結膜沈着症 結膜母斑 色素沈着
結膜沈着症 結膜母斑と色素沈着の基礎
結膜沈着症として日常診療で最も頻度が高いのは、白目のシミとして認識される結膜母斑であり、眼球結膜におけるメラノサイト増殖とメラニン色素沈着による良性腫瘍です。結膜は強膜表面を覆う透明な膜であり、その上に茶色〜黒色の斑状病変として沈着が視認される点が特徴です。結膜母斑は表在性と深在性に大別され、前者は平坦で血管との連続性に乏しく、後者は隆起性で腫瘍に向かう栄養血管が豊富にみられるなど、沈着様式と血管所見が診断の手掛かりとなります。
結膜沈着症の「沈着」という語は必ずしも腫瘍性変化だけを指さず、色素の増加、沈着細胞の集簇、あるいは異物や薬剤の沈着を含む広いスペクトラムを意味するため、視診所見だけで安易に結膜母斑と断定しない姿勢が重要です。色素沈着の一部は、強膜母斑や脈絡膜母斑など眼球深部病変の一端として白目に透見されることもあり、結膜に限局するかどうかの評価には、結膜可動性の観察や青色調優位かどうかの確認が役立ちます。
参考)結膜母斑(色素沈着、白目のシミ)に対するレーザー治療 |辻堂…
- 結膜沈着症の代表例として結膜母斑があり、多くは良性である。
- 表在性か深在性か、色調・隆起・血管所見で鑑別を進める。
- 「沈着」は腫瘍性に限らず、薬剤・異物・全身性疾患の反映も含む。
結膜沈着症 症状とよく似た病変の見分け方
結膜沈着症は多くの場合無症候で、患者は違和感や充血ではなく「白目のシミ」や「ほくろ」といった美容的な訴えを主として受診しますが、炎症やドライアイが共存すると軽い異物感や流涙を伴うことがあります。診察側は自覚症状の有無よりも、色素斑の変化や充血・結膜浮腫など付随所見に注目し、翼状片や瞼裂斑のような非色素性病変との鑑別も同時に行う必要があります。
結膜沈着症と紛らわしい病変として、脂肪変性主体の瞼裂斑、血管増生を伴う翼状片、結膜炎後の瘢痕変化などがあり、これらは黄色〜白色調であり、明確な色素沈着が乏しい点が結膜母斑と異なります。強膜母斑は結膜の下層で青黒い色調を呈し、結膜を動かしても病変が動きにくいという身体診察の「小技」が鑑別に有用で、研修医や多職種スタッフに共有しておくと実地で役立ちます。
参考)https://j-eyebank.or.jp/doc/class/class_23-1_03.pdf
結膜沈着症 診断プロセスと専門医への紹介基準
結膜沈着症の診断では、まず問診で発症時期、経時的変化、家族歴、紫外線曝露や職業歴、既往眼科手術、使用薬剤の確認を行い、次にスリットランプで色調・境界・隆起・表面性状・周囲血管を系統的に観察します。茶色〜黒色で均一、境界明瞭、表面平滑、嚢胞を伴う場合は典型的な結膜母斑のことが多く、若年発症例では経過観察が選択されやすい一方、中高年で新規発症した色素斑は悪性疾患を念頭により慎重な評価が求められます。
臨床現場では、以下のような所見を「要注意サイン」として覚えておくと、結膜沈着症の中から悪性黒色腫などを拾い上げる感度を高められます。
| 所見 | 臨床的な意味合い |
|---|---|
| 短期間での急速なサイズ増大 | 結膜悪性黒色腫など腫瘍性病変を示唆 |
| 不整な境界・色調のむら・黒色点状部 | 異型メラノサイト増殖の可能性 |
| 腫瘍へ向かう太い不整血管 | 深在性母斑や悪性腫瘍で目立ちやすい |
| 結膜下出血を繰り返す | 腫瘍の脆弱血管の存在を考慮 |
| 隣接する角膜・強膜への進展 | 局所浸潤性病変の可能性 |
これらのサインが一つでもみられる場合、眼科専門医への紹介あるいは専門施設での精査(写真記録、AS-OCT、必要に応じて生検)の検討が妥当です。一見良性に見える結膜沈着症でも、全身性メラノーシスや遺伝性疾患の一部として出現することがあり、全身の皮膚色素斑や家族歴に目を向ける姿勢が、医療従事者としての診断精度向上につながります。
参考)目の中にほくろ?白目や虹彩にできる色素斑の原因・症状・治療法…
- 発症年齢、経時変化、薬剤歴・紫外線曝露歴の聴取が重要。
- 急速増大、不整血管、色調のむらなどは要注意サイン。
- 疑わしい場合は眼科専門医へ早期に紹介し、画像・病理で詰める。
詳しい結膜母斑の臨床像とレーザー治療例が写真付きで解説されており、結膜沈着症の視診の具体的イメージ作りに有用です。
結膜沈着症 レーザー治療・切除と経過観察の実際
結膜沈着症のうち結膜母斑に対しては、美容的・心理的負担の軽減を目的にレーザー治療や切除が選択されることがあり、特に片側眼球結膜に限局した表在性母斑ではレーザーによる色素除去で1回目の施術後に約8割の症例で顕著な改善が得られると報告されています。色素沈着が広範囲・高濃度の場合には複数回の照射を要することもあり、初回カウンセリング時に「1回で完全に消えない可能性」を具体的に説明しておくことで、患者満足度のギャップを減らすことができます。
一方、結膜沈着症が疑われても典型的な良性像で変化が乏しい場合、経過観察が標準的選択肢となり、その際は定期的なスリット写真撮影とサイズ測定を行い、年単位の変化を視覚化することが推奨されます。切除を選ぶケースでは、整容面の改善とともに病理診断の確定という利点があり、結膜悪性黒色腫との鑑別が難しい症例では、むしろ早期切除を前向きに提示することで患者の安心感と安全性を両立させることが可能です。
- 美容的・心理的負担が大きい結膜沈着症にはレーザーや切除が選択肢となる。
- レーザーは1回で大きく改善するが、多回照射が必要な例もある。
- 変化の乏しい良性像では写真記録による経過観察が現実的な対応。
結膜沈着症 在宅医療・全身管理の視点からの意外なポイント
結膜沈着症は外来眼科診療のテーマと捉えられがちですが、在宅医療や内科診療の現場でも結膜の評価は重要であり、結膜浮腫や貧血、黄疸所見だけでなく、慢性的な色素沈着や出血痕を通して全身状態のヒントが得られることがあります。例えば、心不全による静脈圧上昇や低アルブミン血症では結膜浮腫が出現しやすく、結膜沈着症に伴う炎症や血管透過性亢進が重なると所見が増幅されるため、「いつものシミ」として見過ごさず、循環動態や栄養状態を含めた全身評価につなげる視点が有用です。
また、慢性炎症性疾患や自己免疫疾患の患者では、長期ステロイドや免疫抑制薬の使用に加え、日光曝露や皮膚メラノーシスを伴うことがあり、結膜沈着症が全身治療歴の「ログ」として機能する場面もあります。在宅や非眼科領域の医療従事者が、白目の色素沈着や結膜浮腫・充血を見たときに、「眼科紹介のタイミング」と「全身評価の必要性」の両方を意識できれば、診療の質を一段引き上げることが期待できます。
- 在宅医療・内科診療でも結膜の色素沈着と浮腫を全身状態の手掛かりとして活用できる。
- 心不全や低アルブミン血症では結膜浮腫が出現しやすい。
- 慢性炎症・薬剤歴と結膜沈着症を関連づけて評価すると診療の解像度が上がる。
在宅医療の文脈で結膜所見を全身評価と結び付けて解説しており、結膜沈着症を全身管理の視点で捉え直す際の参考になります。