内視鏡用止血クリップ止血
内視鏡用止血クリップの適応とForrest分類
内視鏡止血が必要となる典型は、非静脈瘤性上部消化管出血におけるForrest分類で、活動性出血(Ⅰa:噴出性、Ⅰb:湧出性)および非出血性露出血管(Ⅱa)が止血適応として整理されます。
現場では「止血が必要かどうか」だけでなく、「止血手技をどれで開始し、どこで切り替えるか」を同時に設計することが重要で、機械的止血(クリップ)、局注、熱凝固などの選択肢を最初から並列で考える姿勢が推奨されています。
クリップ止血は一般的な機械的止血法として位置づけられ、局注単独より再出血や手術移行が少ないとする報告が紹介される一方、病変部位や潰瘍底の硬さなどで難渋する点も明確に述べられています。
臨床の“落とし穴”として、同じForrest分類でも「視野が取れない」「接線方向しか取れない」「血管が太い(仮性動脈瘤が疑わしい)」などが重なると、クリップの成功率が急に落ちます。
そのため、適応の判断は分類だけで完結させず、局所因子(部位、潰瘍の深さ、出血性状)と全身因子(高齢、凝固障害、重篤な基礎疾患)を合わせて“再出血しやすい症例像”として把握するのが安全です。
内視鏡用止血クリップの手技とコツ
クリップ止血の成否は、目標部位をできる限り正面視し、血管周囲を確実に把持することに集約され、特に最初の1~2発で確実に止血する重要性が強調されています。
最初のクリップが甘いと、追加クリップの邪魔になったり、出血点同定が不明瞭になったりして、その後の手技がむしろ難しくなる点は“経験的にあるある”ですが、文献上も明確に言語化されています。
凝血塊が付着して出血点が見えない場合は、把持鉗子などで凝血塊を可能な範囲で除去してから止血する、という基本動作が推奨されています。
「接線方向しか取れない」場面では、透明フード(先端アタッチメント)を用いて正面視に寄せる工夫が紹介されており、短いフードとショートクリップの組み合わせで、開脚したクリップをフード内に収納したまま病変へアプローチできる点が具体的に述べられています。
また、送水機能付きスコープは、処置具が鉗子口に入っている状態でも送水でき、出血点同定から止血操作へ移行しやすいとされています(ただし送水しすぎによる嘔吐誘発には注意)。
“意外に効く小技”として、クリップの開き幅が大きいときに、開いたまま一旦鉗子口内へ引き戻して開き幅を狭めて調整する方法が紹介されており、器具を変えずに微調整できるのは現場で有用です。
内視鏡用止血クリップと局注・IVRの選択
大量出血で視野が悪い、あるいは太い露出血管でクリップ単独が不十分な場合、HSE(高張Naエピネフリン)や希釈エピネフリンの局注を併用し、いったん血流を弱めてからクリップに移る戦略が述べられています。
局注は「出血点を見つけるための治療」でもあり、活動性出血で同定できないときに先に局注して出血勢いを落とす、という使い方が臨床的に合理的です。
一方で、太い露出血管や深掘れ潰瘍など、内視鏡的止血が限界となる症例があることも繰り返し強調され、早期から放射線科・外科と連携し、IVRや手術へ移行するタイミングを逸しない重要性が示されています。
“クリップのもう一つの役割”として、緊急内視鏡時に潰瘍近傍へクリップでマーキングしておくと、IVR時の目印になる点が具体例とともに提示されています。
この発想は止血成功・不成功の二択ではなく、「次の治療へつなぐ情報付け」という意味で、チーム医療の質を上げる工夫です。
内視鏡用止血クリップの合併症と禁忌
止血困難部位の例として十二指腸は壁が薄く、過度に押し付けたり過剰に凝固したりすると穿孔を来し得るため、特に注意が必要とされています。
また、内視鏡的止血後の再検(second look)は、状態が安定していれば24~48時間以内の再検が望ましいとされ、露出血管残存や活動性出血があれば追加止血で再出血率を下げ得る、という考え方が述べられています。
一方、second lookをルーチンで推奨しない流れが海外にはあることにも触れられており、施設のリソースとリスク層別化で運用を決める余地があります。
さらに、医療安全で見落とされがちな論点がMRIです。従来はメーカーがMR安全性を担保していない状況があり、体外排泄を確認してからMRIを行う運用が必要だった、という背景が説明されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/54/8/54_2256/_pdf
2018年以降、条件付きMR対応(MR Conditional)として扱われる製品の通達があった一方で、「銘柄が確実に確認できない止血クリップは従前通り禁忌」という現場メッセージが強調され、電子カルテ等への銘柄記録の重要性が述べられています。
この領域は放射線部門・救急外来・病棟が交差するため、内視鏡室だけで完結しない“院内横断の安全管理テーマ”として扱うのが現実的です。
内視鏡用止血クリップの独自視点:銘柄記録とチーム連携
検索上位は「手技」中心になりがちですが、実際に事故や手戻りを減らすのは、手技の巧拙だけでなく運用設計です。特に留置クリップはMRI可否に直結し得るため、「銘柄」「留置日」「部位」「本数」「MR Conditional表示の有無」まで、テンプレ化して記録するだけで院内の不確実性が大きく減ります。
MRIの安全性は“製品ごとの条件”で変わり得るため、銘柄が曖昧なまま救急でMRI適応が発生すると、検査延期や画像モダリティ変更の判断が難しくなります。
内視鏡室の立場では、①留置時の記録、②患者への説明(後日の検査予定を含む)、③放射線部門への情報伝達、の3点をセットで運用するのが再現性の高い改善策です。
また、器具の進化も運用に影響します。回転機能で狙った止血点へアプローチしやすくする設計や、装填を簡便にして緊急時の準備を短縮する工夫、シングルユース/リユーザブルの選択肢などが製品情報として示されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/51/6/51_1462/_pdf
ここから得られる“意外な示唆”は、止血手技の成功率は術者だけでなく、準備時間・セッティングミス・再処理負荷といった周辺要因にも左右される、という点です。
緊急止血で最も避けたいのは「準備がもたつく間に循環動態が悪化する」ことなので、機器特性を理解し、看護師・臨床工学技士・医師が同じ手順で組めるよう手順書を整備すると、結果的に患者安全に直結します。
止血手技(クリップ)と全身管理の関係も重要で、循環動態の評価と安定化が最優先であり、循環動態が不安定な例では内視鏡が禁忌となり得る、という原則は初学者向けの解説でも強調されています。
つまり「内視鏡用止血クリップがあるから何とかする」ではなく、ショック対応・輸液・輸血・IVR準備まで含めた“止血戦略”の中でクリップを位置づけることが、医療従事者向け記事として最も価値があります。
参考:MRIと止血クリップの銘柄確認・記録の重要性(院内運用の注意点)
消化器内視鏡用止血クリップも銘柄確認が必須です!!(MRI安全性と銘柄記録)
参考:回転クリップ装置の特徴(回転機能・準備の簡便性・シングルユース/リユーザブルなど運用設計のヒント)