オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル配合剤の基本
12週間の治療費が450万円を超えていた
オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル配合剤の開発と承認
オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル配合剤は、商品名ヴィキラックス配合錠として2015年9月に日本で承認されたC型慢性肝炎治療薬です。本剤はセログループ1(ジェノタイプ1型)のC型慢性肝炎またはC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善を効能・効果としていました。インターフェロンを使用しない経口のみの治療法として、C型肝炎治療に大きな変革をもたらした薬剤の一つです。
1錠あたりの薬価は26,801.20円として収載され、標準的な12週間の治療全体では約450万円という高額な治療費となりました。
つまり約3か月分の薬代が新車1台分に相当します。
ただし、実際の患者負担は肝炎治療特別促進事業による医療費助成制度の対象となっており、患者の世帯所得に応じて月額1万円または2万円に軽減されていました。この助成制度により、高額な治療でも患者が経済的負担を気にせず治療を受けられる環境が整備されていたのです。
本剤は2019年3月に諸般の事情により製造販売中止となり、現在は流通していません。販売中止の背景には、より安全性と利便性に優れた後発のDAA治療薬の登場があったと考えられます。
オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル配合剤の作用機序と構成成分
本剤は3つの有効成分を配合した合剤です。各成分の役割を理解することで、なぜ3剤配合が必要だったのかが明確になります。
オムビタスビルは、C型肝炎ウイルス(HCV)の複製に必須の非構造蛋白5A(NS5A)を阻害する薬剤です。NS5Aはウイルスの遺伝子複製や蛋白質の会合に不可欠な働きをしており、この機能を阻害することでウイルスの増殖を抑制します。NS5A阻害薬は耐性変異が生じにくいという特徴を持っていました。
パリタプレビルは、HCVの複製にかかわるNS3-4Aプロテアーゼという酵素を阻害する薬剤です。ウイルス遺伝子にコードされる複合蛋白質のプロセシングに必須の酵素を阻害することで、ウイルスが完成型になれず感染力を失います。このような作用機序から「HCV NS3-4Aプロテアーゼ阻害薬」と呼ばれています。
リトナビルは抗ウイルス効果を持つ成分ではなく、薬物動態学的ブースターとして配合されています。どういうことでしょうか?リトナビルは代謝酵素CYP3A4を強力に阻害することで、パリタプレビルの血中濃度を高める働きをします。つまりパリタプレビルの分解を遅らせ、血中に長く留まらせることで効果を増強させるのです。この作用により、パリタプレビルの投与量を減らしながらも十分な治療効果が得られました。
3つの成分が異なる機序でウイルスに作用するため、耐性ウイルスの出現を抑制しながら高い抗ウイルス効果を発揮できる設計になっていました。
これが基本です。
オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル配合剤の治療効果とSVR率
本剤の治療効果は国内外の臨床試験で検証されており、ジェノタイプ1型のC型慢性肝炎に対して高いウイルス学的著効(SVR)率を示しました。SVRとは治療終了後12週間または24週間後にHCV-RNAが陰性のまま維持されている状態で、事実上のC型肝炎治癒を意味します。
日本国内の第3相臨床試験では、初回治療例に対するSVR12達成率は95.2%に達しました。この数字は約20人に19人がウイルス排除に成功したことを意味します。従来のインターフェロン治療では初回治療例でも70~80%程度のSVR率だったことと比較すると、画期的な改善でした。
興味深いことに、pegIFN/RBV前治療に対して無反応だった既治療例でも高いSVR率を達成しています。インターフェロン治療で効果が得られなかった難治例にも有効性を示した点は、臨床現場で大きな意義がありました。
治療期間は12週間と短期間であり、従来のインターフェロン治療の24~48週間と比較して患者の負担が大幅に軽減されました。1日1回2錠の経口投与という簡便な投与方法も、アドヒアランス向上に寄与していました。
ただし、リバビリンとの併用が必要な場合もあり、その場合は貧血などの副作用に注意が必要でした。ジェノタイプ2型に対しては本剤とリバビリンの16週間併用療法が行われ、初回治療例で約94%のSVR率が報告されています。
オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル配合剤の副作用と安全性
承認直後の2015年11月26日、厚生労働省は本剤の添付文書改訂を指示しました。重大な副作用として肝不全が追記されたのです。海外症例が集積し、米国添付文書が改訂されたことを受けた措置でした。
肝不全の特徴は、肝酵素上昇の有無にかかわらず血中ビリルビン値が著しく上昇し、腹水や肝性脳症を伴う点です。C型肝炎の治療薬で肝不全が起こるという事態は、医療従事者にとって予想外の事態でした。患者の状態を十分に観察し、早期発見・早期対応が求められました。
主な副作用として報告されていたのは末梢性浮腫(4.1%)、頭痛(3.3%)、悪心(2.8%)です。国内臨床試験では約16%の症例で副作用が認められ、インターフェロン治療と比較すれば軽微ではあるものの、一定の注意が必要でした。
本剤は中等度以上(Child-Pugh分類B又はC)の肝機能障害のある患者には禁忌とされていました。肝硬変の進行した患者では使用できないため、適応判断が重要でした。つまり肝機能が一定以上保たれている患者にのみ使用可能だったということですね。
ビリルビン値上昇は一過性のことが多いとされていましたが、肝不全の徴候がないか注意深く経過観察する必要がありました。定期的な肝機能検査と臨床症状の確認が必須です。
オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル配合剤の併用禁忌と薬物相互作用
本剤で特に注意すべきなのが、エチニルエストラジオール含有製剤との併用禁忌です。避妊薬や月経困難症治療薬として広く使用されているピルやホルモン剤が該当します。
海外臨床試験では、エチニルエストラジオール含有経口避妊薬を併用した患者においてALT(GPT)上昇が高頻度に認められました。この肝機能障害のリスクから、本剤投与中および投与終了後2週間はエチニルエストラジオール含有製剤の使用が禁止されていました。女性患者に対しては、治療開始前に必ず使用中の薬剤を確認し、該当する場合は代替避妊法への変更が必要でした。
リトナビルがCYP3A4を強力に阻害するため、CYP3A4で代謝される多くの薬剤との相互作用がありました。具体的にはカルバマゼピン、フェニトイン、リファンピシンなどの代謝酵素誘導薬との併用で本剤の血中濃度が低下し、効果が減弱する可能性がありました。
逆に、本剤がCYP3A4で代謝される他の薬剤の血中濃度を上昇させるリスクもあります。カルシウム拮抗薬(アムロジピン、ニフェジピンなど)との併用では血圧低下や浮腫の副作用が増強される可能性があるため、血圧の薬を服用している患者では投与量調整や綿密なモニタリングが必要でした。
スタチン系脂質異常症治療薬の一部も併用禁忌または併用注意となっていました。アトルバスタチンとの併用は禁忌、シンバスタチン、ロバスタチンも血中濃度上昇により横紋筋融解症のリスクが高まるため避けるべきとされていました。脂質異常症で治療中の患者には、プラバスタチンなど相互作用の少ないスタチンへの切り替えが推奨されました。
多剤併用が多い高齢患者や基礎疾患を持つ患者では、治療開始前の薬剤チェックが極めて重要です。相互作用のリスクを事前に評価し、必要に応じて併用薬の変更や休薬を検討することで、安全な治療が可能になります。患者のお薬手帳を必ず確認し、市販薬やサプリメントも含めて聴取することが肝心です。