涙腺のう腫 症状と画像と治療と意外な病態

涙腺のう腫 症状と診断と治療

涙腺のう腫 押さえるべき全体像
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症状と身体所見のポイント

上眼瞼外側の膨隆や可動性腫瘤など典型症状に加え、変動する腫瘤や疼痛の有無から炎症合併や腫瘍との鑑別を考える視点を整理する。

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画像検査と鑑別診断

CT・MRI・超音波などで涙腺腫瘍や眼窩腫瘤との境界・骨変化を評価し、良性嚢胞としての涙腺のう腫をどう位置づけるかを整理する。

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治療戦略とフォロー

手術適応、アプローチ選択、再発やドライアイ悪化リスクを踏まえた長期フォローの実際と、多職種での情報共有のポイントをまとめる。

涙腺のう腫 症状と身体診察の特徴

 

涙腺のう腫(lacrimal gland cyst, dacryops)は、涙腺導管由来の嚢胞性病変であり、患者は多くの場合「上眼瞼外側のふくらみ」や「異物感」を主訴として受診する。

典型的には、上眼瞼外側から眼窩上外側にかけての弾性軟の腫瘤で、触診すると比較的よく動き、圧痛は軽度または欠如していることが多いが、炎症や感染を伴うと圧痛や熱感が加わり涙腺炎との境界が曖昧になる。

嚢胞が結膜円蓋部に突出するタイプでは、結膜の下に青白色〜やや青味を帯びた半透明の結節として観察され、透光試験で内部が透見される点が固形腫瘍との鑑別に有用である。

参考)Dacryops – EyeWiki

また、涙液分泌に伴い嚢胞内容が増減するため、「泣いたあとに急にふくらんだが、しばらくするとやや小さくなる」といった大きさの変動を訴える症例もあり、医療従事者側がこのダイナミックな変化を問診で聞き取れるかが診断の鍵になる。

自覚症状としては、視力低下よりも「まぶたの重さ」「違和感」「眼精疲労」が前景に出ることが多く、サイズが大きくなると眼球の軽度下内側偏位や複視を訴えることもある。

参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E6%B6%99%E8%85%BA%E8%85%AB%E7%98%8D

一方で、比較的小さな涙腺のう腫は無症候のまま経過し、他疾患での眼科受診時に偶発的に見つかることも多いため、上眼瞼外側の局所視診・触診をルーチン化することが見逃し防止に有用である。

涙腺のう腫 画像所見と涙腺腫瘍・眼窩腫瘤との鑑別

画像検査では、涙腺のう腫はCT・MRIともに境界明瞭な嚢胞状病変として描出されることが多く、内部は均一低吸収(CT)・T2強調像高信号を示すことが典型とされる。

涙腺実質腫瘍(多形腺腫や腺様嚢胞癌など)の場合は、固形腫瘍として造影効果を伴い、時に眼窩側壁骨の菲薄化や破壊を伴うため、骨変化の評価にはCTが有用である。

良性涙腺腫瘍では、平滑で円形〜楕円形の腫瘤と骨の平滑な圧排所見が多く、悪性腫瘍では不整な辺縁や骨破壊、眼窩内・頭蓋底への浸潤といった所見が問題となる。

参考)上皮性涙腺腫瘍の6例 (臨床眼科 51巻2号)

涙腺のう腫では周囲骨の変化はほとんどなく、眼窩脂肪や外眼筋との境界も比較的保たれていることが多いため、「境界明瞭・嚢胞状・骨破壊なし」というパターンを念頭に置くと鑑別が進めやすい。

超音波(高周波Bモード)は、非侵襲で嚢胞内部の均一低エコーと壁の薄さを確認でき、外来でのスクリーニングとして有用である。

一方で、涙嚢や鼻涙管の嚢胞(涙嚢嚢胞)との局在の違いを把握しておかないと、「なみだ目」や眼瞼内側腫脹を主訴とする症例で鑑別を誤る可能性があり、鼻涙管閉塞や涙嚢炎の画像や臨床像も併せて把握しておくことが望ましい。

参考)涙のう炎 (るいのうえん)とは

涙腺のう腫 治療適応と手術アプローチの選択

涙腺のう腫は良性であるため、症状が軽度で視機能障害や整容上の問題が小さい場合には、画像で悪性所見が乏しければ経過観察も選択肢となる。

しかし、嚢胞の拡大に伴い角膜露出増加やドライアイ悪化、眼球偏位・複視、顔貌の左右差などが目立つようになると、手術による摘出や減量を検討する必要が出てくる。

標準的には、結膜側からの経結膜アプローチ(transconjunctival approach)で嚢胞壁を温存しつつ全摘を目指す方法が推奨されており、涙腺導管とのつながりを意識しながら丁寧に剥離することが再発予防上重要とされる。

嚢胞内容液の単純穿刺やドレナージは、一時的な縮小効果はあるものの、涙腺導管との交通が温存されるため速やかに再増大し、根治的治療とはなり得ないことが多いと報告されている。

参考)Diagnosis and treatment of lac…

涙液分泌がもともと低い患者(重度ドライアイやシェーグレン症候群など)では、嚢胞摘出により残存涙腺機能がさらに低下する懸念があり、嚢胞を開放したまま結膜側に吻合させる「マルスピアリゼーション」などの術式を選択して、涙液の一部を維持しつつ症状軽減を図る戦略も提案されている。

また、眼瞼皮膚側からのアプローチが選択されるのは、結膜に瘢痕形成を伴う疾患(眼類天疱瘡など)を背景に持つ症例で、結膜操作を極力避けたい場合であり、既存の結膜障害を悪化させない工夫として覚えておきたい。

涙腺のう腫 病態の意外な側面と再発・悪性化リスク

涙腺のう腫の病態として、単純な導管閉塞やうっ滞だけでなく、嚢胞内容液中の分泌型IgA濃度が高く、嚢胞上皮でも強いIgA染色がみられることから、IgAの過剰分泌と浸透圧による水分保持が嚢胞拡大に寄与している可能性が指摘されている。

この機序を踏まえると、アレルギー性結膜炎や慢性刺激など、涙腺に対する免疫学的刺激が長期に続く症例において、涙腺のう腫形成リスクが相対的に高い可能性も示唆されており、単なる機械的閉塞だけでは説明できない多因子性の病態として捉える視点が重要になる。

ほとんどの涙腺のう腫は良性経過をたどるが、きわめて稀に嚢胞壁から扁平上皮癌への悪性転化が報告されており、特に既往に多発皮膚癌を有する症例では注意が必要とされる。

また、不完全摘出例では嚢胞の再形成や持続的な軽度炎症を伴う慢性的な違和感が残存し得るため、初回手術時に嚢胞壁を可及的に一塊として摘出することが長期予後の観点から重要である。

参考)https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0161642079353507

興味深い点として、涙腺のう腫の一部ではSeidelテスト陽性(嚢胞近傍でのフルオレセイン漏出)が報告されており、これは涙腺導管の開存と嚢胞腔との交通を反映する所見として解釈されている。

このような局所所見まで意識して観察すると、術前に「どの導管がどの程度関与しているか」のイメージを持ちやすくなり、手術時の切離ラインや残存導管温存の戦略立案にも役立つ。

涙腺のう腫 とドライアイ・涙道疾患を含めた実臨床でのマネジメント

涙腺のう腫を有する患者では、嚢胞摘出による機械的圧迫の解除で角膜露出や乱視が改善する一方、涙腺導管の一部を失うことで涙液分泌量が軽度に低下し、潜在的なドライアイが顕在化するケースもある。

そのため、術前からシルマーテストやBUTなどでベースラインの涙液機能を評価し、術後には乾燥感・角結膜上皮障害の有無をフォローしながら必要に応じて涙液補充や涙点プラグなどを併用する戦略が実臨床的である。

また、涙腺のう腫と涙嚢・涙道疾患は解剖学的には別領域だが、「なみだ目」や眼脂を訴える患者では両者が併存する可能性もあり、眼瞼外側膨隆と内側の圧痛・膿排出が同時にある場合には、鼻涙管閉塞や涙嚢炎を合併した複合病態として評価する必要がある。

参考)https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=8

この際、涙道造影や涙道内視鏡を併用することで、涙腺由来嚢胞と涙嚢嚢胞を明確に分けて説明でき、患者への手術説明(どの部位にどの切開を加えるのか、再発や合併症のリスクはどこにあるのか)も具体的に行いやすくなる。

参考)涙嚢鼻腔吻合術(鼻内法、鼻外法)

独自の視点として、涙腺のう腫を有する患者の中には、症状が軽度で長期間放置され、その間に顔面骨格の成長や加齢に伴う変化と相まって、左右の眼瞼ボリューム差が「患者自身のアイデンティティ」として受け入れられているケースもある。

このような患者に対しては、単に「腫瘤があるから取るべき」と説明するのではなく、摘出後に生じる可能性がある眼瞼形状の変化やドライアイ症状の悪化まで含めて共有し、患者の価値観や生活背景に沿った治療選択を行うことが、医療従事者としての実践的なマネジメントと言える。

涙腺腫瘍全般(良性・悪性)の画像診断や治療方針、骨変化の評価の基礎整理に有用な一般向け解説ページです(涙腺腫瘍・鑑別パートの参考)。

涙腺腫瘍について – メディカルノート

眼窩腫瘍・涙腺腫瘍のCT・MRI所見から良悪性の違いを整理した日本語総説で、画像読影の勘どころを掴むのに役立ちます(画像診断パートの参考)。

上皮性涙腺腫瘍のCT・MRI所見 – 臨床眼科

英語ですが、dacryops(涙腺のう腫)の病態・症状・診断・治療を網羅的に解説した専門記事で、意外な病態や治療オプションの整理に有用です(病態・治療戦略パートの参考)。

Dacryops (Lacrimal Gland Cyst) – EyeWiki

ニュー・シネマ・パラダイス (字幕版)