V型内斜視と下斜筋過動と水平筋附着部異常

V型内斜視と下斜筋過動

V型内斜視の要点
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定義(A-V型斜視)

上方視で内斜視角が大きくなるのがV型内斜視。水平斜視角が上下方視で変動する「A-V型斜視」の一つとして扱う。

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診断のコア

上下方視でプリズムカバーテストを行い、上方視と下方視の差(A-Vパタンの量)を評価する。

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原因は1つでない

下斜筋過動だけでなく、水平筋附着部異常が関与し、術前の「斜筋機能異常」が見かけ上の可能性もある。


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V型内斜視の診断基準とプリズムカバーテスト

V型内斜視は、眼位を正面視から上方視・下方視へ移したときに水平斜視角が変化するA-V型斜視の一型として整理すると理解しやすいです。A-V型斜視は「一眼位から上方視および下方視に移した際に水平斜視角に変化を認めるもの」とされ、臨床ではA-V型斜視あるいはA-V現象として扱われます。

診断の実務では、上方視・下方視それぞれ一定角度の注視位でプリズムカバーテストを行い、上下での水平偏位差(いわゆるパタン量)を数値化します。A-V型斜視の手術例検討では、上方視20°と下方視20°でプリズムカバーテストにより斜視角を測定し、「10Δ以上の差」をA-V型斜視の診断基準として採用した報告があります(小児では30°が難しい、差が小さくても手術所見で異常が多い、など臨床的理由を含む)。

V型内斜視に限って言えば、「上方視で内斜視角が大きい」という特徴は国家レベルの資料でも明記されており、定義の取り違え(V型外斜視と混同する等)を防ぐため、診療録にも“上方視でET増大”を明示するのが安全です。

【実務のポイント(外来フロー例)】

✅ 9方向むき眼位(あるいは最低でも上方視・正面視・下方視)で眼位を記録する。

✅ プリズムカバーテストは遠見・近見の両方で行い、パタン量が距離で変わるかも確認する(術式選択の材料になる)。

✅ 眼球運動で下斜筋過動(上転時の過上転)や上斜筋不全(内転下転低下)など、斜筋機能異常の“見え方”も同時に評価する。

V型内斜視と下斜筋過動の病態生理

A-V型斜視の病因は単一では説明しにくく、斜筋機能異常を中心に、解剖学的異常、水平筋や垂直筋の要素などが複合的に関与する、と整理されることが多いです。

その中でV型パタンでは、従来の報告通り「下斜筋過動を高率に認める」ことが示されており、V型内斜視でも下斜筋過動が臨床像の中心に見えるケースが少なくありません。

一方で注意点として、術前に下斜筋過動のように見えても、真の下斜筋過動だけでなく、後述する水平筋附着部異常などで“下斜筋過動様”の所見(見かけ上)を作っている可能性があることが、手術所見から示唆されています。

【現場で起きやすい落とし穴】

  • 「V型=下斜筋過動」と短絡して両側下斜筋だけを手術対象に決めてしまう。
  • 眼位のパタン量(上下差)より、眼球運動の印象(過動の見た目)を優先しすぎる。
  • “過動”の背景に、水平筋付着の上下偏位がある可能性を術前に想定しない。

V型内斜視と水平筋附着部異常の頻度

A-V型斜視の手術例を対象に、水平筋附着部異常と斜筋機能異常を調べた検討では、A-V型斜視141名のうち水平筋附着部異常を70名(49.6%)に認めたと報告されています。

さらに型別の内訳としてV型内斜視(V型ET)は40名中21名に水平筋附着部異常が見られた(52.5%)と記載されており、V型内斜視でも「付着部異常が珍しくない」ことが数字で確認できます。

付着部異常の所見としては、A型では内直筋下方偏位+外直筋上方偏位、V型では内直筋上方偏位+外直筋下方偏位が多いとされ、しかもこの偏位方向は理論的にA-Vパタンを生じる機序と一致し、逆方向の偏位例はなかったと報告されています。

【意外と重要な臨床的含意】

  • 付着部偏位は「半筋幅までの軽度」が多い一方で、水平筋附着部異常のみでも上下方視間の差が大きいA-V型斜視を示すことがある、という点がポイントです(軽度だから無視、が危険)。

    参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6763878/

  • つまり“見た目が軽い”所見でも、パタンの成因としては効いている可能性があります。

V型内斜視の手術設計:trick operationとperilimbal approach

A-V型斜視では、斜筋手術だけでなく、水平筋付着部を垂直方向へずらす手技(いわゆるtrick operation)が治療要素として登場します。水平筋附着部異常を認めた症例に対し、偏位した附着部を上下に移動縫着するtrick operationを施行し、変動が大きい例や斜筋過動が強い例には斜筋減弱術を併用した、という治療戦略が報告されています。

ここで医療従事者として押さえたいのは、「術前に斜筋過動と診断された中に、水平筋附着部異常による見かけ上の斜筋機能異常が含まれる可能性がある」という指摘です(だから術式決定に際して手術時の付着部確認が重要になる)。

その確認のための手術手技として、水平筋付着の直視下評価にはfornix incisionよりもperilimbal approachが適切と述べられており、術前計画だけで完結しない“術中情報で方針が揺れる領域”である点が、V型内斜視の難しさでもあります。

【手術設計でのチェック項目(例)】

🔧 上下方視の差(パタン量)がどれくらいか(10Δ程度か、さらに大きいか)。

🔧 下斜筋過動が“真の過動”か、“付着部異常で模倣”されていないか(術中所見も含め再評価)。

🔧 水平筋附着部の偏位があれば、trick operationを選択肢に入れる。

V型内斜視の独自視点:見かけの下斜筋過動を疑う術前サイン

V型内斜視では「下斜筋過動が多い」という一般論が強い一方で、手術所見からは、水平筋附着部異常が斜筋機能異常を“模倣”し得ることが示されています。つまり、外来で下斜筋過動が目立つ症例ほど、必ずしも下斜筋だけに原因を集約しない姿勢が重要になります。

独自視点として、術前に“見かけの下斜筋過動”を疑うサインを、検査の並び替えで拾いにいく方法があります。具体的には、①眼球運動で過動が見えるのに、②上下方視のパタン量が思ったほど大きくない/距離と近見でパタン量の挙動が揃わない、③頭位(あごの上げ下げなど)と訴え(複視・眼精疲労)に乖離がある、など「所見の整合性が崩れる」場面です。

もちろんこれは確定診断ではありませんが、「術中に水平筋附着部を確認しないと治療方針を誤る可能性がある」という報告の文脈と整合するため、術前カンファレンスで“付着部異常の可能性”を明示しておくこと自体が、チーム医療上の安全策になります。

参考:A-V型斜視(V型内斜視を含む)の特徴として「V型内斜視は上方視で内斜視角が大きい」など、試験的に要点整理された記載。

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/dl/tp250428-10b_01.pdf

参考:A-V型斜視における水平筋附着部異常(頻度49.6%)や、斜筋機能異常が“見かけ上”生じ得ること、perilimbal approachが付着部確認に有利とする議論。

https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/95_698.pdf