涙腺萎縮 高齢者ドライアイ病態
涙腺萎縮 ドライアイ病態と加齢変化
涙腺萎縮は単純な「涙の減少」ではなく、加齢に伴う腺房の萎縮や線維化、導管の変化などが複合して起こる構造的変化であり、高齢者ドライアイの基盤病変として無視できません。 特に主涙腺では組織学的に腺房萎縮や炎症細胞浸潤が報告されており、涙液分泌量の低下だけでなく涙液の質的変化も同時に進行すると考えられています。 女性では中年以降、ホルモン環境の変化を背景に涙腺のびまん性萎縮の頻度が高いことが示されており、性差を意識したリスク評価が必要です。
ドライアイの病態は「涙液量の不足」と「蒸発亢進」という二軸で整理されますが、涙腺萎縮は前者の代表的原因として位置づけられます。 一方で高齢者ではマイボーム腺萎縮や瞼の弛緩により蒸発亢進型の要素もしばしば併存し、混合型ドライアイとして症状を複雑化させます。 臨床現場では「涙点プラグを入れても症状が改善しない」症例の背後に、涙腺萎縮とマイボーム腺機能不全(MGD)の双方が存在していることを意識する必要があります。
参考)https://www.tearfilm.org/mgdreportjapanese/diagnosis3.htm
高齢者では涙腺萎縮に加え、自律神経機能低下や薬剤性の涙液減少も重なりやすく、シンプルなドライアイとして扱うと治療効果が乏しくなります。 さらに、慢性的な涙液不足は角結膜上皮障害を通じてコントラスト感度や機能的視力を低下させ、転倒リスクや生活の質の低下につながる点も重要です。 読書やVDT作業の困難など、患者が「年齢のせい」と諦めがちな訴えの中に、涙腺萎縮を含む眼表面疾患のサインが紛れている可能性があります。
涙腺萎縮 高齢者の危険因子と全身疾患
高齢者における涙腺萎縮の危険因子として、加齢そのものに加え、女性ホルモンの変動、慢性炎症、酸化ストレス、そして自己免疫疾患の存在が挙げられます。 特にシェーグレン症候群では涙腺や唾液腺に自己免疫性の炎症が持続し、腺組織の破壊・萎縮を通じて重度の分泌低下型ドライアイを来すことが知られており、口腔乾燥の有無を併せて確認することが診療上重要です。 乾燥感だけでなく、関節痛、倦怠感、レイノー現象などの全身症状が潜んでいる場合には、リウマチ科との連携が欠かせません。
薬剤性ドライアイも涙腺萎縮と紛らわしく、あるいは相加的に涙液減少を悪化させます。 抗コリン薬、抗うつ薬、降圧薬など交感神経優位を高める薬剤は、副交感神経支配を受ける涙腺分泌を抑制しやすく、高齢者の多剤併用では実臨床で頻繁に遭遇します。 また、長期ステロイド全身投与や放射線治療歴がある患者では涙腺線維化・萎縮が進行している可能性があり、既往を丁寧に聴取することが求められます。
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意外な要因として、慢性的なストレスや睡眠障害も涙液減少の悪化因子となります。 ストレス下では交感神経優位状態が持続し、副交感神経優位時に促進される涙液分泌が抑制されるため、構造的な涙腺萎縮がなくても機能的な分泌低下が生じます。 こうした神経性の要素は組織学的検査では捉えにくいものの、実際の患者の訴えや日内変動パターンと結びついているため、問診の質が診断精度に大きく影響します。
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涙腺萎縮 涙液検査と画像診断の実際
涙腺萎縮を直接証明するには組織学的評価が理想ですが、臨床の多くの場面では侵襲性の低い機能検査と画像診断の組み合わせで推定します。 シルマー試験は古典的ながら、5分で5mm未満を涙液分泌異常とする目安が広く用いられ、涙腺由来の分泌低下のスクリーニングに有用です。 ただし、検査時間や刺激の程度により結果が変動しやすく、残留涙液量を反映しやすい点も理解して解釈する必要があります。
涙液破壊時間(BUT)は、涙液の安定性を評価する指標であり、10秒未満を異常とするのが一般的です。 BUT短縮は主に涙液脂質層やムチン層の異常と関連しますが、涙腺萎縮による水層減少でも涙液層は不安定化するため、単独で病態を断定することはできません。 フルオレセイン染色で角結膜上皮障害の分布を確認することで、上方優位の障害から眼瞼縁炎やMGDを、下方優位の障害から涙液貯留異常などを推定するなど、パターン認識が診断精度向上につながります。
近年はマイボグラフィーや非侵襲的BUT測定、涙液メニスカス高測定などの装置が普及し、眼表面を多角的に評価できるようになりました。 涙腺自体の画像評価としては、超音波、MRI、CTなどがシェーグレン症候群や腫瘍性病変との鑑別に用いられ、びまん性の萎縮パターンと局所腫大・腫瘤性病変を見分けることが求められます。 一見「単なる高齢者ドライアイ」に見える症例の中に涙腺腫瘍やサルコイドーシスなどが紛れている可能性もあるため、左右差や急速な症状進行には注意が必要です。
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涙腺萎縮 マイボーム腺機能不全との鑑別と併存
高齢者ドライアイでは、涙腺萎縮とマイボーム腺機能不全(MGD)が高頻度に併存し、症状と所見を複雑にしています。 MGDではマイボーム腺の開口部閉塞や腺萎縮により油層が不十分となり、涙液蒸発が亢進することでドライアイ症状を来しますが、涙液量自体は正常〜軽度低下にとどまることが少なくありません。 一方、涙腺萎縮が主体の分泌減少型では、シルマー値の低下が前景に立ちますが、長期化すると二次的なMGDや瞼裂狭小化が加わり、混合型病態へ移行します。
臨床的には、以下のような観点で鑑別・評価することが有用です。
- シルマー試験著明低下+BUT短縮:涙腺萎縮優位だがMGD併存を疑う。
- シルマー正常〜軽度低下+BUT著明短縮:MGDや角結膜上皮障害主体を想定。
- 眼瞼縁の充血、角化、スケーリング:MGDや眼瞼縁炎を示唆。
- 涙液メニスカス高の低下:涙液量不足、涙腺機能低下を示唆。
意外に見落とされやすい点として、MGDの中にも萎縮性のサブタイプが存在し、加齢によりマイボーム腺そのものが消失・短縮していくパターンがあります。 この場合、単なる温罨法や圧出では十分な改善が得られず、涙腺萎縮と同様「残存機能をどう保護し、周辺要因をどこまで整えるか」という長期戦略が必要です。 涙腺萎縮とMGDを明確に分けて考えるだけでなく、「涙腺・マイボーム腺・結膜杯細胞をひとつの涙腺機能ユニットとして捉える」視点が、患者説明にも治療計画にも有用です。
涙腺萎縮 予防と治療戦略の落とし穴
涙腺萎縮そのものを完全に元に戻す治療は現時点では限られていますが、残存機能を守り、二次的な悪化因子を抑制することで症状と眼表面障害を大きく軽減できます。 高齢者ドライアイの治療では、人工涙液やヒアルロン酸点眼に加え、必要に応じて防腐剤フリー製剤の選択、涙点プラグや涙点焼灼などの涙液保持療法を組み合わせることが推奨されます。 しかし、蒸発亢進型要素が強い症例で涙点プラグのみ行うと、涙液中の炎症性サイトカインが貯留し、かえって不快感や炎症を助長する可能性がある点は見落とせません。
予防的観点からは、以下のような生活指導が涙腺萎縮関連ドライアイの悪化防止に役立ちます。
- エアコン・暖房下での加湿と風向き調整。
- VDT作業中の意識的な瞬目、20-20-20ルールの導入。
- コンタクトレンズ装用時間の見直し、シニア層への装用中止提案。
- 喫煙・受動喫煙の回避。
- ストレス・睡眠の是正と自律神経バランスの改善。
もう一つの落とし穴は、「高齢であること」を理由に精査を控えてしまうことです。 涙腺萎縮の背景にシェーグレン症候群や他の自己免疫疾患が隠れている場合、早期診断が内科的マネジメントや将来の合併症予防につながります。 乾燥症状を訴える高齢患者に対しても、血液検査やリウマチ科紹介を積極的に検討することが、眼科医に求められる重要な役割といえます。
参考)ご高齢の方
シェーグレン症候群と涙腺機能検査の詳細解説
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高齢者ドライアイと全身状態の関係についての患者向け解説
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