ダントロレン作用機序と薬学的特性
悪性高熱症の治療に副作用頻度46.2%でも第一選択薬
ダントロレンのリアノジン受容体阻害メカニズム
ダントロレンの作用機序は、他の一般的な筋弛緩薬とは根本的に異なる特徴を持っています。通常の筋弛緩薬が神経筋接合部のアセチルコリン受容体に作用するのに対し、ダントロレンは骨格筋細胞内の筋小胞体に存在する1型リアノジン受容体(RYR1)を直接遮断する末梢性筋弛緩薬として機能します。
リアノジン受容体は筋小胞体膜上に存在するカルシウムイオン(Ca2+)放出チャネルです。横行小管(T管)から伝わった電気的興奮は、ジヒドロピリジン受容体を介してリアノジン受容体を活性化させます。この過程は「興奮収縮連関」と呼ばれ、筋収縮の基本メカニズムを構成しています。
ダントロレンはこのリアノジン受容体を遮断することで、筋小胞体からのCa2+遊離を抑制します。
つまり興奮収縮連関が基本です。
細胞質内のCa2+濃度が上昇しなければ、収縮タンパク質であるアクチンとミオシンの相互作用が起こらず、筋収縮は生じません。これがダントロレンの筋弛緩作用の本質的なメカニズムになります。
悪性高熱症の患者では、RYR1遺伝子の変異により筋小胞体からのCa2+放出速度が異常に亢進しています。どういうことでしょうか?揮発性吸入麻酔薬やスキサメトニウムなどの誘発薬剤に曝露されると、筋小胞体への取り込み速度を超えてCa2+が放出され、細胞内Ca2+濃度が制御不能なほど上昇します。ダントロレンはこの異常なCa2+放出を抑制することで、悪性高熱症の病態進行を止める唯一の特異的治療薬として機能するのです。
静脈内投与されたダントロレンは5分以内に作用を発現し、骨格筋細胞内で直接効果を示します。半減期は5~6時間程度とされており、効果の持続性も十分に確保されています。
ダントリウム静注用の詳細な薬理作用については、医薬品インタビューフォームで筋小胞体からのカルシウムイオン遊離抑制メカニズムが解説されています
ダントロレンの適応疾患と臨床的位置づけ
ダントロレンには大きく分けて3つの適応疾患があります。第一は麻酔時における悪性高熱症の治療で、これが最も重要な適応です。悪性高熱症は全身麻酔10万件あたり0.18~3.9件という極めて稀な合併症ですが、発症すると体温が15分間に0.5℃以上の速度で上昇し、40℃を超えることも珍しくありません。
発症前の1960年代には死亡率が70~80%に達していましたが、ダントロレンの導入後、特に2010年以降では死亡率が0~18.2%程度まで劇的に低下しています。ダントロレンを使用した症例では死亡率が10%以下という統計もあり、本薬剤の治療効果の高さが実証されています。
第二の適応は悪性症候群の治療です。悪性症候群は抗精神病薬などの向精神薬による副作用で、中枢神経系のドパミンD2受容体の急激な遮断が関与していると考えられています。精神神経用薬服用患者の0.07~2.2%に発症するとされています。
ダントロレンは骨格筋のCa2+遊離抑制だけでなく、中枢神経系においても細胞内Ca2+濃度上昇を抑制します。結論は神経伝達物質の遊離亢進を抑制し、ドパミン-セロトニン神経活性の不均衡を改善することで悪性症候群にも有効性を示すのです。
第三の適応は痙性麻痺や全身こむら返り病に対するカプセル剤の経口投与です。脳血管障害や脊髄損傷後の痙縮に対して、長期的な筋弛緩効果を提供します。通常は1日1回25mgから開始し、1週毎に25mgずつ増量して維持量を決定しますが、1日最高投与量は150mgまでとされています。
日本麻酔科学会の悪性高熱症管理ガイドライン2025では、ダントロレンの初期投与量や投与頻度について最新のエビデンスに基づいた推奨が記載されています
ダントロレンの投与方法と用量設定の薬学的根拠
悪性高熱症に対するダントロレンの投与方法は、2025年改定のガイドラインで重要な変更が加えられました。従来は初回量1.0mg/kgの投与が推奨されていましたが、最新のガイドラインでは「できれば2.0mg/kgを10分程度で投与することを推奨する」とされています。これは海外の文献に基づくエビデンスレベルの向上を反映したものです。
投与方法の詳細を見ていきましょう。ダントリウム静注用は1バイアルあたりダントロレン20mgを含み、これを日局注射用水60mLで溶解します。注射用水を15~40℃に温めると溶解速度が速くなり、40℃では約30秒で透明になります。
これは時間短縮に有効です。
ただし、本剤の溶解には日局注射用水以外を使用してはいけません。また混注を避け、必ず単独投与することが厳守事項です。配合変化のリスクを回避するため、できるだけ太い専用の末梢静脈路を確保し、他の薬剤との接触を避ける必要があります。
初回投与後、ダントロレンの効果は10分毎に再評価を行います。評価項目は呼気終末二酸化炭素分圧(ETCO2)の低下、深部体温の低下、筋強直の改善です。症状が改善するまで同量を繰り返し投与しますが、医薬品添付文書では最大7.0mg/kgまでとされています。
興味深いのは、欧米のガイドラインではダントロレンの効果がある場合には10mg/kgを超える投与も推奨されている点です。体重70kgの患者であれば、最大700mgを超える投与も考慮されるということになります。1バイアル20mgですから、35バイアル以上の備蓄が理論上必要になります。
悪性症候群に対しては、初回量40mgを静脈内投与し、症状改善が認められない場合には20mgずつ追加投与します。1日総投与量は200mgまでで、通常7日以内の投与とされています。静注後に継続投与が必要で経口投与が可能な場合は、1回25mgまたは50mgを1日3回、2~3週間投与することで症状の再燃を防ぎます。
ダントロレン投与時の副作用と安全管理の実践
ダントロレンの副作用発現頻度は臨床試験で46.2%(273/591例)と報告されています。意外ですね?しかし、これは長期投与を含む全適応症でのデータであり、緊急時の悪性高熱症治療における短期投与では頻度が異なります。
最も頻度の高い副作用は脱力感で23.5%、次いで倦怠感6.4%、食欲不振6.4%、ふらふら感6.9%、下痢5.1%などが報告されています。これらは筋弛緩作用の薬理学的延長として理解できる症状です。筋力低下が日常生活に影響を与える可能性があるため、外来患者では自動車運転などの注意喚起が必要になります。
重大な副作用として最も警戒すべきは肝機能障害です。黄疸や肝障害が頻度不明ながら報告されており、定期的な肝機能検査が必須です。特に1日用量200mgを超えて投与した場合、肝障害発生頻度が高くなるという報告があります。
これが200mg制限の根拠です。
また、PIE症候群(肺好酸球性浸潤症候群)という稀ですが重篤な副作用も報告されています。発熱、咳嗽、呼吸困難、胸痛、胸水貯留、好酸球増多などの症状が出現した場合は、直ちに投与を中止し適切な処置が必要です。
カルシウム拮抗薬との併用は原則禁止です。ダントロレンとカルシウム拮抗薬を併用すると、高カリウム血症や心停止を来す可能性が報告されています。悪性高熱症治療中に不整脈が生じた場合は、アミオダロンやβ遮断薬を考慮すべきで、ベラパミルなどのカルシウム拮抗薬は避けなければなりません。
禁忌事項として、閉塞性肺疾患または心疾患により著しい心肺機能低下のある患者、筋無力症状のある患者、肝疾患のある患者への投与は禁止されています。本剤の筋弛緩作用により症状が悪化する恐れがあるためです。
溶解後の溶液を保存する場合は、光を避け5℃から30℃の温度条件で保存し、6時間以内に使用することが推奨されています。
安定性の観点から長期保存は避けるべきです。
投与後24時間は症状の再燃に注意が必要です。動脈血液ガス分析、血糖、電解質、乳酸、クレアチンキナーゼ(CK)、ミオグロビン定性・定量、腎機能、肝機能、DIC診断のための血液凝固系検査を適宜実施し、患者の状態を厳密にモニタリングします。
ダントロレンの薬物動態と代謝プロセス
ダントロレンの薬物動態を理解することは、適切な投与計画を立てる上で重要です。健康成人にダントロレンナトリウム水和物25mgを静脈内投与した場合、血漿中未変化体濃度は投与15分値で約0.77μg/mLに達します。
これは迅速な血中移行を示しています。
その後、血中濃度は漸減傾向を示し、半減期は6.08時間、AUC(血中濃度-時間曲線下面積)は7.09μg・h/mLです。半減期が約6時間ということは、24時間後には血中濃度が初期値の約6%まで低下する計算になります。これが24時間以上の観察期間が推奨される理由です。
経口投与の場合、健康成人に25mgまたは50mgを単回経口投与すると、血漿中濃度は4時間後に最高値(それぞれ0.27μg/mLおよび0.60μg/mL)を示します。半減期はそれぞれ6時間および7時間で、静注とほぼ同等の消失速度です。経口投与での生物学的利用率は比較的良好といえます。
代謝は主に肝臓で行われ、水酸化により5-ヒドロキシダントロレンが生成されます。投与後24時間までに尿中に排泄される未変化体は投与量のわずか0.2%と少なく、主代謝物の5-ヒドロキシダントロレンとその抱合体で約30%が排泄されます。
つまり大部分が代謝を受けます。
この代謝プロセスから、肝機能障害患者での投与が禁忌とされる薬学的根拠が明確になります。肝機能が低下している患者では、ダントロレンの代謝が遅延し、血中濃度が過度に上昇するリスクがあります。結果として肝毒性がさらに増強される可能性があり、安全性の観点から投与を避けるべきなのです。
タンパク結合率や組織分布に関する詳細なデータは限られていますが、筋小胞体という標的組織への分布が良好であることは、臨床効果から推測できます。脂溶性と水溶性のバランスが、細胞膜透過と筋小胞体到達に適した物性を持っていると考えられます。
薬物相互作用の観点では、前述のカルシウム拮抗薬との併用禁忌以外に、中枢神経抑制薬との併用で相加的な鎮静作用が生じる可能性があります。麻酔中の使用では既に鎮静薬や麻薬が投与されているため、覚醒遅延に注意が必要です。
ダントリウム静注用の製品情報では、溶解方法や投与速度について具体的な手順が示されており、1バイアルあたり15分程度での投与が一般的とされています

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