透析用水処理装置と透析液水質基準
透析用水処理装置の透析液水質基準と生菌数・エンドトキシン
透析用水処理装置を語るとき、まず押さえるべきは「透析液水質基準」が単なる目標値ではなく、装置・配管・運用の総合管理で恒常的に達成する枠組みとして定義されている点です。日本透析医学会の「2016年版 透析液水質基準」では、標準透析液の基準として総生菌数100 CFU/mL未満、エンドトキシン(ET)0.050 EU/mL未満、さらに超純粋透析液は総生菌数0.1 CFU/mL未満、ET 0.001 EU/mL未満(測定感度未満)という厳しい目標が示されています。これらは透析患者の慢性炎症・合併症リスクを下げる透析液清浄化の考え方と結びついており、装置側だけでなく採水・測定・対策までを設計しないと“数値だけ”が独り歩きします。
現場で見落とされやすいのは、基準値そのものより「アクションレベル」の考え方です。2016年版では、基準値を超える前に汚染の上昇傾向を止めるため、施設の汚染状況に合わせてアクションレベルを設定すべきとされます。つまり、ETや生菌数が基準未満でも、上昇トレンドが出た時点で原因(採水点の違い、末端フィルタの状態、タンク滞留、消毒条件、原水変動など)を切り分けて介入する運用が要です。数値が良好でも、測定の“場所”と“タイミング”がズレると、再現性のない安心感だけが残ります。
参考)https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/33-1/33-1_113.pdf
少し意外な論点として、「水質基準=微生物」だけで完結しない点も重要です。透析用水は化学的汚染基準未満であることが前提で、原水が水道水質基準に合致していることの確認、透析用水の化学的汚染物質の測定などが管理項目として明確に置かれています。微生物が低いのにトラブルが出るケースでは、原水側の化学成分変動(季節・工事・消毒条件変更など)を疑うことで、ROやイオン交換の負担増大を早期に拾えることがあります。
参考:透析液水質基準(生菌数・エンドトキシン、化学的汚染、管理基準の全体像)
https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/33-1/33-1_113.pdf
透析用水処理装置のRO・前処理・残留塩素の管理ポイント
透析用水処理装置の中心はRO(逆浸透)ですが、実運用で水質とランニングコストを左右するのは“前処理”です。2016年版では、透析用水作製装置がろ過・イオン交換・吸着・逆浸透などを原理として原水を処理することが述べられ、さらに残留塩素は総塩素濃度で0.1 mg/L未満を確認すべきとされています。ここが不十分だと、RO膜の劣化だけでなく、後段の清浄度維持(ET・生菌数の低位安定)にも波及します。
前処理の要点を、装置運用の“実務”として整理すると次の通りです。
- 活性炭フィルター等でクロラミンや遊離塩素を除去し、RO膜を保護する(塩素系は膜劣化の典型的要因)。
参考)あかまつ透析クリニック
- 原水の変動を吸収する(季節で水温・濁度・消毒条件が変わると、同じ設定でもRO透過水の安定性が崩れやすい)。
- 前処理の交換・点検を「トラブルが出た後」ではなく、指標(差圧、残留塩素、処理水電導度のトレンド等)で前倒しする。
医療従事者向けに強調したいのは、「ROがあるから大丈夫」ではなく、「ROに到達する前に膜に優しい水に整える」ことが患者安全に直結する点です。臨床現場の紹介例でも、活性炭フィルター等でクロラミンや遊離塩素を除去してRO膜を保護し、より確実な透析液清浄化につなげる運用が述べられています。前処理の弱さは、装置のスペックではなく“日々の水質の揺れ”として現れるため、地味でも監視設計が重要になります。
参考:残留塩素(総塩素0.1 mg/L未満)など装置管理の根拠
https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/33-1/33-1_113.pdf
透析用水処理装置の熱水消毒・薬液消毒とバイオフィルム対策
透析用水処理装置の清浄度を長期で維持できるかは、消毒が「1回の殺菌」ではなく「バイオフィルム形成を抑え続ける運用」になっているかで決まります。透析液清浄化に関する技術的注意点として、配管や透析装置の洗浄消毒を薬剤の特徴や問題点を考慮して行い、バイオフィルム形成を防ぐよう努力すべきこと、さらに薬剤を組み合わせる検討にも言及があります。バイオフィルムは一度“住み着く”と、測定値が下がっても再燃しやすく、末端でのET上昇や周期的な逸脱として現れがちです。
熱水消毒は、薬剤残留の懸念が少なく、安全性が高いという現場メリットがあります。熱水消毒型透析用水作製装置の報告では、約90℃の熱水により配管の熱伝導を利用して細部まで消毒し、薬液消毒と比較してリンス工程分の節水が可能とされています。また、RO膜のみから開始した熱水消毒範囲を、ROタンクを含む範囲へ拡張する取り組みも示されており、「どこまで熱が届く設計か」が効果を左右することが分かります。
参考)https://www.ohishi-naika-clinic.jp/touseki_danwa/images/P-08.pdf
一方で薬液消毒にも役割があります。別資料では、ROとRO配管ラインは熱水消毒(85℃)を行い、AB粉末溶解装置は薬液(過酢酸)消毒を毎回行う、といった“部位別の最適化”が記載されています。ここが独自の工夫ポイントになりやすく、全系統を単一手段で済ませるより、汚染が起きやすい場所に合わせた組み合わせが合理的です。
参考)https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/27-1/27-1_4.pdf
参考:バイオフィルム対策の考え方(洗浄・消毒薬剤の特徴、組み合わせの示唆)
https://www.touseki-ikai.or.jp/htm/05_publish/dld_doc_public/33-1/33-1_167.pdf
透析用水処理装置の測定・採水点・アクションレベル設計
透析用水処理装置の管理で差がつくのは、装置構成そのものより「どこで採水し、どの頻度で、どう意思決定するか」の設計です。2016年版では、施設の汚染状況に合わせたアクションレベル設定が示され、さらに透析用水中濃度の年1回測定や、残留塩素を総塩素濃度で0.1 mg/L未満にする確認など、運用に踏み込んだ管理が述べられています。ここから逆算して、日常点検(残留塩素、圧力差、電導度)、定期検査(化学的汚染物質、生菌数、ET)を“同じ地点・同じ条件”で積み上げ、トレンド管理することが重要になります。
測定で起きやすい落とし穴も、あらかじめ共有しておくと事故予防につながります。
- 採水点が一定でない:RO直後は良好でも、タンク滞留や末端配管で再汚染することがあるため、複数点の設計が必要。
- 「基準未満=問題なし」になりやすい:基準未満でも上昇傾向なら、消毒条件や前処理の見直しで早期介入する(アクションレベル運用)。
- 測定頻度が実態と合わない:月次・週次・日次のどこに何を置くかは、施設規模や水源の揺れで最適解が変わる。
ここでの“意外な情報”として、熱水消毒の効果は温度だけでなく「タンクや配管を含む範囲設定」によって体感差が出る点が挙げられます。報告例では、熱水消毒範囲をROタンクまで含めたことが示され、RO膜単体の消毒から“系全体”へ広げる発想が清浄度の長期維持に寄与しうることが読み取れます。採水点を末端に置くほど、この設計思想の差が数値として見えやすくなります。
透析用水処理装置の独自視点:オンラインHDFと「補充液」発想のリスク管理
検索上位の一般解説ではROやETの説明で終わりがちですが、実務ではオンラインHDFの普及により「透析用水」から一段厳しい“補充液”品質を意識した上流管理が求められます。臨床施設の紹介では、ダブル逆浸透膜システムから作成された透析液の清浄度が、オンラインHDF条件となるISOが定めた補充用透析液の水質基準を満たす、といった記載があり、上流の水処理設計が治療モダリティに直結していることが示唆されています。つまり、同じ透析用水処理装置でも、治療の高度化に合わせて「求められる安定性」が変わるため、装置更新だけでなく運用設計(採水点、消毒範囲、冗長化、監視項目)もセットで見直す必要があります。
もう一つの独自視点は、「再汚染の起点」を“人のオペレーション”として捉えることです。たとえば、消毒は装置に搭載されていても、実施頻度が施設都合で伸びたり、部位ごとの手順が曖昧だと、清浄化は一気に崩れます。ガイドラインでも、メーカー推奨の方法で適切な濃度の薬液または熱水を用いて消毒を行うことが述べられており、装置任せではなく手順の標準化が品質の再現性を作ります。医療安全の観点では、担当者変更や夜間対応を想定し、誰がやっても同じ結果になるチェックリスト化が“水処理の事故予防策”になります。
参考)https://www.ja-ces.or.jp/10topics/guideline_Ver107b.pdf
参考:消毒をメーカー推奨で適切に行う、配管・給水ラインの考え方(透析液清浄化ガイドライン)