フォン・ヴィレブランド因子の機能と診断の重要ポイント

フォン・ヴィレブランド因子の役割と測定

O型患者のVWF値は健常者でも20~30%低くなります。

この記事の3ポイント
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VWFの二重機能

血小板粘着と第Ⅷ因子安定化という2つの重要な止血機能を担う巨大糖タンパク質

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血液型による診断の複雑性

O型では正常でもVWF値が20~30%低く、軽症患者の診断が困難になる

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病型に応じた治療選択

デスモプレシン製剤とVWF含有血漿由来製剤の使い分けが重症度管理の鍵

フォン・ヴィレブランド因子の基本構造と止血での働き

フォン・ヴィレブランド因子(von Willebrand factor, VWF)は、血管内皮細胞と骨髄巨核球で産生される分子量約50万から2000万に及ぶ巨大な糖タンパク質です。この因子は約260kDaのモノマーが多量体を形成するマルチマー構造を持ち、分子量が大きいほど血小板凝集能が高くなるという特徴があります。血管内皮細胞から分泌されたVWFは、血漿中の約80%を占め、残りの20%が骨髄巨核球由来です。

VWFの最も重要な機能は、一次止血における血小板粘着作用です。血管が損傷すると、内皮下組織のコラーゲンが露出し、VWFはこのコラーゲンと結合します。同時に、VWFは血小板表面の糖タンパク質Ib/IX受容体と結合することで、血小板を損傷部位に粘着させる「分子糊」として働きます。この働きが障害されると、軽症でも鼻出血や月経過多などの粘膜出血が起こりやすくなります。

つまり血小板粘着の橋渡し役です。

もう一つの重要な機能は、血液凝固Ⅷ因子(FVIII)のキャリアタンパク質としての役割です。VWFはFⅧと複合体を形成し、FⅧを急速な分解から保護することで血流中での寿命を延ばします。VWFが欠乏すると、FⅧも不安定になって血中濃度が低下するため、2N型や3型VWDでは血友病Aに似た深部出血を起こすことがあります。この二重機能により、VWFは止血機構の中心的な役割を果たしています。

VWFの血中濃度は血小板数や凝固因子とは異なり、ABO血液型によって大きく影響を受けます。

これが診断の複雑さにつながるポイントです。

フォンウィルブランド因子活性の臨床的意義と測定法の詳細(株式会社ファルコバイオシステムズ)

フォン・ヴィレブランド因子の検査方法と血液型による基準値の違い

VWDの診断には、VWF抗原量(VWF:Ag)、VWF活性(VWF:RCo)、第Ⅷ因子活性(FVIII:C)の3つの測定が必須となります。VWF抗原量の測定には、主にELISA法またはラテックス凝集法が用いられており、現在の臨床検査では短時間で結果報告が可能な自動検査システムが導入されています。測定結果は通常2~5日で得られ、検査所要時間は12分未満です。

基準値は血液型により大きく異なります。

O型の基準値は42.0~140.8%、A型・B型・AB型(非O型)の基準値は66.1~176.3%と設定されており、O型では非O型と比べて約25%低い傾向にあります。これはVWFサブユニット上の糖鎖に血液型糖鎖抗原が存在し、O型ではVWF分子の安定性や構造維持が非O型より劣るためと考えられています。

この血液型依存性は、臨床現場で重要な注意点となります。O型患者では健常者でもVWF値が40%程度まで低下することがあり、軽症のVWD患者との鑑別が困難になるケースがあります。出血傾向のあるO型患者の診断には、複数回の検査や家族歴の詳細な聴取が必要です。VWFレベル(活性または抗原量)が30%未満であればVWDと診断されますが、30~50%のボーダーライン症例では慎重な評価が求められます。

VWF活性の測定には、従来のリストセチンコファクター活性(VWF:RCo)検査に加え、新たな測定法が開発されています。近年では、より標準化された測定が可能なVWF:GPIbM検査なども臨床研究で導入され、診断精度の向上が図られています。

血液型を考慮した評価が診断の鍵です。

病型分類にはマルチマー解析が重要です。VWFは超高分子量マルチマーから低分子量マルチマーまで様々なサイズで存在し、その分布パターンを電気泳動で解析することで、1型(量的減少)と2型(質的異常)を鑑別できます。2型はさらに2A・2B・2M・2Nに細分類され、それぞれ治療方針が異なります。マルチマー解析は専門施設での実施が推奨される検査です。

BML検査案内におけるVWF抗原量の血液型別基準値の詳細

フォン・ヴィレブランド因子の産生と血中動態の制御機構

VWFは主に血管内皮細胞で産生され、細胞内の特殊な貯蔵顆粒であるWeibel-Palade小体に蓄えられています。内皮細胞が刺激を受けると、この貯蔵顆粒から超高分子量VWFマルチマー(UL-VWFM)として血中に放出されます。この超高分子量マルチマーは血小板活性化能が非常に高く、止血に極めて重要な役割を果たします。

血中に放出されたUL-VWFMは、そのままでは血栓形成のリスクとなるため、速やかに調節される必要があります。この調節を担うのがADAMTS13という特殊な酵素です。ADAMTS13は血中でVWFのマルチマーを特異的に切断し、適切なサイズの多量体に分解します。この切断プロセスにより、VWFの血小板活性化能が適度に制御され、過度な血栓形成が防がれます。

VWFの血中半減期は約16時間です。

ADAMTS13の活性が著しく低下すると、UL-VWFMが血中に蓄積し、全身の微小血管で血小板血栓が形成される血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)という重篤な疾患を引き起こします。一方、VWDでは逆にVWFが欠乏または機能異常を示すため、出血傾向を呈します。このようにVWFとADAMTS13の軸は、出血と血栓という正反対の病態の制御に関わっています。

VWFの産生は様々な生理的・病理的状態で変動します。妊娠中はVWFとFⅧの血中濃度が生理的に上昇し、分娩時の出血リスクが低下します。このため軽症のVWD女性患者では、妊娠中に出血症状が改善することがあります。しかし分娩後は急速に濃度が低下するため、産後出血のリスクが高まります。また、炎症や感染症などのストレス状態でもVWFは急性相反応物質として増加します。

血漿中のVWF濃度は年齢とともに増加する傾向があり、高齢者では若年者より高値を示します。このため、加齢に伴いVWD患者の出血症状が軽減することもあります。

VWFとADAMTS13の相互作用による止血・血栓制御機構の解説(日本生化学会)

フォン・ヴィレブランド病の診断における臨床的課題と潜在患者の実態

VWDは遺伝性出血性疾患の中で最も頻度が高く、人口の約1%に遺伝的素因があると推定されています。しかし実際に診断される患者は1万人に1人程度と非常に少なく、大多数が潜在化しているのが現状です。この診断率の低さには、いくつかの臨床的課題が関係しています。

最大の課題は軽症患者の症状が非特異的であることです。1型VWDは全体の約70%を占めますが、日常的な出血症状は鼻出血、皮下出血、月経過多など軽度の粘膜出血が中心です。これらは一般人口でも比較的よく見られる症状であり、患者自身も医療機関を受診しないことが多いのです。結果として、抜歯や手術、出産時の異常出血がきっかけで初めて診断されるケースが少なくありません。

診断の難しさが見逃しにつながります。

血液型による基準値の違いも診断を複雑にしています。前述の通り、O型の健常者でもVWF値が40%程度まで低下することがあるため、軽症1型VWD患者(VWF値30~50%)との鑑別が困難です。検査値が境界域の場合、複数回の測定や詳細な出血歴の聴取、家族歴の確認が必要となりますが、外来診療の限られた時間内でこれらを十分に行うことは容易ではありません。

さらに、VWF濃度は生理的変動が大きいという特性があります。炎症、ストレス、妊娠、加齢などの影響で一時的に正常化することがあり、単回測定では異常を見逃す可能性があります。特に女性では、月経周期や経口避妊薬の使用によってもVWF値が変動します。このため一般的には、幼少時から出血症状が認められますが、軽症例では年長になってから診断されることも珍しくありません。

2型や3型は重症の出血をきたしやすく、比較的早期に診断される傾向にあります。3型では関節出血や筋肉内出血など血友病様の深部出血も起こるため、血友病Aとの鑑別が重要です。2N型では第Ⅷ因子結合能が低下しているため、FⅧ値も低下し、血友病Aと誤診されるリスクがあります。正確な病型診断には、専門施設でのマルチマー解析やFⅧ結合能の測定が必要です。

潜在患者の掘り起こしには、医療従事者の認識向上が不可欠です。「出血しやすい体質」と軽視せず、詳細な問診と適切なスクリーニング検査を行うことが、診断率の改善につながります。

フォン・ヴィレブランド病の症状と診断の詳細(KMバイオロジクス患者向け情報)

フォン・ヴィレブランド病の治療戦略と病型別の薬剤選択

VWDの止血療法は病型と重症度に応じて選択され、主にデスモプレシン製剤とVWF含有血漿由来製剤の2つが使い分けられます。治療方針の決定には、事前の詳細な病型分類が極めて重要です。

酢酸デスモプレシン(DDAVP)は、抗利尿ホルモンの誘導体で、昇圧作用をほとんど示さずに強力な抗利尿作用を長時間発揮します。この薬剤は血管内皮細胞のWeibel-Palade小体を刺激し、貯蔵されているVWFとFⅧを血中に放出させることで止血効果を発揮します。投与後30~60分で血中VWF濃度は3~5倍に上昇し、効果は数時間持続します。

デスモプレシンは1型VWDと一部の2型VWD(特に2A型)に有効です。軽度から中等度の出血、抜歯などの小手術、月経過多の管理に適しています。注射製剤のほか、鼻腔内投与製剤もあり、患者の自己投与が可能です。副作用として水分貯留による低ナトリウム血症のリスクがあるため、投与後は水分摂取を制限し、必要に応じて血清ナトリウム値をモニターします。

VWF含有濃縮製剤が重症例で必要です。

デスモプレシンが無効または禁忌の場合には、VWF含有血漿由来濃縮製剤を使用します。3型VWD(VWFが完全欠損)では内在性VWFがないためデスモプレシンは無効で、必ずVWF含有製剤が必要です。2B型では、デスモプレシン投与により異常VWFが放出されて血小板減少を悪化させる可能性があるため、VWF含有製剤が第一選択となります。

VWF含有製剤には、血漿由来のFⅧ/VWF複合体製剤(コンファクトF注など)と、近年承認された遺伝子組換えVWF製剤(ボンベンディ静注用など)があります。血漿由来製剤は長年の使用実績がありますが、血液製剤由来の感染リスクがゼロではありません。一方、遺伝子組換え製剤は感染リスクがなく、世界初のVWD治療用組換え製剤として注目されています。

VWF含有製剤の投与量は、目標とするVWF値とFⅧ値に基づいて計算されます。VWFの血中半減期は約16時間であるため、中等度以上の出血や手術時には初回投与後、止血維持のために8~24時間ごとに連続投与を行います。投与後は超高分子量マルチマーが一時的に増加しますが、血中のADAMTS13により約3時間で切断されるため、血栓症リスクは比較的低いとされています。

補助療法として、トラネキサム酸などの抗線溶薬が併用されることもあります。特に口腔内出血や月経過多では、局所的な線溶亢進が出血を遷延させるため、抗線溶薬の併用が有効です。女性患者の月経過多に対しては、ホルモン療法経口避妊薬黄体ホルモン製剤)も選択肢となります。

妊娠・分娩時の管理は特に注意が必要です。妊娠中は生理的にVWFとFⅧが上昇するため、軽症患者では止血療法が不要なこともあります。しかし分娩後は急速に低下するため、産後3~4週間は出血リスクが高まります。分娩前にVWF値を測定し、必要に応じてDDAVPやVWF含有製剤による止血管理を計画します。帝王切開などの観血的処置時には、必ず専門医と連携した止血管理が求められます。

フォン・ヴィレブランド病の治療選択肢と管理指針(武田薬品工業医療関係者向け情報)

フォン・ヴィレブランド因子と第Ⅷ因子の相互作用が臨床検査に与える影響

VWFとFⅧの相互作用は、診断と治療の両面で重要な臨床的意義を持ちます。FⅧはVWFと非共有結合で複合体を形成しており、この結合がFⅧの血中安定性を保つキャリア機能として働いています。VWFが欠乏すると、FⅧは保護されずに急速に分解されるため、血中半減期が正常の約12時間から2~3時間に短縮します。

この相互作用により、VWDの検査では必ずFⅧ活性も同時測定されます。1型VWDではVWFとFⅧの低下が比例的ですが、2N型VWDではVWFのFⅧ結合ドメインに異常があるため、VWF抗原量は比較的保たれているのにFⅧ活性だけが著明に低下します。この所見は血友病Aと酷似しており、実際に血友病Aと誤診されるケースがあります。

2N型の鑑別には専門検査が必要です。

血友病AとVWD 2N型の鑑別は、遺伝形式の違いからも重要です。血友病AはX連鎖性劣性遺伝のため患者は主に男性ですが、VWD 2N型は常染色体遺伝のため男女ともに発症します。「軽症血友病A」と診断された女性患者では、実は2N型VWDである可能性を疑う必要があります。確定診断にはVWFのFⅧ結合能測定(VWF:FVIIIB)やVWF遺伝子解析が必要となります。

治療面でも、この相互作用は重要な意味を持ちます。デスモプレシンを投与すると、VWFとともにFⅧも放出されるため、両者の血中濃度が同時に上昇します。しかし2N型ではFⅧ結合能が低下しているため、デスモプレシンによるFⅧ上昇が一過性で不十分となり、止血効果が限定的です。このような症例では、VWF含有製剤とFⅧ製剤の併用が必要となることがあります。

3型VWDでは、VWFがほぼ完全に欠損しているため、FⅧも著しく低下します(通常5~10%程度)。このレベルのFⅧ低下は中等症血友病Aに相当し、関節出血や筋肉内出血などの深部出血を起こすリスクがあります。3型VWDの治療では、VWF補充とともにFⅧ補充も考慮する必要があります。

VWF含有製剤を投与する際、製剤中のVWFとFⅧの比率も考慮すべきポイントです。血漿由来製剤では、VWFとFⅧの含有比が製品により異なります。VWF活性に対してFⅧ含量が高い製剤では、繰り返し投与によりFⅧが過剰に上昇し、理論的には血栓リスクを高める可能性があります。一方、遺伝子組換えVWF製剤は純粋なVWFのみを含むため、内在性FⅧの安定化により生理的にFⅧが上昇します。

臨床検査室では、VWFとFⅧの乖離パターンを注意深く評価することが診断の鍵となります。両者の比率が大きく乖離している場合、単なる1型VWDではなく、2N型VWDや後天性von Willebrand症候群などの特殊な病態を疑う必要があります。

VWFと凝固第Ⅷ因子の結合機構と臨床的意義(日本血栓止血学会誌)