網膜中心静脈塞栓症と黄斑浮腫と抗VEGF

網膜中心静脈塞栓症と黄斑浮腫

網膜中心静脈塞栓症の臨床整理
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病態の核

静脈うっ滞→虚血→VEGF上昇→漏出・新生血管という連鎖を、所見と治療選択に結びつける。

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検査の軸

眼底+OCTで黄斑浮腫を評価し、必要に応じて蛍光眼底造影・OCTAで虚血範囲とタイプを詰める。

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治療の軸

黄斑浮腫は抗VEGFを基本に、虚血型や新生血管はレーザー(汎網膜光凝固)や硝子体手術を組み合わせる。


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網膜中心静脈塞栓症の原因と分類と予後

網膜中心静脈塞栓症(臨床現場では「網膜中心静脈閉塞症:CRVO」として説明されることが多い)は、視神経乳頭部で集合する網膜中心静脈に血栓が生じて血流が低下し、網膜全体に広く出血が起こり視力低下を来す病態として整理されます。

重要なのは、同じ診断名でも「非虚血型」と「虚血型」で臨床像と予後が大きく異なる点で、虚血型は一般に視力が0.1以下と重症例が多く、治療しても視力回復が限定的で、血管新生緑内障から失明に至り得ます。

一方、非虚血型は比較的予後良好ですが、発症後およそ3年の間に非虚血型から虚血型へ移行することが約30%程度あるとされ、経過観察の設計(検査間隔・説明内容)に直結します。

原因(リスク)としては、高血圧動脈硬化が中心で、糖尿病などもリスクを上げる要因とされています。onlinelibrary.wiley+1​

好発は60歳以降の高齢者ですが、若年者発症もあり、その場合は高血圧の合併がなく血管炎症が原因であることが多い、という視点は鑑別や紹介設計に有用です。

参考)術後肺血栓塞栓症の臨床病理学的特徴と対策

医療従事者としては「眼の病気」ではあるものの、眼科治療と同時に高血圧・高脂血症・動脈硬化など基礎疾患の治療が重要である点を、患者説明と内科連携の両方で強調します。

また、網膜は中枢神経であり、いったん死んだ細胞はよみがえらない(不可逆性)という前提が、治療目標を「完全回復」ではなく「機能低下を抑える/合併症を防ぐ」へ正しく置くうえで役立ちます。

参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jja2.12894

脳卒中と同じ」という比喩は患者説明で多用されますが、医療者側は“動脈が詰まる脳梗塞”と“静脈が詰まる網膜静脈閉塞症”の差を言語化できると、恐怖の煽りではなく納得につながります。

網膜中心静脈塞栓症の症状と眼底検査とOCTとOCTA

症状は、急速な視野異常、変視症、視力低下が典型で、片眼の全体がぼんやり・薄暗く見えるが真っ暗ではない、暗い部分と明るい部分が混在する、といった訴えが特徴として挙げられます。

視力低下は重症度で幅があり、手動弁レベルの高度低下から1.0近くまで様々で、初診時視力だけで早合点しないことがポイントです。

さらに「症状が網膜のどこに起きたかに依存し、周辺部だけだと自覚症状が出ないこともある」という点は、健診や他疾患フォロー中に偶発的に見つかるケースの説明に使えます。

検査の基本は、視力・眼圧などの一般検査の後、散瞳して眼底検査で診断を詰めることです。

黄斑浮腫の有無と程度を把握する目的で、光干渉断層計(OCT)検査が重要で、視機能(中心窩)と形態(浮腫)を同じ文脈で評価できます。onlinelibrary.wiley+1​

病型(非虚血型/虚血型)や循環評価には蛍光眼底造影(フルオレセイン)が治療方針決定に重要な情報を与えます。onlinelibrary.wiley+1​

近年の臨床では、造影剤を用いないOCTAで毛細血管の詰まりの程度を評価することもある、と日本眼科医会の一般向け解説にも明記されています。

ここでの実務的な注意点は、OCTAは“黄斑部の微小循環”を繰り返し追いやすい一方、広範囲虚血の全体像把握は造影や超広角眼底画像の補助が必要になり得る、という検査の得意不得意をチームで共有することです(検査依頼時の目的を明確化)。

また、眼底出血が強い症例では、画像の質が落ちて評価が難しくなることがあるため、患者には「今日すべて判断できない可能性」も先に伝えておくと、再診時の説明がスムーズになります。jstage.jst+1​

網膜中心静脈塞栓症の黄斑浮腫とVEGFと抗VEGF

網膜静脈閉塞症の合併症の中でも、黄斑浮腫は「一番重要な合併症」とされ、発症早期に血管から漏れ出した血漿成分が黄斑部に貯留して形成されます。

病態としては、虚血に陥った細胞がVEGF(血管内皮増殖因子)というサイトカインを放出し、血管からの漏出を促進して黄斑浮腫を悪化させる、という流れで理解すると整理しやすいです。

黄斑浮腫が中心窩に及ぶと視力低下・小視症・変視症などの症状につながり、屈折矯正(メガネ・CL)では補えない種類の見えにくさになります。

治療の一選択として、黄斑浮腫に対しては抗VEGF薬の硝子体注射が第1選択になっている、と日本眼科医会が明確に述べています。

抗VEGFは虚血網膜から産生されるVEGFの働きをブロックする薬剤を眼内に投与する治療で、目薬麻酔を行うため痛みはほとんどない、と患者説明の土台になる情報も同ページに記載があります。

一方で、注射の効果は数日で現れることがある一方、数ヶ月で再発することが多く、再発しなくなるまで複数回の注射を要し得る、という“治療の見通し”まで含めて説明することが、アドヒアランスに直結します。

臨床での落とし穴は「OCTで浮腫が減っている=視力が必ず戻る」ではない点で、網膜が中枢神経で不可逆という前提を踏まえ、形態改善と機能回復のズレを事前に共有することが重要です。

また、視力が比較的良いケースでは経過観察を選ぶこともある、と日本眼科学会の疾患解説でも触れられており、“注射一択”にしない選択肢提示が医療者の説明の質を上げます。

現場では、患者の通院可能性(仕事、運転、片眼か両眼か)と再発リスクを合わせて、フォロー間隔・注射計画・OCTの頻度を現実的に組み直すのが実務上のコツです。

網膜中心静脈塞栓症の合併症と血管新生緑内障とレーザー

網膜静脈閉塞症では、黄斑浮腫以外にも眼圧上昇(血管新生緑内障)、硝子体出血、まれに網膜剥離などの合併症が起こり得ると整理されています。

特に網膜中心静脈閉塞症で広い虚血網膜を伴う場合、VEGFにより虹彩・隅角に新生血管が生じ、隅角を閉塞して眼圧を上げる血管新生緑内障に至り得る、と日本眼科医会が説明しています。

血管新生緑内障は治りにくいタイプの緑内障とされ、視機能だけでなく疼痛や生活の質にも影響し得るため、予防と早期介入の位置づけが重要です。

虚血型(広範囲の毛細血管閉塞)では、VEGF産生を抑える目的で予防的にレーザー光凝固(汎網膜光凝固)を行う、という治療戦略が示されています。

また、すでに新生血管が生じている場合にも、新生血管を退縮させる目的でレーザー光凝固を行う、と記載があります。

硝子体出血が起き、十分なレーザーが難しい場合は硝子体手術で出血を除去した上でレーザーを行う、という“手術へ進む条件”も明文化されており、紹介元(一般眼科・他科)との情報共有に有用です。

すでに血管新生緑内障が発症し眼圧が上昇している場合には、抗VEGF硝子体注射を行い、その上で広く網膜にレーザー光凝固を行う、という段階的アプローチが紹介されています。

それでも眼圧コントロールが不十分なら点眼・内服、さらに不十分なら緑内障手術、という“次の一手”まで一本道で提示できると、患者・家族の不安を減らせます。

なお、硝子体出血は慢性期合併症で、発症から数年後に起こることが多い、という時間軸の情報は、長期フォローの必要性を説明する材料になります。

網膜中心静脈塞栓症の独自視点と内科連携

網膜中心静脈閉塞症は、高血圧・動脈硬化、糖尿病など全身因子が背景にあることが多いとされ、眼科治療と同時に基礎疾患治療が重要だと日本眼科学会の解説でも明記されています。

このため、医療従事者向けの独自視点としては「視力の話」だけで終えず、再発や反対眼リスク、そして全身血管イベントのリスク因子是正を“同じ治療計画”として患者に提示できるかが、実地の質を左右します。

具体的には、初回説明時に「血圧・血糖・脂質の確認(通院先の有無、測定値の把握)」を聴取し、かかりつけ内科がなければ受診導線をつくることで、抗VEGFの継続可能性(通院・自己管理)も改善しやすくなります。

若年者では高血圧の合併がなく血管の炎症が原因であることが多い、という指摘は、一般的な動脈硬化モデルだけでは拾いにくい背景を示唆します。

そのため、若年例や両眼例、再発例では、問診で「最近の感染・炎症性疾患、自己免疫疾患の既往、血栓性素因を疑うエピソード」を追加し、必要なら内科・膠原病内科と連携して“原因の取り残し”を減らす、という運用が現実的です。

眼科外来の短い時間でも、患者が次に何をすべきか(血圧測定、採血の相談、紹介状の意味)を明確にし、説明文書に落として渡すだけで、治療の迷走を減らせます。jstage.jst+1​

また、非虚血型から虚血型への移行が一定割合で起こり得る以上、初診時に軽症に見えても「急な見え方の変化、痛み、充血(血管新生緑内障の可能性)を見逃さない」などのセルフモニタリング項目を具体的に伝えることが、結果的に重症化を防ぐ可能性があります。jstage.jst+1​

医療者側は“眼底写真の変化”だけでなく、“患者が表現する見え方の言語”を蓄積すると、再発の早期キャッチに役立ちます(例:薄暗い、コントラストが落ちた、歪む、小さく見える)。jstage.jst+1​

■疾患の分類(非虚血型/虚血型)と予後・治療の概説(医療従事者の説明設計に有用)

日本眼科学会:網膜中心静脈閉塞症

■黄斑浮腫、OCT/OCTA、抗VEGF、レーザー、血管新生緑内障までの流れ(検査と合併症の整理に有用)

日本眼科医会:網膜静脈閉塞症と診断されたら