漢方性下剤の種類と選び方|安全な使用法と副作用

漢方性下剤の基本と使い分け

大黄甘草湯を毎日処方すると腸は機能低下します

この記事の3つのポイント
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大黄含有漢方は長期連用で腸管神経叢を障害

漢方性下剤の多くに含まれる大黄は、長期使用により腸管の神経叢や筋層が機能低下を起こし、下剤依存や便秘悪化を招きます

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甘草による偽アルドステロン症のリスク

甘草含有漢方薬は低カリウム血症や血圧上昇を引き起こす可能性があり、高齢者や併用薬のある患者では特に注意が必要です

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便秘タイプ別の漢方選択が重要

弛緩性便秘、痙攣性便秘、直腸性便秘など便秘のタイプに応じて麻子仁丸、潤腸湯、大黄甘草湯などを使い分ける必要があります

漢方性下剤に含まれる主要生薬の作用機序

 

漢方性下剤の中心となるのは大黄(ダイオウ)という生薬です。大黄はセンノシド類を含むアントラキノン系の成分で、腸内細菌によって分解されることで大腸の蠕動運動を亢進させます。この作用機序は西洋薬のセンノシド製剤とほぼ同じです。

大黄の作用は明確ですね。

具体的には、センノシドが腸内細菌によってレインアントロンに変換され、これが大腸の粘膜下神経叢(アウエルバッハ神経叢)を刺激することで蠕動運動が促進されます。同時に、腸管における水分や電解質の吸収を抑制する作用もあるため、便を軟化させて排便を促します。

もう一つの重要な生薬が甘草(カンゾウ)です。甘草は多くの漢方薬に配合されており、主成分のグリチルリチン酸には抗炎症作用や鎮痛作用があります。便秘薬としては大黄の刺激作用を緩和し、腹痛を軽減する目的で配合されています。大黄甘草湯は、この2つの生薬のみで構成されるシンプルな処方です。

麻子仁(マシニン)も重要な生薬の一つです。麻子仁は麻の実から得られる生薬で、腸管内に油分を供給して便の滑りを良くする作用があります。大黄のような強い刺激作用はないため、より穏やかに便秘を改善することができます。

麻子仁丸潤腸湯に配合されています。

芒硝(ボウショウ)は含水硫酸ナトリウムで、塩類下剤としての作用を持ちます。腸管内に水分を引き込むことで便を軟化させ、同時に腸管を刺激して蠕動運動を促進します。桃核承気湯や防風通聖散に含まれており、食塩制限がある患者では注意が必要となります。

これらの生薬の組み合わせによって、漢方性下剤は様々な便秘タイプに対応することができます。ただし、すべての漢方性下剤が「穏やか」というわけではなく、大黄や芒硝を多く含む処方は西洋薬と同等かそれ以上の作用を持つことを理解しておく必要があります。

ツムラの漢方ビュー|便秘の悩み別漢方解説では、便秘のタイプ別に推奨される漢方薬の詳細が解説されています

漢方性下剤の種類別特徴と臨床適応

便秘治療に用いられる漢方薬は、含まれる生薬の種類や量によって作用の強さが大きく異なります。医療従事者として患者の状態に応じた適切な選択が求められます。

大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)は、便秘治療で最もよく用いられる漢方薬です。大黄と甘草のみのシンプルな構成で、比較的速効性があり8~12時間程度で効果が現れます。体力中等度以上の患者の慢性便秘に適していますが、作用が強いため高齢者では注意が必要です。

麻子仁丸(マシニンガン)は、大黄の含有量が少なく、麻子仁や杏仁などの潤滑作用を持つ生薬を含む処方です。このため腹痛が起こりにくく、コロコロした硬い便が特徴の便秘に適しています。高齢者の便秘に対して慢性便秘症診療ガイドライン2017でも推奨されており、安全性が高い選択肢となります。

安全性が高いのが特徴です。

潤腸湯(ジュンチョウトウ)は、麻子仁丸に地黄や当帰などの補血作用のある生薬を加えた処方です。便が硬く、皮膚が乾燥しやすい体質の患者に適しています。麻子仁丸と同様に甘草を含まないため、偽アルドステロン症のリスクが低いという利点があります。効果は穏やかですが、長期使用に向いています。

桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)は、大黄と芒硝の両方を含む最強クラスの漢方性下剤です。体力がある実証タイプの患者で、便秘に加えてのぼせや月経異常がある場合に用いられます。作用が強いため、虚弱な患者や高齢者には不向きです。

防風通聖散(ボウフウツウショウサン)は、18種類の生薬を含む複合処方で、肥満症の改善を目的に処方されることが多い漢方薬です。大黄と芒硝を含むため便通改善作用もありますが、ダイエット目的で長期使用される中で便秘薬としての作用に気づかないケースがあります。実は下剤として作用していることを患者に説明する必要があります。

大建中湯(ダイケンチュウトウ)は、大黄を含まない漢方性下剤です。腸管の蠕動運動を調整する作用があり、痙攣性便秘や術後イレウスの予防に用いられます。刺激性がないため、大腸メラノーシスのリスクはありません。

処方選択においては、患者の体力(虚実)、便の性状、随伴症状を総合的に評価することが重要です。実証で体力がある患者には大黄甘草湯や桃核承気湯、虚証で体力がない患者には麻子仁丸や潤腸湯を選択するのが基本となります。

クラシエの漢・方・優・美|便秘の漢方治療では、医療関係者向けに便秘の病態分類と漢方薬の選択基準が詳しく解説されています

漢方性下剤の長期使用リスクと大腸メラノーシス

漢方薬だから安全という認識は危険です。特に大黄を含む漢方性下剤の長期連用には、西洋薬と同様の重大なリスクが存在します。

最も注視すべきは大腸メラノーシス(大腸黒皮症)です。これはアントラキノン系下剤の長期使用により、大腸粘膜にリポフスチンという色素が沈着して黒褐色に変色する状態です。大黄、センナ、アロエなどに含まれるアントラキノン系成分が原因となります。

大腸が黒くなるのです。

大腸内視鏡検査で発見されることが多く、特に上行結腸から横行結腸にかけて顕著に認められます。メラノーシス自体は可逆的で、下剤の使用を中止すれば通常6~12ヶ月で色素沈着は消失します。

しかし問題は色素沈着だけではありません。

真の問題は腸管の機能低下です。長期連用により腸管の筋層間神経叢(マイスナー神経叢、アウエルバッハ神経叢)が障害されることが報告されています。神経細胞の変性や減少が起こり、腸管の協調的な蠕動運動が障害されます。その結果、下剤がないと排便できない「下剤依存」状態に陥ります。

耐性の問題も深刻です。長期使用により同じ量では効果が得られなくなり、服用量を増やさざるを得なくなります。これは薬理学的耐性と呼ばれる現象で、腸管の受容体レベルでの変化が関与していると考えられています。増量のサイクルに入ると、便秘はかえって悪化していきます。

電解質異常のリスクも無視できません。大黄の長期使用により、大腸での水分と電解質の吸収が障害されます。特に低カリウム血症が問題となり、筋力低下、不整脈、腎機能障害などを引き起こす可能性があります。高齢者や利尿薬を併用している患者では、特にリスクが高まります。

研究データによれば、アントラキノン系下剤を3ヶ月以上連続使用すると大腸メラノーシスの発生率が有意に上昇します。1年以上の使用では50%以上の患者でメラノーシスが認められるという報告もあります。医療従事者として、漫然とした長期処方は避けるべきです。

代替として、浸透圧性下剤(酸化マグネシウム)や上皮機能変容薬(ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバット)への切り替えを検討する必要があります。これらは腸管神経への直接的な刺激がないため、長期使用でも依存性や耐性が生じにくいとされています。

おおの内科・内視鏡クリニック|慢性便秘症の治療と大腸メラノーシスでは、内視鏡画像とともに大腸メラノーシスの実態が詳しく解説されています

漢方性下剤における甘草の副作用と偽アルドステロン症

甘草を含む漢方薬の処方では、偽アルドステロン症という重大な副作用に注意が必要です。これは医療従事者が見落としやすいリスクの一つです。

甘草の主成分であるグリチルリチン酸は、11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素2型(11β-HSD2)を阻害します。この酵素はコルチゾールをコルチゾンに変換する働きを持ちますが、阻害されるとコルチゾールが増加します。増加したコルチゾールが腎臓の遠位尿細管にある鉱質コルチコイド受容体に作用し、ナトリウムの再吸収とカリウムの排泄を促進します。

つまり低カリウム血症が生じます。

臨床症状としては、低カリウム血症(3.5 mEq/L以下)、高血圧、浮腫、体重増加などが現れます。低カリウム血症が高度になると、四肢の脱力感、筋力低下、不整脈、横紋筋融解症などの重篤な状態に進行する可能性があります。特に高齢者では症状の進行が速いことがあります。

大黄甘草湯に含まれる甘草は1日量として1.5~2gですが、これでも偽アルドステロン症のリスクはあります。日本生薬製剤協会のガイドラインでは、甘草として2.5g/日以上(グリチルリチン酸として125mg/日以上)で副作用発現率が上昇するとされていますが、個人差が大きく少量でも発症することがあります。

リスク因子として重要なのは、複数の甘草含有製剤の併用です。例えば、大黄甘草湯に加えて芍薬甘草湯(筋肉痛に使用)を併用すると、甘草の総量が増加します。漢方薬同士だけでなく、グリチルリチン製剤(強力ミノファーゲンC、グリチロン錠など)や甘草エキスを含む胃腸薬との併用も注意が必要です。

他の危険因子には、高齢(65歳以上)、女性、低カリウム食、利尿薬の併用、腎機能低下などがあります。ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬はカリウム排泄を促進するため、甘草との併用で低カリウム血症のリスクが相乗的に高まります。

モニタリングとしては、定期的な血清カリウム値の測定が推奨されます。特に長期使用患者では月1回程度の検査が望ましいです。また、脱力感や筋力低下などの自覚症状の有無を問診で確認することも重要です。

甘草を含まない便秘用漢方薬としては、麻子仁丸や潤腸湯があります。偽アルドステロン症のリスクが高い患者では、これらの処方を優先的に選択することが賢明です。あるいは、大黄を含まない大建中湯への変更も検討できます。

ツムラの医療用漢方製剤|偽アルドステロン症の資料では、発症機序とモニタリング方法について詳細が記載されています

漢方性下剤使用における医療従事者の役割と患者指導

医療従事者として、漢方性下剤の適正使用を推進するためには、患者への丁寧な説明と継続的なモニタリングが不可欠です。

まず重要なのは、漢方薬も「薬」であり副作用があることを患者に理解してもらうことです。「自然由来だから安全」という誤解を持つ患者は多く、この認識を改める必要があります。特に大黄含有漢方薬については、長期連用のリスクを初回処方時に説明しておくべきです。

具体的な服用指導では、以下の点を伝えます。

まず、服用タイミングです。

大黄含有の漢方性下剤は就寝前に服用すると、翌朝に自然な排便が得られることが多いです。効果発現まで8~12時間かかることを説明し、即効性を期待して過剰服用しないよう注意します。

効果が出るまで待つことが大切です。

用量調整の方法も指導します。初回は最小量から開始し、効果を見ながら増減することを原則とします。大黄甘草湯であれば、1包を半分に割って服用することも可能です。下痢や腹痛が強い場合は減量または休薬するよう指導します。

長期使用の回避については、明確な期限を設定することが有効です。「3ヶ月を目安に」「週に3回以下の使用に留める」など、具体的な数字を示すことで患者の理解が深まります。連用により効果が減弱してきた場合は、増量ではなく他の治療法への切り替えを検討する旨を事前に伝えておきます。

生活習慣の改善指導も併せて行います。食物繊維の摂取、水分補給、適度な運動、規則的な排便習慣の確立など、薬に頼らない便秘対策を提案します。「便秘日誌」をつけてもらい、排便パターンや食事内容を記録することで、便秘の原因が明確になることがあります。

定期的な評価も重要です。処方後1~2週間で効果と副作用を確認し、必要に応じて処方変更を行います。長期使用患者では、3~6ヶ月ごとに血清カリウム値などの血液検査を実施することが推奨されます。

他剤との相互作用チェックも忘れてはいけません。お薬手帳を活用し、甘草含有製剤の重複投与や、利尿薬などリスクを高める薬剤の併用がないか確認します。市販の便秘茶やサプリメントにも大黄やセンナが含まれていることがあるため、これらの使用状況も聴取します。

特に注意が必要なケースとして、妊婦・授乳婦があります。大黄は子宮収縮作用があり流早産のリスクがあるため、原則として使用を避けます。授乳中の場合、母乳中に移行して乳児が下痢を起こす可能性があるため、使用する場合は授乳を一時中止するか、代替薬への変更を検討します。

高齢者では、腸管機能の低下や併存疾患、多剤併用などのリスクが高いため、より慎重な管理が求められます。麻子仁丸など比較的作用が穏やかな処方を選択し、少量から開始することが原則です。脱水や電解質異常のリスクも高いため、定期的なモニタリングが不可欠です。

医療従事者自身も常に最新の情報をアップデートする姿勢が必要です。慢性便秘症診療ガイドラインや各種学会の推奨を参照し、エビデンスに基づいた治療を提供することが求められます。

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