涙のう炎 症状原因検査治療予防
涙のう炎 症状と初期対応
涙のう炎の初発症状としてもっとも頻度が高いのは、慢性の流涙と眼脂であり、「結膜炎が長引いている」という形で受診するケースが少なくありません。 病勢が進行すると、内眼角付近の発赤・腫脹・圧痛が目立ち、涙嚢部圧迫で涙点から膿汁が逆流する典型像がみられます。
急性涙のう炎では、発熱や全身倦怠感を伴うこともあり、蜂窩織炎や敗血症の前駆病変として捉えるべき状況もあるため、眼科単独ではなく全身管理を念頭においた初期評価が重要です。 一方、慢性涙のう炎では自覚症状が軽微で、涙嚢部の膨隆と軽い圧痛、反復する流涙のみという場合があり、「高齢者のドライアイ」と誤解され放置されていることも少なくありません。
視診・触診のポイントとして、鼻側下眼瞼内側に限局する腫脹かどうか、眼窩蜂窩織炎のように広範な硬結がないか、涙嚢部皮膚の光沢や自潰傾向がないかを系統的に確認することで、重症例を見逃しにくくなります。 さらに、涙嚢部圧迫による膿汁の逆流を確認する際には、強すぎる圧迫で皮膚を損傷しないよう配慮しつつ、左右差と再現性を観察して記録しておくと経過観察に役立ちます。
涙のう炎 原因とリスク因子
涙のう炎の根本原因の多くは鼻涙管の狭窄・閉塞であり、涙嚢内に涙がうっ滞することで細菌が増殖しやすい環境が形成されます。 起炎菌としてはブドウ球菌や連鎖球菌などの一般的な皮膚・粘膜常在菌が多いとされていますが、糖尿病や免疫抑制状態ではグラム陰性桿菌や混合感染も考慮する必要があります。
高齢者では加齢に伴う鼻涙管狭窄が主因となることが多い一方、顔面外傷や副鼻腔手術、鼻中隔矯正術など耳鼻科領域の既往が涙道閉塞の誘因となるケースも報告されています。 また、慢性副鼻腔炎や鼻炎による粘膜腫脹が長期にわたり持続することで二次的に涙道の通過障害をきたし、涙のう炎へ進展することもあり、眼科と耳鼻科の連携が重要です。
参考)涙道疾患
あまり知られていない視点として、ドライアイを併発している症例では流涙の自覚が乏しく、眼脂のみが前景に立つため、慢性結膜炎として治療されながら涙嚢炎が長期間見逃されることがあります。 医療従事者側が「高齢者の目やに=ドライアイ・結膜炎」と短絡せず、長期持続例や片側例では必ず涙嚢部の触診と涙道評価を検討することが、リスク低減につながります。
涙のう炎 検査と診断プロセス
涙のう炎を疑った場合の基本検査は、涙道通水検査と涙道造影もしくはCTなどの画像検査で、鼻涙管閉塞の有無とレベルを評価します。 通水検査で鼻咽頭への流出がなく、同側涙点からの逆流がみられる場合は閉塞もしくは高度狭窄が示唆され、通水時の痛みや抵抗感の有無も参考所見となります。
急性期で強い腫脹・疼痛がある場合には、局所麻酔下で涙嚢部を穿刺し膿を吸引し、グラム染色と培養同定を行うことで、起炎菌に応じた抗菌薬選択が可能になります。 特に免疫不全や再発例では、真菌や抗酸菌、放線菌などのまれな病原体が関与することもあり、病理組織学的検討を含めた精査が重要になる点は、涙小管炎の報告とも共通する注意点です。
参考)涙小管炎とは
画像診断としては、涙道造影に加え、蜂窩織炎や眼窩内進展が疑われる場合はCTで骨・軟部組織の状態を確認し、膿瘍形成や副鼻腔疾患の併存を評価します。 慢性例では、涙嚢部皮膚の慢性炎症性肥厚に悪性腫瘍が紛れている可能性もあり、非典型的な硬結や潰瘍形成を伴う場合には、涙嚢腫瘍やリンパ腫を念頭に生検を検討すべきです。
涙のう炎 治療戦略と術後フォロー
急性涙のう炎の一次治療は、起炎菌を考慮した全身および局所の抗菌薬投与であり、発熱や全身症状を伴う症例では静脈内投与と入院管理が推奨されます。 同時に、膿瘍形成が明らかな場合は局所麻酔下で切開排膿または穿刺吸引を行い、減圧と洗浄を繰り返すことで疼痛軽減と感染制御を図ります。
しかし、抗菌薬のみでは涙道閉塞という根本原因は解消されず、症状が寛解しても再発を繰り返すことが多いため、慢性例や再発例では涙嚢鼻腔吻合術(DCR)が根治的治療として重要になります。 近年は皮膚切開を行う外切開DCRに加え、内視鏡下経鼻的DCRが普及しつつあり、瘢痕の少なさや回復の早さが利点とされますが、術者の熟練や施設の設備に依存する点も考慮が必要です。
術後フォローでは、新たに作成された涙道と鼻粘膜の吻合部が閉塞しないよう、シリコンチューブ留置や定期的な洗浄を行い、肉芽形成や感染徴候を早期に発見することが鍵となります。 また、高齢患者や基礎疾患を有する症例では、術後の鼻処置や点眼の自己管理が不十分になりやすいため、家族や介護者を含めた具体的な指導と、他科(耳鼻科・内科)との情報共有が再発予防に直結します。
涙のう炎 医療従事者が見落としやすいポイント
医療従事者が見落としやすい点として、長期にわたる片側性の慢性結膜炎や反復する麦粒腫様所見の背後に、涙のう炎が潜んでいるケースがあります。 表面的な充血や眼瞼縁炎のみを追うのではなく、「片側」「長期」「再発」「眼脂が多い」といったキーワードがそろったときには、必ず涙嚢部の圧痛・膨隆・膿の逆流の有無を確認する習慣づけが有用です。
もう一つの盲点は、ドライアイやコンタクトレンズ関連障害との鑑別です。高齢者のドライアイでは、実際には涙道閉塞が存在しても、患者が「乾く」「疲れる」と表現するため、涙のう炎を疑う発想に至らないことがあります。 コンタクトレンズユーザーでは、角膜障害に目が向きがちですが、眼脂が多い症例では涙道評価を一度は行っておくことで、慢性涙のう炎を早期に拾い上げるきっかけとなり得ます。
さらに、慢性涙のう炎の経過中に急激な疼痛増強や皮膚の発赤拡大が出現した場合、単なる増悪だけでなく眼窩蜂窩織炎への進展や敗血症のリスクを念頭に置き、早期の画像検査と広域抗菌薬の導入、場合によっては入院加療へ素早く切り替える判断力が求められます。 医療従事者自身が涙道疾患を「稀な特殊疾患」ではなく、「結膜炎診療の延長線上で頻度高く遭遇しうる病態」として捉え直すことが、見逃し防止の第一歩と言えるでしょう。
涙のう炎の病態・診断・治療の詳細な図解と、医療従事者向けの解説が掲載されています。
