弱視眼振と診断と治療と屈折

弱視眼振と診断と治療

弱視眼振:臨床で迷いやすい要点
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弱視と眼振は「原因」と「結果」が入れ替わる

低視力が眼振を招く(感覚性)ことも、眼振が固視を不安定にして視力を下げることもあります。まずは屈折・眼底・中枢の除外から組み立てます。

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潜伏眼振は「測り方」で見逃す

片眼視で視力が急に落ちるなら潜伏眼振を疑い、不完全遮閉など測定手技を工夫します。検査のクセがそのまま診断バイアスになります。

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治療は「眼鏡→遮閉→必要ならプリズム・手術」

眼振自体を完全に止めることは難しくても、屈折矯正・弱視治療・頭位異常の軽減で機能は改善し得ます。目的を共有して継続しやすい計画にします。


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弱視眼振の原因と眼振と弱視

弱視眼振という言い回しは、厳密な病名というより「弱視と眼振が同時に観察される臨床状況」を指すことが多く、まず“どちらが主因か”を見極める必要があります。眼振は不随意で律動的な眼球運動で、衝動性眼振(急速相と緩徐相がある)と振子様眼振(往復が比較的対称)に大別されます。振子様眼振は著しい低視力の状況でみられ得るため、眼振が見えた時点で「原因が眼球そのもの(先天異常など)か」「眼球に異常がないタイプか」を分けて考えるのが安全です。

乳児期早期からみられる乳児眼振(先天眼振)では、眼球に異常がないタイプは眼球運動を制御する神経系の問題が想定される一方、眼球側の原因として先天無虹彩・先天黄斑低形成・先天白内障・先天網膜色素変性などが挙げられています。こうした“感覚入力の質”が落ちる病態では、視機能が育ちにくく、結果として弱視を合併しやすい構図になります。

さらに臨床上重要なのは、後天性眼振の一部が中枢・耳・薬物などと関連し、めまい・動揺視などを伴うことがある点です。小児の「弱視眼振」を疑っていても、動揺視や急性発症、神経徴候があれば鑑別の主戦場は変わり、眼科単独で完結しないケースが出ます。

一方で、眼振があることで固視が安定せず、結果的に視力検査で低値となり「弱視に見える」こともあります。つまり弱視が眼振の原因にも、眼振が弱視様の視力低下の原因にもなり得るため、診療では“どの層(屈折・両眼視・黄斑/視神経・中枢)にボトルネックがあるか”を順にほどく姿勢が求められます。

弱視眼振の診断と視力検査と不完全遮閉

弱視眼振の診断は、(1)眼振の性状評価(2)弱視の原因分類(屈折異常・不同視・斜視・形態覚遮断など)を同時並行で進めるのが実務的です。眼振の評価は「いつから」「単眼遮閉で変化するか」「視線方向で減弱する静止位(null point)があるか」「頭位異常があるか」を押さえると、検査・治療計画に直結します。

とくに“測り方で結論が変わる”代表が潜伏眼振です。潜伏眼振は普段は目立たないのに片眼を隠すと出現する眼振で、視力検査で片眼視の視力が両眼視より著しく低下する場合に疑います。その場合は、不完全遮閉(強いプラスレンズで片眼を隠す、方向転換ミラーを用いる等)で眼振を出にくくして視力を測る、という手技が推奨されています。ここを知らずに通常遮閉で測ると「片眼が極端に悪い=難治弱視」と誤認し、遮閉計画や紹介判断が過剰・過小になるリスクがあります。

他覚的評価としては、眼振の波形分析に電気眼振図(ENG)などの機器が使われることがある一方、施設差が大きい点も現場的な落とし穴です。機器がない場合でも、動画記録(スマホ撮影など)を家族に協力してもらい「注視時」「疲労時」「遠見・近見」「遮閉の瞬間」の変化を残すと、紹介先や多職種連携で情報価値が高くなります(プライバシー配慮は必須)。

診断の最終目的はラベリングではなく、治療可能な要素(屈折・遮断・斜視・頭位異常・基礎疾患)を早期に拾い上げることです。乳幼児期は視機能が発達途上で、入力が不鮮明な状態が続くほど取り返しが効きにくくなるため、「眼振があるから仕方ない」で止めず、弱視の上乗せ要因を必ず探します。

弱視眼振の治療と眼鏡と健眼遮閉

弱視眼振でまず優先されるのは、弱視治療の王道である屈折矯正(眼鏡)と、必要に応じた健眼遮閉(遮閉訓練)を“測定バイアスを減らした評価”の上で開始・調整することです。日本弱視斜視学会の解説でも、眼振は完全に治療する方法はなく、眼鏡・プリズム療法・薬物療法・手術療法などで症状緩和を目指す、と整理されています。つまり「眼振を止める」よりも「視機能を最大化し、生活上の困りごとを減らす」ことが治療目標になります。

屈折異常がある場合、眼鏡による屈折矯正は弱視治療の土台です。眼振があるとオートレフの値がばらつきやすく、主観屈折も取りづらくなるため、可能なら調節麻痺下屈折を含めて“安全側に”確定し、装用の習慣化を支援します。ここでのコツは、家族説明を「眼鏡は視力を上げる道具」で終わらせず、「脳に鮮明な入力を届けて視機能発達を助ける治療」と言語化することです。納得が上がるほど装用時間が伸び、結果が出やすくなります。

健眼遮閉は、斜視弱視・不同視弱視などで中心となる治療ですが、眼振(とくに潜伏眼振の要素)が絡むと、遮閉そのものが眼振を誘発・増悪させて“検査上の視力”を落とすことがあります。そこで、遮閉の適応・時間は「両眼開放の機能」「生活での困りごと」「遮閉時に起こる眼振増悪」をセットでモニターし、単純に時間を増やす発想だけで走らないことが重要です。

また、弱視治療の反応が鈍い場合は、眼振の背後にある“感覚入力の問題”を再点検します。乳児眼振(先天眼振)に関連する先天黄斑低形成や先天白内障などが背景にあれば、弱視訓練単独では限界があり、原因治療・ロービジョンケアの併走が必要です。

弱視眼振のプリズムと手術と静止位

弱視眼振では、視線方向で眼振が小さくなる静止位(null point)があるため、患者が顔を回して見る代償頭位をとることがあります。日本弱視斜視学会の解説でも、ものを見るときに顔を左右に向けたり顎を上げ下げする頭位異常が起き得ること、頭位異常が著しい場合などに手術療法が行われることが示されています。医療従事者としては、視力(ランドルト環)だけでなく「首・姿勢への負担」「学習時の疲労」「写真での見た目の悩み」まで含めて適応を評価する視点が大切です。

プリズム療法は、静止位を正面視に近づけたり、両眼視の補助として用いられることがあります。特に眼振が輻湊で減弱するタイプでは、輻湊を利用する考え方が臨床的に語られることがあり、患者の実感(読みやすさ、疲れにくさ)と整合すればQOL改善につながります。ただし、プリズムは装用感・見え方の違和感が出ることもあり、処方後の微調整とフォローが成否を分けます。

手術については、頭位異常を改善し、結果として生活機能や見かけの問題を軽減する目的で行われます。先天性眼振の手術療法としてAnderson-Kestenbaum法(および変法)が使いやすく効果的、とする専門誌の解説もあり、静止位移動術の位置付けが整理されています。弱視眼振の文脈では「弱視治療(眼鏡・遮閉)」と「眼振・頭位への介入(プリズム・手術)」を同じ地図に載せ、どのゴール(視力、頭位、疲労、学習、外見)を優先するかを共有するのが実務的です。

弱視眼振の独自視点と説明と多職種

弱視眼振の診療で見落とされがちなのは、“病態そのもの”よりも“説明と連携の設計”が予後を左右する点です。眼振は完全に治せないことが多い一方、眼鏡・プリズム・手術などで症状緩和を目指す、という枠組みを最初に共有できると、家族は短距離走ではなく中距離走の準備ができます。ここで「治らない=何もしない」ではなく「治せない揺れは残っても、見え方と生活は改善し得る」と言い換えるのがコツです(過度な期待も過度な諦めも避けられます)。

また、潜伏眼振が絡むケースでは、学校健診や視力測定の現場で“片眼遮閉=成績が落ちる”が起きやすく、家族が「家では見えているのに検査だけ悪い」と混乱します。潜伏眼振は片眼を隠すと生じ得ること、不完全遮閉などの工夫があることを医療側が説明できると、不要な不安や医療不信を減らせます。これは診断学というより、医療安全(誤解による通院中断・治療離脱を防ぐ)に直結する論点です。

多職種連携としては、視能訓練士との協働で「測定手技の最適化(遮閉方法、測定順序、休憩、近見併用)」と「家庭での行動目標(装用時間、遮閉の実行性、記録方法)」を具体化し、医師は鑑別と治療方針の優先順位付けに集中できる体制が理想です。弱視眼振は“眼球運動”が目立つために症状だけがフォーカスされがちですが、実は継続率を高める運用設計が、最終的な視機能の底上げに効きます。

潜伏眼振の診断・不完全遮閉の具体(「診断」節の参考)

眼振

眼振の分類、先天性と後天性、合併(弱視・斜視)と動揺視の注意(鑑別の参考)

https://www.nichigan.or.jp/public/disease/symptoms.html?catid=81