後極ぶどう腫と病的近視と診断と治療

後極ぶどう腫と病的近視

後極ぶどう腫:臨床で押さえる要点
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定義

眼球後極の強膜が局所的に後方へ突出し、病的近視を特徴づける代表的所見。

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診断の軸

検眼鏡+超広角OCTで「縁(エッジ)」の構造を捉え、合併症(牽引・CNVなど)も同時評価。

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注意点

ぶどう腫そのものより、黄斑を含む場合の近視性牽引黄斑症・黄斑円孔網膜剥離・近視性CNVの見落としが予後を左右。


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後極ぶどう腫の病態と強膜と脈絡膜

後極ぶどう腫(後部ぶどう腫)は、眼球後極の強膜の一部が後方へ突出した状態で、病的近視を特徴づける代表的な病態として位置づけられます。

臨床的には「眼軸長延長で薄くなった眼球壁が、40歳以降にさらに局所的に変形していく」という二段階のイメージが理解しやすく、後極ぶどう腫の中に黄斑が含まれると、黄斑部の壁が追加で引き延ばされて病的変化が起こりやすくなります。

病態を層構造で整理すると、外側の“支持組織”である強膜が形状変化の主座になり、内側の脈絡膜は菲薄化・萎縮が進み、網膜(特に黄斑)は牽引や裂け(分離)に弱くなる、という構図です。

参考)日本人における“後部ぶどう腫”という目の病気の特徴が詳しく解…

この「強膜が伸びる(形が変わる)」と「網膜側の硬い成分(血管、内境界膜など)が伸びに追随できない」のギャップが、牽引性黄斑症の温床になります。

実臨床では、後極ぶどう腫は“所見”であって“診療の目的”ではなく、ぶどう腫があることで何が起きやすいか(牽引・出血・CNV・剥離)を、同じ診察で並行して拾い上げる姿勢が重要です。

その意味で、後極ぶどう腫は「合併症リスクを背負った地形変化」と捉えると、患者説明もチーム内共有もブレにくくなります。

後極ぶどう腫の診断とOCTと超広角

後極ぶどう腫の評価は従来、検眼鏡所見に基づくCurtin分類が用いられてきました。

一方で近年は、3D MRIや超広角眼底撮影(Optosなど)により、外周縁(エッジ)の形態に基づいて評価しようとする新しい分類の流れが示されています。

さらに重要なのが超広角OCTで、より広範囲かつ詳細に後極ぶどう腫を評価できる点です。

参考)https://j-eyebank.or.jp/doc/class/class_24-1_03.pdf

超広角OCTで観察される後極ぶどう腫の特徴として、(1)ぶどう腫縁での脈絡膜菲薄化、(2)強膜内方突出、(3)ぶどう腫縁での強膜後方変位、という3点が挙げられています。

実務上のコツは、「黄斑中心の断面だけで終わらない」ことです。

黄斑のOCTが正常に見えても、縁(エッジ)を跨ぐスキャンで初めて“地形の段差”がはっきりし、そこで牽引方向が変わっている(あるいは局所的に応力が集中している)ことが分かる場面があります。

また、患者に説明する際は「OCTは網膜だけでなく、脈絡膜の薄さや強膜の形まで見える」ことを共有すると、経過観察(フォロー間隔)の納得感が上がります。

病的近視では“症状が出てから受診”だと遅れるケースがあるため、40歳以降に定期的にOCTで黄斑・ぶどう腫・脈絡膜の状態を把握する推奨が現場での安全策になります。

後極ぶどう腫の合併症と近視性牽引黄斑症

後極ぶどう腫が臨床的に問題になるのは、ぶどう腫単体が視力を直接落とすというより、黄斑の合併症を誘発・増悪させやすいからです。

病的近視で注目すべき合併症の代表は、硝子体黄斑牽引症候群、近視性牽引黄斑症(網膜分離を含む)、黄斑円孔〜黄斑円孔網膜剥離、さらに近視性脈絡膜新生血管(mCNV)などです。

近視性牽引黄斑症は、後極ぶどう腫の中で強膜がくぼみを深めて伸びる一方、網膜血管や内境界膜などの“硬い成分”が追随できず、網膜内で力学的な綱引きが起きて網膜分離を生じる、という説明が理解されやすいです。

網膜分離が進行すると黄斑円孔、さらに黄斑円孔網膜剥離へ移行しうるため、「分離の段階で拾い、手術適応の検討に乗せる」ことが視機能予後の分岐点になります。

黄斑部出血についても、ブルッフ膜が硬いがゆえに伸びきれず亀裂が入り(いわゆる亀裂)、そこから出血、さらに病的血管(脈絡膜新生血管)が入り込みやすい、という流れで整理できます。

この“亀裂→出血→CNV”の連鎖は、患者の訴え(変視症・中心暗点・ぼやけ)と結びつけて問診すると、受診動機が曖昧なケースでも拾いやすくなります。

症状面では、黄斑疾患に共通するサインとして変視症(歪視)、中心暗点、ぼやけが挙げられ、片眼ずつの確認やアムスラーチャートが早期発見に役立つとされています。

医療者側の実装としては、「患者にセルフチェック手段を渡す」「次回受診のトリガー(どの症状で即受診か)を明文化する」だけでも、手遅れリスクを下げられます。

後極ぶどう腫の治療と経過観察

後極ぶどう腫そのものに対して、現時点で臨床上有効性と安全性が確立した治療法はない、と整理されています。

一方で、新規治療として強膜クロスリンキング、後部強膜補強術(PSR)、強膜再生治療などが検討されており、研究の進展が期待されています。

したがって日常診療の主戦場は、「ぶどう腫を治す」ではなく「合併する黄斑疾患を、適切なタイミングで治す」になります。

例えば牽引系(硝子体黄斑牽引症候群、近視性牽引黄斑症、黄斑円孔/黄斑円孔網膜剥離)は硝子体手術で牽引解除や円孔閉鎖の工夫を行う、という方針が一般的な説明として通ります。

出血やmCNVが疑われる場合は、抗VEGF薬の硝子体内注射で病的血管を抑え込む治療が中心となり、定期的な複数回投与で落ち着くことが多いとされています。

経過観察の設計では、OCTで硝子体の状態、後極ぶどう腫の状態、網膜の状態、脈絡膜の薄さを本人にも共有し、リスクに応じて半年〜1年などのフォロー間隔を検討する、という実装が現実的です。

現場で“意外と効く”のは、画像を患者が理解できる粒度に翻訳することです。

「視力が出ている=安全」ではなく、「OCTで牽引の芽がある/脈絡膜がかなり薄い/ぶどう腫の縁が黄斑に近い」など、将来の転帰を左右する情報を、視機能低下が起きる前に共有することで受診中断を減らせます。

後極ぶどう腫の独自視点:画像共有とチーム医療

後極ぶどう腫の診療は、医師が病名を付けて終わりではなく、OCT所見の“共有設計”まで含めると強くなります。

病的近視の患者は、眼鏡・CL・ICLなど屈折矯正の文脈で「見えるようになっている」経験が多く、黄斑疾患による不可逆な視機能低下のイメージが持てないままフォローが途切れやすい、というギャップが起こりえます。

そこで、診察室内の運用として以下を固定すると、再現性が上がります。

  • 👀 画像の“見る順番”を統一:黄斑中心→ぶどう腫縁(エッジ)→脈絡膜の薄さ→硝子体牽引の有無。
  • 🧭 次回来院の条件を明確化:変視症、中心暗点、急なぼやけが出たら予約日を待たず受診。
  • 📄 所見の言語化テンプレ:後極ぶどう腫の位置、黄斑含有の有無、牽引所見、出血/CNV疑い、フォロー間隔。

また、超広角OCTで言語化される「脈絡膜菲薄化・強膜内方突出・強膜後方変位」という3特徴は、施設内で症例共有する際の共通言語として使いやすい点が利点です。

特に紹介状や院内コンサルトでは、“視力”より“構造変化”の記述が意思決定に直結しやすく、短い記載でも情報価値が高くなります。

最後に、患者のセルフモニタリング(片眼ずつチェック、アムスラーチャート)を「宿題」ではなく「合併症の早期発見ツール」として位置づけると、医療者—患者間の協働が成立します。

後極ぶどう腫は長期戦になりやすいからこそ、画像・症状・行動(受診)を一本の線でつなぐ設計が、医療の質を静かに底上げします。

【後極ぶどう腫の定義、Curtin分類、超広角OCTの3特徴、治療の現状(確立治療なし)】

医学のあゆみ「病的近視の後部ぶどう腫の診断と治療」抄録(石薬出版/医書.jp)

【病的近視が二段階で進む考え方、牽引黄斑症・黄斑円孔網膜剥離・mCNV、症状(変視症・中心暗点)とOCTフォロー】

Myopia Square「その近視、視力に大事な黄斑を脅かしていませんか?」