網脈絡膜瘢痕と治療
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網脈絡膜瘢痕の原因と鑑別の考え方
網脈絡膜瘢痕は「網膜+脈絡膜に及ぶ炎症・虚血・新生血管・外傷」などの結果として形成される“終末像”で、同じ“瘢痕”でも背景疾患により意味が変わります。
医療従事者向けに整理すると、鑑別は大きく「①感染性網脈絡膜炎の治癒瘢痕」「②脈絡膜新生血管(MNV/CNV)後の線維性瘢痕」「③治療(レーザー)で作成された瘢痕(癒着)」に分けて考えると、問診・検査の優先順位が決まります。
特に“瘢痕は静的”という思い込みが落とし穴で、瘢痕近傍で再燃する病態(例:トキソプラズマ)や、瘢痕期でも周囲の牽引・裂孔形成リスク評価が必要な病態(例:周辺網膜の治療瘢痕)があります。
原因の手掛かりとして、患者説明でも使える「見え方の言語化」を持っておくと便利です。
- 境界が比較的明瞭で黒色色素沈着を伴う“打ち抜き様(punched out)”の萎縮性瘢痕:感染後瘢痕を強く疑うことがある(典型例:トキソプラズマ)。
- 黄斑部の線維性変化(白っぽい塊・瘢痕)+既往に出血や滲出:MNV/CNV後の瘢痕を疑う。
- 周辺部に輪状の凝固斑が並ぶ:裂孔周囲のレーザー光凝固後の瘢痕(=意図的に作った癒着)の可能性が高い。
網脈絡膜瘢痕とOCT所見の読み方
OCTは瘢痕の“形”よりも、「活動性を示す付随所見」を拾う検査として位置づけると、読影が安定します。
臨床上の重要点は、瘢痕そのものが高反射として見えることがあっても、それが“沈静化した線維性変化”なのか、“まだ滲出を伴う病変”なのかを、網膜下液・網膜内液、境界の変化、周辺の構造破綻から推定することです。
とくに黄斑関連の症例では、瘢痕近傍に液体貯留が出現・増悪していないかを時系列で追うことで、追加治療(例:抗VEGFや造影検査の追加)を検討しやすくなります。
OCTが役立つ“瘢痕の周辺評価”の観点は次の通りです。
- 周囲の液体貯留:活動性病変を疑う一番の合図になりやすい。
- 高反射病変の位置:RPEの上(網膜側)か下(脈絡膜側)か、またRPEラインの連続性を意識する。
- 牽引・裂孔のリスク:周辺網膜では、瘢痕周囲の網膜の薄さや牽引の方向性が次の合併症を左右することがある。
“意外と見落としやすい”のは、瘢痕があることで患者の主訴(ゆがみ・見えにくさ)が固定症状になっている場合でも、瘢痕近傍に別病変が重なると症状が再燃・変動する点です。
したがって、瘢痕=経過観察で終わり、ではなく、症状の変動(最近急に悪化、飛蚊症増加、羞明など)を拾って「瘢痕の背景にある病態が再燃していないか」を考えるのが安全です。
網脈絡膜瘢痕とレーザー治療(癒着)の目的
“網脈絡膜瘢痕”は病気の結果として生じるだけでなく、網膜裂孔などに対してレーザー光凝固で意図的に作ることがあります。
レーザー治療の目的は、裂孔周囲に網脈絡膜瘢痕癒着を作り、裂孔から液化硝子体が網膜下へ侵入することを防いで、網膜剥離を予防することです。
一方で、レーザー治療は100%網膜剥離への進展を防げるわけではなく、治療後に網膜剥離を発症する可能性もある点は、患者説明で必ず押さえるべき現実です。
外来での説明を“伝わる言葉”にすると、次が実務的です。
- 「裂け目の周りを焼いて、のり付けみたいな癒着(瘢痕)を作る」
- 「ただし、癒着ができても別の場所が裂けたり、剥離が進むことがある」
- 「だから治療後も、飛蚊症や光視症が増える・視野が欠けるなどがあれば、すぐ受診が必要」
医療側の視点では、レーザー後瘢痕の“時間経過による見え方”も知っておくと便利です。レーザー後の瘢痕は時間とともに色素沈着して黒く見えるようになる、という説明は患者不安の軽減にもつながります。
網脈絡膜瘢痕とトキソプラズマ(再発・後部ぶどう膜炎)
感染後の網脈絡膜瘢痕として、臨床で知っておきたい代表が眼トキソプラズマ症です。眼トキソプラズマ症は網脈絡膜への感染で起こる後部ぶどう膜炎の一種で、再発することがあるとされています。
治癒後には、黒色色素沈着を伴う境界鮮明な網脈絡膜萎縮性瘢痕(punched out lesion)となる、という記載は“瘢痕の見え方”の言語化として非常に有用です。
さらに臨床的に重要なのは、瘢痕病巣の約3分の1が再発し、瘢痕病巣の近くに娘病巣として出ることがある点で、瘢痕を見た時点で「再燃時の症状(霧視・飛蚊症など)をどう指導するか」まで含めて診療設計する必要があります。
再発や重症化を疑う場面の“実務メモ”としては以下が現実的です。
- 既知の瘢痕がある患者が、最近になって霧視・飛蚊症・眼痛・羞明を訴える。→再燃や別の後部ぶどう膜炎を疑い、緊急度を上げる。
- 免疫不全の背景がある(AIDS、長期免疫抑制薬など)。→広範囲病変・重篤化の可能性を考え、早期介入を躊躇しない。
- ステロイドを使うなら“単独で用いてはならない”という原則を再確認する(抗トキソプラズマ薬併用が前提)。
参考:眼トキソプラズマ症の症状・眼底所見(punched out lesion)、再発、治療薬とステロイド併用の注意点
国立感染症研究所 IASR「眼トキソプラズマ症(トキソプラズマ性網脈絡膜炎)」
網脈絡膜瘢痕と説明設計(独自視点)
検索上位の解説は「原因・所見・治療」に寄りがちですが、医療従事者の現場で差が出るのは“説明の設計”です。瘢痕は患者にとって「治らない跡=失明の入口」という連想を呼びやすく、ここで言葉選びを誤ると、不要な不安と過剰受診、逆に必要な受診遅れの両方が起こり得ます。
したがって、網脈絡膜瘢痕を伝えるときは、①その瘢痕が何由来の可能性が高いか、②今の時点で活動性があるか、③再燃・合併症が起きたときの“受診トリガー”は何か、をセットで説明するのが安全です(瘢痕の説明だけで終わらせない)。
また、レーザー光凝固後の瘢痕のように“治療で作った瘢痕”が混ざる症例では、「瘢痕=悪」ではなく「網膜剥離予防のために作った壁」というポジティブな比喩が有効で、アドヒアランス(フォロー継続)にも直結します。
現場でそのまま使える説明テンプレ(例)を示します。
- 「これは網脈絡膜瘢痕といって、以前の炎症や治療の跡です。」
- 「今この時点で大事なのは、周りに“新しい変化(液がたまる、出血する)”が出ていないかです。」
- 「もし飛蚊症が急に増えた、光が走る、視野が欠ける、急に見え方が変わったら、待たずに受診してください(再発や剥離などを除外します)。」
参考:レーザー治療で網脈絡膜瘢痕癒着を作る目的、限界(100%予防ではない)、治療後の瘢痕の見え方