
セフテラムと他世代セフェム系の使い分けの原則
医療従事者として最も重要なのは、各世代の特性を理解した上で適切に使い分けることです。第1世代セフェムは黄色ブドウ球菌や連鎖球菌などのグラム陽性菌による皮膚軟部組織感染症に有効で、セファゾリン(注射)やセファレキシン(経口)が代表的です。
第2世代セフェムは第1世代と第3世代の中間的な特性を持ちます。グラム陽性菌にもグラム陰性菌にもやや強い活性を示し、セフォチアムヘキセチル(パンスポリンT)などが使用されます。
第3世代セフェムが第1・第2世代より優先されるべき状況があるとすれば、ペニシリンアレルギーがある場合、ペニシリナーゼ高産生菌、BLNARのインフルエンザ菌などに限られると考えられています。BLNARとは、βラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性菌のことです。
選択の際には、起炎菌を予測し、その菌に対して十分な効果を持つ最も狭域の抗菌薬を選ぶことが基本です。例えば皮膚感染症でグラム陽性菌が予想される場合、第1世代セフェムで十分であり、わざわざ第3世代を使う理由はありません。不必要に広域スペクトラムの抗菌薬を使用することは、耐性菌を増やすだけでなく、腸内細菌叢を乱して下痢などの副作用を引き起こすリスクも高めます。
セフテラム世代別の注射薬と経口薬の違い
セフェム系抗菌薬には注射薬と経口薬があり、それぞれ特性が異なります。注射薬は第1世代から第4世代まで存在し、セファゾリン(第1世代)、セフォチアム(第2世代)、セフトリアキソン(第3世代)、セフェピム(第4世代)などが代表的です。
注射薬は静脈内投与されるため、バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)は100%となります。つまり投与した薬物のすべてが血中に到達するということですね。このため重症感染症や入院治療が必要な症例では注射薬が選択されます。
一方、経口薬は第1世代から第3世代までしか存在しません。
第4世代の経口薬は開発されていないのです。
経口薬は消化管から吸収される必要があるため、バイオアベイラビリティは薬剤によって大きく異なります。
第1世代セフェムの経口薬であるセファレキシンやセファクロルは、吸収率が80~90%と比較的良好です。しかし第3世代セフェムの経口薬になると、この吸収率が著しく低下します。セフテラムを含む経口第3世代セフェムのバイオアベイラビリティは、良くても15~25%程度しかありません。
つまり100mg服用しても、実際に血中に移行するのは15~25mg程度ということです。残りの75~85%は消化管で吸収されず、そのまま便として排泄されます。このことから、経口第3世代セフェムは「だいたいウンコ(DU薬)」という俗称で呼ばれることもあります。
セフテラムにおけるピボキシル基の影響と小児使用
セフテラムの正式名称はセフテラム ピボキシルです。この「ピボキシル」という部分は、消化管での吸収を高めるためにピバリン酸がエステル結合されたプロドラッグ構造を意味します。
体内に吸収されると、エステラーゼという酵素によってセフテラム(活性本体)とピバリン酸に分解されます。問題は、このピバリン酸がカルニチンと抱合して尿中に排泄されるため、体内のカルニチンが消費されてしまうことです。
カルニチンは脂肪酸のβ酸化に必須の物質であり、不足すると糖新生ができなくなります。その結果、低カルニチン血症に伴う低血糖症が発症し、痙攣や脳症といった重篤な状態に至る可能性があります。実際に後遺症を残した症例も報告されているのです。
特に小児、とりわけ乳幼児は血中カルニチン濃度がもともと低いため、ピボキシル基を持つ抗菌薬の投与には細心の注意が必要です。PMDAの報告によると、ピボキシル基を持つ抗菌薬投与後に低カルニチン血症と低血糖を引き起こした年齢は10歳以下に集中し、2歳未満が25人と最も多いことが明らかになっています。
ピボキシル基を持つ抗菌薬には、セフテラム ピボキシル(トミロン)のほか、セフジトレン ピボキシル(メイアクト)、セフカペン ピボキシル(フロモックス)、そしてカルバペネム系のテビペネム ピボキシル(オラペネム)があります。これらの薬剤を小児に投与する際は、添付文書の警告や重要な基本的注意をよく確認し、必要最小限の使用期間にとどめることが求められます。
PMDA「ピボキシル基を有する抗菌薬の使用上の注意改訂」には低カルニチン血症に関する詳細な注意喚起があります
セフテラム世代における吸収率と臨床効果の問題
セフテラムの腸管吸収率が極めて低い理由
セフテラムを含む経口第3世代セフェムの最大の問題点は、その腸管吸収率の低さです。先ほど述べたように、バイオアベイラビリティは15~25%程度しかありません。これは第1世代セフェムの80~90%と比較すると、著しく低い数値です。
なぜ第3世代セフェムの経口薬は吸収率が低いのでしょうか?これは化学構造と親水性・疎水性のバランスに関係しています。第3世代セフェムは、グラム陰性菌に対する活性を高めるために複雑な側鎖構造を持つように設計されました。
しかしこの構造が、消化管での吸収を妨げる要因となっています。腸管上皮細胞の脂質二重層を通過するためには、ある程度の脂溶性が必要ですが、第3世代セフェムは親水性が高すぎて膜透過性が低いのです。
さらに消化管内での安定性の問題もあります。胃酸や腸内のpH環境、消化酵素などによって分解されやすい構造を持つため、吸収される前に失活してしまう割合が高くなります。この問題を解決するために開発されたのがピボキシル基を付加したプロドラッグですが、それでも吸収率は20%前後にとどまっています。
実際の臨床データを見ると、セフジトレン(メイアクト)の吸収率は約14%、セフカペン(フロモックス)は約25%、セフポドキシム(バナン)は約46%と報告されています。セフテラムの吸収率は約16%とされており、経口第3世代セフェムの中でも特に低い部類に入ります。
つまりセフテラム100mgを服用しても、実際に血中に移行するのはわずか16mg程度ということですね。注射用の第3世代セフェムであれば100mg投与すれば100mg全量が血中に到達しますが、経口薬では投与量の大部分が無駄になってしまうのです。
セフテラム世代の血中濃度と感染部位到達性の課題
吸収率が低いということは、血中濃度が十分に上がらないということを意味します。抗菌薬が効果を発揮するためには、感染部位において起炎菌のMIC(最小発育阻止濃度)を上回る濃度を維持する必要があります。
しかし経口第3世代セフェムでは、添付文書通りの用量を投与しても、目標とする血中濃度に到達しないケースが少なくありません。特に蛋白結合率が高い薬剤では、血中に存在していても蛋白と結合している部分は抗菌活性を持たないため、実際に有効な遊離型の濃度はさらに低くなります。
感染部位への移行性も問題です。肺炎の場合、肺組織や肺胞上皮被覆液への移行が重要ですが、血中濃度が低ければ当然ながら組織への移行量も少なくなります。尿路感染症では尿中濃度が重要ですが、腎排泄型の抗菌薬であっても、そもそもの吸収量が少なければ尿中濃度も制限されます。
さらに重症度が高い症例では、より高い血中濃度が必要になります。しかし経口第3世代セフェムでは、用量を増やしても吸収率は変わらないため、血中濃度の上限が決まってしまうのです。
このような薬物動態の問題から、多くの感染症専門医は「経口第3世代セフェムでは十分な治療効果が期待できない」と指摘しています。特に中等症以上の感染症や、免疫不全患者、高齢者など感染症が重症化しやすい患者では、経口第3世代セフェムではなく、バイオアベイラビリティの高い抗菌薬を選択すべきです。
軽症の感染症であれば第1世代セフェムやペニシリン系で対応し、中等症以上であれば注射薬への切り替えを検討するのが妥当な判断ということですね。
セフテラムによる耐性菌リスクと腸内細菌叢への影響
吸収率の低さは、もう一つの深刻な問題を引き起こします。
それは耐性菌の出現リスクです。
セフテラムを服用すると、吸収されなかった75~85%の薬剤が腸管内に残ります。
この腸管内の薬剤は、腸内細菌に対して選択圧として働きます。つまり腸内細菌の中で、セフェムに感受性のある菌は死滅し、耐性を持つ菌だけが生き残って増殖するのです。しかも血中に到達する濃度は治療に必要なレベルに達していないため、感染部位の菌を十分に殺菌できない可能性があります。
このような「感染部位では不十分な濃度、腸管内では過剰な濃度」という最悪の状態が、耐性菌を効率的に選択してしまうのです。実際に、経口第3世代セフェムの使用量が多い地域では、大腸菌などの腸内細菌科細菌における第3世代セフェム耐性率が高いことが報告されています。
腸内細菌叢への影響も無視できません。ヒトの腸内には1000種類以上、100兆個以上の細菌が共生しており、消化吸収の補助、免疫系の調節、病原菌の侵入防御などの重要な機能を担っています。
広域スペクトラムの抗菌薬を使用すると、この腸内細菌叢のバランスが崩れます。特に吸収されずに腸管内に大量に残る経口第3世代セフェムは、腸内細菌叢への影響が大きいと考えられています。その結果、下痢や腹痛といった消化器症状が出現しやすくなります。
さらに重篤な副作用として、偽膜性腸炎があります。これはクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)という菌が異常増殖して起こる疾患で、重症化すると致死的になる場合もあります。クロストリジウム・ディフィシル感染症は、広域抗菌薬使用後に腸内細菌叢が乱れることで発症リスクが高まります。
長期的には、腸内細菌叢の乱れがアレルギー性疾患の増加にも関連している可能性が指摘されています。乳幼児期の腸内細菌叢は免疫系の発達に重要な役割を果たすため、この時期に不適切な抗菌薬を使用することの影響は大きいと考えられます。
セフテラム世代の臨床試験データと有効性の再評価
経口第3世代セフェムの有効性については、臨床試験データの解釈にも注意が必要です。これらの薬剤が承認された際の臨床試験は、プラセボ対照試験ではなく、既存薬との非劣性を示す試験であることが多いためです。
つまり「効かないよりはマシ」ということは示されていても、「本当に必要な薬か」という根本的な問いには答えていません。さらに臨床試験の対象となった感染症の多くは、自然治癒傾向のある軽症例であったと考えられます。
実際、急性上気道炎(いわゆる風邪)の多くはウイルス性であり、抗菌薬は不要です。それにもかかわらず、日本では急性上気道炎に対して経口第3世代セフェムが処方されるケースが少なくありません。
これは明らかな不適切使用です。
国際的な比較研究では、日本の経口第3世代セフェムとフルオロキノロン系の使用量が諸外国に比べて突出して多いことが指摘されています。WHOの推奨するAWaRe分類では、これらの薬剤は「Watch(監視)」カテゴリーに分類され、耐性化リスクが高いため使用を制限すべきとされています。
日本の薬剤耐性(AMR)対策アクションプランでも、経口第3世代セフェムの使用量削減が重要指標の一つとして設定されています。2020年の目標値に対して、一部の医療機関では削減に成功していますが、全体としてはまだ十分とは言えません。
医療従事者としては、エビデンスに基づいた抗菌薬選択を行い、不要な経口第3世代セフェムの使用を避けることが求められます。「とりあえず広域の抗菌薬を出しておけば安心」という考え方は、患者のためにも社会のためにもならないということですね。
セフテラム世代における適正使用の実践ポイント
それでは、セフテラムを含む経口第3世代セフェムを適正に使用するためには、どのような点に注意すべきでしょうか。まず原則として、経口第3世代セフェムは第一選択薬としては使用しないことです。
感染症の起炎菌を予測し、その菌に対して最も狭域で効果的な抗菌薬を選択します。皮膚軟部組織感染症であれば第1世代セフェム、呼吸器感染症でペニシリン感受性の肺炎球菌が予想される場合はアモキシシリン、といった具合です。
経口第3世代セフェムを使用すべき状況があるとすれば、以下のようなケースです。ペニシリンアレルギーがあり、かつ第1・第2世代セフェムでは対応できないグラム陰性菌感染症が疑われる場合。βラクタマーゼ産生菌やBLNAR株のインフルエンザ菌による感染症が確認された場合。他の抗菌薬では副作用が出現し、やむを得ず選択する場合などです。
いずれにしても、漫然と処方するのではなく、明確な理由があって選択することが重要ということですね。また使用する場合でも、治療期間は必要最小限にとどめます。「念のため7日分出しておく」といった処方は避けるべきです。
小児への使用では、ピボキシル基による低カルニチン血症のリスクを十分に説明し、保護者に注意喚起を行います。特に乳幼児では、使用を避けるか、使用する場合は短期間(3日以内)にとどめ、低血糖症状(不機嫌、哺乳不良、けいれんなど)が出現した場合は直ちに医療機関を受診するよう指導します。
可能であれば、抗菌薬を処方する前に培養検査を実施し、起炎菌と感受性を確認することが理想的です。培養結果が判明するまでは、経験的治療としてガイドラインに沿った第一選択薬を使用し、結果に基づいてde-escalation(より狭域の薬剤への変更)を行います。
患者への説明も重要です。「広い範囲に効く薬=良い薬」という誤解を解き、適切な薬を適切な期間使用することの重要性を伝えます。また抗菌薬は指示通り最後まで飲み切ることも強調します。自己判断で中断すると、耐性菌が生じるリスクが高まるためです。
医療機関全体としては、抗菌薬適正使用支援チーム(AST)を活用し、処方パターンのモニタリングやフィードバックを行うことが効果的です。実際に薬剤師主導の介入によって、経口第3世代セフェムの処方が大幅に減少した報告もあります。
厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版 医科・外来編」には外来での抗菌薬適正使用に関する詳細なガイダンスが掲載されています