眼瞼乾皮症 定義と臨床像
眼瞼乾皮症は、まぶた周囲の皮膚が乾燥し、鱗屑やびらん、紅斑、軽度の疼痛や掻痒を伴う状態を総称的に指す臨床用語であり、病名として明確に分類されていない点が特徴です。
日本の疾病分類では「乾皮症」「乾燥性皮膚炎」などの包括的な診断名の一部として扱われることが多く、眼科・皮膚科間で名称の揺れがあるため、カルテ記載に工夫が必要です。
眼瞼乾皮症は単独で存在することもありますが、多くはドライアイ、眼瞼炎(特にマイボーム腺機能不全)、アレルギー性接触皮膚炎などと併存して認められます。
症状としては、まぶたの突っ張り感、ヒリつき、皮むけ、化粧のノリの悪さ、時に亀裂からの出血や二次感染などが見られ、QOL低下の主訴となることが少なくありません。
参考)https://www.kusurinomadoguchi.com/column/articles/dryness-around-the-eyes
眼瞼部は顔面皮膚の中でも最も薄く、角層が薄いことからバリア機能が脆弱であり、少量の刺激でも乾皮症に移行しやすい解剖学的背景があります。
さらに、涙液や皮脂、マイボーム腺分泌物が常時接触する特殊な環境であるため、皮膚疾患と眼表面疾患の境界領域として理解する視点が重要です。
参考)その目の乾きドライアイかも?原因と最新治療(IPL)を解説眼…
眼瞼乾皮症 原因とドライアイ・眼瞼炎との関連
眼瞼乾皮症の原因として頻度が高いのは、クレンジング剤やアイメイク、スキンケア製品などによる慢性的な刺激と、涙液異常に伴う二次的な乾燥です。
コンタクトレンズ装用により涙液が吸収・蒸発しやすくなり、眼表面のドライアイが進行すると、まばたきの変化や摩擦増加を通じて眼瞼皮膚の乾燥・亀裂が助長されます。
眼瞼炎(眼瞼縁を中心とした炎症)では、マイボーム腺機能低下症(MGD)や細菌・ダニ(デモデックス)などの関与が知られており、これらが眼瞼の赤み、鱗屑、痂皮形成を起こします。
眼瞼乾皮症は、こうした眼瞼炎の前駆あるいは軽症型として現れることもあり、ルーペやスリットランプでマイボーム腺開口部、まつ毛根部の評価を行うことが鑑別上有用です。
意外な関連として、長時間のデジタルデバイス使用による瞬目回数減少がドライアイを悪化させ、まぶたの上下運動が減ることで、涙液と皮脂が均一に行き渡らず、眼瞼周囲の皮膚が局所的に乾燥しやすくなることが指摘されています。
また、アトピー性皮膚炎患者では眼瞼皮膚も慢性炎症・乾燥状態にあり、ステロイド外用歴やこすり癖から眼瞼下垂・皮膚菲薄化と並行して乾皮症が進行することがあり、全身皮膚管理の一環として評価することが大切です。
参考)https://atlasjp.com/media/%E4%B9%BE%E7%99%AC%EF%BC%88%E8%A8%98%E5%85%A5%E7%94%A8%EF%BC%89.pdf
眼瞼乾皮症 診察ポイントと鑑別
眼瞼乾皮症の診察では、まず「乾燥」「かゆみ」「ヒリつき」「皮むけ」「しみる部位」が眼瞼皮膚か眼表面かを問診で切り分け、症状の時間帯・誘因(洗顔後、メイク後、点眼後など)を具体的に聴取します。
既往歴としてアトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、乾癬、花粉症、アレルギー性結膜炎、シャンプーや化粧品への接触皮膚炎の有無を確認することで、背景疾患の推定に役立ちます。
身体所見では、スリットランプを用いた眼瞼縁・睫毛周囲の拡大観察により、鱗屑の付着、マイボーム腺開口部の詰まり、眼瞼縁の発赤・浮腫の有無を評価します。
眼瞼皮膚には、亀裂、びらん、苔癬化、色素沈着などを観察し、左右差、上下眼瞼のどちらが優位か、眉・頬など他部位にも乾皮がないかを確認すると全身疾患の手がかりになります。
鑑別診断として重要なのは、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、乾癬、接触皮膚炎(化粧品や点眼薬成分など)、眼瞼ヘルペス、眼瞼蜂窩織炎などで、急性炎症性疾患や感染症を見逃さないことが求められます。
また、眼瞼乾皮症と訴えて受診した症例の中には、実際には重症ドライアイや角膜上皮障害が主病変である場合もあり、フルオレセイン染色による角結膜上皮障害の程度評価が診断精度向上に有用です。
眼瞼乾皮症 スキンケアと薬物治療
眼瞼乾皮症の治療の基本は、原因・増悪因子の除去と、バリア機能を補う保湿ケア、必要に応じた抗炎症外用薬の併用です。
まず、クレンジングや洗顔時の摩擦を最小限にし、界面活性剤の強い洗浄剤やアルコール含有製品を避けるよう指導することで、物理化学的刺激を減らします。
保湿としては、ヘパリン類似物質やワセリン、セラミド含有クリームなどが用いられ、眼瞼皮膚に適した低刺激製剤を少量ずつ、まぶたをこすらず軽く押さえるように塗布する方法を説明することが大切です。
かゆみや炎症が強い場合には、短期間の弱~中等度ステロイド外用や、タクロリムス軟膏などのカルシニューリン阻害薬を検討し、眼表面への流入を避ける塗布範囲と回数を具体的に指導します。
ドライアイやMGDが併存する場合、人工涙液やヒアルロン酸点眼に加え、ムチン・水分分泌促進点眼薬(ジクアホソルナトリウム、レバミピド)により涙液の質を改善し、眼表面の乾燥を軽減することが眼瞼皮膚の間接的な保護にもつながります。
重症の眼表面乾燥を伴う症例では、IPL(Intense Pulsed Light)などのマイボーム腺機能改善治療が報告されており、眼瞼縁の炎症・皮脂バランスを整えることで眼瞼乾皮症が改善する可能性も考えられます。
目の周りへの市販外用薬使用については、製品によっては眼瞼適用が想定されていないものも多いため、「顔用」「目の周り可」と明記されたものに限定し、原則としては医師の指示下で使用するよう説明することが安全です。
市販薬と保湿クリームの併用自体は可能な場合が多いものの、重ね塗りにより刺激成分が増えるリスクもあるため、塗布順序や回数を具体的に指示することでトラブルを減らせます。
【眼瞼周囲の乾燥と市販薬・保湿ケアの注意点を詳しく解説している薬剤師向け記事】
眼瞼乾皮症 患者指導・生活背景への独自アプローチ
眼瞼乾皮症は、外来では「よくある乾燥」と見過ごされがちですが、患者にとっては仕事・メイク・対人関係に直結する美容上の悩みであり、症状の軽視は医療不信につながりやすい点に留意が必要です。
そのため、診断名を共有するだけでなく、「なぜ起きているか」「どの程度で治る見込みか」「再発をどう防ぐか」を、患者の生活文脈(職業、メイク習慣、花粉シーズンなど)に沿って説明するコミュニケーションが有効です。
医療従事者が見落としやすい独自のポイントとして、サウナ・岩盤浴・ホットヨガなど高温環境の趣味、マツエク・まつ毛パーマ、カラーコンタクト、アイプチ・アイテープなど、美容目的の習慣が眼瞼乾皮症の背景に潜んでいるケースがあります。
参考)眼瞼下垂にアイプチはOK?悪化のリスクと予防法もわかりやすく…
これらは患者側が「やめろと言われたくない」ために申告を控える場合もあり、「休日の過ごし方」「最近変えた美容の習慣」などオープンクエスチョンで聞き出す工夫が診療上のカギとなります。
また、在宅ワークや夜勤で生活リズムが乱れている患者では、睡眠不足・食事の偏り・ストレスが皮膚バリア機能や涙液分泌に影響し、眼瞼乾皮症を慢性化させることが臨床的に経験されます。
「目薬と塗り薬」以外に、睡眠時間やデジタルデバイス使用時間、室内湿度管理、ブルーライトカットの使用など、生活習慣レベルの介入をセットで提案することで、再発を減らし患者満足度も高められます。
【ドライアイと眼表面の乾燥、治療オプション(点眼・IPL)について詳しい眼科解説】
【眼瞼炎(まぶたの炎症)とマイボーム腺機能低下症の原因・対策の詳細な解説】