胃神経内分泌腫瘍 治療
胃神経内分泌腫瘍治療 Rindi分類とKi-67
胃神経内分泌腫瘍(NEN)は、高分化のNETと低分化のNECで治療戦略が別物になり、胃NETでは特に「Rindi分類(Ⅰ〜Ⅲ型)」が実臨床の分岐に直結します。
Rindi分類は、基礎疾患と高ガストリン血症の有無から胃NETを3型に分け、Ⅰ型(萎縮性胃炎など背景・高ガストリン)、Ⅱ型(Zollinger-Ellison症候群など背景・高ガストリン)、Ⅲ型(基礎疾患なし・非高ガストリン)として、悪性度や転移リスクと相関しやすい枠組みです。
さらにWHO分類(2019)に基づくKi-67指数や核分裂像によるGrade(G1/G2/G3、NEC)評価は、同じ「胃NET」でも増殖速度の違いを可視化し、薬物療法の適応判断や予後推定の精度を上げます。
臨床で重要なのは「分類を診断書の飾りにしない」ことです。Rindi分類で病因(ガストリン刺激の関与)を捉え、Ki-67で腫瘍のドライブ(増殖能)を把握すると、内視鏡治療でよいケースと、最初から外科+リンパ節郭清を考えるケースが整理できます。
参考)日本神経内分泌腫瘍研究会
また、胃NETはエビデンスが十分でなく推奨に揺れがある領域であるため、分類で前提条件を揃えて議論しないと、多職種カンファで方針がぶれやすい点も実務上の落とし穴です。
参考)14.「膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン」第3版の改…
胃神経内分泌腫瘍治療 内視鏡切除と経過観察
胃NETの内視鏡的切除は、Rindi分類Ⅰ型で腫瘍径1cm未満かつ深達度が粘膜下層までにとどまる場合に「経過観察または内視鏡的切除」が推奨され、Ⅱ型でも同条件なら内視鏡的切除が推奨されています。
一方でRindi分類Ⅲ型胃NETは悪性度が高く、基本的に内視鏡的切除の適応とはならない、という立て付けが明確に示されています。
推奨される手技としては、吸引法や2チャンネル法などのEMR、またはESDが挙げられ、胃NETの多くが粘膜内にとどまらずsm主座になりやすい点を踏まえて、断端陰性化を狙う工夫が重視されます。
ここで臨床の“意外な盲点”になりやすいのが、「小さい=安全」ではなく「小さくても型が悪いと危ない」という現実です。Ⅲ型は単発で1cm以上で見つかることが多く、リンパ節転移や肝転移の確率が高いとされ、サイズだけで内視鏡治療へ流すのは危険です。
逆にⅠ型の一部は良性の転帰をたどることが明らかになり、経過観察を選ぶ意見もあるため、治療の“やり過ぎ”にも注意が必要です。
その判断材料として、EUSで深達度・腫瘍径を確認すること、背景粘膜(萎縮性胃炎など)やガストリン値を含めて病因を再点検することが、内視鏡治療の適否をより安全にします。
胃神経内分泌腫瘍治療 手術とリンパ節郭清
NETの治療の第一選択は、可能であれば手術(内視鏡切除を含む切除)であり、根治を期待できる治療と位置づけられています。
胃NETではRindi分類Ⅲ型が基本的に内視鏡適応外とされ、外科的手術が推奨される流れになるのは、この型が高い転移リスクを持つためです。
また、NETは遠隔転移があっても外科的切除が検討され得ること、切除困難でも減量手術が症状緩和や予後延長に寄与する可能性があることが示されています。
外科方針を立てる際は、「原発巣だけでなく病勢のボトルネックはどこか」を言語化するとチーム内の合意形成が早くなります。たとえば肝転移が主要な制限因子なら、切除・焼灼・肝動脈塞栓など局所療法を含めた設計が必要です。
ガイドライン上も、肝転移に対してラジオ波焼灼術や肝動脈化学塞栓術などが選択され得ることが記載され、局所制御がQOLや生存に影響しうる前提で議論されます。
なおNECでは事情が異なり、切除の意義が明確でないこと、切除不能例ではプラチナ併用化学療法が中心になることが示されているため、病理でNET/NECを曖昧にしたまま治療計画を立てない姿勢が重要です。
胃神経内分泌腫瘍治療 ソマトスタチンアナログとエベロリムス
切除不能・再発などで腫瘍制御を狙う場合、消化管NETに対してはソマトスタチンアナログ(オクトレオチドLAR、ランレオチド)とエベロリムスが推奨され、適応とならない場合にストレプトゾシンが選択肢になります。
ソマトスタチンアナログは、もともと機能性NETの症状緩和目的で使われてきましたが、臨床試験により抗腫瘍効果も示され、薬剤ごとに消化管NET/膵消化管NETで保険適用が整理されています。
薬物療法の選択では、Ki-67などの腫瘍増殖能、腫瘍量、転移の有無、そしてソマトスタチン受容体(SSTR)発現の有無を総合的に判断する必要がある、と明記されています。
実務上は「SSTR陽性=まずソマトスタチンアナログ」という単純化が起こりがちですが、増殖速度が速い(Ki-67高値)症例や腫瘍量が多い症例では、どの薬剤で“時間を稼ぐ”のか、どの順番で“次の一手”へつなぐのかが重要になります。
また、胃NETは前腸(foregut)に属し、ソマトスタチンアナログのデータが中腸ほど潤沢ではない点がガイドライン本文でも触れられており、画像(SRS等)や免疫染色でSSTR発現を確認してから使う慎重さが推奨されています。
副作用説明も含めた治療前の設計が大切で、薬の“効きやすさ”だけでなく、患者背景(併存症、PS)と有害事象の許容度を見据えた選択が求められます。
胃神経内分泌腫瘍治療 PRRTとオクトレオスキャン(独自視点)
独自視点として強調したいのは、「治療(PRRT)を語る前に、診断(SSTR評価)を整える」という順序です。高分化NETはSSTRを高頻度に発現する特徴があり、ソマトスタチン受容体シンチグラフィー(オクトレオスキャン)は、病変の局在把握だけでなく、SSTRを標的とする治療(ソマトスタチンアナログやPRRT)の適応判断にも使われます。
PRRTは、ソマトスタチン受容体に親和性の高いペプチドに放射性物質を結合させ、体内から照射する治療で、国内でも保険適用となり施設が増えてきたことが明記されています。
またガイドライン本文でも、PRRTは「ソマトスタチン受容体陽性の膵・消化管NETに対して、二次治療以降の他剤無効例に対する代替治療として推奨」され、NECに対する有効性は示されていない、と整理されています。
ここでの臨床のコツは、PRRTを“最後の切り札”として温存するだけでなく、いつSSTR評価を行うかを治療ロードマップに組み込むことです。たとえば病勢が緩徐なうちにSSTR評価を済ませておけば、将来のライン変更時に「いま撮り直すべきか」「PRRTへ繋げるか」の意思決定が速くなります。
一方でPRRTには急性期の嘔気などに加え、中長期的に血液系二次がんや腎機能障害の報告があるため、開始前に骨髄・肝・腎機能など臓器機能を確認する必要がある、と明確に注意喚起されています。
つまりPRRTは“適応があるからやる”治療ではなく、SSTR陽性の裏付け、前治療の経過、臓器予備能、患者の生活背景まで含めて、最初から設計された集学的治療の一部として位置づけると成功しやすい治療です。
(胃NET/NECの治療アルゴリズム、内視鏡切除適応、薬物療法・PRRTの推奨根拠部分がまとまっている)
(WHO分類、Ki-67の意味、薬物療法の概要、オクトレオスキャンとPRRTの解説が読みやすい)
国立がん研究センター 希少がんセンター:膵・消化管神経内分泌腫瘍

消化器内科 第34号(Vol.4 No.9,2022)特集:消化器領域の神経内分泌腫瘍の最新の知見