膝靱帯損傷 治療と手術と保存療法

膝靱帯損傷 治療

膝靱帯損傷の治療を決める要点
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保存療法と手術療法の分岐

損傷部位、膝の不安定性、半月板損傷の有無、スポーツ等への復帰目標を総合して方針を決めます。

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装具とリハビリが軸

装具で制動しつつ、可動域・筋力・動作を段階的に戻して「安定性」を獲得します。

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復帰は時間より基準

スポーツ復帰は期間だけでなく、機能テストや症状(腫れ・疼痛・可動域)を満たして判断します。

膝靱帯損傷 治療の保存療法:装具とリハビリの基本

 

膝靱帯損傷の治療は、手術以外の治療(保存療法)と手術療法に大別され、損傷部位・程度・半月板損傷の有無・不安定性・スポーツ等への復帰を含めて総合的に判断されます。膝の靱帯損傷の保存療法では、装具による固定(制動)を行いながら、痛みや組織回復に合わせてリハビリを進め、筋力や可動域を改善し、機能的な安定性を獲得するのが基本線です。

保存療法で臨床的に重要なのは「安静にし続ける」ことではなく、急性期の炎症や内出血が強い時期は無理に動かして悪化させない一方で、関節が固まる・筋力が落ちるリスクを見越して負荷を調整する点です。急性期はアイシングなどの消炎、松葉杖の指導、必要に応じた物理療法(電気治療・超音波治療など)が候補になり、その後は可動域運動・筋力訓練・バランス練習や動作再学習へ軸足が移ります。

装具療法は、膝の可動域を制限したり、ぶれ(不安定性)を制動したりして靱帯への負担を軽減する目的で、損傷の部位や程度に応じて種類が選ばれます。現場では「痛みが落ち着いた=治った」と誤解されやすいため、患者説明では“痛みが引いても不安定性が残れば動作の質が崩れ、二次損傷(半月板損傷など)へつながり得る”という観点で、装具と運動療法の役割を言語化しておくとコミュニケーションが安定します。

また、膝関節足関節や股関節の影響を強く受けるため、膝だけを局所的に見ず、連鎖(運動連鎖)として評価・介入する方が再発予防に直結しやすい点も押さえたいところです。保存療法中は「靱帯に負担のかかりにくい動作」を学習することが再受傷の抑制につながり、代表例としてknee-in toe out(膝が内側に入る動作)は靱帯損傷を引き起こしやすい動きとして知られています。

なお、保存療法の予後は損傷程度に左右されますが、一般論として靱帯機能が回復してくる時期が示される一方、前十字靱帯損傷では保存療法でのスポーツ復帰が厳しいことが多い、という位置づけも臨床情報として共有されています。

膝靱帯損傷 治療の手術:靱帯再建術と靱帯縫合術の考え方

膝靱帯損傷の治療で手術が検討される代表は、前十字靱帯(ACL)や後十字靱帯(PCL)損傷に対する「靱帯再建術」です。これは“切れた靱帯をそのまま縫い合わせて元通りにする”というより、組織学的・機能的に安定性を再獲得させるための再建という発想に近く、術後リハビリまで含めて治療計画が組まれます。

一方、内側側副靱帯(MCL)単独損傷では手術が行われることは少ないとされ、他靱帯との複合損傷など特定の状況で「靱帯縫合術(切れてしまった靱帯を縫い合わせる手術)」が行われる、という整理が臨床説明として有用です。ここで重要なのは、同じ「膝靱帯損傷」でも、靱帯が関節内にあるか(血流の乏しさを含む環境)や、残存する不安定性の質によって、治療の勝ち筋が変わる点です。

例えば、スポーツなどで受傷頻度が比較的高い前十字靱帯損傷は、関節内に位置し血流に乏しいため原則として自然治癒が望めないという考え方があり、スポーツ復帰を目標にする場合は早期の手術が一般的とされています。ただし、スポーツを行わない場合や高齢の場合など社会的背景を考慮して保存療法を選択することもあるため、治療選択は「画像」だけでなく「生活目標」を含めた意思決定が核になります。

また、膝の不安定性が残ると軟骨や関節の変性が起こりやすくなるため、将来の変性リスクを含めて手術療法が選ばれることが増えてきた、という臨床上の潮流も患者説明の土台になります(もちろん個別の適応判断が前提です)。

膝靱帯損傷 治療のリハビリ:術後・保存の共通目標と復帰判断

膝靱帯損傷の治療は、保存療法でも手術療法でも、最終アウトカムは「痛みがない」だけではなく「機能的な安定性」と「目的動作の再獲得」です。膝の靱帯損傷では、手術後のリハビリは低下した筋力や関節の柔軟性を回復させ、早期に日常生活を自立させ、社会復帰(スポーツ復帰)を目指す位置づけで、手術した靱帯に適切な負担をかけながら安全に進めるとされています。さらに、スポーツ復帰には手術から半年〜1年が必要となる、といった時間軸も共有されることが多いです。

ただ、医療従事者向けに押さえておきたいのは、近年は「術後◯か月」という時間ベースだけでなく、機能テストや症状・心理面も含めた基準(criterion-based)で復帰判断を組み立てる考え方が広がっている点です。ACL領域では、復帰判断においてROMの正常化、疼痛・腫脹(effusion)のコントロールに加え、筋力やホップなどの機能テスト、さらに患者報告アウトカムや心理的準備性(kinesiophobiaなど)も追跡すべき、という趣旨が整理されています。

実務では、復帰の議論を「医師の許可」だけに閉じず、理学療法士が復帰意思決定に関与する、テストが実施される、といった運用設計が再受傷リスクの観点から重要になります。実際、ピボットスポーツ選手のACL再建後の実態として、リハビリフォローが9か月未満で終了する例が少なくないこと、身体機能テストが半数程度にとどまることなどが報告されており、支援体制の設計そのものがアウトカムに影響し得る、という“仕組みの問題”が見えてきます。

また、治療の説明では「復帰=競技復帰」だけでなく、参加復帰・パフォーマンス復帰という段階があることを明確化すると、患者の焦りを抑えつつ、安全側のリハビリ計画を合意しやすくなります。復帰の現場では、腫れがぶり返す、膝崩れが残る、恐怖心が強い、といった“医学的には軽視されがちなサイン”が、実際の再受傷や離脱の引き金になるため、症状・機能・心理の3点セットでモニタリングする発想が有効です。

論文として、ACLリハビリと復帰判断は「時間経過」より「基準達成」を強調しており、臨床プロトコルの説明資料づくりにも引用しやすい内容です。

Anterior Cruciate Ligament Rehabilitation and Return to Sport(PMC)

膝靱帯損傷 治療の部位別ポイント:前十字靱帯・後十字靱帯・内側側副靱帯

膝靱帯損傷の治療を部位別に理解すると、患者説明の一貫性が上がり、紹介・連携のタイミングも作りやすくなります。前十字靱帯は関節内で血流が乏しいという背景から自然治癒が望めないとされ、スポーツ復帰を目標とするケースでは早期の手術が一般的、という整理が臨床で頻用されます。これは“競技者だから手術”という単純化ではなく、「要求される動作(切り返し・ジャンプ着地など)に対し不安定性が許容されない」ことが本質です。

後十字靱帯や内側側副靱帯は、前十字靱帯に比べて不安定感が小さいこと、比較的血流のよい場所にあり修復が行われやすいとされることから、手術を行わず保存療法が選択されることもある、と説明されます。ここでの臨床の勘所は、同じ保存療法でも「装具で何を制動し、どの動作でストレスがかかるのか」を部位に合わせて具体化することです。たとえば患者が階段や立ち上がりで不安を訴える場合、単なる筋力不足ではなく、脛骨の前方移動や回旋ストレスを無意識に避ける代償動作が絡むことがあります。

また、半月板損傷の有無は治療戦略を変える重要因子であり、膝靱帯損傷の治療は合併損傷を含めた“膝関節全体のマネジメント”として捉える必要があります。関節の不安定性が残存すると軟骨や関節の変性が起こりやすくなる、という説明は、患者が「今は困っていないから放置したい」と感じている場合の意思決定支援としても機能します。

権威性のある国内情報として、ACL損傷の診療ガイドラインは日本整形外科学会と関連学会により作成されており、医療者向けの方針確認に有用です(全文は二次出版として案内されています)。ACL診療ガイドラインの案内:Minds「前十字靱帯(ACL)損傷」英語版診療ガイドライン

膝靱帯損傷 治療の独自視点:リハビリ脱落と再受傷を防ぐ説明設計

膝靱帯損傷の治療で見落とされやすいのが、「医学的に正しい計画」より「継続できる設計」がアウトカムを左右する、という点です。ACL再建後の報告では、ピボットスポーツ選手のリハビリが9か月未満で終了する割合が高いこと、復帰判断に身体機能テストが十分に使われないことが示されており、治療成績はプロトコルだけでなく運用(通院継続、評価実施、意思決定の関与者)に依存しやすいことが分かります。ここから逆算すると、初期説明の段階で「いつまで通うか」ではなく「何ができるようになったら次へ進むか」を合意しておくことが、脱落予防のコアになります。

具体策としては、患者向け説明資料に以下を明記すると、現場の齟齬が減ります。

・📌「腫れ(関節水腫)」「疼痛」「可動域」「筋力」「動作テスト」のどれが復帰条件か

・📌「参加復帰」と「パフォーマンス復帰」は別物で、急ぐほど再受傷が増える可能性があること

・📌装具の役割は“安心のため”だけでなく“靱帯に負担がかかる動きの制動”であること

この“説明設計”は検索上位の一般解説には出にくいですが、チーム医療の現場では極めて実務的です。

また、患者の恐怖心や「もう一度切れるのでは」という認知が動作の硬さ(防御性収縮)を生み、結果として膝周囲の負担を増やす悪循環に入ることがあります。ACLリハビリ領域では心理的要因(kinesiophobiaなど)も復帰判断に含めて追跡すべき、と整理されており、心理面は“気持ちの問題”ではなく“再受傷リスク管理の変数”として扱うのが医療者向けには重要です。

実務に落とすなら、外来・リハビリ・トレーナー(該当する場合)の間で、復帰の判断基準と評価タイミングを共通言語化することが最も効果的です。復帰に関する実態報告として参照しやすい論文:JOSPT Open:ACL再建からピボットスポーツ復帰の意思決定と実態

参考:保存療法と手術療法の全体像、装具療法・リハビリの進め方、スポーツ復帰までの目安(半年〜1年)がまとまっている

いとう関節鏡・スポーツクリニック「膝の靱帯損傷の治療について」

前十字靱帯(ACL)損傷診療ガイドライン2019(改訂第3版)