涙小管狭窄 病態 症状 検査 治療
涙小管狭窄 病態と解剖学的特徴
涙小管狭窄は涙点から内総涙点まで続く細い涙小管の内腔狭小化や線維性変化により、涙液排出抵抗が増大し流涙をきたす状態を指します。 涙道閉塞症の一亜型ですが、鼻涙管閉塞よりも近位側の病変であるため、症状は軽度から中等度で「常にあふれる」より「疲れると涙目」程度にとどまることも少なくありません。
涙小管は上下いずれも約10 mm前後で、特に水平部は皮膚や眼輪筋による外力の影響を受けやすく、加齢や慢性炎症、点眼薬の長期使用などが狭窄の誘因となります。 意外な要因として、長期のコンタクトレンズ装用や美容目的のまつ毛エクステに伴う慢性辺縁炎から、涙点周囲の瘢痕性変化を介して涙小管狭窄に至るケースも報告されています。
さらに、シェーグレン症候群やサルコイドーシスなど全身性炎症性疾患に伴う涙道病変の一部として涙小管狭窄が出現することもあり、流涙と同時にドライアイ症状が目立つ症例では基礎疾患の検索も重要です。
涙小管狭窄 症状と他の涙道疾患との鑑別
典型的な症状は慢性的な流涙で、風が当たるとすぐ目が潤む、屋外で視界がにじむ、テレビを見るときだけ涙がこぼれるなど、誘因依存の訴えも多く聞かれます。 鼻涙管閉塞と異なり、涙嚢部の腫脹や圧痛、膿性眼脂を伴わないことが多く、感染を示唆する全身症状も目立ちません。
鑑別で重要なのは、涙点狭窄・鼻涙管狭窄・涙嚢炎といった他部位の涙道閉塞、ならびにドライアイや眼瞼内反など非涙道性流涙です。 例えば、通水検査で抵抗感はあるものの鼻への通過が保たれる場合、近位側の涙小管狭窄や涙点狭窄を疑い、一方で強い抵抗と逆流を伴えば鼻涙管閉塞の可能性が高まります。
また、医療従事者として見落としたくないのが、片側性発症・新規発症の成人例です。 鼻腔内腫瘍や副鼻腔腫瘍による二次性涙道障害が紛れていることがあり、耳鼻咽喉科と連携した鼻内評価や画像検査を早期に考慮する必要があります。
涙小管狭窄 検査 通水検査と涙道内視鏡
外来でまず行われるのは涙道通水検査(涙道通水テスト)で、涙点から鈍針を用いて生理食塩水を注入し、鼻腔への通過の有無や逆流の性状を評価します。 逆流の出所が涙点付近であれば涙点・涙小管病変、涙嚢部の膨隆とともに逆流すれば涙嚢レベルの閉塞を疑うことができます。
近年、涙道内視鏡を併用することで、涙小管狭窄の部位と程度を直接観察しながら診断・治療を行うことが増えています。 直径0.9 mm前後の極細内視鏡を涙点から挿入し、狭窄部位の粘膜肥厚や瘢痕、膜様閉塞を視認できるため、盲目的ブジー拡張と比較して不要な穿孔や偽路形成のリスクを低減できます。
意外に有用なのが、CBCT-DCG(コーンビームCT併用涙道造影)やデジタルサブトラクション造影です。 単純X線では把握しにくい鼻涙管の骨性構造や鉤状突起との位置関係を詳細に描出でき、繰り返す再狭窄例でDCRや内視鏡下手術の術前プランニングに役立ちます。
涙小管狭窄 治療 ブジー拡張 チューブ挿入 DCR
軽度から中等度の涙小管狭窄では、涙点拡張からブジーによる段階的拡張が第一選択となることが多く、拡張後にシリコンチューブを一定期間留置することで再狭窄を予防します。 涙道内視鏡を併用したdirect endoscopic probing(DEP)やsheath-guided endoscopic probing(SEP)では、狭窄部を内側から穿破し、そのままsheath-guided intubation(SGI)でチューブを誘導する手法がガイドラインでも紹介されています。
一方、涙嚢や鼻涙管レベルまで狭窄・閉塞が及ぶ場合、涙嚢鼻腔吻合術(DCR)が治療選択肢となります。 外切開DCRに加え、内視鏡下DCRやレーザーを用いた下鼻道涙道形成術(IMDR)など低侵襲手技も報告されており、全身状態や鼻腔形態、再発リスクを踏まえて術式選択が行われます。
涙小管狭窄が高度で、拡張やチューブ挿入でも十分な排涙が得られないケースでは、結膜涙嚢鼻腔吻合術(C-DCR)によるJonesチューブ留置が検討されます。 熱膨張率の低いホウケイ酸ガラス製チューブを涙丘から鼻腔へ通すため、長期開存性に優れる一方で、位置ずれ・異物感・ドライアイ感などの術後管理が重要であり、患者への事前説明とフォロー体制が欠かせません。
涙小管狭窄 医療現場での意外なピットフォールと連携
意外なピットフォールとして、流涙を主訴に来院した高齢者で、眼表面の乾燥所見が強いにもかかわらず「涙が多い」と訴える症例があります。 これは蒸発亢進型ドライアイに伴う反射性流涙であり、安易に涙小管狭窄や鼻涙管閉塞と決めつけて侵襲的検査を進めると、患者負担や治療満足度の低下につながります。
また、涙道手術前後の鼻内環境も見落としやすい点です。 慢性副鼻腔炎や鼻中隔弯曲が未治療のままDCRやチューブ挿入を行うと、術後の再狭窄や感染リスクが増加するため、耳鼻咽喉科との術前カンファレンスが奏功することが少なくありません。
医療安全の観点では、支払基金の審査上、K204涙嚢鼻腔吻合術やK206涙小管形成手術で用いるシリコンチューブの算定が細かく定められており、不適切な記載は返戻の原因となります。 現場でオーダーやレセプトを扱うスタッフへの情報共有を行うことで、診療側の意図と請求内容の齟齬を避け、結果的に患者の治療選択肢を狭めないことにつながります。
日本眼科学会「涙道内視鏡診療の手引き」(涙道内視鏡の適応・手技・合併症対策の詳細な解説に関する参考リンク)
慶應義塾大学病院KOMPAS「涙道閉塞症」(涙小管狭窄を含む涙道閉塞の診断・治療アルゴリズムに関する参考リンク)
涙小管結石症 症状診断治療
涙小管結石症 症状と身体所見
涙小管結石症は、慢性的な流涙と粘稠な眼脂を主訴に受診することが多く、多くの症例で片眼性に発症します。
初診時には結膜充血と眼脂から「慢性結膜炎」と診断され、抗菌薬点眼だけが繰り返されるケースが少なくありません。
典型的な局所所見としては、涙点周囲の発赤、腫脹、隆起が挙げられ、ときに涙点から黄白色の肉芽組織や小石状の内容物が突出して見えることがあります。
下眼瞼の内側を軽く圧迫すると、涙点から膿性分泌物や小さな結石(菌石)が押し出されることがあり、この所見は涙小管結石症を強く示唆します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5340447/
痛みは軽度であることも多く、患者自身は「目やにが多い」「涙が止まらない」という不快感を訴える一方で、充血や腫脹は軽度にとどまるため、医療者側も重篤性を見誤りやすい点に注意が必要です。
眼瞼縁の霰粒腫が涙小管側へ穿破したケースでは、同じ部位の腫脹を示すため、涙小管結石症との鑑別に通水検査や結膜所見の丁寧な評価が求められます。
興味深い点として、海外の症例シリーズでは、ほぼ全例が片側性であり、下涙小管に優位に発生していたと報告されています。
これは重力の影響や涙流の流れに伴う滞留部位の違いが関与している可能性が指摘されており、下涙小管側の圧迫・観察を特に意識することが診断精度向上に寄与します。
涙小管結石症 原因菌と病態のメカニズム
涙小管結石症で形成される結石は、日本の臨床現場では「菌石」や「涙小管結石」と呼ばれ、涙小管内に形成された細菌や真菌の塊が石灰化したものです。
代表的な原因菌は放線菌属(Actinomyces)であり、嫌気性環境を好むこの菌が周囲の常在細菌を巻き込みながら塊を形成していくと考えられています。
結石は涙小管内腔を拡張させ、その周囲には慢性炎症による肉芽組織や憩室状の変化がしばしば認められます。
顕微鏡的には、菌塊の周囲に好中球浸潤や線維化が見られ、長期にわたる炎症の結果として涙小管壁に潰瘍や瘢痕が残存することもあります。
結石自体が物理的な閉塞と細菌の“リザーバー”として働き、点眼抗菌薬が局所濃度として十分に存在しても、内部の菌には到達しにくい構造になっています。
このため、抗菌薬単独では病巣の根絶が困難であり、菌石を含む内容物の完全な機械的除去が根治の条件とされています。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/lacrimalduct_endoscope.pdf
日本眼科学会の涙道内視鏡診療の手引きでも、涙小管炎の多くが涙小管結石を伴い、「結石を完全に摘出することにより治癒する」と明記されており、結石の存在を前提とした治療戦略が推奨されています。
また、涙道内異物や涙嚢内のdacryolith(涙嚢結石)との関連も報告されており、涙道全体の石灰化病変の一部として捉える視点も役立ちます。
参考)https://advances.umw.edu.pl/en/ahead-of-print/192223/
涙小管結石症 診断プロセスと検査のコツ
診断の第一歩は、十分な問診と視診・触診です。流涙と眼脂が長期に持続し、抗菌薬点眼で改善しない症例では、年齢や全身状態にかかわらず涙小管結石症を鑑別に挙げるべきです。
裂隙灯顕微鏡で涙点部を拡大観察すると、涙点の拡大・充血・隆起、周囲皮膚の軽度腫脹などが確認でき、涙点からの肉芽突出や小結石の露出が観察されることもあります。
通水検査は、涙道閉塞症との鑑別を含めて非常に有用です。多くの涙小管結石症では通水は一応通過しつつ、涙点から膿や細かい結石が逆流するパターンが典型とされます。
一方、全く通過せず、膿が上方から逆流する場合には、むしろ慢性涙嚢炎や鼻涙管閉塞を疑う必要があり、涙道全体の評価に進むきっかけとなります。
あまり知られていないポイントとして、通水時に涙小管内からの出血が診断のヒントになります。通常の通水検査では出血はほとんど見られませんが、涙小管結石症では肉芽が易出血性であり、軽い圧迫でも血性涙が得られることがあります。
この所見は結石に伴う慢性炎症と肉芽形成を反映しており、通水検査中の微細な変化を丁寧に観察することで診断精度を高めることができます。
超音波検査やCTなどの画像診断は日常診療では必須ではありませんが、海外の報告では、臨床所見で結石を確認できない症例に対して超音波で涙小管内の高エコー病変を描出し、結石を検出した例も報告されています。
特に再発例や、他の涙道疾患を合併している疑いがあるケースでは、涙道内視鏡と併用して病変の範囲と性状を把握することが有用です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12391239/
涙小管結石症 治療と再発予防の実際
治療の基本は外科的に涙小管を開放し、結石と肉芽組織を可能な限り完全に摘出することです。抗菌薬点眼や内服だけでは根治に至らず、「治療は手術であり、抗生剤点眼では治癒しない」と明記している施設もあります。
具体的には、涙点側から涙小管切開(canaliculotomy)を行い、拡張した管腔内にある結石を鋭匙や鑷子で掻爬し、綿棒で押し出す操作を繰り返して内容物を除去します。
菌石を一部でも残存させると再発のリスクが高まることが複数の報告で強調されており、涙道内視鏡で内腔を直接観察しながら取り残しがないか確認するアプローチが推奨されています。
日本眼科学会の手引きでも、涙道内視鏡を用いることで涙道内異物や結石の位置を正確に把握し、的確に摘出できる利点が述べられています。
術後は、局所抗菌薬点眼を数週間継続し、培養結果や薬剤感受性に応じて調整することが一般的です。
上下の涙小管を広範囲に切開した症例や、総涙小管閉塞・鼻涙管閉塞を合併している症例では、涙管チューブを一定期間留置し、涙道の再閉塞を予防する戦略が用いられます。
術式としては、涙点拡大術を併施して排出路を広げる方法や、症例によっては涙嚢鼻腔吻合術(DCR)と組み合わせる方法も報告されています。
再発を防ぐためには、「すべての結石を確実に取り切る」ことに加え、患者への生活指導(点眼薬の自己中断を避ける、症状再燃時の早期受診)も重要なポイントです。
涙小管結石症 臨床現場での見逃し防止とチーム連携
涙小管結石症は頻度としては稀な疾患ですが、慢性結膜炎として長期間フォローされている中に紛れ込んでいることが少なくありません。
特に一般眼科外来やプライマリケアで、流涙と眼脂が「よくある症状」と認識されがちな環境では、涙点周囲の詳細観察や涙道評価が後回しになりやすく、見逃しにつながります。
臨床現場での実践的な工夫として、以下のようなチェックリストを共有しておくと有用です。
- 片側性の流涙・眼脂が3か月以上持続している。
- 抗菌薬点眼を複数回変更しても改善が乏しい。
- 涙点部の限局性の発赤・隆起・圧痛がある。
- 涙小管部を圧迫すると涙点から膿や白色小結石が排出される。
これらのうち複数が当てはまる場合は、スクリーニングの段階で「涙小管結石症疑い」として院内でフラグを立て、涙道検査や専門医紹介を積極的に検討する体制づくりが望まれます。
また、看護師や視能訓練士が問診・前検査の段階で「片側性」「慢性」「再発性」を意識して情報を拾い上げることで、医師の診察前に疑い症例を抽出することも可能です。
さらに、涙道内視鏡やDCRを扱う施設との連携ルートを事前に整備しておくことで、診断後の治療にスムーズに移行できます。
遠隔地や高齢患者では、通院回数を最小限に抑えるためにも、診断と治療計画の説明を1〜2回の受診で完結させる工夫が、患者満足度とアドヒアランス向上につながります。
参考)流涙症(なみだ目)
涙道内視鏡診療のエッセンスと、涙小管結石症における結石除去の位置づけについて詳しく解説されています。