頚部眼振と頸性めまい
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頚部眼振の定義と眼振観察
頚部眼振という語は臨床現場で「頸部の運動・肢位・負荷に関連して誘発/増悪する眼振」を指して用いられることが多い一方、標準化された単一の疾患名というより“所見のラベル”として扱う方が安全です。
眼振評価では、まず非刺激検査としての眼振検査(注視眼振検査、非注視下の自発眼振・頭位眼振・頭位変換眼振・頭振り眼振など)を系統立てて行い、どの条件で出るかを揃えて記録します。
特に注視眼振検査は、患者に正面・左右上下30度を30秒以上注視させて眼振の有無をみる手順が示されており、「頚部要因」と決め打ちする前に中枢性を含む広い鑑別の入口になります。
観察の実務上は、肉眼だけでなくフレンツェル眼鏡や赤外線CCDなど“非注視化”できる観察条件を作ることで、固視による抑制を避けて所見を拾いやすくします。
ただし、診察の基本として「正常でも数発の眼振がみられる」状況があるため、終末注視での数発のみを過大評価しない注意点も共有されています。
参考)医学書院/週刊医学界新聞 【〔連載〕OSCEなんてこわくない…
記録は「方向(右/左/上/下)」「成分」「誘発条件」「持続」「随伴症状(悪心・頭痛など)」をセットにし、再現性があるかを複数回で確認すると、後の鑑別(BPPV・中枢・頸性)でブレが減ります。
頚部眼振と頸椎捻転テスト
頸椎捻転テスト(cervical torsion test)は、頭部を空間に固定したまま体幹を回旋させ、頸部の捻転入力でめまい・眼振が誘発されるかをみる考え方の検査です。
理学療法領域では、BPPVとの比較で頸原性めまいの診断に有用性が示唆された一方、検査中の眼振が頚眼反射の活性化により健常者でも見られ得ること、肉眼で眼振量を判定しにくくVOG等が必要になり得る点が注意として明記されています。
つまり「頚部捻転で眼振が出た=頸性めまい確定」ではなく、検査陽性の解釈には前提条件(BPPVの評価が済んでいる、神経学的レッドフラッグがない、頸椎の安全性が担保されている等)を置く必要があります。
また、頸部の回旋や頭位変換で症状が誘発される病態はBPPVでも典型的であり、頭位・頭位変換眼振検査は診断上必須と強調されています。
頚部負荷試験を先行させると、BPPVで説明できる所見を「頸性」に誤帰属しやすくなるため、現場運用としては“末梢前庭の基本セット→中枢サイン確認→頸部関連評価”の順が安全です。
頸部痛や可動域制限が強い患者では、検査そのものが症状を増悪させるだけでなく、姿勢・筋緊張の防御反応で所見が歪むこともあるため、頸椎の既往や危険徴候の確認を先に行います。memai-pro+1
頚部眼振と頚眼反射
頚眼反射(cervico-ocular reflex: COR)は、頸部の回旋などで生じる頸部固有感覚入力により誘発される眼球運動で、視線の安定化に関与する反射の一つです。
健常者では前庭動眼反射(VOR)などが主役で、CORの寄与は小さいとされますが、加齢に伴いCORが代償的に増加し得ることが報告されています。
この「健常でもCORが出る/増える」という性質が、頚部捻転時の眼振の解釈を難しくする核心であり、頚部眼振を“頸性めまいの証明”として単独で使う危うさにつながります。
さらに、めまいリハビリテーションの目的として「前庭代償の促進」と並び「体性感覚入力、頸性眼反射など他の制御系の平衡維持への介入の増進」が挙げられており、頸部入力が平衡制御の実装に組み込まれていることが臨床的にも意識されています。
言い換えると、頚部眼振は「頸部が原因」だけでなく「前庭系が弱った結果として頸部入力への依存が増えた」状況でも見え方が変わる可能性があり、病態を一方向に決めつけない姿勢が必要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2343479/
頚部痛の反復や慢性化で頸部求心性入力の統合が乱れる可能性も示されており、頸部症状の時系列(痛み→めまいか、めまい→過緊張か)を病歴で分解するのが有用です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10670025/
頚部眼振と中枢鑑別
中枢性の平衡障害では、注視眼振が小脳橋角部腫瘍や中脳・大脳障害で認められることがあるとされ、注視条件での眼振は「頸性」の前に中枢評価へつなぐ所見になり得ます。
また、頭位眼振の整理として「純水平性」「上眼瞼向き」「下眼瞼向き」など、末梢だけで説明しにくいパターンが表として示されており、方向や成分が中枢病変の示唆になり得ることがまとめられています。
頚部運動で誘発される症状を訴える患者でも、眼振の型が中枢パターンに合致する場合は、頸部筋・頸椎に注意を向ける前に神経学的評価や画像評価の優先順位を上げるべきです。
加えて、診察の基本として「終末注視で正常でも数発出る」ことがある一方、持続性・明らかな方向交代・垂直性などは“正常の範囲”に入れにくいため、出現条件と持続を丁寧に切り分けます。
頸性めまい/頚部眼振の議論は、しばしば末梢(BPPV)と中枢(小脳・脳幹)との境界で混乱しますが、検査体系(非刺激→刺激検査)を踏んでいけば整理しやすいとされています。
刺激検査として温度眼振検査や回転刺激検査、視刺激検査(OKN/OKAN、追跡眼球運動、サッケードなど)も位置付けられており、必要時に専門検査へ接続できるように所見を揃えるのが医療連携上のポイントです。
頚部眼振の独自視点とリハビリ
独自視点として重要なのは、「頚部眼振=頸椎の器質的問題」と短絡せず、“視線安定の戦略が崩れているサイン”として扱う視点です。
めまいリハビリテーションは、急性期を脱して安静時めまいが消失した時点で早期に開始することが原則とされ、前庭代償を促しつつ頸性眼反射など他の制御系の介入を増進する目的が述べられています。
この文脈では、頚部眼振がある患者ほど「頭頸部・眼球運動の協調」「頸部固有感覚の再重み付け」が治療の焦点になりやすく、単に“首をほぐす”だけでは再発や遷延の説明がつかないことがあります。
臨床での実装としては、次のように「評価→介入→再評価」のループを短周期で回すと、頸性か前庭性かの解像度が上がります。
- 👁️ 眼振:注視/非注視、頭位/頭位変換/頭振りでの再現性、終末注視の数発のみか持続かを確認する。
- 🧍 体平衡:開眼/閉眼のロンベルグ、足踏み、重心動揺などで“視覚依存/体性感覚依存”の傾向を掴む。
- 🧠 中枢サイン:注視眼振や異常眼球運動(opsoclonus等)を見落とさないよう、異常眼球運動の枠組みを念頭に置く。
- 🧪 頸部関連:頸椎捻転テストなどを行う場合は、健常でも眼振が起こり得る点と、定量困難という限界を前提に置く。physiotutors+1
意外と見落とされやすいのは、「頸部痛が強い患者では固視抑制や追跡眼球運動のパフォーマンスが“痛み・緊張”で落ち、結果として眼振様の破綻が強く見える」ことです。
そのため、頚部眼振が疑われる症例ほど、疼痛コントロール(安全な範囲での姿勢調整、過緊張の低減)と、眼球運動・頭部運動を分けた段階的練習を組み合わせ、所見が「頸部入力由来」なのか「前庭代償の問題」なのかを再評価で詰める運用が合理的です。
参考:平衡障害の評価(眼振検査・体平衡検査)と、めまいリハビリテーションの目的(前庭代償、体性感覚入力、頸性眼反射)
参考:頸椎捻転テストの手順と、健常者でも反射由来の眼振が出得ること、VOG等が必要になり得るという限界

参考:終末注視で正常でも数発の眼振が見られることがある、という診察上の注意点