末梢性筋弛緩薬種類と作用機序
スガマデクス投与後も残存筋弛緩が3割発生する
末梢性筋弛緩薬の作用部位による分類
末梢性筋弛緩薬は、骨格筋を弛緩させる薬物のうち、中枢神経系ではなく末梢の神経筋接合部や骨格筋細胞に直接作用するものを指します。これらの薬剤は作用部位により大きく3つのカテゴリーに分類されます。
第一のカテゴリーは神経筋接合部に作用する薬剤で、さらに非脱分極性筋弛緩薬と脱分極性筋弛緩薬に分けられます。非脱分極性筋弛緩薬には、ロクロニウム、ベクロニウム、パンクロニウムなどがあり、主に全身麻酔時の気管挿管や手術中の筋弛緩に使用されます。脱分極性筋弛緩薬の代表はスキサメトニウムで、作用発現が極めて速いため迅速導入時に選択されることがあります。
第二のカテゴリーは骨格筋細胞に直接作用する薬剤です。ダントロレンナトリウムは筋小胞体からのカルシウムイオン遊離を抑制することで筋弛緩を起こします。悪性高熱症や悪性症候群の治療に必須の薬剤です。
第三のカテゴリーはボツリヌス毒素製剤で、神経終末からのアセチルコリン放出を阻害します。眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頸、上下肢痙縮など、局所的な筋緊張亢進状態の治療に使われます。
名城大学薬学部の筋弛緩薬解説ページでは、各薬剤の作用機序が詳細に図解されており、神経筋接合部での興奮伝達の仕組みを理解する上で参考になります。
末梢性筋弛緩薬の非脱分極性と脱分極性の違い
神経筋接合部に作用する末梢性筋弛緩薬のうち、非脱分極性と脱分極性は作用機序が根本的に異なります。
つまり正反対のメカニズムですね。
非脱分極性筋弛緩薬は、神経筋接合部の終板にあるニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に結合し、アセチルコリンと競合的に拮抗することで筋弛緩を起こします。受容体を占拠するだけで脱分極は起こさないため、筋収縮は生じません。ロクロニウム、ベクロニウム、パンクロニウムなどが該当し、作用持続時間は20~60分程度です。コリンエステラーゼ阻害薬やスガマデクスなどの拮抗薬で効果を逆転できるのが特徴です。
一方、脱分極性筋弛緩薬はnAChRに結合してアセチルコリンと同様に脱分極を起こしますが、この脱分極が持続的であるため、次のインパルスが伝達されず筋弛緩に至ります。脱分極の初期には一過性の筋収縮(線維束性収縮)が観察されます。スキサメトニウムが代表的で、血漿コリンエステラーゼで速やかに分解されるため作用時間は5~10分と極めて短いです。
副作用のプロファイルも異なります。非脱分極性筋弛緩薬は過量投与や腎機能障害で作用が遷延しますが、重篤な副作用は比較的少ないです。脱分極性筋弛緩薬は高カリウム血症、悪性高熱症のトリガー、筋肉痛、眼圧・胃内圧・頭蓋内圧の上昇などのリスクがあります。熱傷患者や脊髄損傷患者では致死的な高カリウム血症を起こす可能性があるため禁忌です。
コリンエステラーゼ阻害薬の効果も正反対ですね。非脱分極性筋弛緩薬にはシナプス間隙のアセチルコリン濃度を高めることで拮抗作用を示しますが、脱分極性筋弛緩薬には分解を阻害して作用を増強してしまいます。このため脱分極性筋弛緩薬には特異的な拮抗薬が存在せず、人工呼吸管理で対応するしかありません。
末梢性筋弛緩薬ロクロニウムとスキサメトニウムの使い分け
全身麻酔の迅速導入時、ロクロニウムとスキサメトニウムのどちらを選択するかは麻酔科医の重要な判断です。両者には作用発現時間、作用持続時間、副作用プロファイルに明確な違いがあります。
スキサメトニウムは1.0~1.5mg/kg投与で30~60秒で作用が発現し、約5分持続します。作用発現が極めて速いため、誤嚥リスクが高い緊急手術や満腹状態での迅速導入に適しています。しかし高カリウム血症、悪性高熱症のトリガー、術後筋肉痛、眼圧上昇などの副作用があり、緑内障患者には禁忌です。血漿コリンエステラーゼで分解されるため、遺伝的に酵素活性が低い患者や肝機能障害患者では作用が遷延する可能性があります。
ロクロニウムは0.6~0.9mg/kg投与で約90秒で作用が発現し、30~50分持続します。スキサメトニウムに比べると作用発現はやや遅いですが、高用量(1.2mg/kg)を使用すれば60秒程度まで短縮できます。スガマデクスという特異的拮抗薬が使用できるため、万が一挿管困難に陥った場合でも速やかに筋弛緩を解除できる安全性があります。
使い分けの原則としては、誤嚥リスクが極めて高く最速の作用発現が必要な場合はスキサメトニウム、それ以外の多くの症例ではロクロニウムが選択される傾向にあります。ロクロニウム+スガマデクスの組み合わせは、スキサメトニウムと同等の迅速な筋弛緩と確実な拮抗を可能にするため、現在の麻酔管理の主流となっています。
ただし作用時間の違いに注意が必要です。スキサメトニウムは自然回復が9分程度と短いため、マスク換気が可能であれば短時間で筋弛緩から回復します。ロクロニウムは30~50分持続するため、適切な呼吸管理と拮抗薬の準備が必須ですね。
日本精神神経学会の修正型電気けいれん療法ガイドラインでは、ロクロニウムとスキサメトニウムの使い分けについて詳細な比較が記載されています。
末梢性筋弛緩薬ダントロレンの特殊な作用機序
ダントロレンナトリウムは他の末梢性筋弛緩薬とは全く異なる作用機序を持つ薬剤です。神経筋接合部には作用せず、骨格筋細胞内の筋小胞体に直接作用します。
具体的には、筋小胞体のリアノジン受容体(RYR1)を遮断することで、筋小胞体からのカルシウムイオン(Ca²⁺)遊離を抑制します。骨格筋の収縮には筋小胞体から放出されるCa²⁺が必須であるため、この遊離を抑制することで筋弛緩が起こります。興奮-収縮連関の過程を遮断するということですね。
重要なのは、神経刺激による筋収縮と骨格筋への直接刺激による筋収縮の両方を抑制できる点です。これは他の末梢性筋弛緩薬にはない特徴で、神経筋接合部ではなく筋細胞レベルで作用するためです。
ダントロレンの主な適応は悪性高熱症と悪性症候群です。悪性高熱症は揮発性吸入麻酔薬やスキサメトニウムによって誘発される常染色体優性遺伝の疾患で、筋小胞体からの異常なCa²⁺遊離により急激な体温上昇、筋硬直、代謝性アシドーシス、高カリウム血症などが生じます。死亡率は適切な治療なしでは70%以上に達するため、ダントロレンの投与は生命を救う緊急処置となります。
投与方法は、初回量1mg/kgを静脈内投与し、症状改善が認められない場合は1mg/kgずつ追加投与します。投与総量は通常7mg/kgまでですが、悪性高熱症では10mg/kgまで使用されることもあります。体外冷却や対症療法と併用しながら、筋硬直が改善するまで投与を継続します。
副作用として、末梢性の筋弛緩作用による脱力感、筋力低下、呼吸筋の弱化があります。長期投与では肝機能障害のリスクがあるため、定期的な肝機能検査が必要です。
脳卒中後の痙縮にも使用されますが、中枢性筋弛緩薬に比べて効果発現が遅く、副作用も強いため第一選択ではありません。しかし痙縮が重度で他の治療に抵抗性の場合には選択肢となります。
末梢性筋弛緩薬ボツリヌス毒素の臨床応用
A型ボツリヌス毒素製剤(商品名:ボトックス)は、クロストリジウム・ボツリヌム菌が産生する神経毒素を医療用に精製した薬剤です。末梢の運動神経終末に作用し、神経伝達物質アセチルコリンの放出を阻害することで筋弛緩作用を発揮します。
作用機序は極めて特異的です。ボツリヌス毒素は神経終末に取り込まれた後、シナプス小胞とプレシナプス膜の融合に必要なSNAREタンパク質を分解します。これによりアセチルコリンを含むシナプス小胞が神経終末から放出されなくなり、神経筋伝達が遮断されます。作用は可逆的で、数ヵ月後には軸索側部からの神経枝の新生により神経筋伝達が回復します。
現在、日本で保険適応となっている疾患は多岐にわたります。眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、痙性斜頸、上肢痙縮、下肢痙縮、小児脳性麻痺による下肢痙縮、斜視、痙攣性発声障害、重度の原発性腋窩多汗症、慢性片頭痛、過活動膀胱などです。局所的な筋緊張亢進や自律神経症状に対して、ピンポイントで効果を発揮するのが特徴ですね。
投与方法は疾患により異なります。眼瞼痙攣では眼輪筋に数カ所注射し、総投与量は通常10~30単位程度です。痙性斜頸では罹患筋に応じて100~300単位を複数の筋に分けて注射します。上肢痙縮や下肢痙縮では、肘屈筋群、手指屈筋群、下腿三頭筋などの痙縮筋に200~400単位を分割投与します。
効果発現は投与後2~3日から始まり、1~2週間でピークに達します。効果持続期間は通常3~4ヵ月で、効果減弱後は再投与が必要です。反復投与により抗体産生のリスクがありますが、最新の製剤では抗体産生率は低く抑えられています。
副作用として、注射部位の筋力低下、疼痛、内出血があります。眼瞼痙攣では眼瞼下垂、複視、痙性斜頸では嚥下困難、構音障害が生じることがあります。
これらは一過性で、通常数週間で回復します。
脳卒中後の痙縮に対しては、リハビリテーションと併用することで、可動域の改善、ADLの向上、介護負担の軽減が期待できます。ボツリヌス毒素注射後の2~4週間が筋緊張低下のピーク期であり、この時期に集中的なリハビリテーションを行うことで治療効果が最大化されます。
GSKプロのボトックス作用機序解説では、神経筋接合部でのアセチルコリン放出阻害の詳細なメカニズムが図解されており、理解を深める上で有用です。
末梢性筋弛緩薬の残存筋弛緩とモニタリング
末梢性筋弛緩薬使用時の最大のリスクは残存筋弛緩(RNMB: residual neuromuscular blockade)です。これは術後に筋弛緩作用が不十分に回復した状態で、呼吸抑制、誤嚥、低酸素血症、気道閉塞などの重篤な合併症を引き起こします。
残存筋弛緩の発生率は、従来の抗コリンエステラーゼ薬(ネオスチグミン)使用時で25~60%と高率でした。スガマデクス導入後は1~4%まで減少しましたが、それでもゼロではありません。冒頭の「驚きの一文」で示したように、適切なモニタリングなしでは予期せぬ残存筋弛緩が発生するリスクがあります。
筋弛緩モニタリングには定性的(主観的)方法と定量的(客観的)方法があります。定性的方法は末梢神経を電気刺激し、筋収縮の程度を視診や触診で評価する方法ですが、評価者の経験に依存し、残存筋弛緩を見逃すリスクが高いです。
定量的方法では、TOF(train-of-four)刺激を用いて筋収縮を数値化します。尺骨神経を2Hz、4回連続刺激し、4回目の収縮反応と1回目の収縮反応の比(TOF比)を測定します。TOF比1.0(100%)以上が完全回復の基準とされ、0.9未満では呼吸機能や嚥下機能が障害されます。
現在使用される定量的モニターには、加速度感知型(TOF-Watch®など)、筋電図型、圧力型(TOF-Cuff®)があります。加速度感知型は母指内転筋の動きを加速度センサーで測定し、セットアップが比較的簡単です。TOF-Cuff®は血圧カフ型のセンサーで、体位に影響されず測定できる利点があります。
スガマデクス投与前には筋弛緩の深度を評価し、適切な投与量を決定します。浅い筋弛緩(TOFカウント2以上)では2mg/kg、深い筋弛緩(PTCカウント1~2)では4mg/kg、極めて深い筋弛緩(PTC 0)では16mg/kgが推奨用量です。過少投与は残存筋弛緩や再クラーレ化(一度回復した筋弛緩が再び出現する現象)のリスクとなります。
抜管前には必ずTOF比1.0以上を確認します。臨床的な指標(頭部挙上5秒保持、舌圧子咬合力など)だけでは不十分で、客観的なモニタリングが必須ですね。TOF比0.9でも上気道の筋力低下や嚥下反射の減弱が残存するため、1.0以上の確認が安全管理の要です。
残存筋弛緩のリスク因子として、高齢、女性、肥満、腎機能障害、低体温、電解質異常、併用薬(アミノグリコシド系抗生物質、マグネシウム製剤など)があります。これらの患者では特に慎重なモニタリングと拮抗薬の適切な使用が求められます。
日本麻酔科学会の筋弛緩モニタリングFAQでは、定量的モニタリングの必要性と具体的な方法が詳述されており、実践的な知識を得るのに役立ちます。

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