毛様体分離と外傷と低眼圧と診断と治療

毛様体分離と診断と治療

毛様体分離:臨床で迷いやすい要点
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病態の核は「房水の逃げ道」

解離部から上脈絡膜腔へ房水が流出し、低眼圧が遷延しうる点をまず押さえます。

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診断の軸は「隅角+画像」

隅角検査に加え、超音波生体顕微鏡(UBM)などで毛様体と強膜の間隙を評価します。

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治療は「保存→介入」の段階戦略

自然軽快もある一方、低眼圧が長引く場合は黄斑症を念頭に、縫着術など確実性の高い選択肢を検討します。


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毛様体分離の外傷と低眼圧の機序

毛様体分離(毛様体解離/cyclodialysis)は、毛様体と強膜の付着が破綻して間隙ができ、房水が本来の流出路(線維柱帯)ではなく「上脈絡膜腔」へ逃げやすくなる状態です。

この結果、房水産生の低下(毛様体機能低下)も重なると、眼圧が4〜7mmHg程度で遷延することがあり、低眼圧が長期化すると低眼圧黄斑症による重篤な視機能障害を起こしうる点が重要です。

外傷機序としては、典型的に鈍的外傷(打撲・拳打・ボール外傷など)で前眼部が一時的に変形し、隅角周囲の組織に剪断力が加わることで発生します。

臨床の落とし穴は「低眼圧=良性」と誤認することです。

低眼圧そのものは痛みを伴わないこともあり、視力が一旦回復すると経過観察に流れがちですが、網膜皺襞や黄斑機能の障害が“後から”問題化します。

毛様体分離の前房出血と隅角検査

毛様体分離を疑うトリガーとして、外傷直後の前房出血(hyphema)と、眼圧が思ったより下がる(または変動が大きい)組み合わせは強いヒントになります。

徳島赤十字病院の症例報告では、結膜裂傷・前房出血・水晶体振盪・網膜振盪を伴い、隅角検査で12時〜3時に毛様体分離が確認されています。

前房出血がある時期は、角膜混濁や炎症で隅角が見えにくく、範囲同定が遅れることがあるため、「出血が引いたタイミングで隅角を必ず取り直す」という運用が安全です。

実務上は、以下をカルテに“固定文”として残すとチーム医療が回りやすくなります。

・外傷機序(拳・ボール・転倒など)

・初診眼圧、翌日眼圧、1週眼圧(低眼圧の遷延の有無)

・前房出血の程度(層状/微量)

・隅角:毛様体分離の有無、時計時間で範囲

水晶体振盪の有無(手術計画に直結)

参考)https://www.tokushima-med.jrc.or.jp/file/attachment/3347.pdf

毛様体分離のUBMと画像診断のコツ

UBM(超音波生体顕微鏡)は、隅角鏡など光学的検査で見えにくい虹彩裏面や毛様体の形態をリアルタイムに観察でき、毛様体分離の「毛様体と強膜の間隙」を捉えるのに有用です。

新潟大学の報告では、隅角鏡で9〜10時半に隅角後退を認め、UBMで同部位に毛様体と強膜の間隙(強い毛様体分離)と脈絡膜剥離所見が得られたと記載されています。

つまり、隅角所見だけで判断しにくいときほど「UBMで“間隙の深さ”を評価し、病態の強さ(漏れの大きさ)を推定する」という発想が役立ちます。

意外に見落とされるのが、眼底側(黄斑)で起きている二次的変化です。

同報告では低眼圧黄斑症の所見(網膜皺襞、血管蛇行)が示され、さらにOCTが黄斑の形態変化の経時観察と予後推測に有用だったと述べられています。

前眼部の疾患として始まっても、「UBM(前眼部)+OCT(黄斑)」の二面評価で、治療のタイミングが決まりやすくなります。

毛様体分離の保存療法と毛様体縫着術

毛様体分離による低眼圧は保存療法のみで自然軽快することもある一方、長期間持続すると低眼圧黄斑症を併発し重篤な視力障害を引き起こす可能性がある、と症例報告で明確に注意喚起されています。

外科的治療としてはレーザー光凝固、ジアテルミー凝固、冷凍凝固、強膜内陥術、毛様体縫着術などが報告され、特に毛様体縫着術は直視下に強膜と毛様体を縫合するため「最も効果が確実な方法」と位置づけられています。

新潟大学の症例でも、毛様体分離の範囲は狭いが程度が強いと判断され、受傷19日後に毛様体縫着術が行われ、術後眼圧が正常化し低眼圧黄斑症が消退したとされています。

また、白内障合併例の実務的な論点として「同時手術か二期手術か」があります。

徳島赤十字病院の報告では、まず毛様体縫着術で眼圧と水晶体振盪の改善を得てから、二期的に小切開白内障手術を行い安全に遂行できたとされ、さらに毛様体分離の手術前後で眼軸長が約0.7mm増加しており、同時手術だと屈折予測がずれる可能性が示唆されています。

この「眼圧の正常化に伴う眼軸長変化→IOL度数ずれ」の視点は、検索上位の一般解説には出にくい一方で、術後満足度に直結しやすい“現場の罠”です。

毛様体分離の独自視点:手術時期と視機能の可逆性

毛様体分離の手術時期は一律ではありませんが、低眼圧黄斑症が示唆される場合、漫然と待つほど「回復しても戻り切らない視機能」が残るリスクが高まります。

新潟大学の報告では、従来は自然経過観察を推す意見もあった一方で、最近は“1か月しても眼圧が回復しなければ積極的に手術療法へ”という考え方が述べられ、実際に受傷19日後の比較的早期手術で眼圧正常化と黄斑皺襞の速やかな消失が得られています。

ここから得られる臨床的メッセージは、「毛様体分離の治療ゴールは眼圧の数字だけではなく、黄斑(視機能の中枢)に“しわ”を作らせない時間戦略」という点です。

さらに、外傷後は毛様体分離だけでなく、脈絡膜破裂・脈絡膜新生血管など後極部の合併症も問題化し得ます。

同報告では、脈絡膜破裂の晩期合併症として網膜下新生血管の可能性に触れ、今後の注意深い経過観察が必要とされています。

つまり、毛様体分離のフォローは「前眼部の閉鎖確認」で終わらず、OCTや必要に応じた造影も含めて“後極部の時間差合併症”まで視野に入れると、見逃しが減ります。

低眼圧が遷延し、UBMで間隙が強く疑われるケースでは、以下のように院内連携を組むと実務が安定します。

✅ 看護:安静・眼帯・点眼アドヒアランス確認(前房出血の再出血にも注意)

✅ 視能訓練士:OCTで黄斑皺襞・中心窩形態の経時変化を記録

眼科医:隅角再評価+UBMで範囲と程度、手術適応を再判定​

【参考リンク(毛様体分離の病態・縫着術・白内障併発時の二期手術の考え方、眼軸長変化の注意点)】

https://www.tokushima-med.jrc.or.jp/file/attachment/3347.pdf

【参考リンク(UBM所見、低眼圧黄斑症、毛様体縫着術のタイミングに関する詳細な症例経過)】

https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/106_721.pdf