化膿性胃炎と内視鏡とCTと抗菌薬治療

化膿性胃炎と診断と治療

化膿性胃炎:救急で疑うための要点
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稀だが致死的になりうる

胃壁全層に及ぶ細菌感染で、進行が速いと敗血症や腹膜炎に至りうるため、早期の疑いが最重要です。

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起因菌と混合感染を前提

レンサ球菌が多い一方、ブドウ球菌や大腸菌など複数菌関与もあり、培養提出と広域抗菌薬の初期選択が鍵です。

🩻

CTで胃壁肥厚+低吸収域

びまん性/限局性の胃壁肥厚、壁内低吸収域(膿瘍示唆)を手掛かりに、内視鏡所見と統合して判断します。

化膿性胃炎の原因と起因菌とリスク因子

化膿性胃炎(胃蜂窩織炎)は、粘膜下層を中心に胃壁全層へ及ぶ化膿性の細菌感染症で、発症頻度は稀とされています。

成因は大きく「胃粘膜の損傷部から細菌が侵入する原発性」「他臓器感染巣からの転移による続発性」「成因不明の特発性」に分類される、という整理が古典的に紹介されています。

リスク因子として、アルコール摂取、慢性胃炎糖尿病、粘膜損傷、衰弱、免疫不全などが挙げられ、胃酸の殺菌効果や粘膜防御の低下が背景にあると考えられています。

起因菌はStreptococcus spp.が多く、症例の約70〜75%を占めるという報告があり、Staphylococcus spp.、Escherichia coli、Haemophilus influenzae、Proteus、Clostridiaなども原因となり得ます。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsa/69/11/69_11_2867/_pdf/-char/ja

重要なのは「単一菌」と決め打ちしないことで、複合して関与する混合感染が明らかになっている点です。

さらに、胃内pH上昇(酸分泌低下)により細菌増殖が促進され、蜂窩織炎のリスクになり得る、という指摘もあり、酸分泌抑制薬内服中の患者では背景要因として意識しておく価値があります。

臨床の現場では「粘膜損傷」が想像以上に軽微でも起点になり得ます。

実際に、観察目的のEGDでスコープ接触による粘膜損傷を契機に発症した症例報告があり、免疫低下状態(例:肝硬変)などが重なるとリスクが増す可能性が示唆されています。

「手技の侵襲度が低い=安全」と短絡せず、患者側要因(基礎疾患・免疫状態・栄養状態)とセットで評価するのが実務的です。

化膿性胃炎の症状と経過と重症化サイン

症状は、悪寒、発熱、上腹部痛、嘔吐などが典型的とされ、急性腹症として他疾患(急性膵炎、胆嚢炎など)と紛れて診断が遅れやすい、という臨床上の難しさがあります。

炎症が漿膜側へ波及すると腹膜刺激症状を呈し得る、という記載もあり、腹部所見の変化は「単なる胃炎」として見過ごせない警告になります。

また、文献的には「背臥位より坐位で痛みが軽減する(Deninger sign)」や「膿汁の嘔吐」が稀な特異的所見として挙げられることがあります。

重症化サインは、バイタルの悪化(高熱、低血圧、意識変容など)だけでなく、画像で壁内膿瘍が疑われる場合、あるいは菌血症の合併が示唆される場合です。

EGD後発症例では、血液培養と胃粘膜培養で同一菌(α溶血性レンサ球菌)が検出され、菌血症を伴う胃蜂窩織炎として診断されています。

ここから得られる実務的な教訓は、「消化器症状+発熱」の時点で血液培養を躊躇せず、消化管由来の敗血症としての動きを早期に開始することです。

経過のスピードも幅があります。

EGD後の本邦報告例の集計では、発症は検査・処置後の平均3.6日後(当日〜15日)とされ、当日や翌日に出るケースもあれば遅れて出るケースもあります。

「検査後しばらく経っているから関係ない」と切り捨てず、直近の内視鏡・生検・治療歴を時間軸で丁寧に拾うのが診断精度を上げます。

化膿性胃炎の内視鏡とCTと診断

化膿性胃炎は臨床症状だけでは診断が難しく、画像検査の比重が大きいとされています。

CTでは、限局性またはびまん性の胃壁肥厚や、胃壁内部の低吸収域(膿瘍を示唆)が診断に有用とされます。

実際のEGD後発症例でも、CTでびまん性胃壁肥厚が確認され、さらに胃体上部前壁に膿瘍を疑う低吸収域が描出されています。

内視鏡(EGD)所見としては、発赤、浮腫状変化、白苔、膿汁が付着した潰瘍・びらん、皺襞肥厚などが特徴像として挙げられています。

ただし、抗菌薬開始後の内視鏡では「明らかな潰瘍や浮腫を認めない」など、典型像が薄れることもあり得るため、タイミングの影響も考慮が必要です。

そのため、CT・臨床像・内視鏡像を一つの情報に依存せず統合し、疑いが濃ければ培養・抗菌薬を先行する判断が現場では合理的です。

確定診断に近づける手段として、胃液培養、胃粘膜培養、生検時の膿汁流出の確認などが挙げられています。

EGD後発症例では、発症後のEGDで目立った発赤調小隆起(白斑を伴う)から生検・培養を提出し、血液培養と一致する菌が検出されて確定に至っています。

「胃の感染症」として扱うなら、採取部位(白斑・びらん・隆起・圧痛に対応する部位)を狙う姿勢が、単なる“生検”から“診断行為”へ質を上げます。

(参考リンク:化膿性胃炎の定義・リスク因子・CT/EGD所見・起因菌・治療(抗菌薬と外科)まで症例ベースでまとまっています)

EGD後に発症した胃蜂窩織炎の1例
J-STAGE

化膿性胃炎の抗菌薬治療と外科治療と培養

治療の基本は、疑った段階で培養(血液、胃液、胃粘膜など)を提出し、混合感染も念頭に広域スペクトラムの抗菌薬を早急に開始することが有用とされています。

EGD後発症の症例では、ABPC/SBT(アンピシリン/スルバクタム)で治療開始し、臨床的に改善したのちに経口薬(AMPC/CVA:アモキシシリン/クラブラン酸)へ切り替えて退院しています。

このように「培養で起因菌が同定できたら感受性に合わせて調整する」という王道の流れが、結果的に侵襲的治療の回避につながる可能性があります。

一方で、外科治療が必要になる症例が一定数ある点は重要です。

EGD後発症例の本邦報告例の集計では、全例で抗菌薬投与が行われ、そのうち外科的治療が行われた症例もあり、理由として「抗菌薬治療で改善が乏しい」「腹膜炎として手術が先行」などが挙げられています。

つまり、抗菌薬で様子を見る際も「いつまでに、どの指標が改善しなければ次の手段へ進むか」をチームで共有し、外科・救急・集中治療と早期連携できる体制が安全です。

培養の提出は“後からやる”と価値が下がります。

抗菌薬投与開始後では、組織の炎症細胞浸潤が軽微に見えることもあり、病理だけでは手掛かりが薄くなる可能性があるため、採取の順番(培養→投与)が原則です。

また、レンサ球菌が多いからといって狭域に寄せ過ぎると、混合感染を取り逃す懸念があるため、初期は“広く”、確定後に“絞る”が理にかなっています。

化膿性胃炎の独自視点:内視鏡手技と粘膜損傷と説明

検索上位の総論では「稀な疾患」として片付けられがちですが、医療従事者の実務としては「内視鏡手技の微小な粘膜損傷が入口になり得る」点を、手技・説明・フォロー設計に落とし込むのが重要です。

観察目的のEGDでもスコープ接触で粘膜損傷が起こり得て、その後に化膿性胃炎を発症した報告があるため、ハイリスク患者(糖尿病、肝硬変、担癌、免疫低下など)では、わずかな損傷でも術後説明と注意喚起を具体化する価値があります。

例えば「発熱(特に高熱)」「増悪する心窩部痛」「嘔吐」「食事が取れない」が出たら早期受診、という行動指示を明確にし、受診時に“直近のEGD歴”が伝わる導線(紹介状・お薬手帳への追記・検査結果票の携帯)まで整えると、診断遅延を減らせます。

さらに、PPI/PCABなどの酸分泌抑制薬で胃内pHが上がることが細菌繁殖を促進し得る、という指摘もあるため、内服状況を「ただの背景」として流さず、感染症としてのリスク評価に組み込む視点が役立ちます。

もちろん、酸分泌抑制薬自体を一律に中止すべき、という話ではなく、ハイリスク患者で粘膜損傷が起きた・発熱が出た、などの状況で「胃感染症の可能性」を上げる材料として使う、という臨床推論の精度がテーマになります。

“稀な疾患”を見落とさないコツは、疾患名を覚えることより、想起のトリガー(EGD後・粘膜損傷・免疫低下・CTで胃壁肥厚)をチームの共通言語にすることです。