伝達麻酔薬歯科での適応と選択
伝達麻酔の吸引テストを省略すると血管内注入で中毒症状が出ます。
伝達麻酔薬の基本的な作用機序と効果範囲
伝達麻酔薬は神経幹に直接作用することで、広範囲の麻酔効果を得る方法です。浸潤麻酔が歯や歯茎の近くに麻酔薬を注射して骨に薬をしみこませるのに対し、伝達麻酔は神経が枝分かれする前の大元の部分に麻酔薬を注入します。
この違いにより、伝達麻酔では下顎の半側全体、舌、下唇、オトガイ部の皮膚まで広範囲に麻酔効果が及びます。特に下顎の奥歯は骨が厚く緻密なため、浸潤麻酔では麻酔薬が浸透しにくい傾向があります。下顎骨の骨密度は上顎と比較して約2~3倍高いとされており、これが麻酔効果に影響を与える要因です。
神経伝達をブロックする仕組みは、局所麻酔薬が神経細胞膜のナトリウムチャネルを遮断することによります。これにより痛みの信号が脳に伝わらなくなり、治療中の不快感が軽減されます。
つまり麻酔効果の範囲が広いということです。
伝達麻酔の効果発現には5~10分程度を要します。浸潤麻酔が2~5分で効果が現れるのに比べて時間がかかりますが、効果の持続時間は4~6時間と長く、個人差によっては半日近く持続することもあります。治療計画を立てる際には、この持続時間を考慮に入れる必要があります。
日本歯科医師会による歯科麻酔の詳細解説(麻酔法の種類と適応について)
伝達麻酔薬の種類とキシロカインやオーラ注の使い分け
日本で使用されている主な歯科用局所麻酔薬は4製品あります。使用頻度順に、キシロカイン、オーラ注、シタネスト、スキャンドネストです。これらの製品は麻酔薬と血管収縮薬の2種類の成分を含んでいます。
キシロカインは2%リドカイン塩酸塩にアドレナリン(エピネフリン)を1:80,000の濃度で含有しています。カートリッジの容量は1.8mLで、浸潤麻酔または伝達麻酔に通常成人0.3~1.8mLを使用します。キシロカインは最もポピュラーな麻酔薬として広く使用されていますが、防腐剤としてメチルパラベンが含まれているため、化粧品アレルギーのある患者では注意が必要です。
オーラ注はキシロカインと同等の成分構成ですが、防腐剤が含まれていない点が特徴です。アレルギーリスクの高い患者にも使いやすい製品として評価されています。カートリッジ容量は1.0mLと1.8mLの2種類があり、使用量の調整がしやすい設計になっています。
シタネスト(プロピトカイン塩酸塩)はアドレナリンではなくフェリプレシンという血管収縮薬を含んでいます。フェリプレシンは血圧への影響が少ないため、高血圧患者や心疾患のある患者に選択されることがあります。ただし麻酔効果はリドカイン製剤よりもやや弱く、持続時間も短い傾向があります。
効果が弱いというデメリットがあります。
スキャンドネスト(メピバカイン塩酸塩)は血管収縮薬を含まない製品です。妊娠中の患者や、血管収縮薬の使用が望ましくない症例で選択されます。血管収縮薬が入っていないため、麻酔の持続時間は他の製品と比較して短くなります。使用する際は、この特性を理解した上で治療時間を考慮する必要があります。
歯科用局所麻酔薬の使い分けに関する詳細情報(各製剤の特徴と臨床での選択基準)
伝達麻酔薬の下顎孔伝達麻酔における手技と注意点
下顎孔伝達麻酔は歯科における伝達麻酔の代表的な手技です。下歯槽神経が下顎骨に入る下顎孔付近に麻酔薬を注入することで、下顎の奥歯から前歯まで、さらに舌神経も同時に麻痺させることができます。
刺入点は咬合平面の約1cm上方で、翼突下顎ヒダと内斜線の間を選択します。対側の犬歯または第一小臼歯方向から約2cm刺入し、下顎孔の手前で吸引テストを実施します。吸引テストは血管内注入を防ぐための必須操作で、これを怠ると麻酔薬が血管内に入って全身に影響を与えるリスクがあります。
手技には三進法、直達法、近位法などの方法があります。三進法や直達法では長くて太い注射針(27ゲージ、30mm)を使用しますが、近位法では短くて細い注射針を使用します。27ゲージは外径約0.4mmで伝達麻酔に適した太さですが、患者によっては刺入時の痛みが問題になることがあります。
それが課題です。
神経損傷のリスクを最小限にするには、慎重な刺入と適切な深さの確認が重要です。神経の近くに注射する際、誤って神経に刺してしまうと神経麻痺が起こる可能性があります。また大きな血管に麻酔液を注入すると、血中濃度が急激に上昇して局所麻酔中毒のリスクが高まります。
麻酔効果の発現は舌神経で最も早く、注射後1~2分で半側の舌の知覚麻痺が生じます。その後5分程度で下唇とオトガイ皮膚の鈍麻、さらに数分後に知覚麻痺が現れます。この順序を確認することで、麻酔が適切に効いているかを評価できます。
伝達麻酔法のコツと手技の詳細(PDFファイル、下顎孔伝達麻酔の実践的な方法)
伝達麻酔薬における禁忌事項とアドレナリン含有製剤のリスク
歯科用局所麻酔薬には禁忌と原則禁忌の患者群が定められています。アミド型局所麻酔薬に対して過敏症の既往歴のある患者は絶対的禁忌です。アレルギー反応が生じた場合、アナフィラキシーショックに至る可能性があるためです。
アドレナリン含有製剤では、高血圧、動脈硬化、心不全、甲状腺機能亢進、糖尿病のある患者および血管攣縮の既往のある患者が原則禁忌となっています。アドレナリンは血管を収縮させて麻酔効果を高める働きがありますが、同時に血圧を上昇させ、心拍数を増加させる作用も持っています。
血圧への影響に注意が必要です。
具体的には、アドレナリンを20ng/kg/minで静脈内に持続投与すると、心拍数の増加、平均動脈圧の上昇、心拍出量の増加が観察されます。高血圧患者では収縮期血圧が180mmHg以上、拡張期血圧が110mmHg以上の場合、緊急歯科治療以外は延期することが推奨されています。
糖尿病患者では、アドレナリンがインスリンの分泌を抑制し、グルカゴンの分泌を促進するため、高血糖を招く危険性があります。HbA1cが8.0%以上でコントロール不良の患者では、アドレナリン非含有の麻酔薬を選択するか、使用量を最小限に抑える配慮が必要です。
妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与します。リドカインは動物生殖試験において胎仔への危険性は否定されていますが、大量投与では子宮血流の減少による胎児死亡の可能性が指摘されています。通常量(カートリッジ2~3本)であれば問題となることはまずありません。
三環系抗うつ薬とアドレナリン製剤を併用すると、血圧上昇のリスクが高まります。α遮断作用を有する抗精神病薬との併用では、逆に血圧低下(昇圧反転)を起こすおそれがあり、併用禁忌とされています。
処方薬の確認が重要ですね。
伝達麻酔薬の合併症と安全な術後管理のための独自視点
伝達麻酔の実施後は、麻酔効果が長時間持続するという特性を理解した上で、患者への適切な指導が必要です。麻酔が効いている間に舌や頬の内側を誤って噛んでしまう事故が報告されており、特に伝達麻酔では舌まで感覚が麻痺するため、注意喚起が重要になります。
食事のタイミングについては、麻酔が完全に切れるまで控えることを推奨します。伝達麻酔の場合、4~6時間は感覚が鈍いため、熱い飲み物で口腔内を火傷したり、食べ物を飲み込む際に誤嚥するリスクがあります。患者には具体的な時間を伝え、「麻酔が切れたかな」と感じてから食事を始めるよう指導します。
局所麻酔中毒の初期症状を見逃さないことも重要です。不安、興奮、多弁、口周囲の知覚麻痺、舌のしびれ、ふらつき、聴覚過敏、耳鳴、視覚障害、振戦などが初期症状として現れます。これらの症状が出現した場合、速やかに対処しないと痙攣や意識消失に進行する可能性があります。
血管迷走神経反射は、麻酔注射時の痛みや緊張状態によって起こる一時的な反応です。悪心や吐き気、手足の震え、しびれが生じることがあり、多くの場合、しばらく横になって休むと症状は改善します。しかし重篤な場合は血圧低下や徐脈を伴うため、バイタルサインの監視が必要です。
術後の神経麻痺が1週間以上続く場合は、神経損傷の可能性を考慮しなければなりません。下歯槽神経損傷の発生率は0.01~0.1%程度と報告されていますが、一度損傷すると回復に数ヶ月から数年を要することもあります。患者には術前に合併症のリスクについて説明し、インフォームドコンセントを得ることが医療従事者の責務です。
現場でのリスク管理として、緊急時の対応プロトコルを明確にしておくことが推奨されます。酸素投与の準備、バイタルサイン測定機器の配置、救急薬品の常備などを確認し、スタッフ全員が緊急時の役割を理解している状態を維持します。
万が一に備えた準備が大切です。
医療従事者向けの研修では、吸引テストの重要性と正しい手技の習得に重点を置くべきです。吸引テストを確実に実施することで、血管内注入による局所麻酔中毒のリスクを大幅に減少させることができます。また針の刺入角度や深さの確認、麻酔薬の注入速度など、基本的な手技の精度を高めることが、合併症の予防につながります。