パリノー結膜炎 病態と診療の要点
パリノー結膜炎 一側性濾胞性結膜炎と耳前リンパ節腫脹
パリノー結膜炎(Parinaud oculoglandular syndrome: POS)は、一側性の肉芽腫性濾胞性結膜炎に同側の耳前リンパ節や顎下リンパ節腫脹を伴う眼腺症候群として定義されます。片眼の結膜に大きく不規則な赤い濾胞と慢性壊死性炎症がみられる点が、通常の急性結膜炎と異なる重要所見です。
多くは上眼瞼結膜あるいは球結膜に肉芽腫性結節が出現し、眼痛、充血、流涙、異物感に加え、発熱や全身倦怠感など全身症状を伴うことがあります。
耳前リンパ節腫脹は圧痛を伴うことが多く、結膜炎発症と同時期に出現する場合と、数週間遅れてから目立ってくる場合の両方が報告されています。
- 臨床現場では「一側性」「肉芽腫性」「耳前リンパ節腫脹」というキーワードの組み合わせを意識することが早期診断の近道となります。
- 通常のウイルス性結膜炎と誤認されやすく、点眼のみで経過観察されているうちにリンパ節腫脹が進行する症例もあるため、初診時から全身状態の評価が重要です。
- 眼所見が軽度でもリンパ節腫脹が目立つ症例があり、「リンパ節優位型」のパリノー結膜炎として報告されています。
パリノー結膜炎 ネコひっかき病とBartonella感染
パリノー結膜炎の原因として最も頻度が高いのが、ネコひっかき病(Bartonella henselae感染)に伴う眼型(眼腺型:Parinaud眼腺症候群)です。
猫との接触歴(ひっかき、咬傷だけでなく、顔を舐められた、眼の近くに接触したなどのエピソードを含む)が詳細に問診されないと、原因不明の結膜炎として見逃されることがあります。
- ネコひっかき病患者のうち約6%前後がパリノー眼腺症候群を呈するとされ、比較的まれではあるものの、若年者や猫飼育者では必ず念頭に置く必要があります。
- 典型的には、結膜への微小外傷部位を介したBartonella侵入後、局所の肉芽腫性結膜炎と同側リンパ節腫脹が出現し、発熱を伴うことも多いと報告されています。
- 眼型ネコひっかき病では、全身型と比較して発熱が軽微で、局所所見が主体となるため、眼科単独受診で内科的背景疾患を見逃すリスクがあります。
検査としては、Bartonella henselaeに対する抗体価測定やPCR検査が診断に有用とされますが、結果判明に時間を要するため、臨床的には問診と身体所見からの推定診断が重要になります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7558689/
治療は自然軽快する例もある一方で、アジスロマイシンやドキシサイクリンなどマクロライド系・テトラサイクリン系抗菌薬の投与が推奨されることが多く、免疫不全患者ではより積極的な治療介入が必要です。
参考)ネコひっかき病 – 13. 感染性疾患 – MSDマニュアル…
パリノー結膜炎 ウイルス性結膜炎や濾胞性結膜炎との違い
パリノー結膜炎は濾胞性結膜炎の特殊型として位置づけられますが、アデノウイルスによる流行性角結膜炎や咽頭結膜熱などの一般的なウイルス性結膜炎と臨床像が似ているため、鑑別が重要です。
アデノウイルス性結膜炎でも耳前リンパ節腫脹がみられることがありますが、パリノー結膜炎ではより慢性経過をとり、肉芽腫性変化が目立ち、しばしば原因となる全身感染症(ネコひっかき病、野兎病など)を背景に持つ点が特徴です。
| 項目 | パリノー結膜炎 | ウイルス性結膜炎(アデノウイルスなど) |
|---|---|---|
| 発症側 | 多くは片眼 | 片眼で始まり反対眼へ波及しやすい |
| 結膜所見 | 肉芽腫性・大きな不整濾胞 | 小型濾胞や充血が主体 |
| リンパ節 | 耳前・顎下・頸部の顕著な腫脹 | 耳前リンパ節腫脹はあるが中等度 |
| 全身症状 | 発熱、倦怠感、背景感染症に依存 | 咽頭痛、発熱など上気道症状が多い |
| 原因 | Bartonella、フランシセラなど | アデノウイルス、エンテロウイルスなど |
- ウイルス性結膜炎では「急性発症・数週間の自然軽快」が多いのに対し、パリノー結膜炎は慢性化し数週から数か月に及ぶ経過をとることがあり、経時的なフォローアップで差が明確になります。
- 通常の濾胞性結膜炎と異なり、結膜の肉芽腫性結節や壊死、出血を伴う症例があり、眼瞼結膜の白色〜黄白色の結節は診断の重要な手がかりとなります。
- ステロイド点眼は炎症を一時的に抑制できる一方で背景の感染性疾患を覆い隠す可能性があるため、原因が不明なまま安易に長期投与することは避けるべきとされています。
パリノー結膜炎 フランシセラ感染やまれな原因疾患
パリノー結膜炎の背景感染症として、Bartonella henselae以外にFrancisella tularensis(野兎病)、リンパ節ペスト、結核、スピロヘータ感染など多彩な病原体が報告されています。
とくに野兎病は、ウサギやノネズミとの接触、ダニやノミなどベクターを介した曝露歴を確認することで診断への手がかりが得られますが、都市部の臨床現場では想起されにくい「盲点」となりがちです。
- 最近の症例報告では、ノミ媒介性発疹熱(flea-borne typhus)に合併したパリノー結膜炎が記載されており、従来想定されていなかったリケッチア関連疾患も原因となり得ることが示されています。
- HIV感染者や免疫抑制状態の患者では、パリノー結膜炎を契機に日和見感染症が明らかになるケースもあり、眼症状を単独イベントと捉えず背景の免疫状態を確認することが推奨されます。
- 一部症例では、化学物質曝露や点眼薬による薬物性慢性濾胞性結膜炎として経過していた症例から、後に感染性パリノー結膜炎が判明した報告があり、職業歴・薬剤歴の聴取も重要です。
診断の際には、眼局所の擦過検体からの培養やPCR、血清学的検査に加え、必要に応じて結膜生検の検討も行われますが、侵襲性を考慮し慎重に適応を判断する必要があります。
まれな原因疾患を疑う場合は、眼科単科ではなく感染症内科や膠原病内科と連携しながら包括的な評価を行うことが推奨されます。
参考)https://amjcaserep.com/abstract/full/idArt/943915
パリノー結膜炎 医療者のための診療フローチャートとチーム連携
パリノー結膜炎は、結膜炎としては頻度が低いものの、背後にネコひっかき病や野兎病など公衆衛生上も重要な感染症が潜んでいる可能性があり、医療者側の「気付き」が診断の出発点となります。
臨床現場では、通常のウイルス性・細菌性・アレルギー性結膜炎に加え、「一側性肉芽腫性結膜炎+耳前リンパ節腫脹」を認めた場合にパリノー結膜炎を疑う診療フローチャートをあらかじめ用意しておくと有用です。
- 初診時は、片眼か両眼か、肉芽腫性変化の有無、耳前リンパ節や顎下リンパ節の圧痛・腫脹、全身症状の有無を系統的に評価し、電子カルテにテンプレート化することで見落としを減らせます。
- 猫やウサギ、野生動物との接触、ダニ・ノミ曝露歴、海外渡航歴、免疫抑制薬使用歴などをチェックリスト化して問診することで、短時間でも背景疾患を幅広くカバーできます。
- パリノー結膜炎が疑われた段階で、早期に内科・感染症科へコンサルトし、血液検査や画像検査を含めた全身検索を共同で進めることが望ましく、チーム医療としての対応が予後を左右します。
治療方針としては、原因疾患に応じた全身抗菌薬治療を優先しつつ、眼局所には二次感染予防のための抗菌点眼や疼痛・充血に対する支持療法を組み合わせます。
参考)結膜炎|原因・症状・治し方・対処法・予防法|大正健康ナビ|大…
患者説明では、通常の結膜炎と異なり「背景に全身感染症がある可能性」を丁寧に説明し、動物との接触に関する生活指導や、家族・同居動物への配慮なども含めて情報提供することが求められます。
ネコひっかき病の眼型やパリノー眼腺症候群の背景疾患の整理に有用な総説です(「パリノー結膜炎 ネコひっかき病とBartonella感染」「パリノー結膜炎 医療者のための診療フローチャートとチーム連携」の参考リンク)。
パリノー結膜炎の定義や病態、肉芽腫性結膜炎の特徴を整理する際に参考になる専門的なレビューです(「パリノー結膜炎 一側性濾胞性結膜炎と耳前リンパ節腫脹」「パリノー結膜炎 フランシセラ感染やまれな原因疾患」の参考リンク)。
Parinaud’s Oculoglandular Syndrome: A Case in an Adult with Flea-Borne Typhus(英語)