慢性涙小管炎と放線菌と菌石と涙点プラグ

慢性涙小管炎と診断と治療

慢性涙小管炎:見落としを減らす要点
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診断の近道

片眼性の流涙・眼脂が続き、抗菌薬点眼で治癒しない場合は涙点と涙小管の所見(圧迫で膿や菌石)を必ず確認。

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原因の本体は菌石

放線菌などが関与し、涙小管内で菌の塊(菌石)が形成される。点眼で一時軽快しても根治しにくい。

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治療の本筋

涙小管切開+掻爬で菌石を取り切ることが重要。取り残しは再発に直結するため、必要に応じて涙道内視鏡で確認。

慢性涙小管炎の症状と眼脂と流涙

慢性涙小管炎は、片眼性の流涙眼脂・充血といった「結膜炎に見える」訴えで受診することが多く、初診で結膜炎として治療されやすい疾患です。実際、抗菌薬点眼でいったん症状が軽くなることはあっても治癒せず、慢性結膜炎として長期化する例があるため、経過から疑えるかが分岐点になります。疑うべき典型は「片眼」「内眼角寄りの不快感」「眼脂が長く続く」「点眼で治り切らない」の組み合わせで、医療者側が疾患概念を知っているだけで見逃しは大きく減ります。

診察で押さえたい身体所見は次の通りです。見逃しやすいものほど意識して観察します。

  • 👁️ 涙点の発赤・拡大・隆起(左右差がヒント)
  • 🧻 涙小管部の圧迫で膿性分泌物が涙点から逆流
  • 🪨 圧迫で小さな菌石が出てくる(出ればかなり決定的)
  • 🩸 通水検査中の出血(通常は起こりにくい所見)

「内眼角が痒い」「目やにだけが治らない」など軽い訴えでも、背景に慢性涙小管炎が潜むことがあります。慢性期ほど、患者本人は「ずっとこういう体質」と受け止めて受診が遅れる傾向があるため、問診では“いつから/片眼か/点眼でどう変化したか”を短時間でも確認すると精度が上がります。

慢性涙小管炎と放線菌と菌石

慢性涙小管炎の多くは、涙小管内に「菌石(涙小管結石と呼ばれることもある)」という菌の塊が形成される病態で、放線菌(Actinomyces)など嫌気性菌が関与することが多いとされます。菌が周囲の共生細菌を取り込みながら塊となり、菌石として増大し、さらにカルシウム沈着で硬くなることもあります。ここが重要で、抗菌薬点眼は表面の炎症を一時的に鎮めても、涙小管内の“塊そのもの”が残れば治癒しにくい、という構造的な理由が生じます。

慢性例で意外に知られていない(しかし臨床的に役立つ)ポイントは、涙小管内に「肉芽」や「憩室(部屋)」が併存することがある点です。肉芽は慢性炎症の結果として、憩室は涙石が大きくなる過程で涙小管内壁に潰瘍が生じて形成される可能性が示唆されています。つまり、単なる感染症というより「異物(菌石)+慢性炎症性変化(肉芽)+形態変化(憩室)」が絡むため、点眼だけで完結させようとすると難渋しやすい、という理解が実装上の近道になります。

慢性涙小管炎の診断と通水検査

慢性涙小管炎の診断は、涙点・涙小管の局所所見と、通水検査(涙道通水検査)の“反応”を組み合わせると整理しやすくなります。ポイントは、涙小管炎では通水検査で「通過することが多い」一方で、膿や小さな菌石が逆流してくることがあり、それが診断の決め手になることがある点です。逆に、通水が通らず膿の逆流が主体なら、慢性涙嚢炎など別の涙道感染を強く疑う、という切り分けが実務的です。

また、通水検査中の出血は通常は起こりにくいため、涙小管内の易出血性肉芽を示唆する所見として「疑う材料」になります。ここは現場でありがちな落とし穴で、強い圧で通水してしまうと疼痛や出血が“手技由来”にも見えてしまい、所見の意味が曖昧になります。ゆっくり、必要十分な圧で行い、「逆流内容(膿、菌石)」「痛みの質」「出血の有無」を観察すると、診断情報が濁りにくくなります。

鑑別としては、同部位の腫脹を呈する霰粒腫の涙小管穿破なども挙がります。結膜所見と通水検査で鑑別可能とされるため、「まぶたの腫れ」だけで皮膚側病変に寄せず、涙点周囲の観察をルーチン化しておくのが安全です。

慢性涙小管炎の治療と涙小管切開と掻爬

慢性涙小管炎と診断した場合、治療の中心は手術(涙小管切開して菌石を除去)になります。抗生剤点眼では治癒しない、という臨床的メッセージが繰り返し強調されるのは、原因の主体が「菌石」であり、薬剤が届きにくい塊を物理的に除去しないと再燃しやすいからです。具体的には、涙小管切開後に綿棒や鑷子で押し出し、鋭匙で菌石を掻爬して除去し、取り残しがないようにすることが再発予防のコアになります。

手術で注意すべき点は、「菌石の量が想像以上に多いことがある」点です。量が多いほど、途中で“取り切れた気になる”リスクが上がるため、可能なら涙道内視鏡で最終確認する戦略が合理的です(術後の再発は、患者満足度だけでなく医療者側の再介入コストにも直結します)。また、総涙小管閉塞など涙道の閉塞を合併している場合や上下涙小管炎の場合は、涙管チューブ留置を併用して終えることがあるため、術前に涙道全体の通過性も評価しておくと術式選択が滑らかになります。

術後経過としては、術翌日には眼脂がほぼ消えることが多いとされ、改善が速いのも本疾患の特徴です。一方で、注意深く行っても菌石が残存することはあり得るため、症状が残る/再発する場合は再手術が選択肢になります。

慢性涙小管炎と涙点プラグの独自視点

検索上位では「放線菌」「菌石」「涙小管切開」が主軸になりがちですが、実務上は涙点プラグも“原因/増悪因子”として見逃せません。涙点プラグの迷入によって涙小管炎が生じることがある、とされており、ドライアイ治療歴がある患者では既往確認だけで診断確率が上がります。さらに、涙点プラグ関連では「閉鎖腔」が形成され、嫌気性菌が増えやすい環境ができる、という機序が症例報告で議論されているため、“炎症が長引く背景”として理解しておくと説明・同意にも役立ちます。

独自視点として強調したいのは、涙点プラグ関連の慢性炎症は「患者が原因を自覚しにくい」ことです。患者はプラグが入っていること自体を忘れていたり、「ドライアイのための良い治療」という認識が強く、感染兆候(流涙・眼脂)を結膜炎や花粉症の延長として捉えがちです。医療側は、次の“短い追加質問”を問診テンプレに入れるだけで拾いやすくなります。

  • 🧾 以前に涙点プラグ(または涙点閉鎖の処置)を受けたか
  • 🕰️ いつ頃、上下どちらに入れたか(片側・両側)
  • 🔁 抜去歴、脱落歴、違和感の変化
  • 💧 ドライアイ症状の強さと点眼内容(抗菌薬点眼の反応も含む)

そして、涙点プラグが関与している可能性がある場合ほど、「単なる抗菌薬追加」ではなく、涙小管内の異物・菌石を疑って構造的に評価する姿勢が重要です。慢性涙小管炎は、診断がつけば手術で劇的に改善し得る一方、診断がつかなければ治りにくい――このギャップが、現場のストレスと患者の不満の両方を増幅します。

慢性涙小管炎の病態(菌石、肉芽、憩室)と治療(涙小管切開・掻爬・取り残し防止)

日本語で臨床像と治療の要点がまとまっています。

涙小管炎|眼科の病気と症状|病気と治療|医療法人真生会 真生…

涙道内視鏡の位置づけ(涙小管炎は結石摘出で治癒、内視鏡で摘出確認が有用など)

学会の手引きとして、検査・治療・合併症の整理に使えます(PDF)。

https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/lacrimalduct_endoscope.pdf