トルペリゾン塩酸塩の作用機序と適応症
エペリゾンはトルペリゾンの2倍強い筋弛緩作用を持つ
トルペリゾン塩酸塩の基本的作用機序
トルペリゾン塩酸塩は中枢神経系と末梢血管系の両方に作用する筋弛緩薬です。脊髄レベルで多シナプス反射と単シナプス反射を抑制し、骨格筋の緊張を緩和させます。この薬剤は脊髄ネコやウレタン麻酔ネコを用いた実験で、脊髄反射に対する抑制作用が明確に確認されています。
作用機序の中心となるのは、γ運動ニューロンへの影響です。筋紡錘からの感覚情報を調整することで、過剰な筋緊張を和らげる仕組みになっています。同時に、除脳固縮に対しても緩解作用を示すことが動物実験で証明されており、ガンマ系の機能亢進に基づく筋緊張異常に効果を発揮します。
血管系への作用も見逃せません。血管平滑筋に対するカルシウム拮抗作用と筋交感神経の抑制により、末梢血管の血流量を増加させます。筋緊張亢進→血流障害→発痛→筋緊張亢進という悪循環を断ち切る多面的な効果が期待できるのです。これが筋肉のコリやこわばりを緩和させる重要なメカニズムです。
トルペリゾンの通常用量は成人で1日300mgです。
これを1日3回に分けて経口投与します。
10歳から15歳の小児では1日量100~200mgを2~3回に分けて投与する設定になっています。用量設定は年齢や症状に応じて適宜調整されますが、基本的な投与パターンはシンプルです。
トルペリゾン塩酸塩の臨床適応症と効能
トルペリゾン塩酸塩は2つの主要な適応症で使用されてきました。1つ目は頸肩腕症候群、肩関節周囲炎、腰痛症といった筋緊張状態の改善です。これらの疾患では筋肉の異常な緊張が痛みやこわばりを引き起こしており、トルペリゾンの筋弛緩作用が症状緩和に貢献します。日常診療で遭遇する頻度の高い疾患群と言えるでしょう。
2つ目の適応症は痙性麻痺です。脳血管障害、痙性脊髄麻痺、頸部脊椎症、術後後遺症(脳・脊髄腫瘍を含む)、外傷後遺症(脊髄損傷、頭部外傷)、筋萎縮性側索硬化症、脳性小児麻痺、脊髄小脳変性症、脊髄血管障害、多発性硬化症、スモンなど、広範な脳及び脊髄障害に起因する痙性麻痺が対象となります。
筋緊張状態の改善では、種々の原因により誘発される症候を対象にしています。肩こり、頸部痛、頭痛、腰痛、手足のつっぱりやこわばりなど、患者さんが実際に訴える症状を改善することが目的です。血流改善作用も相まって、これらの症状が多面的に緩和されます。
痙性麻痺の治療では、リハビリテーションの導入を円滑にする役割も期待されていました。筋緊張を適度に緩和することで、患者さんの可動域を広げ、理学療法や作業療法の効果を高める狙いがあったのです。ただし、2012年の欧州医薬品庁(EMA)の評価により、脳卒中後の痙直の治療のみに使用を制限すべきとの勧告が出されました。軽症例への使用については慎重な判断が必要です。
トルペリゾンとエペリゾンの違い
トルペリゾン塩酸塩とエペリゾン塩酸塩は構造的に極めて類似した化合物です。エペリゾンはトルペリゾンの4’位のメチル基をエチル基に置換した誘導体であり、この小さな構造変化が薬理活性に大きな影響を与えています。具体的には、エペリゾン塩酸塩はトルペリゾン塩酸塩に比べて2倍以上強い筋緊張緩和作用を持つことが確認されています。
つまり2倍強いということですね。
用量の違いもこの薬理活性の差を反映しています。トルペリゾンの成人1日用量は300mgですが、エペリゾンは150mgで同等の効果が得られます。
ちょうど半分の用量設定です。
エーザイでは1965年から骨格筋の異常緊張を緩和する薬剤の開発に着手し、トルペリゾン塩酸塩(商品名ムスカルム)を開発した後、さらに探求を続けてエペリゾン塩酸塩(商品名ミオナール)の開発に成功しました。
二重盲検群間比較試験では、エペリゾン塩酸塩150mg/日とトルペリゾン塩酸塩300mg/日を4週間投与した結果が報告されています。エペリゾン塩酸塩は全般改善度、概括安全度において良好な成績を示し、トルペリゾンと同等以上の有効性が確認されました。これが臨床での有用性を裏付ける重要なデータです。
現在の臨床現場では、トルペリゾンは2014年9月に販売中止となったため、エペリゾン塩酸塩が中心的な役割を担っています。エペリゾンは効果が比較的マイルドで、副作用の眠気も軽度とされています。同じ系統の筋緊張緩和薬として、患者さんの状態に応じた選択が可能です。ただし、類似薬のトルペリゾン塩酸塩で眼の調節障害があらわれたとの報告があることから、エペリゾン使用時にも注意が必要とされています。
トルペリゾン塩酸塩の副作用と安全性
トルペリゾン塩酸塩の重大な副作用として、ショックとアナフィラキシーが報告されています。発赤、発疹、ひどい痒み(盛り上がったしこりを伴う蕁麻疹)、喘鳴、呼吸困難、嚥下困難、心拍数増加、低血圧、急速な血圧低下などの症状が発現する可能性があります。これらの症状が現れた場合には直ちに投与を中止し、適切な処置が必要です。
2012年6月、欧州医薬品庁(EMA)は「トルペリゾンは効果よりリスクが上回る」として使用制限の通知を出しました。欧州では脳卒中後の痙直の治療のみに使用を認める形となり、肩こりや腰痛症などの比較的軽症な症例への処方は推奨されなくなりました。日本においても、この評価を受けて2014年9月にムスカルムが販売中止となり、2015年4月1日以降は保険請求ができなくなっています。
中枢性筋弛緩剤や消炎鎮痛剤に対して過敏性のある患者には、特に注意が必要です。トルペリゾン塩酸塩の内服によるアナフィラキシーショックが多く報告されているためです。患者さんは過去のアレルギー歴や薬剤過敏症の有無を必ず確認し、リスクを評価したうえで慎重に判断する必要があります。
その他の副作用としては、眠気、ふらつき、脱力感、不眠、頭痛、四肢のしびれ、悪心、嘔吐、食欲不振、胃部不快感、腹痛などが報告されています。
発疹も比較的見られる副作用です。
本剤投与中に脱力感、ふらつき、眠気等が発現した場合には、減量または休薬を検討します。自動車の運転など危険を伴う機械の操作には従事させないよう注意喚起が求められます。
トルペリゾン販売中止後の代替薬選択
トルペリゾン塩酸塩(ムスカルム)が販売中止となった現在、同様の適応症に対してはエペリゾン塩酸塩(ミオナール)やチザニジン塩酸塩(テルネリン)が代替薬として選択されています。エペリゾンはトルペリゾンの誘導体であり、2倍以上の筋弛緩作用を持ちながら、副作用プロファイルは比較的マイルドです。1982年の発売以来、長年の使用実績があるため、安心して処方できるでしょう。
チザニジン塩酸塩は別系統の中枢性筋弛緩薬で、α2アドレナリン受容体作動薬として作用します。トルペリゾンやエペリゾンとは異なる作用機序を持つため、患者さんの状態や合併症に応じて使い分けができます。効果は比較的強力ですが、眠気や血圧低下などの副作用に注意が必要です。降圧剤を服用している患者さんでは特に慎重な管理が求められます。
その他の筋弛緩薬としては、バクロフェン、クロルフェネシンカルバミン酸エステル、アフロクアロンなどがあります。バクロフェンはGABA-B受容体作動薬として脊髄レベルで作用し、特に重度の痙性麻痺に対して使用されます。髄腔内投与の選択肢もあり、経口投与で効果不十分な場合の選択肢となります。
薬剤選択にあたっては、患者さんの症状の重症度、合併症、既往歴、他の服用薬との相互作用を総合的に評価します。軽度から中等度の筋緊張状態にはエペリゾンが第一選択となることが多く、より強力な筋弛緩作用が必要な場合にはチザニジンやバクロフェンを検討します。アナフィラキシーのリスクを考慮し、初回投与時には患者さんを十分に観察することが重要です。副作用が発現した場合の対応手順を事前に確認しておくと安心です。
厚生労働省のエペリゾン塩酸塩に関する公開資料では、トルペリゾンとエペリゾンの開発経緯と薬理作用の比較が詳しく記載されています。
医療用医薬品データベースKEGGでは、エペリゾン塩酸塩の最新の添付文書情報、用法用量、副作用プロファイルを確認できます。
ミオナール(エペリゾン)の医薬品インタビューフォームには、作用機序の詳細、臨床試験データ、薬物動態に関する専門的な情報が網羅されています。