眼瞼多毛症の症状と原因
眼瞼多毛症の症状と局所所見
眼瞼多毛症は、まつ毛や眼瞼周囲の毛が通常より太く・長く・密に増生する状態を指し、いわゆる「睫毛多毛」や「眼瞼部多毛」と重なる概念として現場で用いられることが多い。
上眼瞼だけでなく下眼瞼や眼窩周囲まで毛が増えるケースもあり、角膜への機械的刺激による異物感、流涙、結膜充血、角膜上皮障害などを伴うと機能的な問題として捉える必要がある。
臨床的には、以下のような所見が組み合わさることが多い。
- まつ毛の長軸方向への伸長(通常より長い)
参考)ラタノプロスト点眼薬による眼瞼部の多毛症 (臨床皮膚科 56…
- 1本あたりの太さ・色素沈着の増加(黒く太い)
参考)http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly20/24221124.pdf
- 本来無毛か軟毛のみの部位への新生毛(眼瞼縁・眼窩周囲の産毛が増える)
参考)M22|緑内障の点眼による色素沈着や産毛でお悩みの方へ|菊地…
- 眼瞼色素沈着・眼窩周囲色素沈着を合併し、整容的なインパクトが増強される。
患者は「ビューラーやマスカラなしでもまつ毛が上がる」「アイメイクがしづらい」といった美容上の訴えから受診することもあり、眼科だけでなく形成外科・美容外科への分散受診が起こりやすい。
参考)グラッシュビスタ
医療従事者は、美容的主訴の背後に角膜障害リスクや、薬剤性有害事象としての位置づけがないかを整理して評価することが重要となる。
眼瞼多毛症の主な原因と薬剤性機序
眼瞼多毛症の原因は大きく、全身性ホルモン異常に伴う多毛症の一部分症としての眼瞼多毛と、局所薬剤や外用薬に伴う限局性眼瞼多毛に分けて整理できる。
日常診療で頻度が高いのは、緑内障治療に用いられるプロスタグランジン関連薬(ラタノプロスト、ビマトプロストなど)に伴う薬剤性眼瞼多毛症であり、国内外で多数の報告が蓄積している。
プロスタグランジン関連薬による眼瞼多毛症の機序は完全には解明されていないが、以下のような仮説が示されている。
- 毛嚢周囲の血流増加による毛包環境の改善により成長期が延長する。
- 毛母細胞・毛乳頭細胞への直接刺激により、毛周期の成長期移行が促進される。
- メラノサイト活性化を介して色素増加が生じ、毛が「濃く見える」。
ビマトプロストは同系統薬のなかでも眼瞼・眼窩周囲多毛化や色素沈着(Prostaglandin-associated periorbitopathy:PAP)のリスクが高いとされ、一方ラタノプロストは比較的リスクが低いとされている。
参考)https://teika-products.jp/mdcFiles/doc/mdc66.inv.pdf
興味深いのは、日本人を含む東アジア人では、欧米人に比べ眼瞼周囲の多毛が目立ちやすいと報告されており、民族差や基礎毛量の違いが眼瞼多毛症の見え方・訴えやすさに影響している可能性が示唆されている点である。
眼瞼多毛症の診断と他疾患との鑑別
眼瞼多毛症の診断においては、まず薬歴や点眼歴の詳細な聴取が極めて重要であり、特に緑内障点眼薬やまつ毛貧毛症治療薬の使用歴がないかを確認する必要がある。
同時に、全身性多毛症の一環として眼瞼部に変化が出ている場合もあるため、月経異常、多嚢胞性卵巣症候群、ステロイド・抗てんかん薬・ホルモン製剤などの使用歴も含めた内科的評価を念頭に置くことが望ましい。
鑑別すべき病態としては、以下が重要となる。
- 睫毛乱生:毛の本数よりも生えている方向異常が問題で、角膜擦過を来すことが多い。
- 眼瞼内反症:まつ毛の向きが角膜側に反転し、いわゆる逆さまつげとして機能障害が前景に立つ。
参考)下眼瞼脱脂は保険適用の対象外!保険適用になる目の病気や費用を…
- 眼瞼皮膚弛緩症に伴う二次的な睫毛乱生:高齢者で眼瞼皮膚のたるみに伴いまつ毛の角膜接触が生じる例がある。
これらの疾患では、睫毛の量ではなく角膜への接触や瞬目時の摩擦が主病態であるため、症状の主座が「見た目」か「痛み・異物感・視機能」かを丁寧に聞き分けることが診断のカギとなる。
さらに、眼瞼多毛症と同時に眼瞼色素沈着や眼瞼溝深化などPAPの兆候があれば、薬剤性である可能性が一層高まり、薬物中止や変更による可逆性も期待できる。
眼瞼多毛症の治療と保険診療の考え方
眼瞼多毛症の治療の基本は、原因となる薬剤や誘因の同定と、その中止・変更を含めたリスクベネフィットの再評価である。
プロスタグランジン関連点眼薬による眼瞼多毛症では、点眼を継続した場合は徐々に進行し、中止により毛の成長は停止、時間とともに元の状態に近づくことが知られており、患者への説明では「可逆性」と「時間スケール」を具体的に伝えることが重要となる。
症状が整容面にとどまり視機能障害を伴わない場合、多くは美容領域の問題と位置づけられ、以下のような対応が選択される。
- 剃毛・抜毛・トリミングなどの物理的対処(自己処理の危険性も説明)。
- 家庭用・医療用脱毛デバイスによるレーザー・光治療(眼球保護が必須)。
- 美容外科・美容皮膚科と連携した治療(費用負担・効果持続を含めた情報提供)。
一方、睫毛乱生や眼瞼内反症を合併し角膜障害や視機能への影響が明らかな場合、眼瞼形成術や睫毛電気分解、眼瞼内反症手術などが保険適用で実施可能となる。
「多毛」による見た目の悩みと、「睫毛の向きの異常」による機能障害が混在する症例では、どこまでを保険診療でカバーし、どこからが自由診療・美容医療となるのかを患者と共有するプロセスが非常に重要であり、日本美容医療関連の指針も判断の参考になる。
参考)https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/biyo2v.pdf
眼瞼多毛症と美容医療・患者説明の独自視点
眼瞼多毛症は医学的には薬剤性有害事象や多毛症の一表現型として整理されるが、患者側から見ると「思いがけずまつ毛美容液を使ったような状態になった」という、ポジティブとネガティブが同居した複雑な感情を伴うことが少なくない。
医療従事者が整容面を軽視すると「副作用を軽んじられた」と感じる一方、機能障害のみを強調しすぎると、患者の生活実感に寄り添えない説明になってしまうため、問診の段階から整容面の困りごとをあえて言語化してもらう姿勢が求められる。
また、眼瞼多毛症はSNSや美容メディアで「まつ毛が伸びる点眼」などセンセーショナルに取り上げられることがあり、意図しないオフラベル使用や自己判断での点眼継続につながるリスクもある。
そのため、医療従事者向けブログや院内掲示では、以下のようなポイントを明示しておくと、患者とのコミュニケーションがスムーズになる。
- 眼瞼多毛症はれっきとした薬剤性有害事象であり、医師・薬剤師に相談すべき変化であること。
- 点眼の仕方(まつ毛に付着させない、余剰薬液を拭き取る)でリスクをある程度減らせること。
- 美容的に「好ましい」と感じる患者でも、長期的な眼瞼形態変化(眼窩周囲脂肪萎縮による眼瞼溝深化など)を伴う可能性があり、定期的なフォローが必要であること。
さらに、眼科医・形成外科医・美容外科医・薬剤師が情報を共有し、患者のニーズに応じて紹介・逆紹介できる体制を整えることで、眼瞼多毛症をきっかけとした「医療と美容のグレーゾーン」の問題を、より安全かつ透明性の高い形でマネジメントできる可能性がある。
医療従事者向けの記事では、単に症例や治療手順を並べるだけでなく、こうした患者心理やSNS時代特有の情報拡散も踏まえて解説することで、日常診療での実践的な示唆を提供できる。
眼瞼多毛症とプロスタグランジン関連薬による眼瞼部副作用の詳細な解説として、以下の資料は薬剤性機序やリスク評価の整理に有用である。
NIHS 医薬品安全性情報 Vol.20 No.24(プロスタグランジン関連薬の眼周囲副作用とリスク評価)
また、睫毛乱生や眼瞼内反症など、眼瞼多毛症との鑑別として重要な角膜刺激性疾患の臨床像と保険診療での手術適応を確認する参考として、以下のページが役立つ。