結膜硝子疾患と結膜炎と硝子体手術
結膜硝子疾患の結膜炎とウイルス性結膜炎
結膜硝子疾患という言い回しは、現場では「結膜(眼表面)で起きる頻度の高い病態」と「網膜・硝子体(眼底)の視機能に直結する病態」を同じ導線で相談される、という“診療上の混線”を含んで語られることが多いです。
日本眼科学会の一般向け疾患リストでも、結膜(白目)の病気(例:ウイルス性結膜炎、アレルギー性結膜炎、結膜弛緩症、翼状片)と、網膜の病気(例:後部硝子体剥離、網膜剥離、黄斑円孔、黄斑上膜など)が別立てで整理されています。
医療従事者が最初に押さえるべきは「見た目が赤い=結膜炎」と短絡しないことです。
結膜炎は頻度が高い一方、ウイルス性結膜炎、とくにアデノウイルス関連は接触感染で医療機関内に拡大し得るため、診療の成否が“感染対策の設計”に左右されます。
参考)https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?ItemId=283amp;dispmid=909
症状の取り方は、表面疾患か眼底疾患かを早期に分けるために、次のように具体化するとブレにくくなります。
- 充血:片眼か両眼か、急性か、周辺優位か。
- 眼脂:膿性か水様か、朝の開瞼困難の程度。
- 疼痛:表層の痛みか、眼球深部痛か。
- 視機能:視力低下、歪み、視野異常、飛蚊症、光視症の有無(ここが硝子体・網膜側の入口)。
参考)https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/detail.html?itemid=757amp;dispmid=909
院内感染の観点では、アデノウイルス結膜炎は「軽い疾患」と見做されがちでも、接触感染で拡大し得る点が繰り返し指摘されています。
外来の実務としては、疑い例の“待機場所・検査器具・診察順”を固定し、患者ごとの環境清拭と手指衛生をルーチン化する方が、属人的な注意喚起より再現性が高いです(ルール化しないと繁忙日に破綻します)。
参考:ウイルス性結膜炎の院内感染対策(リスク因子・消毒法などの考え方)
結膜硝子疾患の飛蚊症と後部硝子体剥離
患者の「黒い点が見える」「蚊が飛ぶ」は、硝子体由来の訴え(飛蚊症)の典型で、眼表面の結膜炎とは別系統です。
加齢性の変化として説明される場面もありますが、同じ訴えの中に網膜裂孔・網膜剥離・硝子体出血が紛れている可能性があるため、“飛蚊症だけ”で片付けない姿勢が安全です。
九州大学の解説では、網膜硝子体疾患が疑われる主な症状として飛蚊症・視力低下・歪み・視野異常が挙げられています。
特に問診で拾いやすい危険サインは、
- 光視症(チカチカ、稲妻)
- 視野の欠け(カーテン様)
- 急激な飛蚊症の増加(“数が一気に増えた”)
の3点で、ここがある場合は眼底評価を急ぐ前提になります。
実臨床では、結膜炎を疑って受診した患者が「実は飛蚊症もある」と後から言うケースがあります。
そのため、結膜症状が主訴でも、短い定型質問として「飛蚊症と光視症と視野異常」を毎回確認しておくと、結膜硝子疾患という“混線”を分離しやすくなります。
結膜硝子疾患の網膜剥離と硝子体手術
網膜剥離は、網膜が脈絡膜から剥がれる病態で、進行すると視力低下や視野欠損が出現します。
九州大学の解説では、裂孔から水が入り込む裂孔原性網膜剥離や、増殖糖尿病網膜症などでみられる牽引性網膜剥離に触れた上で、初期はレーザー(網膜光凝固術)、進行例では手術(強膜内陥術、硝子体手術)が必要になり得ると説明されています。
硝子体手術は、眼内から直接網膜を復位させる治療として位置づけられ、状況によりガスやシリコンオイルを使用して網膜を押さえることがあります。
ガスは時間とともに眼内の水に置き換わり、シリコンオイルは効果が長い一方で抜去のための再手術が必要になる場合がある、という“患者説明で詰まりやすい差”は、術前に簡潔に共有しておくと同意形成がスムーズです。
医療従事者向けの導線としては、次のように整理すると安全です。
- 眼底疾患が疑わしいサイン(飛蚊症急増、光視症、視野欠損、急な視力低下)があれば、結膜所見が強くても眼底評価を優先。
- 「結膜炎の診断で点眼開始→翌日視野欠損が判明」のようなすれ違いを避けるため、受診時点で危険サインを文書(カルテ)に残す。
- 眼底疾患の可能性を説明する際は、“結膜の炎症”と“網膜の剥がれ”が別物であることを比喩(カメラのフィルム)で統一して話すと理解が揃いやすいです。
結膜硝子疾患の糖尿病網膜症と抗VEGF
糖尿病網膜症は高血糖状態が長期間続くことで起こる糖尿病の眼合併症で、進行段階により単純・前増殖・増殖に分けられる、と解説されています。
前増殖までレーザー治療で対応し得る一方、増殖まで進行すると視力低下が強く手術が必要になることが多い、という“介入タイミングの差”は、紹介基準や受診間隔の設計に直結します。
黄斑浮腫に関連してVEGFが重要な因子であり、VEGFを阻害する薬剤を眼内投与する抗VEGF薬硝子体注射が、加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫などで用いられている点もまとめられています。
一方で、抗VEGFは視力改善や進行遅延が期待できる反面、定期的な継続が必要で根本解決が難しい側面がある、という現実も同じページで明確に述べられています。
外来での説明は、治療の“効き方”と“通院モデル”を分けると誤解が減ります。
- 効き方:むくみ(黄斑浮腫)や新生血管関連の活動性を抑える。
- 通院モデル:単回で終わる治療ではなく、病勢に合わせて間隔調整しながら継続しやすい。
ここを押さえると、患者側の「注射したのに完治しないのは失敗?」という不信を予防しやすくなります。
参考:網膜硝子体疾患の代表例、症状、治療(レーザー・硝子体手術・抗VEGFなど)
結膜硝子疾患の結膜弛緩症と翼状片(独自視点)
検索上位の多くは「網膜硝子体疾患」か「結膜疾患」を別々に扱いますが、現場の困りごとは“併存”です。
たとえば結膜弛緩症はドライアイ様の違和感や流涙を訴えやすく、患者の主観としては「結膜炎が長引く」に見えることがあります(この時点で、抗菌点眼の漫然投与に流れやすいのが落とし穴です)。
また翼状片は、白目側の組織が角膜側へ侵入していくイメージで理解され、異物感や充血が続く場合は手術が検討される、という説明が一般の医療サイトや大学病院ページでもなされています。
参考)翼状片
この2つは「結膜の器質的変化」であり、感染性結膜炎のように“治療で消える炎症”とは設計が違うため、患者説明では「炎症が治らない」ではなく「形が変わって症状が出る」を軸に言い換えると納得が得やすいです。
参考)https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=16
独自視点としてのポイントは、結膜弛緩症・翼状片のような“結膜の構造変化”があると、患者が感じる刺激感・充血・流涙が強くなり、同時に飛蚊症など眼底側の訴えが後回しになりやすいことです。
そのため、結膜所見が目立つ患者ほど、テンプレ問診で「飛蚊症・光視症・視野異常」を必ず拾う、という運用ルールが事故予防に効きます。
最後に、医療従事者向けの最小限のチェックリストを置きます(説明時にそのまま使えます)。
- 🧪 結膜炎らしい:眼脂、急性の充血、周囲の流行、接触感染リスク。
- 🧯 眼底優先:飛蚊症急増、光視症、視野欠損、急な視力低下。
- 🧩 器質的結膜:結膜弛緩症、翼状片の可能性(“炎症が治らない”のではなく“形の問題”)。
参考:結膜弛緩症の概要(結膜が弛緩した状態という定義、病態の説明)