多発性骨髄腫腎と腎障害
多発性骨髄腫腎の診断と円柱腎症
多発性骨髄腫に合併する腎障害のうち、いわゆる「骨髄腫腎」は円柱腎症(cast nephropathy)とほぼ同義として扱われ、尿細管内の円柱形成を核とする病態として理解すると整理しやすくなります。
円柱腎症は“数週間単位で急速に腎機能が低下する”臨床像をとりやすく、蛋白尿に加えて高カルシウム血症が同時にみられることがあるため、紹介時点でAKI寄りの重症像になっていることも珍しくありません。
診断の実務では、M蛋白陽性という情報だけで「骨髄腫腎」と即断せず、骨髄での腫瘍性形質細胞増殖の裏付けと、腎障害のパターン(尿蛋白の質、進行速度、合併症)をセットで捉えるのが安全です。
多発性骨髄腫腎のFLCとM蛋白
血清遊離軽鎖(FLC)は、骨髄腫の診断・重症度評価に関わる中核データの一つで、involved/uninvolved FLC比が大きく逸脱する例は臨床的に重要です。
実地では「κ/λ比が100以上」など極端な偏りを示す場合、骨髄腫腎が強く疑われ治療選択につながる、という整理が提示されています。
ただし、FLC“だけ”で腎病理を決め打ちすると落とし穴があり、同じM蛋白関連でも糸球体優位の病変(アミロイド沈着や軽鎖沈着症など)では、腎機能低下が目立たず蛋白尿(ときにネフローゼ)が前面に出ることがある点を必ず頭に置きます。
多発性骨髄腫腎の腎生検と鑑別
「腎障害=円柱腎症」と決めつけないための切り札が腎生検で、円柱腎症では尿細管内castの所見に加えて免疫染色でκまたはλの単クローン性優位を確認できると診断が確定します。
臨床検査で鑑別のヒントになるのが尿蛋白分画で、アルブミン分画が10%以下ならBence Jones蛋白(軽鎖)主体を示唆し、アルブミン分画が30~40%以上なら糸球体病変(アミロイド沈着や軽鎖沈着症など)を疑う、という実務的な目安が示されています。
また、アミロイド合併が疑われる場合、染色(Congo red、国内ではDFS染色が代用されることがある)で沈着を確認し、「円柱腎症+アミロイド」という複合病態として治療反応性や予後を見立てる必要があります。
多発性骨髄腫腎の治療と支持療法
多発性骨髄腫で治療対象となる“症候性”の根拠は、CRABに代表される臓器障害(腎不全を含む)であり、腎障害はそれ自体が治療開始を正当化する重要なイベントです。
臨床のメッセージを一言にすると「原因となる単クローン性蛋白(とくに軽鎖)を短時間で下げる」と「腎前性・腎毒性の増悪因子を同時に除く」を並走させることで、腎機能回復の窓を逃さない、という戦略になります。
支持療法としては、脱水や高Caなど腎血流低下に直結する要因の補正、感染症・薬剤性腎障害の回避、骨病変治療薬の選択(腎障害でビスホスホネートが使いづらい状況ではデノスマブが選択肢になり得る、など)まで含めて“腎機能を守る設計”を組むことが求められます。
多発性骨髄腫腎の独自視点と病型推定
検索上位の解説は「円柱腎症=骨髄腫腎」を軸に語られがちですが、実務では“腎機能低下の速さ”と“蛋白尿の質(アルブミン比率)”を同時に見るだけで、初療の迷いが大きく減ります。
例えば、急速進行AKI+アルブミン分画が低い蛋白尿であれば円柱腎症を最優先に想定し、逆に腎機能が保たれたまま高度アルブミン尿・浮腫が前景なら糸球体病変(アミロイド合併を含む)に寄せて評価する、という“ベッドサイド推定アルゴリズム”が組めます。
さらに、同じ「多発性骨髄腫腎」と呼ばれてもアミロイド合併の有無で治療反応性や腎・生命予後が異なる、という点はチーム内の説明(腎臓内科・血液内科・看護・透析室)で特に役立つ視点です。
診断基準(IMWG)とCRAB(腎不全の定義を含む)がまとまっている(治療開始判断の根拠に便利)
日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン:多発性骨髄腫(2024年版)
骨髄腫腎(円柱腎症)とMGUS関連腎症の考え方、尿蛋白分画や腎生検所見など“腎臓側の実務”がまとまっている(鑑別と検査設計に便利)
日本医事新報:骨髄腫腎,M蛋白血症に伴う腎障害[私の治療]

多発性骨髄腫・全身性アミロイドーシスと腎障害の診断と治療〜腎臓内科医、血液内科医が知っておくべき基礎と臨床を症例から学ぶ