局在性網膜炎と診断と治療
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局在性網膜炎の症状と所見
局在性網膜炎は「限局した網膜の炎症性病変」を指す臨床的な呼称で、患者の訴えは視力低下、霧視、飛蚊症、視野欠損などが中心になります。
感染性の代表として眼トキソプラズマ症では、片眼性の限局性滲出性網脈絡膜炎として発症し、乳白色で境界不鮮明な病巣が後極部に多いこと、硝子体混濁や網膜血管炎を伴うことがある点が実臨床で重要です。
また、免疫不全では同じトキソプラズマでも劇症化して急性網膜壊死に類似した壊死性病変となり得るため、「局在性」だから軽いという先入観が危険です。
観察のコツとしては、病巣の色(黄白色か、灰白色か)、境界(不鮮明か明瞭か)、周辺網膜への拡大速度、血管炎(鞘状変化・閉塞兆候)、硝子体炎の程度をセットで記載すると鑑別が進みます。mhlw-grants.niph+1
加えて、患者が「光がチカチカする(光視症)」を強く訴え、眼底・FAでは説明しにくい視野欠損が前景に出る場合、AZOORスペクトラムも鑑別に入ります。
AZOORはOCTで視野欠損部位に一致して網膜外層(ellipsoid zone等)の構造異常が捉えられることが診断の要点として整理されています。
局在性網膜炎の原因と鑑別
局在性網膜炎の鑑別は大きく「感染性」「ヘルペス性壊死性」「免疫関連/白点症候群スペクトラム」「血管性・腫瘍性の仮面症候群」に分けて考えると破綻しにくいです。
感染性ではトキソプラズマが典型で、後部ぶどう膜炎の一種として再発し得ること、所見として硝子体混濁・黄白色の滲出性網脈絡膜炎・網膜血管炎などが挙げられています。
病巣が視神経乳頭周囲に出るEdmond-Jensen型乳頭隣接網脈絡膜炎のようなパターンもあり、視神経疾患のように見える配置が紛らわしい点は押さえておきたいところです。
ヘルペス性の重症型として急性網膜壊死(ARN)は、早期診断を容易にするための診断基準作成が研究課題となるほど難治で、確定診断群でも感度の課題が示されています。
その研究では診断基準の感度低下要因として前眼部所見や病巣拡大所見の扱いが議論され、基準改定で「前部ぶどう膜炎または豚脂様角膜後面沈着物」の条件緩和、円周方向拡大を必須項目から外すなどの調整が行われています。
つまり「典型所見が揃わないARN」は現場で一定数起こり得るため、局在性の黄白色病巣を見た時点でARNを除外しきらない姿勢が安全です。
免疫関連の鑑別としてAZOORは、急激な視野欠損や視力低下で発症し、眼底・FAがほぼ正常でもOCTで外層異常が見える点が特徴で、視神経疾患/中枢疾患との鑑別が重要とされています。
AZOORのガイドラインでは、鑑別としてぶどう膜炎、網膜血管閉塞、中心性漿液性脈絡網膜症の陳旧例などが挙げられており、「局在性の視機能障害=網膜炎」と短絡しないことが示唆されます。
局在性網膜炎の検査と診断
検査は「炎症の主座(網膜内層か外層か)」「感染の裏取り」「緊急度(壊死性か)」の3本柱で組むと迷いにくいです。
AZOORでは診断基準にOCT所見(視野欠損部位に一致する網膜外層構造異常)が明記され、さらにERG(全視野または多局所ERG)の振幅低下が診断要素として扱われています。
眼底・FAが正常に近いのに症状が強い症例では、OCTと視野検査、必要に応じてERGまで含めることで「網膜外層疾患」を拾い上げられる可能性があります。
感染性の裏取りは、トキソプラズマでは臨床像が強く示唆する場合も多い一方、血清抗体価が変化しない・IgMが検出されないこともあると整理されており、血清のみで過度に否定しない姿勢が必要です。
参考)眼トキソプラズマ症(トキソプラズマ性網脈絡膜炎)|国立健康危…
逆に、ARNのようなヘルペス性壊死性疾患を疑う場合は、確定のために眼内液によるウイルス診断(PCR)を含めて進めることが診断基準研究でも前提として扱われています。
実装上は「採取できる環境か」「開始すべき治療を遅らせないか」を天秤にかけつつ、重症例ほど検体確保と治療導入を並走させる設計が現実的です。
意外な落とし穴として、AZOORの鑑別項目に「ぶどう膜炎の除外」が明記されている一方、AZOORでも硝子体に軽度の細胞浮遊が見られ、ぶどう膜炎と誤診され得ることがガイドライン本文で触れられています。
つまり「硝子体炎=感染性網膜炎」と決めつけると、外層疾患(AZOOR)や自己免疫網膜症などのルートを落とす可能性があります。
検査結果の読み方は、所見を単発で評価せず、視野欠損の形(盲点拡大など)とOCT外層異常の対応を軸に統合するとブレにくいです。
参考:AZOORの診断基準、OCT所見、鑑別(球後視神経炎との鑑別ポイントなど)
局在性網膜炎の治療とフォロー
治療は原因別に分岐しますが、臨床では「壊死性をまず除外・疑えば先行治療」「感染性の想定」「炎症コントロールと合併症管理」を同時に回すのが重要です。
トキソプラズマでは、免疫不全で急性網膜壊死に似た劇症型になり得るとされており、背景(免疫状態)で治療強度・モニタリング頻度が変わる点がポイントです。
また、トキソプラズマは再発し得る後部ぶどう膜炎の一種として整理されているため、急性期対応だけでなく再燃リスクも含めた説明と長期フォロー設計が必要です。
ARNは診断基準の研究が組まれるほど難治で予後不良例が多いとされ、早期診断・早期治療導入が成績に直結するタイプの疾患として扱うべきです。
そのため局在性の黄白色病変を見た際に、進行速度や前眼部炎症の有無などを見ながらARNを疑うラインを低めに置き、検査(眼内液PCRなど)と治療の立ち上げを急ぐ運用が安全側です。
フォローでは、視機能(視力・視野)だけでなく、OCTで外層の回復/菲薄化、瘢痕形成、網膜剥離などの合併症を定期的に追跡し、所見変化が治療反応か自然経過かを見誤らないようにします。mhlw-grants.niph+1
局在性網膜炎と独自視点と問診
検索上位に多い「症状・原因・治療」の枠組みだけだと、現場で最も差が出る「問診の設計」が薄くなりがちなので、局在性網膜炎では問診項目をあえてプロトコル化しておくと再現性が上がります。
具体的には、①光視症の有無(AZOORで重要だが全例ではない)、②発症様式(急激な視野欠損か、霧視中心か)、③免疫状態(免疫不全ならトキソプラズマが壊死性に振れる可能性)、④中枢神経症状や眼球運動痛(視神経炎との鑑別)を最小セットにします。
AZOORのガイドラインでは、球後視神経炎との鑑別で「AZOORは光視症が多い」「視神経炎は眼球運動痛が多い」といった問診の要点が述べられており、ここを初診で押さえるだけで検査の優先順位が大きく変わります。
また、トキソプラズマでは血清抗体の挙動が典型的でないことがあると整理されているため、「血清が弱いから違う」と判断して治療機会を逃さない、という意思決定の癖づけが必要です。
反対に、AZOORは「炎症が推定されるのでステロイドが使われることが多いが確立治療はない」とガイドラインでまとめられており、ステロイド反応だけで診断を確定させるのは危険です。
局在性網膜炎というラベルは便利ですが、実際には「病巣の主座・原因・緊急度」を早期に切り分けるための仮置きと捉え、初診からOCTと視野の対応づけを必ず行う運用が質を担保します。
参考:眼トキソプラズマ症の臨床像(片眼性・限局性滲出性網脈絡膜炎、硝子体混濁や網膜血管炎、免疫不全で劇症化など)