網膜底動脈蛇行症と網膜出血
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網膜底動脈蛇行症の所見と眼底写真のポイント
網膜血管の「蛇行」は一見同じに見えても、どの血管(細動脈/静脈)が主体かで病態推定が変わる。家族性網膜細動脈蛇行症の報告では、蛇行は静脈ではなく細動脈に限局しやすい点が特徴として整理されている。特に第2・第3分枝付近で蛇行が目立つことが多いが、症例により第1分枝から強いこともあるため、「典型から外れる=否定」にはしない姿勢が必要になる。
眼底写真では、以下の“見落としやすいチェック項目”を意識すると所見の言語化が安定する。
・👁️ 蛇行の対象:動脈か、静脈か(静脈優位なら閉塞やうっ滞の示唆が強い)
・🧭 分布:後極(黄斑~乳頭周囲)優位か、周辺部優位か、全周性か
・🩸 併存所見:網膜出血、白斑、硬性白斑、滲出、黄斑部の霧視の訴え
・📸 画像の取り方:血管走行評価には広角撮影が有利で、周辺病変の取りこぼしを減らす
なお、「蛇行がある=血管壁が脆い」と短絡しやすいが、家族性網膜細動脈蛇行症では蛍光眼底撮影で蛇行血管からの漏出が必ずしも証明されないとされるため、写真所見だけで炎症・漏出・虚血を決め打ちしないことが重要になる。
網膜底動脈蛇行症と蛍光眼底撮影の適応
蛍光眼底撮影(FA)の役割は、「蛇行そのものの確認」よりも、併存する血管イベント(漏出、毛細血管瘤、末梢虚血など)を拾い上げ、治療対象の病態を切り分けることにある。家族性網膜細動脈蛇行症とコーツ病が合併した症例報告では、後極の蛇行血管からは色素漏出を認めない一方、周辺部で毛細血管拡張や毛細血管瘤、漏出が確認されている。つまり「蛇行=漏出」ではなく、漏出があるなら“どこから漏れているか”を特定することが臨床判断の核心になる。
適応の考え方を実務寄りにまとめる。
・🧪 FAを検討:出血を繰り返す、滲出や黄斑浮腫が疑わしい、周辺に毛細血管異常がありそう、治療(レーザー等)を視野に入れる
・⏸️ FAを急がない:単純な蛇行のみで視機能が安定、出血が軽微で自然吸収し、追加所見が乏しい
・⚠️ 注意:FAで漏出がないから「安全」と断定しない。出血は毛細血管・静脈・動脈いずれ由来か特定困難とされる整理もあり、経過観察中の変化(再出血や新規虚血所見)に備える必要がある。
検査結果の記載では、
「蛇行血管からの漏出なし/周辺部に毛細血管拡張+毛細血管瘤+漏出あり」
のように、部位と現象を分けて書くと治療方針が共有しやすい。
周辺血管異常や滲出を伴う疑いがある場合に参考(FA所見、病態仮説、家族性の特徴の整理)。
家族性網膜細動脈蛇行症とコーツ病の合併例(FAでの漏出部位の違い、遺伝形式、特徴の列挙)
https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/94_1091.pdf
網膜底動脈蛇行症と鑑別:網膜静脈閉塞症・高血圧
臨床で一番起こりやすい混乱は、「蛇行」という単語が、静脈閉塞のうっ滞所見にも、先天/家族性の細動脈蛇行にも使われる点にある。網膜静脈閉塞症では、静脈が詰まることで静脈圧が上がり、その結果として血管の拡張や蛇行、出血、さらには黄斑浮腫が起こり得ると説明されている。つまり静脈閉塞で問題になる蛇行は“静脈側のうっ滞の表現型”であり、細動脈の形態異常とは出発点が異なる。
鑑別のコツは、病歴と所見の「組み合わせ」で考えること。
・🕒 発症様式:急な視力低下や霧視+眼底出血が多いなら閉塞をまず疑う
・🧬 家族歴:若年から両眼性・家族内に類似所見なら家族性蛇行症の線も上がる
・🩸 出血パターン:火炎状出血や広範な出血、浮腫が目立つなら閉塞・高血圧性を優先
・🧾 全身背景:高血圧、動脈硬化、糖代謝異常などが強い場合は“形態”だけで片付けない
「高血圧があるから蛇行も説明できる」と決めたくなる場面でも、細動脈蛇行が際立ち、静脈が相対的に保たれているなら、別の軸(遺伝性・構造的要因)を並行して検討した方が安全である。
網膜静脈閉塞症で蛇行・出血・浮腫が起こる機序の説明がまとまっている参考。
網膜静脈閉塞症(静脈圧上昇→拡張・蛇行・出血・むくみ)

網膜底動脈蛇行症と網膜出血:誘因・経過観察・患者説明
家族性網膜細動脈蛇行症に関する整理では、再発性の網膜出血で受診し、出血が吸収されると視力が正常に戻ることが多い一方、力仕事、血圧上昇、軽い打撲などが誘因になり得る、という“臨床で使える粒度”の情報が提示されている。これが重要なのは、患者説明で「何に気をつけると再出血リスクを下げられるか」を具体化できるからである。
外来フォローで実務的に役立つ運用例を挙げる。
・📅 フォロー間隔:初回は短め(再出血や浮腫の有無確認)、安定すれば延長
・🧾 記録テンプレ:視力/眼底(出血の部位と層)/黄斑所見(浮腫)/血圧や抗凝固薬の有無
・🗣️ 患者説明。
「蛇行=すぐ失明」ではない一方で、「出血が出たら早めに受診」「急な霧視・中心暗点は放置しない」
「力み・血圧上昇・軽い外傷が引き金になり得るので生活場面で注意」
・💊 併用薬確認:抗血栓療法中は出血イベントの見え方が増幅することがあるため、主治医連携も含めて整理する
また、出血の由来血管は明確に特定できないことがある、という整理は、医療者側にとって「説明の逃げ」ではなく、過度な断定を避けるための安全装置になる。診療録では断定ではなく可能性の幅(例:毛細血管レベルの脆弱性、うっ滞、外傷など)を残しつつ、次の一手(検査・紹介・フォロー)を明確にすることが重要だ。
網膜底動脈蛇行症の独自視点:周辺病変を拾う“見逃し設計”
検索上位で多いのは「蛇行+出血」や「FAで漏出なし」といった教科書的整理だが、現場の落とし穴は“周辺部の別病変が同居しているのに、後極の蛇行だけを見て安心してしまう”点にある。家族性網膜細動脈蛇行症とコーツ病の合併報告では、後極の蛇行血管に漏出はなくても、周辺部に毛細血管拡張・毛細血管瘤・漏出・滲出性網膜剥離といった治療対象が存在した。つまり、蛇行症を「良性の形態異常」として扱うほど、周辺の異常が視機能を左右する可能性がある。
この独自視点を“診療の仕組み”に落とすなら、以下の設計が有効。
・🧭 眼底観察の順番を固定:乳頭・黄斑→血管アーケード→赤道部→周辺(毎回同じルート)
・📸 画像の戦略:後極だけで済ませず、周辺が疑わしい場合は広角撮影や追加撮影を早めに組む
・🧪 検査の目的を明文化:「蛇行の証明」ではなく「漏出部位の同定」「末梢虚血の評価」
・🧑👩👧 家族スクリーニング:家族性が疑わしいなら、無症状の家族にも眼底評価を勧める(早期の拾い上げで“出血してから発見”を減らす)
“意外な情報”として強調したいのは、家族性網膜細動脈蛇行症は先天性の固定所見と決めつけられがちだが、長期観察で後天性進行性の可能性が指摘され、毛細血管抵抗増大など微小循環障害の仮説が議論されている点である。病態仮説は未確定でも、「変化し得る」「周辺に別病変が潜む」という前提で診るだけで、見逃し率は下げられる。