カテーテル固定具と固定方法
カテーテル固定具の目的と固定方法の基本
カテーテル固定具の本質的な目的は、カテーテルの「位置異常・移動・抜去」を防ぐだけでなく、挿入部周囲の皮膚損傷や汚染機会を減らし、結果として合併症リスクを下げることにあります。
特に血管内留置カテーテルでは、固定が不十分だとカテーテルがわずかに動き続け、刺入部周囲に微小な損傷が反復しやすく、そこから細菌定着が起きる土台ができやすい点が見落とされがちです。
固定方法は、(1)刺入部の被覆(フィルム/ガーゼなど)と、(2)ルート全体の張力を受け止める固定(テープ/固定具)の二段構えで考えると整理しやすいです。
参考)https://www.city.sapporo.jp/hospital/worker/infection_ctrl/documents/03_5converted.pdf
この二段構えが崩れる典型が「刺入部のフィルムだけでルートの牽引まで受けている」状態で、フィルム端の浮き→汗や浸出液の滞留→皮膚浸軟→剥離時損傷、という連鎖を招きます。
現場で共有しやすい“固定の合格条件”を、以下のように言語化しておくと教育が早くなります。
✅合格条件(例)
- ルートの重み・体動による張力が刺入部に直接かからない。
- 刺入部が観察でき、湿潤・出血・汚染・剥がれを早期発見できる。
- 剥離時の皮膚損傷リスク(スキンテア)を最小化できる。
これらは、透明フィルムが刺入部観察に有利である一方、汗や浸出液が多いと緩みやすいという長所短所を踏まえて運用することが前提になります。
カテーテル固定具と皮膚障害(MDRPU)リスク
固定具やテープは「医療関連機器」として皮膚に外力(圧迫・ずれ)を与え、医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)の原因になり得ます。
日本褥瘡学会のベストプラクティスでは、MDRPUの発生要因を「機器要因・個体要因・ケア要因」に整理し、皮膚の菲薄化、循環不全、浮腫、湿潤、突出部位などが重なると損傷が起きやすいことを示しています。
固定具まわりで臨床的に多いのは、圧迫よりも「ずれ+湿潤+剥離刺激」の複合で起きる皮膚障害です。
たとえば、発汗や浸出液で粘着面がふやけた状態で、強粘着テープを一気に剥がすと、表皮剥離が発生しやすく、刺入部に近いほど感染管理上も厄介になります。
MDRPU対策として重要なのは、固定を“強くする”発想ではなく、「外力低減ケア」として固定の構造を見直すことです。
具体的には、以下のような観点でアセスメントを回すと再現性が上がります。
- 皮膚側の条件:高齢、浮腫、低栄養、ステロイド外用歴、既存のスキンテアなど(皮膚の菲薄化を疑う)。
- ルート側の条件:ルートが長く重い、三方活栓など硬いパーツが皮膚に当たる、寝返りで引っ張られる。
- ケア側の条件:交換・観察の間隔が長い、剥離の手技が属人的、記録が曖昧。
カテーテル固定具と感染予防(ドレッシング材・交換)
刺入部管理では、透明・半透過性ドレッシング材は刺入部観察が容易という利点があり、運用設計の中心になりやすいです。
一方で、汗や出血・浸出液が多い状況では、定着細菌量の増加やドレッシングの緩み・はがれが生じやすいという注意点が明示されています。
ドレッシング交換の考え方は「定期交換ありき」ではなく、「湿潤・緩み・汚染など必要性が生じたら交換」という運用が現場にフィットしやすいです。
参考)【中心静脈カテーテル】消毒方法とドレッシング材の使い方・交換…
このとき、刺入部だけでなく周囲も消毒対象とし、消毒薬が乾燥してから貼付する、といった手順の要点がケア品質を左右します。
“意外に差が出る”のが、固定具・テープの貼り方よりも、貼付後の観察設計です。
日本褥瘡学会の枠組みでは、装着部の観察を最低2回/日という頻度で行い、圧迫兆候の早期発見につなげる考え方が示されています。
刺入部の感染兆候(発赤、疼痛、浸出液、臭気)と、皮膚障害兆候(浸軟、白色化、びらん、スキンテア)を同じ観察テンプレートに入れると、見落としが減ります。
カテーテル固定具の選択と固定方法(末梢・中心の考え方)
中心静脈カテーテル領域では、無縫合性固定器具(縫合しない固定デバイス)が、挿入部周辺の損傷を避けることで細菌定着が軽減される可能性がある、という指摘があります。
縫合固定が必要な状況でも、皮膚が脆弱な患者(例:新生児)では縫合の締めすぎで皮膚障害を起こさないよう注意喚起がされています。
末梢静脈カテーテル固定では、「固定力」だけでなく「肌へのやさしさ」を同時に満たす必要がある、という現場課題が明確に語られています。
参考)肌にやさしい末梢静脈カテーテル固定|3つの製品で肌ストレスを…
末梢では特に、ロック部分の局所圧(当たり)や、固定テープ剥離による皮膚損傷が問題になりやすく、クッション材やベーステープで負担を分散する発想が有効です。
ここでのポイントは、固定具のスペック比較ではなく、患者条件に合わせた“組み合わせ”の最適化です。
- 浮腫が強い:圧迫が上がりやすいので、固定具の辺縁が食い込まない設計、観察頻度を増やす。
- 発汗が多い:フィルム端の浮きが起点になりやすいので、剥がれ始点を作らない貼付、汚染時は躊躇なく交換。
- 皮膚菲薄:剥離刺激を減らすため、貼り替え回数を減らすのではなく「剥がし方」を標準化する。
カテーテル固定具の独自視点:固定方法は「張力の逃げ道」を作る
検索上位の記事では「固定をしっかり」「皮膚にやさしく」といった二項対立で語られがちですが、実際のトラブルは“張力の逃げ道がない”設計で起きることが多いです。
ルートが引っ張られたとき、その力を「刺入部」ではなく「刺入部から離れた支持点」で受け止めると、刺入部の微小な動き(ピストン運動)が減り、皮膚損傷と汚染機会の両方が下がりやすくなります。
この発想はMDRPUの外力低減ケア(圧迫やずれ力の低減)と整合し、固定の評価が“強さ”から“力学”へ移ります。
現場で実践しやすいチェックとして、次のようなミニテストが有効です。
- ルートを1〜2cmだけ軽く動かしたとき、刺入部周囲の皮膚が引っ張られて動くなら「張力が逃げていない」サイン。
- 三方活栓やコネクタが骨突出部に当たっていないか(当たるならクッションや位置変更を検討)。
- ドレッシング端の“浮き”があれば、そこが汗や汚染の入口になり得るので早期に再固定/交換判断へ。
最後に、教育・監査で効くのは記録の粒度です。
「固定具交換」「問題なし」だけではなく、最低限、(1)皮膚所見(発赤/浸軟/スキンテア)、(2)ドレッシング状態(乾燥/湿潤/浮き/汚染)、(3)ルート張力(あり/なし)を一行で残すと、改善サイクルが回りやすくなります。
参考:MDRPUの定義、発生要因、観察頻度(最低2回/日)などの実践的な枠組み
日本褥瘡学会「医療関連機器圧迫創傷の予防と管理(ベストプラクティス)」PDF

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