成長ホルモン分泌促進薬の作用機序と適応疾患

成長ホルモン分泌促進薬の基礎知識と治療

糖尿病患者への投与は初回承認時から禁忌とされています

この記事の3つのポイント
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成長ホルモン製剤の種類と特徴

ソマトロピン製剤は毎日投与型と週1回投与型があり、患者の状態や生活スタイルに応じて選択します。IGF-1を介して骨格成長を促進する機序を持ちます。

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糖尿病患者への禁忌と副作用

成長ホルモンは抗インスリン様作用を有するため、糖尿病患者には禁忌です。耐糖能異常のある患者には慎重投与とし、定期的な血糖モニタリングが必須となります。

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適応疾患と診断基準

成長ホルモン分泌不全性低身長症、ターナー症候群、慢性腎不全など複数の適応があり、診断には2種類以上の成長ホルモン分泌刺激試験が必要です。

成長ホルモン分泌促進薬の作用機序とIGF-1の役割

成長ホルモン分泌促進薬の中心となるのは、ソマトロピン(遺伝子組換え)製剤です。この薬剤は、体内で不足している成長ホルモンを直接補充する治療法として広く使用されています。成長ホルモンが体内に投与されると、主に肝臓に作用してIGF-1(インスリン成長因子-1)と呼ばれる成長因子の産生を促進します。

どういうことでしょうか?

IGF-1は成長ホルモンの作用を実際に媒介する重要な物質です。血液中に放出されたIGF-1は、骨や軟骨の細胞に直接作用し、細胞の増殖と分化を促進することで骨格の成長をもたらします。成長ホルモン自体も骨端の軟骨細胞に直接作用する経路を持っており、IGF-1を介する間接的な作用と、成長ホルモンの直接作用の両方が組み合わさって、最終的な身長増加効果を発揮する仕組みとなっています。

成長ホルモンには成長促進作用だけでなく、代謝調節作用もあります。具体的には、タンパク質の合成を促進する同化作用を持つ一方で、糖質と脂質に対しては異化作用を示します。この代謝作用により、成長ホルモンは抗インスリン様の効果を発揮し、血糖値を上昇させる傾向があるため、糖代謝への影響を常に考慮する必要があります。

治療効果をモニタリングする際には、血清IGF-1濃度の測定が重要な指標となります。IGF-1は成長ホルモンと異なり、血中半減期が長く、日内変動が少ないという特徴があります。そのため、成長ホルモンの分泌状態や治療効果を評価する際に、より安定した指標として活用できます。

IGF-1濃度が基準です。

測定されたIGF-1値は、年齢や性別によって大きく変動するため、評価には標準偏差スコア(SDスコア)を用いて、同年齢・同性の健常者と比較する必要があります。治療中は定期的にIGF-1を測定し、過剰投与による副作用を防ぎながら、適切な用量調整を行うことが求められます。

日本小児内分泌学会による成長ホルモンの適正使用に関する詳細な見解

成長ホルモン分泌促進薬の種類と製剤特性

日本国内で使用可能な成長ホルモン製剤には、複数の種類が存在します。主な製品として、ジェノトロピン、ノルディトロピン、ヒューマトロープ、グロウジェクト、サイゼン、ソグルーヤ、エヌジェンラなどがあり、それぞれ異なる特徴を持っています。

従来の成長ホルモン製剤は、毎日1回の皮下注射が必要でした。具体的には、1週間に体重1kgあたり0.175mgを6~7回に分けて投与するという方法が一般的です。これは成長ホルモンの生理的分泌パターンに近い投与方法であり、特に夜間の成長ホルモン分泌を模倣するため、就寝前の投与が推奨されています。

2021年からは画期的な変化が起こりました。

長時間作用型の成長ホルモン製剤であるソグルーヤ(ソムアトロゴン)が日本で承認され、週1回の投与が可能となりました。この製剤は、ヒト成長ホルモンにヒト絨毛性ゴナドトロピンのβサブユニットC末端ペプチドを融合させることで、体内での半減期を大幅に延長させた設計となっています。週1回0.16mg/kgの用量で投与することで、毎日注射する製剤と同等の効果が得られるとされています。

2023年には、エヌジェンラ(ソムアトロゴン)の小児への適応が拡大され、週1回投与の選択肢がさらに広がりました。週1回投与型の製剤は、患者や家族の負担を大幅に軽減できるという大きなメリットがあります。毎日の注射を6~7年間継続することは、小児患者にとって身体的・精神的に大きな負担となるため、週1回投与による服薬アドヒアランスの向上が期待されています。

製剤の選択に際しては、患者の年齢、疾患の種類、生活環境、家族のサポート体制などを総合的に考慮する必要があります。例えば、学校生活や部活動で忙しい思春期の患者には、週1回投与型が適している場合があります。一方で、より細かい用量調整が必要な場合や、特定の適応症では毎日投与型が推奨されることもあります。

各製剤には専用の注入器(ペン型デバイス)が用意されており、在宅での自己注射を容易にする工夫がなされています。ジェノトロピンペンやノルディペンなどは、使い勝手が良く、投与量の設定も簡単にできるように設計されています。医療従事者は、患者や家族に対して、これらのデバイスの正しい使用方法を十分に指導する必要があります。

つまり製剤選択が鍵です。

日本小児内分泌学会によるヒト成長ホルモン剤の製剤特徴一覧(PDF)

成長ホルモン分泌促進薬の適応疾患と診断基準

成長ホルモン製剤の保険適用が認められている疾患は、厳密に定められています。最も代表的な適応症は、骨端線閉鎖を伴わない成長ホルモン分泌不全性低身長症です。この疾患の診断には、身長が同年齢・同性の標準値から-2.0SD以下であること、成長速度が遅いこと、そして2種類以上の成長ホルモン分泌刺激試験で十分な成長ホルモン分泌が認められないことが必要となります。

成長ホルモン分泌刺激試験には、複数の種類があります。アルギニン負荷試験、L-DOPA(レボドパ)負荷試験、クロニジン負荷試験、グルカゴン負荷試験、GHRP-2負荷試験などが実施されます。これらの試験では、それぞれの薬剤を投与した後、一定時間ごとに採血を行い、血清成長ホルモン濃度のピーク値を測定します。

診断基準が明確です。

一般的に、インスリン負荷、アルギニン負荷、L-DOPA負荷、クロニジン負荷では、成長ホルモンのピーク値が6ng/mL以下の場合に重症と判定されます。一方、GHRP-2負荷試験では、ピーク値が16ng/mL以下であることが重症の基準となっています。これらの試験を日を変えて2回以上実施し、両方で基準を満たすことが保険適用の条件となります。

その他の適応疾患として、ターナー症候群における低身長があります。ターナー症候群は性染色体異常による疾患で、女性の身長が著しく低くなる特徴があります。この場合、成長ホルモン分泌が正常であっても、成長ホルモン治療の適応となる点が特徴的です。通常、1週間に体重1kgあたり0.23mgを投与し、効果不十分な場合は0.47mgまで増量可能です。

慢性腎不全による低身長も重要な適応症です。腎機能の低下により、成長障害が生じる患者に対して成長ホルモン治療が行われます。プラダー・ウィリ症候群、軟骨無形成症(軟骨異栄養症)、SGA性低身長症(子宮内発育遅延)なども保険適用となる疾患です。

成人の適応症として、重症成人成長ホルモン分泌不全症があります。これは小児期からの成長ホルモン分泌不全が成人期まで継続している場合や、成人期に新たに発症した場合が含まれます。診断には、1種類以上の成長ホルモン分泌刺激試験で重症の基準を満たすことと、血清IGF-1値が年齢・性別基準値の-2SD以下であることが必要です。成人では、開始用量として1週間に体重1kgあたり0.021mgから開始し、臨床症状と血清IGF-1濃度を見ながら、0.084mgを上限として漸増します。

厳密な診断が不可欠です。

厚生労働省による成長ホルモン分泌不全性低身長症の診断の手引き(PDF)

成長ホルモン分泌促進薬の副作用と禁忌事項

成長ホルモン製剤の最も重要な禁忌は、糖尿病患者への投与です。成長ホルモンは抗インスリン様作用を有するため、インスリンの働きを妨げ、血糖値を上昇させる性質があります。このため、すべてのソマトロピン製剤は、初回承認時から糖尿病患者に対する投与が禁忌とされています。

2022年4月の添付文書改訂により、糖尿病に関する注意喚起がさらに強化されました。従来は糖尿病患者のみが禁忌でしたが、改訂後は耐糖能異常のある患者や糖尿病の危険因子を持つ患者(肥満、家族歴に糖尿病がある患者など)に対しても、慎重な観察が必要とされています。これらの患者では、成長ホルモン治療により糖尿病が顕在化したり悪化したりするリスクがあるためです。

どういうことなのか?

成長ホルモン治療を開始する前には、必ず血糖値やHbA1cを測定し、耐糖能の状態を確認する必要があります。治療開始後も定期的に血糖モニタリングを実施し、糖尿病の徴候が現れた場合には、直ちに投与を中止するか、糖尿病治療薬との併用を検討します。特に、プラダー・ウィリ症候群の患者は肥満や糖尿病のリスクが高いため、より厳重な管理が求められます。

悪性腫瘍のある患者も禁忌です。成長ホルモンは細胞増殖作用を有するため、腫瘍の増殖を促進する可能性があります。脳腫瘍(頭蓋咽頭腫、下垂体腺腫など)の既往がある患者では、定期的に画像診断を実施し、腫瘍の再発や増大がないことを確認しながら投与する必要があります。治療中に腫瘍の発現や再発が認められた場合には、直ちに投与を中止します。

妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与も禁忌とされています。成長ホルモンの胎児への影響に関する安全性が確立していないためです。妊娠を希望する女性患者には、事前に十分な説明を行い、妊娠が判明した時点で速やかに投与を中止する必要があります。

その他の副作用として、注射部位の発疹や疼痛、頭痛、吐き気、骨や関節の痛みなどが報告されています。これらは比較的軽度な副作用ですが、患者のQOLに影響を与える可能性があるため、症状の有無を定期的に確認することが重要です。また、まれに甲状腺機能低下症が発現することがあり、定期的な甲状腺機能検査も推奨されています。

重要な注意点として、脊柱側弯症のある患者では、成長ホルモン治療により側弯が進行する可能性があります。定期的にX線検査を実施し、側弯の進行状況をモニタリングする必要があります。また、頭蓋内圧亢進の症状(激しい頭痛、嘔吐、視覚異常など)が現れた場合には、直ちに眼底検査を含む精密検査を実施し、必要に応じて投与を中止します。

投与中止の判断が重要です。

厚生労働省によるソマトロピンの使用上の注意改訂に関する医療関係者向け情報(PDF)

成長ホルモン分泌促進薬の投与管理と患者指導

成長ホルモン治療は、在宅自己注射が認められている治療法です。しかし、在宅自己注射を開始する前には、入院または2回以上の外来・往診・訪問診療により、医師による十分な教育期間を設け、患者や家族に対して徹底した指導を行う必要があります。指導内容には、注射手技、投与量の設定方法、注射部位の選択とローテーション、デバイスの取り扱い、保管方法、副作用の初期症状と対処法などが含まれます。

注射部位は、上腕、大腿部、腹部、臀部など広範囲に設定することが推奨されています。同一部位に短期間内に繰り返し注射すると、皮下脂肪の萎縮や硬結が生じる可能性があるため、投与ごとに注射部位を順序よく移動させることが重要です。具体的には、腹部の右上→左上→右下→左下というように、計画的にローテーションする方法を指導します。

毎日投与型の製剤は、通常就寝前に投与します。これは、生理的な成長ホルモンの分泌パターンが夜間睡眠中に最も高くなることを模倣するためです。一方、週1回投与型の製剤であるソグルーヤやエヌジェンラは、曜日を決めて同じ時間帯に投与することで、投与忘れを防ぐことができます。

製剤の保管方法も重要な指導項目です。未開封の製剤は冷蔵庫(2~8℃)で保管し、凍結させないように注意します。使用開始後の製剤も基本的には冷蔵保存が推奨されますが、製剤によっては室温での保管が可能な期間が設定されているものもあります。旅行や外出時の持ち運びについても、保冷バッグを使用するなどの具体的な方法を指導する必要があります。

治療効果のモニタリングには、定期的な身長測定が欠かせません。一般的には、月1回の身長・体重測定を行い、成長曲線にプロットして成長速度を評価します。成長速度が期待される値よりも明らかに低い場合には、投与量の調整や、アドヒアランスの確認、他の内分泌疾患の合併などを検討します。

血液検査によるモニタリングも重要です。血清IGF-1濃度は、3~6ヵ月ごとに測定し、年齢・性別基準値と比較して適切な範囲にあることを確認します。IGF-1が過剰に高値となっている場合には、投与量を減量する必要があります。また、血糖値やHbA1c、甲状腺機能、肝機能、腎機能なども定期的にチェックし、副作用の早期発見に努めます。

骨年齢の評価も治療継続の判断に重要です。左手のX線撮影により骨年齢を評価し、骨端線の閉鎖状況を確認します。骨端線が閉鎖してしまうと、それ以上の身長増加は期待できないため、治療の継続意義を再評価する必要があります。一般的に、骨年齢が男子で17歳、女子で15歳程度になると、骨端線閉鎖が近いと判断されます。

患者や家族に対しては、治療の長期性についても十分に説明する必要があります。成長ホルモン治療は、通常2年以上、場合によっては骨端線が閉鎖するまで数年間継続する必要があります。治療開始後すぐに劇的な効果が現れるわけではなく、1年目の成長速度増加が最も顕著で、その後は徐々に効果が減弱していく傾向があります。このような治療経過を事前に説明することで、患者や家族の不安を軽減し、長期的なアドヒアランスを維持することができます。

アドヒアランスの維持が鍵です。

思春期以降の患者では、トランジション(小児期治療から成人期治療への移行)についても考慮する必要があります。小児期に成長ホルモン治療を受けていた患者が成人期に達した際、重症成人成長ホルモン分泌不全症の基準を満たす場合には、成人用量での治療継続が可能です。この移行期には、小児科と内分泌内科が連携し、スムーズな診療移行を支援することが重要となります。

ファイザー社による成長ホルモン療法の副作用と注意点に関する詳細情報