総涙小管狭窄 症状 診断 治療 内視鏡 手術

総涙小管狭窄 症状 診断 治療

総涙小管狭窄を一望する
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症状と初期対応

流涙や眼脂の背景にある総涙小管狭窄の病態を整理し、プライマリでも拾い漏らさない視点をまとめる。

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診断プロセスの実際

通水検査と涙道内視鏡の役割分担、画像化の意義、他部位狭窄との鑑別ポイントを確認する。

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治療とフォロー

涙管チューブ挿入術を中心に、難治例へのアプローチや術後フォローで押さえたい注意点を解説する。

総涙小管狭窄 症状と涙道閉塞・涙道狭窄の理解

総涙小管狭窄は、上下の涙小管が合流した総涙小管部が狭窄または閉塞することで、比較的少量の涙でも流涙が強く出やすい病態である。

涙道は涙点・涙小管・総涙小管・涙嚢・鼻涙管から構成され、どの部位でも狭窄や閉塞が起こりうるため、総涙小管狭窄は「涙道狭窄症」の一亜型として位置付けられる。

臨床的には「常に目が潤んでいる」「屋外で風が当たるとすぐ涙がこぼれる」「片側だけメイクが崩れる」といった訴えが多く、軽度でもQOL低下が目立つ点が特徴である。

参考)涙道の病気(流涙症や鼻涙管閉塞)の治療|倉敷てんげん眼科|中…

総涙小管が完全閉塞に近い場合は、流涙だけでなく反復する眼脂や結膜炎、時に涙嚢炎様の疼痛や腫脹を伴うことがあり、単純なドライアイやアレルギー性結膜炎と誤認されやすい。

原因としては、加齢に伴う粘膜の線維化・上皮変性、慢性結膜炎・涙嚢炎などの炎症、点眼薬(特に抗がん剤点眼や一部抗ウイルス薬)、外傷や眼瞼手術後の瘢痕などが関与する。

抗がん剤全身投与後の涙道障害は鼻涙管だけでなく総涙小管を含む涙道全体に及ぶことがあり、治療中から人工涙液での洗浄を併用しないと不可逆的狭窄に進行しやすいと報告されている。

また、慢性的なコンタクトレンズ装用に伴う軽度結膜炎や、マスカラ・アイラインなどの化粧品が涙点周囲に付着する習慣もリスク因子として指摘されており、特に片側習慣的にアイメイクの強い患者では一側性狭窄が目立つ印象がある。

参考)涙目の治療|いずみ眼科

意外なところでは、放射線治療(頭頸部・眼窩近傍)後に数年かけて進行する涙道狭窄の一環として総涙小管狭窄が顕在化することもあり、がん治療歴の聴取は想像以上に重要である。

参考)鼻涙管狭窄症(閉塞症) Dacryostenosis

総涙小管狭窄 診断フロー 通水検査と涙道内視鏡

総涙小管狭窄を疑う診断の入口は、問診と視診・細隙灯顕微鏡による涙液貯留の評価、涙点の開存確認から始まり、次に通水検査による閉塞レベルの推定が基本となる。

通水検査では涙点から生理食塩水を注入し、咽頭・鼻腔への流入感や逆流の有無を観察するが、総涙小管狭窄では「ほとんど咽頭に落ちないが、眼瞼側への逆流が強い」という所見を呈することが多い。

ただし通水検査だけでは、上・下涙小管レベルの問題と総涙小管レベルの問題を厳密に区別することは難しく、涙道内視鏡の併用で初めて正確な部位診断が可能になる。

参考)涙道内視鏡下での涙管チューブ挿入術|東京都港区の六本木・おお…

涙道内視鏡は直径1mm前後の極細スコープを涙点から挿入し、涙小管・総涙小管・涙嚢・鼻涙管内を直接観察する検査であり、狭窄部の長さ、瘢痕の性状、炎症・肉芽の有無をリアルタイムで把握できる。

本邦では、涙道内視鏡を用いた「内視鏡直接穿破法」や「シース誘導内視鏡下穿破法(SEP)」が普及しており、総涙小管狭窄に対しても比較的低侵襲に閉塞部の開放が試みられている。

矢部・鈴木分類に代表される涙小管閉塞距離の分類は、穿破の難易度や再閉塞リスクの予測に有用であり、総涙小管まで病変が及ぶ長距離閉塞例では、あらかじめ「チューブ長期留置」や「DCR併用」の検討が必要になる。

診断フローを構築するうえでは、以下のステップを意識すると混乱が少ない。

  • 涙点・涙小管入口部の形態評価(狭窄か、閉鎖か)
  • 通水検査で逆流の程度と方向を確認
  • 涙道内視鏡で狭窄部位・長さ・粘膜状態を直視下に確認
  • 必要に応じて画像検査(涙道造影、CTなど)で骨構造・周囲病変を評価

特に耳鼻科で副鼻腔病変をフォローしている患者では、涙道造影やCTで副鼻腔炎との関連を確認することで、総涙小管狭窄の背景にある骨・粘膜異常を同定し、手術計画に反映できる。

参考)鼻涙管閉塞手術

また、涙道内からの眼脂培養により起炎菌と感受性のある抗菌薬を特定しておくと、術前後の感染コントロールに役立ち、再閉塞リスク低減の一助になると報告されている。

参考)涙の通り道をつくる手術 – 満尾医院眼科 院長ブ…

総涙小管狭窄の診断と治療選択の全体像が整理されているガイドライン(日本眼科学会 涙道内視鏡診療の手引き)は、手技選択や合併症への対応を検討する際に有用である。


日本眼科学会「涙道内視鏡診療の手引き」:涙道内視鏡を用いた診断と治療アルゴリズムの詳細な解説

総涙小管狭窄 涙道内視鏡下 涙管チューブ挿入術とブジー

総涙小管狭窄の一選択治療として多くの施設で行われているのが、涙道内視鏡下での閉塞部開放とシリコン涙管チューブ挿入術であり、多くの症例で日帰りまたは短期入院で実施されている。

手術は局所麻酔下に行われることが多く、まぶた皮膚および鼻腔内に麻酔を行ったうえで、涙点から内視鏡スコープを挿入し、狭窄・閉塞部に達したところでブジーやシース先端を用いて穿破・拡張する。

拡張後、シリコン製の涙管チューブを上・下涙点から挿入して閉塞部を跨ぐように留置し、1〜2か月前後(症例によっては数か月)維持することで再閉塞を予防しつつ上皮化を待つ。

軽度の狭窄であれば通水検査のみで症状が改善することもあるが、総涙小管狭窄では単純なブジーだけでは再閉塞率が高く、チューブ留置を併用した方が長期成績が安定しやすいとされる。

患者説明では、以下のポイントを明示すると納得を得やすい。

  • 手術時間は通常30分前後だが、狭窄の長さや癒着の強さで変動すること
  • 術後しばらくは違和感や涙目が続くが、チューブが入っていることによる一時的なものが多いこと
  • チューブ抜去後も数か月〜1年程度は再閉塞の有無をフォローする必要があること
  • 稀に穿孔、出血、感染、チューブ逸脱などの合併症があること

近年の報告では、涙道内視鏡を併用することで、「闇雲なブジー」よりも粘膜損傷を抑えつつ確実に閉塞部を突破できるため、総涙小管狭窄を含む涙小管閉塞の成功率向上に寄与しているとされる。

さらに、鼻内視鏡を併用して鼻腔側からも涙道を確認する「二方向内視鏡」手技により、閉塞部位の同定精度とチューブ走行の安全性が高まったとの報告もあり、今後普及が期待される技術である。

総涙小管狭窄 DCR 鼻外法・鼻内法と難治例へのアプローチ

涙管チューブ挿入術でも症状が改善しない難治性総涙小管狭窄や、長距離閉塞・重度瘢痕例では、涙囊鼻腔吻合術(DCR:Dacryocystorhinostomy)が選択肢となる。

DCRには、皮膚切開を伴い目頭側から骨を開窓する「鼻外法」と、鼻内視鏡を用いて鼻腔側からアプローチする「鼻内法」があり、患者の全身状態や解剖、既往手術、術者の習熟度を踏まえて選択される。

鼻外法は視野が広く、骨窓や涙嚢の処理を確実に行いやすい一方、皮膚切開瘢痕が残る可能性があるため、若年者や美容面への配慮が必要な症例では鼻内法が検討されることが多い。

参考)流涙症(鼻涙管狭窄・閉塞)

鼻内法は鼻内視鏡で鼻腔内から骨を削開し、涙嚢と鼻腔の間に新たなバイパスルートを形成した後、シリコンチューブを涙点から挿入して新経路に沿って留置する方法であり、外見上の瘢痕を残さない点が利点である。

総涙小管狭窄でDCRを行う際のポイントとして、以下の視点が挙げられる。

  • 総涙小管自体の再建が難しい場合でも、涙嚢と鼻腔間の新ルートを確保することで流涙のコントロールを図る
  • 併存する鼻涙管狭窄や慢性副鼻腔炎があれば、耳鼻科と連携し同時治療または段階的治療を検討する
  • 術後のチューブ留置期間と抜去タイミングを、粘膜の治癒状態に応じて柔軟に調整する

また、抗がん剤や放射線治療歴のある患者では、粘膜の治癒遅延や血流低下により再閉塞のリスクが高く、術前からの感染コントロール、ステロイド点鼻・点眼の適切な使用、長期的なフォローアップが重要になる。

局所麻酔での施行が困難な高齢患者や認知症患者では、全身麻酔・鎮静の可否を麻酔科と相談しつつ、QOLとリスクのバランスを踏まえた治療ゴール設定が求められる点も、意外と見落とされやすい実務上の論点である。

DCRの術式詳細や成績、鼻外法・鼻内法の選択に関する考え方は、大規模施設の解説ページがわかりやすく整理していることが多い。


井上眼科病院 鼻涙管閉塞手術:鼻外法・鼻内法DCRの概要と術後経過の解説

総涙小管狭窄 医療現場での意外なピットフォールと連携のコツ

総涙小管狭窄は、流涙を主訴に受診する患者の一部に潜んでいるが、プライマリケアや一般眼科外来では「ドライアイ」や「アレルギー性結膜炎」と診断され長期間点眼治療だけが継続されているケースが少なくない。

特に、片側のみの流涙・眼脂、通年性で季節変動に乏しい症状、抗アレルギー薬ヒアルロン酸点眼で改善しない経過が揃った場合には、早期に涙道評価を検討することが重要である。

意外なピットフォールとして、以下のような点が臨床で問題になる。

  • 眼瞼下垂や睫毛内反、顔面神経麻痺に伴う閉瞼不全による反射性流涙と、総涙小管狭窄の流涙が混在している症例では、どちらか一方の治療だけでは十分な改善が得られない
  • メイク習慣が強い若年女性では、化粧の崩れ防止を優先して受診が遅れ、既に重度狭窄になっているケースがある
  • 小児期の先天性鼻涙管閉塞が自然開通した後、成人してから新たに総涙小管狭窄を発症する例では、既往歴が軽視され再発と認識されにくい

総涙小管狭窄を疑った時点で、早期に涙道内視鏡が可能な施設へ紹介するか、少なくとも通水検査によるスクリーニングを行うことで、患者の「長年の涙目」を短期間で解消できる可能性が高まる。

一方で、高齢者や重度基礎疾患を持つ患者では、積極的な外科的治療よりも「定期的な通水と洗浄」「感染時のみ抗菌薬」「眼周囲スキンケア指導」といった保存的管理を優先する選択もありうるため、QOL指標を共有しながら治療方針を決めることが望ましい。

医療連携の観点では、耳鼻科・腫瘍内科・形成外科との情報共有が鍵となる。

  • 耳鼻科:副鼻腔炎・鼻中隔弯曲・鼻ポリープなどの評価と治療、鼻内法DCRの共同実施
  • 腫瘍内科:抗がん剤スケジュールと涙道障害の関連、治療中からの予防的洗浄や早期介入の検討
  • 形成外科:眼瞼手術とのタイミング調整、瘢痕・外傷後の複雑な解剖への対応

これらを意識することで、「ただの流涙」と見過ごされがちな総涙小管狭窄の診療クオリティを、外来全体として底上げすることができる。