真菌性関節炎の診断と治療
真菌性関節炎の原因とリスク因子(カンジダ・アスペルギルス)
真菌性関節炎は稀ですが重篤化し得る感染性関節炎で、人工関節(PJI)だけでなく、自然関節(native joint)にも起こり得ます。
Mishra A, et al. Fungal arthritis: A challenging clinical entity. World J Orthop. 2023では、近年の侵襲性真菌症増加とともに本疾患も問題になり、診断・治療が難しい領域であることが整理されています。
原因真菌はCandida属が多く、次いでAspergillus属などの非カンジダ真菌も関与します。特にCandidaは、菌血症(candidemia)後に「数か月〜年単位の潜伏期間」を経て骨・関節病変として出現し得る点が落とし穴です(すでに血流感染は治った、と見なしてしまう)。
リスク因子は、免疫抑制(ステロイド、化学療法、移植関連)、糖尿病、長期の広域抗菌薬、中心静脈カテーテル、血液透析、人工物留置、関節穿刺や関節内注射、手術、外傷などが典型です。さらに、関節リウマチなど「基礎に関節疾患がある関節」は感染に脆弱になり得るため、慢性関節炎の増悪として紛れ込む可能性があります。
意外に見落とされやすいのは「健常者の単関節炎」として始まることがある点です。若年健常男性のカンジダ膝関節症の症例報告では、β-D-グルカンが陰性でも、関節液や関節液培養で真菌が出た場合に汚染(contamination)と即断すべきでない、という臨床的メッセージが明確に述べられています。
真菌性関節炎の症状と画像(関節液・MRI)
症状は痛み、腫脹、熱感、可動域制限、関節液貯留が中心で、発熱や全身炎症反応は必ずしも強くありません。細菌性関節炎のような急激な経過を想定していると、「ゆっくり悪化する関節炎」を感染として扱う判断が遅れます。
画像は病期や菌種で多彩で、単純X線は初期に非特異的なことがあり、MRIで滑膜炎、関節液貯留、骨髄浮腫、隣接骨への波及(骨髄炎)などを拾うことが実臨床では多いです。真菌性骨髄炎では、典型的な「骨膜反応」や「新生骨形成」が乏しいことが示唆所見になり得る、という指摘もあります(ただし決め手ではありません)。
鑑別は広く、細菌性関節炎、結核性関節炎、サルコイドーシス、腫瘍性病変などが挙がります。特に病理で肉芽腫性炎症を見た場合、結核と真菌の双方を念頭に追加検査(培養条件、染色、抗原検査)を組み直す必要があります。
真菌性関節炎の検査と診断(β-D-グルカン・培養)
真菌性関節炎の確定診断は、基本的に関節液・骨・組織の培養または生検(病理)で真菌を証明することです。血清マーカー(β-D-グルカン等)は「迅速に疑う」助けになりますが、菌種同定や局在確定には限界があるため、補助診断として位置づけます。
培養の実務で重要なのは、糸状菌などは発育が遅く、Sabouraud培地での培養は「4週間は陰性と判定しない」ことが推奨されている点です。つまり「数日で培養陰性だから否定」として抗真菌薬や外科的方針を後ろ倒しにすると、関節破壊が進むリスクが上がります。
β-D-グルカンは多くの真菌で陽性化し得る一方、Cryptococcus(莢膜の影響など)やムコール目(接合菌)では陰性になり得る、という「陰性だから真菌を否定できない」側面があります。また、透析やガーゼ使用、アルブミン/免疫グロブリン投与、特定抗菌薬などで偽陽性が起こり得るため、検査前確率(背景)と合わせて解釈します。
Mishra A, et al. 2023 CRCグループ:深在性真菌症の検査(β-D-グルカンの特徴と偽陽性)
現場で役立つチェック項目(例)を挙げます。
✅ 関節穿刺前に確認したいこと
・🩺 免疫抑制(ステロイド、抗TNF、移植、化学療法)
・💉 関節内注射、最近の手術、穿刺、外傷
・🧴 抗菌薬投与歴(培養陰性化の要因)
・🧫 血液培養の同時提出(播種性の見逃し防止)
・📌 可能なら関節液量を多めに確保(真菌・抗酸菌培養のため)
真菌性関節炎の治療(抗真菌薬・デブリドマン)
治療は「抗真菌薬」単独ではなく、洗浄・デブリドマンなどの外科的介入と組み合わせるのが基本戦略です。特に自然関節の真菌性関節炎でも、関節ドレナージやデブリドマンが必要になることが多いと整理されています。
Candida関節炎では、フルコナゾールを中心に、エキノキャンディン系→フルコナゾールへのstep-downなどが選択肢になります。レビューでは、Candidaの化膿性関節炎に対して「フルコナゾール6週間」または「エキノキャンディン2週間+経口フルコナゾール少なくとも4週間」といった治療期間の枠組みが示されています(臨床・画像での改善を踏まえて調整が必要)。
Aspergillusではボリコナゾールが中心になり得て、外科的に感染巣を減量することで薬剤移行が改善する、という考え方が重要です。さらに、人工関節感染(PJI)では二期的再置換+長期抗真菌薬という「整形外科・感染症内科・検査部のチーム医療」を前提とする難治戦略が必要になります。
実務の注意点として、抗真菌薬は薬物相互作用(特にアゾール系)や腎機能、肝機能を見ながら投与設計が必要です。アムホテリシンBは有効な選択肢ですが腎毒性や電解質異常などの副作用が問題になりやすく、可能なら安全性の高い薬剤(アゾール、エキノキャンディン)をどう組むかが臨床の腕の見せ所になります。
真菌性関節炎の独自視点(検査オーダーと培養陰性の再設計)
検索上位の記事では「症状・原因・治療」の総論に寄りがちですが、現場で差がつくのは“培養陰性だった後の動き”です。真菌性関節炎は、通常の塗抹や一般培養が陰性でも否定できず、特に糸状菌では培養の時間軸が長いため、陰性結果の受け取り方が重要になります。
例えば、抗菌薬開始後に穿刺した関節液は細菌培養が陰性化しやすく、そこに真菌が少量混在していると「偶然の汚染」と片付けられがちです。しかし、前述の症例報告が強調する通り、関節液培養で真菌が出たらcontaminationと即断せず、臨床像と照合しながら再穿刺・再培養、組織生検、培養期間延長など“検査計画の再設計”が必要です。
また、β-D-グルカンは「上がれば疑いは強まる」一方で、偽陽性が多い集団(ICU、透析、血液製剤投与など)では“陽性だから治療開始”ではなく、どの検体で確定するか(関節液、血液、組織)を先に決めると診療がぶれにくくなります。陰性でもCryptococcusやムコールを否定できない点を含め、マーカー結果を「確率を動かす情報」として使うのがコツです。
CRCグループ:深在性真菌症の検査(β-D-グルカンの特徴と注意点) Mishra A, et al. 2023
最後に、検査部・整形外科・感染症内科で共有しておくと有用な「運用の型」を例示します。
🧩 運用テンプレ(例)
・🧫 「真菌培養も依頼」だけでなく「陰性判定までの培養期間」を確認する(糸状菌は4週)。
・🧪 β-D-グルカンは、透析・ガーゼ・血液製剤・薬剤などの偽陽性要因を同じオーダー画面でチェックする(解釈の質が上がる)。
・🧠 「慢性炎症の増悪」に見えるケースほど、穿刺の再実施や滑膜生検を早めに検討する(確定診断を急ぐ)。
参考:β-D-グルカンの基礎(偽陽性・陰性になりやすい真菌、感度特異度の目安)
参考:真菌性関節炎の総説(診断は培養・生検が原則、培養は4週まで陰性判定しない、治療は外科+長期抗真菌薬)