下行性視神経炎と視神経炎
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下行性視神経炎の診断と症状
下行性視神経炎という言葉は、日常診療では「視神経炎(optic neuritis)」の文脈の中で語られることが多く、まずは“視神経に炎症が起きている状態か”を臨床で確実に押さえることが出発点になる。視神経炎の典型像は、数日で進行する視力障害に加えて、視野欠損や色覚異常、眼球運動時痛を伴う点が重要で、特に色覚異常が視力低下の程度に比して強いことがある。これらは「眼科で見える眼底所見が乏しいのに見え方が悪い」というズレとして現れ、球後視神経炎(乳頭に変化が乏しいタイプ)ではなおさら見逃しやすい。
医療従事者向けに強調したいのは、問診と簡便なベッドサイド所見で“視神経の求心路障害”を拾うことだ。片眼優位なら相対的求心路障害(RAPD)が鍵になり、患者の訴える「まぶしさの左右差」「明るい所での見にくさ」なども、臨床像の補助になる。視野の訴えは「中心が抜ける(中心暗点)」「上/下が欠ける」など曖昧になりがちなので、可能なら視野検査につなげ、少なくとも対座法で“中心~傍中心の異常”を拾う。小児・高齢・コミュニケーション困難例では、所見が取りにくい分、診断が遅れやすい。
また、視神経炎は「視神経そのもの(髄鞘/グリア)を主座とする炎症・脱髄」という定義が基本であり、多発性硬化症、抗アクアポリン4抗体関連、抗MOG抗体関連などが代表的原因として整理されている。つまり、下行性視神経炎を疑う場面でも、最終的には“どの病態に属する視神経炎か”を詰めていく作業になる。感染、薬剤、他部位炎症の波及(髄膜炎・脳炎・副鼻腔炎など)でも視神経炎は起こり得るため、症状だけで自己免疫に決め打ちしない姿勢が重要になる。
参考:視神経炎の疫学・原因(AQP4/MOG、感染、波及など)を体系的に確認できる
下行性視神経炎の原因と鑑別
原因の整理で実務的に役に立つのは、「典型的(MS関連を含む)か、非典型(NMOSD/MOGAD/感染/腫瘍/薬剤など)か」を最初に意識することだ。視神経炎の病因として、脱髄疾患(特に多発性硬化症)が多い一方で、MOG抗体関連疾患(MOGAD)や視神経脊髄炎(NMO/NMOSD)も鑑別の中心に入る。さらに、腫瘍転移、SLEなどの自己免疫、毒素・薬剤(例:エタンブトール、メタノール等で“真の視神経炎ではなく視神経症”を起こすことがある)まで幅広く押さえる必要がある。
鑑別で特に怖いのは、「視神経炎と思い込んだ結果、別疾患の治療が遅れる」パターンである。例えば虚血性視神経症、圧迫性視神経症(腫瘍など)、感染性・炎症性(副鼻腔炎波及など)ではアプローチが変わり、ステロイドの使い方も慎重さが求められることがある。逆に、NMOSD/MOGADを“特発性”として経過観察すると、再発を繰り返して視機能予後が悪化するリスクがあるため、重症・両眼・再発・高度視力低下など「非典型」を疑う所見があれば、抗AQP4抗体・抗MOG抗体を含む評価を早めたい。
意外に見落とされやすいのが「薬剤・毒素」だ。眼科・神経内科・呼吸器内科など複数科にまたがる薬歴が絡むため、処方歴の確認が雑だと穴になる。とくに抗結核薬などは現場で遭遇し得るため、「視神経炎か視神経症か」という病型の切り分けを意識し、視野・色覚・症状の時間経過と合わせて再点検する。
下行性視神経炎のMRIと検査
検査戦略の核は、脳と眼窩のガドリニウム造影MRIを“早期に”入れることだ。視神経炎では、MRIで腫脹して信号が高くなった視神経が認められることがあり、さらにMRIは多発性硬化症、MOGAD、NMOの鑑別にも役立つ。MS関連が疑われる場合はFLAIRで脳室周囲の脱髄病変を探し、NMO/MOGADでは視神経のより広範な増強が示唆される、といった読み方が臨床に直結する。
血液検査は「原因推定」と「治療安全性」の両方に効く。非定型または重度の視神経炎では、血清中のNMO(AQP4)抗体やMOG抗体を検査して原因を確認すべき、と整理されている。ここが“下行性視神経炎”を単なる症状名で終わらせず、再発予防まで設計するうえでの分岐点になる。加えて、感染や全身性疾患が疑われるなら、炎症反応、梅毒などの感染症スクリーニング、自己抗体などを臨床像に応じて追加していく。
眼科的検査では、視力・色覚・視野に加え、RAPD確認は基本である。加えて、球後視神経炎では眼底が正常に見えることがあるため、患者の訴えと眼底所見が一致しないときほど、機能検査の結果を重視して判断する。現場運用としては「眼科で機能検査→MRI→必要なら神経内科連携」という導線を初動から組んでおくと、迷いが減る。
参考:視神経炎の診断(MRI、色覚異常、RAPDなど)と治療の考え方がまとまっている
下行性視神経炎の治療とステロイド
治療は「最終視力を上げる治療」と「回復を早める治療」と「再発を防ぐ治療」を分けて考えると整理しやすい。視神経炎の多くは自然寛解し、2~3カ月以内に視力がかなり回復することが多い一方で、コルチコステロイドにより回復を早められる可能性がある、とされている。つまり、“すべてにステロイドが絶対必要”ではなく、原因推定と重症度で使い分ける臨床判断が要る。
実務で頻用されるのは高用量ステロイド(例:メチルプレドニゾロン大量投与)で、難病情報センター資料でもパルス療法(メチルプレドニソロン1,000mg×3日を1クール)を試みる流れが示されている。重要なのは、パルスを入れた後に「反応が乏しいなら次手」を決めておくことだ。視神経脊髄炎(NMO)では血漿交換がしばしば用いられ、他の原因でも高用量ステロイドで回復がない重度例では血漿交換を検討する、という位置づけがある。
再発予防は“原因疾患別”が原則で、MSならMSの疾患修飾療法、NMOならNMOに特異的治療、MOGADでも再発例では長期免疫療法が必要になることがある。逆に、NMO/MOGADにMS向けの特定薬剤を投与すべきではない(無効または悪化の可能性)という注意点は、紹介・併診体制を組むうえで非常に実務的だ。下行性視神経炎という入口で受診しても、出口は「どの疾患の視神経炎か」になるため、初期治療と並行して病型確定を急ぐ価値が大きい。
下行性視神経炎の独自視点:副鼻腔炎と波及
検索上位では自己免疫(MS、NMOSD、MOGAD)に焦点が当たりがちだが、臨床で“意外に落とし穴”になり得るのが、副鼻腔炎など他部位炎症の波及である。難病情報センター資料でも、髄膜炎・脳炎・副鼻腔炎のように他部位から炎症が波及して視神経炎を生じるものがあると明記されている。ここを見落とすと、ステロイド先行で感染を悪化させるリスクや、原因治療(抗菌薬・外科的ドレナージ等)の遅れにつながり得る。
医療従事者向けの実装としては、「眼症状+頭痛・発熱・副鼻腔症状(鼻閉、膿性鼻汁、顔面痛)」「免疫抑制状態」「片側優位で眼窩痛が強い」などがあれば、波及性の可能性を意識し、画像評価や耳鼻科連携を早める。もちろん、視神経炎らしい所見(眼球運動時痛、色覚異常、RAPDなど)が揃うほど“視神経炎”の確度は上がるが、その原因が脱髄とは限らない。下行性視神経炎という言葉で症例をまとめたくなるときほど、「原因の層(自己免疫・感染・波及・薬剤・腫瘍)」を一段掘って、治療の順序を誤らないことが安全策になる。
この観点は、紹介状作成にも効く。紹介先(神経内科/眼科/耳鼻科/救急)に、視機能所見に加えて全身所見や副鼻腔症状の有無、発症からの時間、既往(結核、自己免疫、悪性腫瘍、免疫抑制)、薬歴(エタンブトール等)を添えると、初動が速くなる。結果的に、視機能予後だけでなく、全身合併症のリスクも下げやすい。