肩関節脱臼と整復とゼロポジション固定

肩関節脱臼と整復とゼロポジション

肩関節脱臼 整復 ゼロポジションの要点
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整復の前に除外すること

閉鎖整復は万能ではなく、骨折合併などで禁忌になり得ます。X線で骨性損傷を確認し、神経・血管所見(特に腋窩神経)を整復前後で記録します。

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ゼロポジションの本質

筋緊張が抜けやすい肢位を作り、力任せではなく「脱力+牽引+徐々に誘導」で整復を狙う考え方です。過剰な疼痛は筋防御を強めるため、声かけと鎮痛が成功率を左右します。

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整復後に差が出る固定

整復で終わりではなく、固定肢位と期間、再脱臼リスク評価、腱板・肩甲帯の再教育までを1セットで設計します。

肩関節脱臼の整復でゼロポジションを選ぶ条件

 

肩関節脱臼の大半は前方脱臼で、受傷肢位として外転・外旋を背景に発生しやすいとされます。こうした前方脱臼では、患者が強い疼痛と筋防御を伴いやすく、「いかに筋緊張を抜くか」が整復手技の成否に直結します。整復法は複数存在し、牽引・テコ・肩甲骨操作などの要素を組み合わせた多様な手技が文献上整理されていますが、最終的には患者が取れる体位と疼痛コントロールの程度に応じて選択するのが現実的です。

A systematic and technical guide on how to reduce a shoulder dislocation - PMC
Our objective is to provide a systematic and technical guide on how to reduce a shoulder dislocation, based on technique...

ゼロポジション挙上(いわゆるMilch系の挙上・外転方向へ持ち上げる流れを含む臨床手技)は、「侵襲性を抑え、徐々に外転させて筋バランスが一定になる肢位へ導くと整復されやすい」という発想に立ちます。実地臨床でも、まず低侵襲なゼロポジション挙上法を試し、難しければ別手技へ切り替える運用が紹介されています。ポイントは“力で押し込む”より、牽引を保ちながら脱力を引き出し、ゆっくり肢位を作ることです。

肩の脱臼~再脱臼の予防が重要~

一方で、閉鎖整復が適さない状況を初期に見落とすと、整復操作そのものが合併損傷を増悪させうる点は重要です。総説レベルでも、骨折合併(例:上腕骨頚部骨折など)がある場合は閉鎖整復の禁忌となり得るため、原則として画像で除外することが推奨されています。救急の現場では「とりあえず整復」になりやすいですが、ゼロポジションの前に“整復してよい肩か”を必ず確認します。

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✅実務でのチェック(最低限)

  • 整復前:末梢循環(橈骨動脈、皮膚色)、感覚(腋窩神経領域)、運動、疼痛の部位と性状。
  • X線:脱臼方向、骨折合併の有無(特に頚部・大結節)。
  • 整復後:同じ神経・血管所見を再評価し、整復位確認の画像。

肩関節脱臼の整復におけるゼロポジション挙上の手順

ゼロポジション挙上法の説明として、仰臥位で患肢を遠位軸方向に牽引しつつ、上肢を脱力させ、肩関節を徐々に外転させてゼロポジションへ持っていく流れが紹介されています。ゼロポジションは約140°の挙上に相当するイメージ(“タクシーを呼ぶときに手を上げる姿勢”)として提示されることもあり、患者への説明に使いやすい比喩です。さらに、声かけをしながら患側上肢を軽く揺らし、ゆっくりゼロポジションへ近づけ、牽引を徐々に強めると整復できることが多い、という“コツ”が記載されています。

肩の脱臼~再脱臼の予防が重要~

ここで医療従事者向けに強調したいのは、「ゼロポジション=角度」ではなく、「筋緊張を下げて整復のための自由度を作る“過程”」として捉えることです。総説では、整復手技は多数あり、患者の体位(座位・腹臥位・仰臥位)や術者の好み、患者がその体位を保てるかで選択が分かれると整理されています。つまりゼロポジションに持っていく途中で疼痛が増悪し筋防御が強くなるなら、鎮痛・鎮静の追加や別手技へ切り替える判断が合理的です。

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🧠“意外と見落とす”臨床メモ

  • 整復の失敗は「手技が悪い」より「脱力が得られていない」ことが多く、鎮痛設計と説明の質が成功率を左右します。
  • 整復音(クリック)に頼りすぎず、疼痛軽減・肩峰下の形態・可動の変化と画像で評価します。
  • ゼロポジションへ誘導中に強い抵抗が続く場合、骨折合併や関節内介在を再度疑い、無理をしない判断が安全です。

肩関節脱臼の整復後のゼロポジション固定と期間

整復後の固定は再脱臼予防の中心であり、一般的に3~4週の固定が行われる、という説明が臨床サイトで整理されています。特に初回脱臼が若年であるほど再脱臼率が高い点が強調され、若年者では6週固定が望ましいとする報告があることにも言及されています。ここは施設方針や患者背景で揺れやすい領域ですが、「整復後に何週固定し、どのタイミングで可動域訓練を開始するか」を曖昧にすると再発と拘縮の両方のリスクが上がります。

肩の脱臼~再脱臼の予防が重要~

ゼロポジション固定(外転位保持)に関しては、外転装具として“ゼロポジション型”が流通しており、腱板断裂や肩関節術後などでゼロポジション保持を目的に使用される製品カテゴリが存在します。つまり「整復操作としてのゼロポジション」と「固定肢位としてのゼロポジション」は臨床上つながっており、整復後の疼痛軽減や軟部組織保護の観点で、外転位保持が選択肢になり得ます。ただし、固定肢位の選択は再脱臼予防だけでなく、日常生活での耐容性、皮膚トラブル、神経症状の出現(しびれ等)にも配慮が必要です。

肩装具 | フクイ株式会社

📌固定設計の実務ポイント

  • 固定肢位:三角巾・バストバンド(内旋位固定)だけでなく、状況により外転装具も検討。
  • 固定期間:年齢、スポーツ、再脱臼歴、骨性欠損疑い、患者の遵守可能性で調整。
  • フォロー:しびれ、皮膚発赤、夜間痛、手指浮腫などを説明し、早期受診基準を明確化。

参考:整復後固定の考え方(固定期間・若年者の再脱臼リスク、腱板機能の重要性)

肩の脱臼~再脱臼の予防が重要~

肩関節脱臼の整復後に重要な腱板リハビリ

整復後は固定で組織修復を促すだけでなく、再脱臼予防として上腕骨頭を肩甲骨へ引き寄せる腱板機能の回復が重要、と整理されています。さらに肩関節の安定には肩甲骨の動きと肩甲上腕リズム(協調運動)が必要で、スポーツ外傷対応が可能な理学療法士の関与が推奨される、という実務的な提案もあります。医療従事者としては、固定期間中から「どの運動をどこまで許可するか(手指・肘・肩甲帯)」を指示し、固定終了後に“いきなり肩を回す”流れにならない導線を作るのが安全です。

肩の脱臼~再脱臼の予防が重要~

また、整復手技に関する総説では、整復は成功率や疼痛だけで単純比較しにくく、患者ごとの条件で最適手技が変わるため、複数の整復法を知る重要性が強調されています。これはリハビリにも同様に当てはまり、「固定を守れるか」「競技復帰を急ぐか」「既往で不安定性が強いか」などでプログラムは変わります。整復がうまくいった症例ほど“その後の説明が薄くなる”落とし穴があり、再脱臼予防の主戦場は実は整復後の数週間です。

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🏃リハビリで押さえる項目(例)

  • 固定中:手指・手関節・肘の可動、浮腫管理、肩甲帯の軽い可動(医師指示範囲)。
  • 固定解除後:肩の他動〜自動介助、疼痛のない範囲で可動域を回復。
  • 再発予防:腱板(特に外旋筋群)と肩甲骨周囲筋の協調、恐怖心(apprehension)への段階的介入。

肩関節脱臼の整復でゼロポジションを“失敗”させない独自視点

検索上位の解説は手順の分かりやすさが強みですが、現場では「ゼロポジションに持っていく前段階」で勝負が決まることが少なくありません。具体的には、患者の不安が強いと呼吸が浅くなり、僧帽筋・大胸筋・上腕二頭筋などの緊張が抜けず、牽引に対して防御性収縮が入ります。総説でも、患者が所定の体位を保てるかが手技選択に影響すると述べられており、体位保持を妨げる不安・痛みをどう下げるかは“手技の一部”です。

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そこで提案したいのが、ゼロポジション整復を「説明スクリプト+微小な誘導+観察」のセットにする運用です。例えば、ゼロポジション挙上法の“コツ”として紹介されるように、話しかけながら軽く患側上肢を揺らし、ゆっくりゼロポジションへ導く、という要素は単なるテクニックではなく、患者の恐怖と筋緊張を下げる介入でもあります。整復のプロセスを言語化し、「今は引っ張らない」「今は角度を少し変えるだけ」「痛みが増えたら止める」を宣言すると、筋防御が下がりやすいのを経験するはずです。

肩の脱臼~再脱臼の予防が重要~

🗣️使える説明例(現場向け)

  • 「今から元の位置に“戻します”が、力で戻すのではなく、肩の力を抜いてもらうほど楽に入ります。」
  • 「痛みが強くなる動きはしません。少しでも怖かったら合図してください。こちらが止めます。」
  • 「呼吸を止めないでください。息を吐くタイミングで肩がゆるみます。」

参考:整復法が多数あり、患者の体位・耐容性で手技選択が変わる点(複数手技を知る重要性)

https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5154590/

ガジェリー肩関節外科学 原著第2版 初診からリハビリテーションまで