虹彩炎・毛様体炎
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虹彩炎・毛様体炎の症状と前房細胞
虹彩炎・毛様体炎(いわゆる前部ぶどう膜炎の主要病型)は、患者が「片眼の痛み」「羞明」「霧視」「流涙」を訴え、視診では毛様充血(角膜周囲が赤紫っぽい輪状の充血)が目立つことが多いのが臨床の入口になります。
この段階で重要なのは、“充血している=結膜炎”と短絡せず、細隙灯で「前房細胞」と「前房フレア」を必ず拾い上げることです。ぶどう膜炎診療では前房細胞・前房フレアの定量(半定量)を共通言語にすると、初療からフォローアップまでの判断が一気に安定します。
前房細胞はSUNの提案に沿って「1mm×1mmのスリット光で1視野あたりの細胞数」を数え、0、0.5+、1+、2+、3+、4+のように記載します。
前房フレアはTyndall現象として観察され、none(0)〜intense(4+:線維素やプラスティック前房水)までのグレードで表現されます。
実務上のコツは、初診時の所見を「前房細胞 2+、フレア 1+、角膜後面沈着物の有無、瞳孔の形、眼圧、硝子体混濁(あれば)」までテンプレ化して記録することです。こうすると、再診時に“良くなった気がする/悪い気がする”ではなく、「2+→0.5+」のように治療反応を説明でき、紹介状の質も上がります。
虹彩炎・毛様体炎の診断と検査
虹彩炎・毛様体炎を“眼だけの病気”として完結させると、原因検索の抜けが起きやすい点に注意が必要です。日本眼科学会の解説でも、ぶどう膜炎は免疫異常(サルコイドーシス、原田病、ベーチェット病など)だけでなく、細菌・ウイルス感染、外傷、悪性腫瘍など多様な原因があり、さらに「3人に1人は原因不明」とされています。
つまり、初期評価では「眼所見の重症度の把握」と「原因検索の導線づくり」を同時に進めるのが現実的です。
眼科的検査としては、一般的眼科検査に加え、必要に応じてOCT、蛍光眼底造影などを組み合わせます。
全身的には血液検査や胸部X線などが挙げられ、問診(全身症状、既往、薬剤、感染リスク)の精度が結果の半分を決めます。
意外と盲点になりやすいのが、「前部」と言いつつ硝子体混濁があるケースです。前房だけでなく前部硝子体まで炎症が及ぶと、病型として虹彩毛様体炎のニュアンスが強くなり、感染性(ヘルペス等)や中間部/後部の要素を拾う必要が出てきます。
また、重症例では線維素析出や前房蓄膿が出ることがあり、これは単なる“充血の強い炎症”ではなく、治療強度や鑑別(HLA-B27関連、ベーチェット病など)を意識させるサインになります(HLA-B27関連では線維素や前房蓄膿がしばしば、という整理がガイド資料にも見られます)。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2010/103071/201024006A/201024006A0003.pdf
虹彩炎・毛様体炎の治療とステロイド点眼
治療は原因により変わるものの、臨床で最も頻繁に行われる基本設計は「炎症を抑える」と「癒着を防ぐ」です。日本眼科学会の一般向け解説でも、局所療法として副腎皮質ステロイド点眼薬と、虹彩後癒着を予防する散瞳薬点眼が処方される、と明記されています。
この2本柱を理解すると、処方の意味づけを患者に説明しやすくなり、アドヒアランスも上げやすくなります。
診療ガイドライン側の記述では、前房に炎症細胞がみられる場合(例:1+ cell以上)に、0.1%ベタメタゾンリン酸エステルNaやデキサメタゾンリン酸エステルNaを4〜6回/日で開始し、同時に瞳孔管理として散瞳薬(トロピカミド+フェニレフリン合剤など)を併用する、という具体的な投与設計が示されています。
さらに、線維素析出や前房蓄膿があるような強い前房炎症では、点眼回数増加や、場合により結膜下注射も検討されます。
ここで実務的に重要なのは「ステロイド点眼は効かせるべき症例が多い一方で、単独投与で押し切ってはいけない病態がある」点です。ガイドラインの“ヘルペス性前部ぶどう膜炎”の節では、片眼性で角膜後面沈着物、高眼圧、角膜浮腫、虹彩萎縮などが早期所見になり得ること、治療は抗ウイルス薬内服が中心で必要に応じてステロイド点眼等を併用すること、そして「ステロイド点眼単独では効果がなく慢性化することがある」という注意が明記されています。
つまり、角膜後面沈着物+高眼圧+片眼性の組み合わせを見たら、同じ“虹彩炎・毛様体炎”でも治療アルゴリズムが変わる可能性が高い、という臨床判断になります。
虹彩炎・毛様体炎の合併症と眼圧
合併症の軸は大きく「癒着」「眼圧」「透光体」「黄斑・網膜硝子体」です。日本眼科学会の解説でも、治療目的は炎症を抑えて視力障害につながる合併症を予防すること、と整理されています。
前部病変が中心でも、慢性化・再発を繰り返すと白内障や緑内障、硝子体混濁などへ波及しうるため、初療から“将来の合併症予防”の視点で設計する必要があります。
特に虹彩後癒着は、瞳孔不整(不整円瞳)だけでなく、重度になると瞳孔ブロックや隅角閉塞に関与し、眼圧上昇へつながる可能性があります。診療ガイドラインでも、ぶどう膜炎の続発緑内障の原因として、虹彩後癒着による瞳孔ブロック、周辺虹彩前癒着による隅角閉塞、房水排出路の障害などが挙げられています。
このため、散瞳薬は単なる“痛み対策”ではなく、「癒着を防いで構造的合併症を避ける」意味が大きい処方です。
もう一つの落とし穴が眼圧です。炎症そのものでも眼圧は上がり得ますし、ステロイド反応性の眼圧上昇(いわゆるステロイド緑内障)も起こり得ます。ガイドラインでもステロイド点眼治療による白内障進行やステロイド緑内障の発症・進行に注意するよう記載があります。
したがって、前房所見の改善だけで安心せず、眼圧・視神経・隅角(癒着の有無)をセットで追うのが安全です。
虹彩炎・毛様体炎の独自視点と説明
検索上位の一般的な解説では「原因・症状・治療」の枠で語られがちですが、現場では“説明の設計”が再燃率と合併症リスクを左右します。特に、散瞳薬を開始すると「まぶしい」「手元が見えにくい」「運転が怖い」といった生活上の不満が出やすく、自己中断のきっかけになります(その結果、癒着が進んで初療の目的が崩れます)。
そこで、医療従事者向けにあえて強調したいのは、散瞳薬・ステロイド点眼の説明を「症状を取る薬」ではなく「失明につながる合併症を避ける薬」という構造で伝えることです。日本眼科学会の解説が、散瞳薬を“虹彩後癒着を予防する”目的として説明している点は、そのまま患者説明に転用しやすい素材になります。
また、記録の工夫も独自の実務ポイントです。前房所見(細胞・フレア)をSUNに沿って数値化しておくと、患者への説明で「炎症が半分以下になった」など具体的な言葉に置き換えられ、治療継続の納得感が高まります。
さらに、紹介・逆紹介の場面でも「前房細胞 3+→1+、フレア 2+→1+、KPあり、眼圧xxmmHg」まで書けると、受け手が次の一手(原因検索、抗ウイルス併用、免疫抑制の要否など)を組み立てやすくなります。
最後に“意外性”として挙げるなら、ぶどう膜炎領域は将来的に用語標準化(SUN)やSNOMEDなどの枠組みが、診療情報の共有や意思決定支援(AI含む)に寄与し得る、という視点です。ガイドラインの総論でも、SUN用語やSNOMEDの意義に触れ、標準化された用語が世界規模の情報交換や支援の可能性を広げる、と述べられています。
臨床現場で今日すぐに役立つのは「所見を標準化して書く」ことですが、これは将来の医療情報基盤にも直結する“投資”になり得ます。
ぶどう膜炎(虹彩炎・毛様体炎を含む)の原因・検査・治療(ステロイド点眼、散瞳薬、全身治療の考え方)が簡潔にまとまっている参考。
ぶどう膜炎の所見グレーディング(前房細胞・フレア)や治療(点眼・注射・全身治療)をより詳細に確認できる参考。