網膜循環障害と虚血
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網膜循環障害の黄斑浮腫と視力低下
網膜循環障害の臨床で、視機能を直接落としやすい合併症の代表が黄斑浮腫です。網膜静脈閉塞症では、静脈うっ滞により毛細血管から血漿成分が漏出し、黄斑がむくむことで視力低下・変視症・小視症などが出ます。黄斑浮腫が中心窩に及ぶと、屈折矯正では補えないタイプの視力低下になりうる点が重要です。
病態としては「血流停滞→虚血→サイトカイン(VEGF)増加→血管透過性亢進→黄斑浮腫」という流れで理解すると、治療選択が整理しやすくなります。実際に網膜静脈閉塞症では、虚血網膜からVEGFが放出され、漏出や浮腫が悪化することが説明されています。黄斑浮腫は自然軽快することもある一方、近年は積極治療が選ばれる場面が多いことも押さえておきたい点です。
治療の中心は抗VEGF薬の硝子体注射です。虚血網膜から産生されるVEGFの作用をブロックすることが、黄斑浮腫の改善と視力の回復(または維持)に直結しやすいからです。臨床上の落とし穴は「効果は出るが再発しやすい」ことで、注射後数か月で再燃することが多く、再発しなくなるまで複数回が必要になり得ます。
また、医療従事者向けの情報整理としては、患者説明で「一度症状が出ると完全に元通りは少ない」可能性も現実として共有し、通院・治療継続の重要性に納得してもらうことが実務上の鍵になります。視機能アウトカムを左右するのは、単回治療の成否よりも、浮腫の再燃を早期に拾って治療強度を調整できる体制(受診間隔、自己症状の把握、検査の段取り)です。
参考リンク(黄斑浮腫、VEGF、抗VEGF薬、合併症、検査の全体像)。
網膜循環障害のOCTとOCTAと蛍光眼底造影
網膜循環障害の評価は、「構造(浮腫・出血・網膜厚)をみる検査」と「灌流(毛細血管が詰まっている範囲)をみる検査」を組み合わせるのが基本です。網膜静脈閉塞症の臨床説明でも、黄斑浮腫の把握にOCT、毛細血管閉塞の程度評価にフルオレセイン蛍光眼底造影、さらに最近ではOCTAで同様の評価をすることが示されています。
OCTは“今の視力低下の理由が黄斑浮腫なのか”を短時間で可視化でき、診療導線(抗VEGF、ステロイド、経過観察など)を決める根拠になります。一方、虚血型か非虚血型か、無灌流領域が広いか、といった予後と合併症リスク(新生血管など)に関わる軸は、造影やOCTAが強みを持ちます。
OCTAの利点は、造影剤を使わずに毛細血管レベルで微小循環を描出できる点です。これにより、虚血性変化の把握やレーザー治療の必要性判断の補助になることが説明されています。臨床の実感としても、腎機能や既往歴の点で造影に慎重になりたい患者で、OCTAが診療を前に進める武器になります。
ただし、医療者側が注意したいのは「検査が増えるほど診断が正確になる」ではなく、「何を決めるために、その検査をするのか」を先に置くことです。たとえば、OCTは“浮腫の治療反応性と再燃の拾い上げ”に強く、OCTA/造影は“虚血範囲と新生血管リスクの層別化”に強い、という役割分担で運用すると無駄が減ります。
参考リンク(OCT/OCTA/蛍光眼底造影の位置づけ、検査選択の根拠)。
網膜循環障害の虚血型と新生血管と眼圧
網膜循環障害の中でも、虚血が広範囲に及ぶケースは別次元のリスクを持ちます。網膜静脈閉塞症では、毛細血管が広い範囲で詰まる(虚血型)と、虚血網膜からのVEGF産生を背景に網膜新生血管が生じ、硝子体出血の原因になります。さらに網膜中心静脈閉塞症で広い虚血を伴う場合、虹彩・隅角の新生血管が生じて隅角が閉塞し、眼圧が上昇する血管新生緑内障に至り得ます。
この「虚血→VEGF→新生血管→出血/眼圧上昇」という連鎖は、患者の視機能だけでなく、疼痛や治療難度(緑内障手術まで含む)にも影響します。したがって、黄斑浮腫だけを追いかけていると、眼圧上昇や新生血管の芽を見落とす危険があります。現場では、視力が一見保たれている患者でも、虚血領域が大きい場合は将来のイベント(硝子体出血、血管新生緑内障)を前提にフォロー設計する必要があります。
治療としては、虚血型ではVEGF産生を抑える目的で予防的にレーザー光凝固術が行われることがあります。また、すでに新生血管がある場合も退縮目的でレーザーが選択されます。血管新生緑内障が発症して眼圧が上がっている場合には、抗VEGF硝子体注射+広範なレーザー、さらに点眼・内服・手術へと段階的に進むことが示されています。
ここで意外に実務的なのは「眼圧上昇が“静かに進む”タイミングがある」点です。視力低下の訴えが軽くても、隅角新生血管は患者の自覚症状に乏しいまま進行し得るため、診察では前眼部評価(虹彩、隅角)をルーチン化し、検査予約の導線(散瞳の可否や撮影の順番)まで含めてチームで設計しておくと安全です。
参考リンク(虚血型、網膜新生血管、血管新生緑内障、レーザー/抗VEGFの考え方)。
網膜循環障害の高血圧と糖尿病と高脂血症
網膜循環障害は眼局所の病気に見えますが、背景に全身の血管リスクが強く関与します。網膜静脈閉塞症は基本的に60歳以降に多く、高血圧・糖尿病・高脂血症などの全身疾患がリスクファクターになることが示されています。眼科の受診動機が「見えにくい」だけでも、全身評価(血圧、血糖、脂質、喫煙歴など)へ橋渡しする価値が大きい領域です。
また、眼の側のリスクとして、遠視や緑内障などの併存が発症しやすさに関わる点も言及されています。実務では、患者説明で「目の治療だけで完結しない」ことを丁寧に伝えると、内科受診や生活習慣の改善に繋がりやすくなります。特に、抗VEGFやレーザーなど局所治療が進むほど、患者は“眼だけの問題”と捉えがちなので、初診時の説明が重要です。
医療従事者向けにもう一段深掘りすると、網膜循環障害は「血管イベントのサイン」として扱う視点が臨床安全に寄与します。網膜は中枢神経で、いったん細胞が死ぬと回復しないという説明があるように、虚血イベントを“不可逆損傷”として共有すると、受診中断の抑制にも役立ちます。チーム医療としては、眼科が拾った網膜循環障害をきっかけに、循環器・糖尿病・脳血管リスクの評価につなげるフロー(紹介状テンプレ、検査項目の提案)があると強いです。
参考リンク(リスクファクター:高血圧・糖尿病・高脂血症、眼疾患の併存、病態説明)。
網膜循環障害の説明と受診と検査の設計(独自視点)
網膜循環障害の診療で、検索上位の解説では触れられにくいのが「受診行動と検査体験の設計が、予後を左右する」という視点です。網膜静脈閉塞症では、周辺部だけの循環障害だと自覚症状が出ないことがあり、数年後の硝子体出血で初めて症状が強くなることがある、とされています。つまり“症状が軽い=放置してよい”ではなく、“症状が軽いほど医療側が見逃さない仕組みが必要”という構図になります。
具体的には、初診時に「視力・眼圧など一般検査→散瞳眼底検査→OCT→必要なら蛍光眼底造影/OCTA」という流れを、患者の理解に合わせて短い言葉で提示すると、検査離脱が減ります。検査の目的が腹落ちすると、散瞳への不安(運転できない、仕事に戻れない)も事前に調整しやすくなり、結果として虚血型の見落としやフォロー中断を防ぎやすくなります。これらの検査項目自体が、網膜静脈閉塞症の診断・評価として紹介されています。
さらに、治療が抗VEGF中心になると「注射で良くなったから終わり」と誤解されやすいので、再発の頻度(数か月で再発することが多い)を初回から説明し、次回予約の意味を強調するとアドヒアランスが上がります。医療者側は“治療の説明”よりも“再燃を拾う運用”まで含めて説明すると、患者の行動が変わりやすいのが現場の実感です。
参考リンク(無症状例、診断の流れ:視力・眼圧、散瞳眼底検査、OCT、蛍光眼底造影、OCTA、再発と治療継続)。