抗コリン作動薬禁忌と疾患別注意点

抗コリン作動薬禁忌と疾患

開放隅角緑内障は実は禁忌じゃない

この記事の3ポイント
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2019年改訂で禁忌範囲が明確化

緑内障の禁忌は閉塞隅角緑内障のみに限定され、開放隅角緑内障は慎重投与へ変更されました

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前立腺肥大症患者の尿閉リスク

抗コリン薬により膀胱収縮が抑制され、尿閉を引き起こすリスクが高まります

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高齢者の認知症リスク上昇

3年以上の継続使用で認知症発症リスクが約1.5倍に増加することが報告されています

抗コリン作動薬の禁忌疾患とその理由

 

抗コリン作動薬は副交感神経の伝達物質であるアセチルコリンの働きを抑制する薬剤です。この作用により、さまざまな症状の改善に用いられますが、特定の疾患では症状悪化のリスクがあるため禁忌とされています。

禁忌とされる主な疾患は、閉塞隅角緑内障、前立腺肥大による排尿障害重症筋無力症の3つです。これらの疾患では、抗コリン作用が病態を直接的に悪化させる可能性があります。

閉塞隅角緑内障では、抗コリン作用により瞳孔括約筋が弛緩して散瞳が生じます。散瞳により隅角が閉塞すると、房水の排出が妨げられて眼圧が急激に上昇し、急性緑内障発作を引き起こす危険性があります。この発作は激しい眼痛、頭痛、嘔吐を伴い、視力低下失明につながる重篤な状態です。患者にとって視機能を失うという深刻なデメリットがあるため、厳格に禁忌とされています。

前立腺肥大症による排尿障害のある患者では、抗コリン作用により膀胱の収縮力が低下します。もともと前立腺肥大により尿道が圧迫されている状態で、さらに膀胱の収縮が妨げられると、尿が全く出なくなる尿閉という状態になります。

尿閉は膀胱内に尿が充満して激しい下腹部痛を引き起こし、カテーテル留置などの処置が必要となります。

重症筋無力症は、神経筋接合部でのアセチルコリン受容体に対する自己抗体により筋力低下が生じる疾患です。抗コリン薬自体は筋弛緩作用を持つわけではありませんが、一部の抗コリン薬には筋弛緩作用があり、症状を悪化させる可能性があります。

つまり禁忌の理由が明確です。

抗コリン作動薬の緑内障禁忌の変遷

2019年6月に厚生労働省より抗コリン薬の添付文書改訂が行われ、緑内障に関する禁忌の記載が大きく変更されました。この改訂は医療現場に重要な影響を与えています。

改訂前は、すべての緑内障患者が一律に禁忌とされていました。しかし緑内障には大きく分けて開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障の2つのタイプがあり、抗コリン作用により眼圧上昇のリスクがあるのは閉塞隅角緑内障のみであることが明確化されました。国内外の教科書やガイドライン、公益財団法人日本眼科学会の見解を踏まえた結果です。

改訂後は、禁忌は閉塞隅角緑内障のみとなり、開放隅角緑内障は慎重投与の項に変更されました。これにより、開放隅角緑内障の患者に対しては、適切な観察のもとで抗コリン薬の使用が可能となったわけです。

使用できる範囲が広がりました。

ただし注意すべき点があります。開放隅角緑内障と診断されている患者でも、隅角の形態によってはリスクが存在します。Shaffer分類でGrade1~2の狭隅角眼の場合、抗コリン薬投与により隅角閉塞が起きる可能性を完全には否定できません。このため開放隅角緑内障でも慎重投与として注意喚起が残されています。

「狭隅角緑内障」という用語も改訂されました。この用語は隅角が狭いという状態を示すだけで、閉塞機序の有無が曖昧であるとして、閉塞隅角緑内障という正確な用語に統一されました。診断名の明確化により、処方時の判断がよりしやすくなっています。

医療従事者としては、患者が緑内障の治療を受けている場合、具体的にどの病型なのかを確認することが不可欠です。患者自身が病型を把握していないケースも多いため、眼科医への確認や診療情報提供書での詳細な情報収集が重要となります。

厚生労働省による抗コリン薬の禁忌「緑内障」等の見直しに関する詳細な解説資料(PDFファイル)

抗コリン作動薬による前立腺肥大患者の尿閉リスク

前立腺肥大症を持つ男性患者に抗コリン薬を投与する際は、尿閉のリスクを常に念頭に置く必要があります。このリスクは患者にとって緊急の医療処置が必要となる重大な問題です。

前立腺肥大症では前立腺が大きくなり、尿道を物理的に圧迫しています。この状態で抗コリン作用により膀胱平滑筋の収縮が抑制されると、膀胱に尿が溜まっても排出できない状態、つまり尿閉が発生します。尿閉は膀胱内圧の上昇により激しい下腹部痛を引き起こし、患者のQOLを著しく低下させます。

メタアナリシスでは、前立腺肥大症を有する男性過活動膀胱患者において、α遮断薬と抗コリン薬の併用療法はα遮断薬単独療法と比較して尿閉の発生リスクが高いことが示されています。

併用する場合の注意が大切です。

総合感冒薬には抗ヒスタミン作用を持つ成分が含まれることが多く、これらにも抗コリン作用があります。ある報告では、総合感冒薬を服用した50~69歳の男性のうち6.0%が前立腺肥大症の症状悪化を経験し、3.6%が尿閉を経験していました。

市販薬でも注意が必要です。

前立腺肥大症患者に抗コリン薬を処方する場合は、まず残尿量の評価を実施することが推奨されています。残尿が多い場合は尿閉のリスクが特に高まるため、投与を避けるか、α遮断薬の併用を検討します。α遮断薬は前立腺と膀胱頸部の平滑筋を弛緩させ、尿道抵抗を低下させることで、尿閉リスクを軽減できる可能性があります。

また、患者への服薬指導も重要です。排尿困難、尿意はあるのに尿が出ない、下腹部の痛みや張りなどの症状が現れた場合は、直ちに医療機関を受診するよう指導しましょう。早期発見により、カテーテル留置などの侵襲的処置を最小限に抑えられます。

抗コリン作動薬と高齢者の認知機能低下

高齢者における抗コリン薬の使用は、せん妄や認知機能低下、さらには認知症発症リスクの上昇と関連することが多くの研究で示されています。これは医療従事者が特に注意すべき重要な副作用です。

米国ワシントン大学の大規模研究では、65歳以上の認知症のない高齢者3434名を平均7.3年間追跡調査しました。その結果、3年以上常用量の抗コリン薬を使用した患者では、認知症全体の発症リスクが1.54倍、アルツハイマー病の発症リスクが1.63倍に有意に増加していました。

つまり約1.5倍のリスクです。

別の英国の研究でも同様の結果が報告されており、抗コリン剤を服用している人と服用していない人を比較すると、認知症リスクは少量の服用で1.06倍、量が多い場合は1.49倍になることが示されました。

リスクは用量依存的です。

抗コリン薬による認知機能障害には、記憶力低下、注意力低下、せん妄があります。特に高齢者で生じやすく、抗コリン薬によるせん妄は焦躁感や幻視を伴うことが多いのが特徴です。せん妄は数時間から数日の間に急激に発症する意識の混乱状態で、患者本人だけでなく介護者にも大きな負担となります。

このような副作用が生じる理由は、加齢に伴う脳内のアセチルコリン神経系の脆弱性にあります。高齢者では脳内のアセチルコリン濃度が低下しているため、抗コリン作用がより顕著に現れやすくなります。もともと予備能力が低下しているところに、さらに抗コリン薬が加わることで、認知機能に影響が出やすいわけです。

日本でも「日本版抗コリン薬リスクスケール」が作成されており、抗コリン作用のリスクを評価するツールとして活用されています。このスケールでは、各薬剤の抗コリン作用の強さをスコア化し、複数の薬剤を服用している場合の累積リスクを評価できます。

高齢者に抗コリン薬を処方する際は、可能な限り抗コリン作用の弱い代替薬を検討することが推奨されます。例えば抗ヒスタミン薬では、第一世代よりも第二世代の方が中枢への移行が少なく、抗コリン作用も弱いため、高齢者により適しています。また過活動膀胱治療薬では、β3受容体作動薬のミラベグロンは抗コリン作用を持たないため、高齢者や認知症リスクの高い患者に選択肢となります。

抗コリン作動薬投与時の実践的モニタリング方法

抗コリン薬を処方した患者に対しては、継続的なモニタリングと適切なフォローアップが不可欠です。副作用の早期発見により、重篤な合併症を予防できます。

眼科的なモニタリングでは、閉塞隅角緑内障のリスクがある患者には投与前に眼科での評価を依頼します。

特に遠視、高齢、女性はリスク因子です。

開放隅角緑内障で慎重投与となっている患者では、定期的な眼圧測定と視野検査が重要です。眼圧の上昇や視野異常が認められた場合は、抗コリン薬の中止または代替薬への変更を検討します。

泌尿器系のモニタリングでは、前立腺肥大症の患者では残尿測定が基本となります。投与開始前と投与後の定期的な測定により、尿閉のリスクを評価します。残尿量が100mL以上増加した場合や、患者が排尿困難を訴えた場合は要注意です。

認知機能のモニタリングは、特に高齢者で重要です。簡易的な認知機能検査(MMSEやHDS-Rなど)を定期的に実施し、ベースラインからの変化を追跡します。家族からの情報収集も有用で、「最近物忘れが増えた」「会話のつじつまが合わない」「夜間に混乱している」などの報告があれば、抗コリン薬の影響を疑います。

薬剤師としての服薬指導では、患者に副作用の初期症状を具体的に説明することが大切です。眼の症状では「物がかすんで見える」「眩しく感じる」「目が痛い」、排尿の症状では「おしっこが出にくい」「お腹が張る」、認知機能では「物忘れが増えた」「夜に変なことを言う」といった具体的な表現を使います。

抗コリン作用による副作用を軽減するための対策も指導しましょう。口渇に対しては、こまめな水分補給や無糖のガムやキャンディーの使用を勧めます。便秘には食物繊維の摂取や適度な運動を推奨します。ただし、症状が改善しない場合や悪化する場合は、速やかに医療機関への相談を促します。

複数の医療機関を受診している患者では、お薬手帳の活用が重要です。総合感冒薬や市販の胃腸薬にも抗コリン作用を持つ成分が含まれることがあるため、すべての薬剤を把握し、累積的な抗コリン負荷を評価する必要があります。お薬手帳を確認することで、重複投与や相互作用を防げます。

定期的な処方見直しも欠かせません。特に高齢者では、ポリファーマシー多剤併用)の状態になりやすく、抗コリン薬が複数処方されていることがあります。処方カスケード(ある薬の副作用に対して別の薬が処方される連鎖)を防ぐためにも、定期的に処方内容を見直し、不要な薬剤の中止や減量を検討します。

日本版抗コリン薬リスクスケールの詳細(厚生労働省資料)

抗コリン薬の適正使用には、多職種連携が効果的です。医師、薬剤師、看護師、介護職が情報を共有し、患者の状態変化を早期に発見する体制を整えることで、安全性の高い薬物療法が実現します。


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