瞼板腺分泌過多 マイボーム腺機能不全 涙液 蒸発亢進

瞼板腺分泌過多とマイボーム腺機能不全

瞼板腺分泌過多のポイント
👁️

病態と分類の整理

マイボーム腺機能不全(MGD)の中で分泌増加型として捉えられる瞼板腺分泌過多の病態生理と分類を概説。

🧪

診断と検査のコツ

眼瞼縁の観察やマイボーム腺圧出評価、涙液検査など、日常診療で使える診断フローを整理。

💊

治療と生活指導

温罨法や眼瞼清拭に加え、薬物療法・デバイス治療・スキンケア指導まで、包括的なマネジメントを解説。

瞼板腺分泌過多とマイボーム腺機能不全の病態生理

瞼板腺分泌過多は、上下眼瞼の瞼板内に存在するマイボーム腺からの脂質分泌が増加し、質的異常を伴うことで涙液油層の安定性を崩す病態として理解されつつあります。 マイボーム腺は上眼瞼約30〜50本、下眼瞼約20〜25本が独立した皮脂腺として存在し、分泌されるマイバム(meibum)は涙液表面に油層を形成して蒸発を抑制します。

マイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction:MGD)は機能低下だけでなく、分泌の質と量の異常を含む概念であり、診療ガイドラインでは「分泌減少型」と並んで「分泌増加型」が明確に記載されています。 分泌増加型では量的には過多でも、マイバムが白濁・粘稠・歯磨き状となることで流動性が低下し、出口部の閉塞や炎症を惹起する点が特徴です。

ドライアイ患者の約8割が何らかのMGDを合併するとされ、涙液蒸発亢進型ドライアイの主要な病態基盤として瞼板腺分泌過多(特に質的異常を伴うケース)が位置づけられています。 臨床的には眼不快感、異物感、乾燥感、灼熱感、流涙、一時的なかすみなど多彩な症状を呈し、朝の症状増悪や長時間デジタルデバイス使用後の悪化がよく見られます。

瞼板腺分泌過多と涙液蒸発亢進・ドライアイの関係

涙液は水分・ムチン・脂質から成る多層構造で、最外層の油層が破綻すると蒸発亢進型ドライアイへ進展します。 瞼板腺分泌過多では見かけ上脂質が多くても、粘稠で不均一なマイバムが涙液表面に均一に拡がらず、むしろ油層のパッチワーク化やブレイクアップタイム(BUT)の短縮を招く点が臨床的に重要です。

蒸発亢進が持続すると角結膜上皮障害、表層点状角膜症、慢性充血などが進み、眼表面の炎症がマイボーム腺上皮や開口部へ波及して悪循環を形成します。 さらに涙液不安定性により視機能が一過性に低下し、VDT作業時のかすみやピントが合いにくいといった訴えにつながるため、医療従事者自身のQOLや医療安全にも影響しうる病態です。

MGD診療ガイドラインでは、蒸発亢進型ドライアイを疑う際に眼瞼縁と瞼板腺の評価をルーチンに組み込むことが推奨されており、ドライアイ診療と瞼板腺分泌過多評価を切り離さないことが実務的なポイントです。

瞼板腺分泌過多の診断とマイボーム腺機能不全評価

瞼板腺分泌過多を含むMGD診断では、ガイドラインで示された「自覚症状」「眼瞼縁異常」「分泌物の質・量」の3要素を組み合わせて評価することが推奨されています。 自覚症状としての眼不快感や異物感に加え、問診では朝の症状、コンタクト装用時間、VDT時間、メイク習慣、アトピー・脂漏性皮膚炎・全身薬剤使用歴などを系統的に確認すると、分泌増加型の背景因子把握に有用です。

理学所見では、裂隙灯下で眼瞼縁の充血・血管拡張、瞼縁の不整・肥厚、開口部の白色・黄白色点状変化や泡沫状涙液の有無を確認します。 マイボーム腺圧出セッシや綿棒で軽く圧迫し、透明でサラサラとした正常マイバムか、歯磨き状・チーズ状・ワックス状の異常マイバムかを観察することが、瞼板腺分泌過多の質的評価の中心です。

加えて、涙液BUT、フルオレセイン染色、シルマー試験、ノンコンタクトマイボグラフィーなどを組み合わせると、蒸発亢進の程度と瞼板腺形態変化(萎縮・欠損など)を同時に把握できます。 ガイドラインでは、マイボーム腺の形態変化は診断基準には含まれないものの、サブタイプ分類・重症度判定・鑑別診断には有用とされ、長期マネジメントの視点で押さえておきたいポイントです。

瞼板腺機能不全診療ガイドライン(定義・分類・診断基準と蒸発亢進型ドライアイとの関係を整理する際の参考)

マイボーム腺機能不全診療ガイドライン(日本角膜学会)

瞼板腺分泌過多の治療戦略とドライアイ予防

MGD診療ガイドラインでは、温罨法が強く推奨され、眼瞼清拭、meibum圧出、アジスロマイシン点眼、ステロイド点眼、オメガ3脂肪酸内服、IPL(intense pulsed light)、thermal pulsation therapyなどが補助的手段として挙げられています。 瞼板腺分泌過多では「量を減らす」のではなく「質を改善し流れを整える」ことが治療の核心であり、温罨法でマイバムを軟化させたうえで、眼瞼マッサージや圧出で陳旧性マイバムを排出するステップが重要です。

眼瞼清拭では市販のアイシャンプーや専用ワイプを用い、まつげ際と開口部周囲の脂質・メイク残渣・バイオフィルムを丁寧に除去することで、分泌過多に伴う開口部閉塞と慢性炎症を軽減できます。 抗菌薬点眼やマクロライド点眼は抗炎症・脂質組成改善効果が報告されており、反復性眼瞼炎や脂漏性皮膚炎を合併した症例では全身用テトラサイクリン系内服を検討する余地があります。

近年はthermal pulsation therapyやIPLが、マイボーム腺加温と圧出を自動化・標準化するデバイスとして注目され、難治例やコンプライアンス不良例での選択肢となりつつあります。 一方で、保険適用や費用対効果の観点からは施設ごとの運用差が大きいため、患者教育と在宅ケア(温罨法・清拭・まばたき訓練)をベースにし、デバイス治療を上乗せする階層的アプローチが現実的です。

MGD治療全般(温罨法・圧出・薬物療法・デバイス治療まで含めたエビデンスを参照したい場合のリンク)

マイボーム腺機能不全診療ガイドライン(Minds)

瞼板腺分泌過多とスキンケア・生活習慣:現場で見落としやすい視点

瞼板腺分泌過多の背景には、加齢やアレルギー眼疾患、眼瞼炎、脂漏性皮膚炎、自己免疫疾患に加え、アイメイクやスキンケア習慣が密接に関与していると報告されています。 上下眼瞼縁のメイクを完全に落としきらない、ウォータープルーフ製品を強く擦って落とす、オイルリッチなクリームを睫毛根部まで塗布する、といった行為はマイボーム腺開口部の閉塞と分泌異常を悪化させます。

意外な点として、油分の多いスキンケア製品やヘアワックスが瞼縁に接触することで、涙液油層の外因性コンタミネーションが起こり、瞼板腺分泌過多の診断を難しくしているケースがあります。 医療従事者側が「眼瞼周囲のスキンケア・メイク・ヘアスタイル」をルーチンに聴取し、具体的な製品名や使用タイミングまで確認すると、単なるMGDではなく外因性の油層異常が隠れていることに気付けます。

さらに、夜間の睡眠不足やVDT過多による瞬目率低下は、マイバムの均一な広がりを妨げ、瞼板腺分泌過多に伴う油だまりやムラを生じさせる要因です。 患者指導では、就寝前2〜3時間のスクリーンタイム短縮、意識的瞬目、加湿器使用、エアコン風の直撃回避など、生活習慣全体を通じたドライアイ予防をセットで説明することで、治療効果の持続と再燃予防につながります。

瞼板腺とライフスタイル(中高年のMGDと生活習慣・眼瞼ケアに関する解説を参照する際のリンク)

中高年のマイボーム腺機能不全(長崎県医師会)