胃瘻関連誤嚥
胃瘻関連誤嚥の原因:胃食道逆流と唾液
胃瘻(PEG)だからといって、誤嚥がゼロになるわけではありません。PEG関連肺炎の主な機序は、(1) 胃食道逆流に伴う胃液・経腸栄養剤の誤嚥、(2) 唾液など口腔・咽頭内容物の誤嚥(不顕性誤嚥を含む)の2つに整理できます。これは、PEGの合併症としての肺炎を解説した専門レクチャーでも明確に示されています。
「投与後に痰が増える」「口腔・咽頭から栄養剤のにおいがする」などは、逆流由来の誤嚥を疑うヒントになります。一方、夜間に咳反射が弱くなるタイプの不顕性誤嚥では、明確な“むせ”が見えないまま肺炎に進むこともあります。臨床では両者が混在することも多く、区別が難しい点も重要です。
参考)https://hello-dent.net/blog/1814/
見逃しやすいポイントとして、「経口摂取していなくても誤嚥は起こる」という事実があります。胃内へ入れた流動食が食道・咽頭へ逆流すれば、嚥下機能が低下した患者では容易に誤嚥が起こりうるため、“食べていない=安全”という前提が崩れます。
誤嚥が起きたときに必ず肺炎になるわけではありませんが、PEG対象患者は嚥下障害や神経疾患を背景に「肺炎に至りやすい条件」を複数持ちやすいのが現実です。だからこそ、原因を2軸で捉えて、どの軸の対策が弱いかをチームで点検できる形にすることが、現場の再発予防につながります。
胃瘻関連誤嚥の予防:体位と頭位挙上
体位は、胃瘻関連誤嚥の予防で“最初に手を付けるべき”要素です。PEG関連肺炎の予防策として、経腸栄養時に仰臥位だと胃食道逆流による誤嚥リスクが高くなるため、30度程度までベッドを挙上し、可能なら90度座位で投与することが推奨されています。
ここで現場が陥りやすい落とし穴は、「投与中だけ頭位挙上して、投与直後に戻してしまう」運用です。経腸栄養時の逆流対策では、投与後すぐ仰臥位に戻すと逆流が起こりうるため、投与後も一定時間(例:1時間程度)体位を維持する、という考え方が示されています。
体位を守っているのに誤嚥が減らないときは、「角度」だけでなく「保持の継続」「ずれ」「枕やクッションでの屈曲」まで観察対象に入れると改善が起こります。頭位挙上が保たれていない、骨盤が滑って腹圧が上がる、頸部が過伸展で気道防御が落ちる、といった“見た目は挙上でも実質はリスク増”の形が現場では起きがちです。
また、研究報告として、注入時の左側臥位が逆流・誤嚥性肺炎を繰り返すケースで有効と考えられる、という示唆もあります(重症心身障害児の症例・検討など)。右側臥位が基本として語られる場面もありますが、逆流が課題の患者では「どの体位が本当に合っているか」を個別に検討する余地があります。
参考)https://www.jschild.med-all.net/Contents/private/cx3child/2018/0077s1/227/0234-0234.pdf
実務に落とし込むためのチェック項目(例)を示します。
・🛏️ 投与中:頭位挙上が保てている(目標30度以上など施設基準)
・⏱️ 投与後:一定時間は挙上維持(例:1時間)
・👀 観察:咳込み、喘鳴、嗄声、痰増加、口から流動食の匂い
・🧩 うまくいかない時:左側臥位など体位の再評価も検討
胃瘻関連誤嚥の予防:胃内残留と投与速度
逆流性誤嚥を減らすには、「体位」だけでなく「胃の中が“受け入れ可能な状態か”」を点検する必要があります。経腸栄養時の逆流対策として、投与前に胃内残留物を確認し、残留が多い場合は投与を中止・延期する、といった基本動作が提示されています。
残留が多い状況は、胃排出能の低下が疑われます。胃排出能低下の背景には、便秘、薬剤、パーキンソン病、感染に伴う炎症、腸閉塞など多様な要因が挙げられており、単に“投与の問題”として片づけると改善しないケースがあります。
投与速度も、誤嚥予防の設計変数です。胃排出能が落ちている患者に速い速度で投与すると、胃からの排出が追い付かず逆流が起きやすくなるため、速度を落として逆流を防ぐ、という考え方が示されています。
さらに意外に見落とされるのが「水分投与の順序」です。胃排出能が低い患者では、流動食投与後に水分を入れると胃内容量が増えて逆流しやすくなるため、水を先に投与する(“水先投与法”)ことで腹部膨満や逆流を抑える、という工夫が紹介されています。
現場での実装例(施設の手順に合わせて調整してください)。
・🧪 投与前:残留の確認(多い場合は医師・栄養・看護で対応を相談)
・🐢 速度:逆流兆候が出たらまず速度調整(急激に変えず観察をセット)
・💧 水分:水先投与法の適否を検討(誤嚥リスクと水分管理を両立)
・📌 サイン:痰増加・咳込み・喘鳴・嗄声・嘔気/嘔吐・匂いを記録し共有
胃瘻関連誤嚥の予防:半固形栄養剤とPEG-J
「投与手技を整えても逆流が減らない」とき、栄養剤の物性(半固形化)や投与ルート変更を検討できる場合があります。PEG関連肺炎の予防策として、半固形栄養剤や誤嚥予防を目的とした薬物療法、必要に応じたPEG-J(経胃瘻的空腸瘻)が挙げられています。
半固形栄養剤については、PEG症例で高粘度の半固形栄養剤が液体栄養剤と比較したランダム化比較試験(RCT)で、誤嚥性肺炎の発症を有意に抑制したことが述べられています。さらに、高粘度(例:20,000mPa・s程度)の条件では逆流抑制が期待される一方、低粘度では効果が明確でない点が注意として示されています。
参考)Chapter2 経腸栄養 5.半固形栄養剤 2.臨床的な知…
また、逆流が強い場合は投与ルートそのものを変えるという選択肢もあります。胃食道逆流を繰り返して誤嚥性肺炎につながるケースでは、チューブ先端を十二指腸・空腸に留置する幽門後アプローチ(投与ルートの変更)が対策として挙げられています。
PEG-Jは、カテーテル先端を十二指腸や空腸へ留置することで嘔吐や胃食道逆流を防ぐのに有効、という位置づけの資料もあり、逆流由来の誤嚥が主因の患者で検討されます。ただし、適応判断・管理は施設体制と合併症リスクを踏まえた慎重な検討が前提です。
参考)302 Found
ここで大切なのは、「半固形化=万能」でも「PEG-J=最後の手段」でもなく、患者の逆流要因(胃排出能、便秘、薬剤、食道裂孔ヘルニアなど)と、現場の運用可能性(準備・粘度管理・投与時間・モニタリング)をセットで見積もることです。逆流サインがどう変化したか、痰や咳の変化がどうだったか、再発頻度がどう推移したかを“言語化して残す”と、次の判断が速くなります。
胃瘻関連誤嚥の独自視点:口腔ケアとサブスタンスP
胃瘻関連誤嚥の対策で「口腔ケア」を“清潔ケア”としてだけ捉えると、現場の優先度が下がりがちです。しかし専門レクチャーでは、口腔ケアが歯垢・舌苔の除去による口腔内細菌数の減少だけでなく、唾液分泌の促進、口腔内の清浄化、さらにサブスタンスPを介した嚥下機能の改善などを通じて、誤嚥性肺炎の減少に寄与すると説明されています。
サブスタンスPは嚥下反射・咳反射に関わり、その低下が不顕性誤嚥を起こしやすくする、という議論は嚥下医学領域の解説でも整理されています。さらに口腔ケアには、咽頭のサブスタンスP濃度を上昇させ、咳嗽反射や嚥下反射を改善する可能性があることも報告されています。つまり口腔ケアは「菌を減らす」だけでなく、「誤嚥が起きたときに排出する力を底上げする」方向にも働きうる、という見方ができます。
意外に重要なのが、口腔ケアの“実施タイミング”です。栄養注入直後の口腔ケアは、刺激で嘔吐や逆流を誘発し、誤嚥につながりうるため避け、空腹時に行う、という注意点が示されています。口腔ケアを頑張っているのに肺炎が減らない現場では、技術より先に「タイミング」と「体位(座位なら前かがみ、寝たきりなら横向きなど)」を見直すだけで安全性が上がることがあります。
参考)経管栄養中の口腔ケア|今日から始める口腔ケア|日本訪問歯科協…
口腔ケアの実装ポイント(例)
・🪥 目的:細菌負荷の低減+不顕性誤嚥対策(反射の底上げ)
・⏰ タイミング:注入直後は避け、空腹時を基本にする
・🧍 体位:誤嚥を防ぎやすい姿勢で(寝たきりは横向きなど)
・📝 記録:ケア後に咳込み・痰増加・嗄声が出たかを共有(過負荷のサイン)
(口腔ケアと誤嚥性肺炎予防の関係、PEG関連肺炎の原因と予防策、半固形栄養剤・PEG-Jの位置づけを確認する際に有用)
PEG関連肺炎の原因(唾液/逆流)・予防(口腔ケア、体位、薬物療法、半固形栄養剤、PEG-J)を概説。
経腸栄養時の胃食道逆流のサイン、残留確認、投与速度、投与後の体位維持、水先投与法など実務の要点。

高粘度半固形栄養剤がPEG症例のRCTで誤嚥性肺炎を抑制した、という臨床的知識(半固形化の考え方)。
